第119回:自腹でビクター「DLA-HD350」購入の巻

~“中の上”を狙い、LCOS+輝度+価格で選択~


 ビクター独自のLCOSパネル「D-ILA」を採用したプロジェクタDLA-HDシリーズの最新モデルとして、現在は「DLA-HD350」と「DLA-HD750」がリリースされている。

 DLA-HD750については本連載第115回にて紹介済みだが、下位モデルとなるDLA-HD350を、今回、筆者がプライベートで購入。せっかくの機会なので、これを評価して「大画面☆マニア 自腹編」としてお届けする。


■ 設置性導入記 ~天吊り設置にはユニバーサルタイプの金具を流用

DLA-HD350。基本デザインはDLA-HD750と同じ

 筆者はこれまでソニーのVPL-VW60を使用していたが、ちょうどランプ交換時期を迎え、天吊り状態から下ろさなければなくなったことが今回の買い換えのきっかけとなった。

 タイミングよく、この折、ホームシアター専門店のアバックのイベントセールが7月4日、5日と池袋で開催されており、これを利用してHD350を購入した。結論から言うとネット通販の最安値よりも4万円ほど安かったので、こうしたイベントセールは積極的に利用するといいだろう。ちなみに、所有していたVPL-VW60は、別の某有名量販店で下取りに出しており、これを今回の購入資金に充てている。

 自腹編ということで機種選定動機についても触れておこう。筆者はプロジェクタを映画鑑賞だけでなく、PCモニター、ゲームモニター的に活用することも多く、輝度もそこそこ重視している。そのため今期のホームシアター向けプロジェクタで最高輝度モデルのEH-TW3000/4000も候補にはしていたが、やはり100インチの投影で、しかも視聴位置が近いときもあるので、結局、画素を仕切る格子筋の狭く、画素開口率も高いLCOS機を最終候補とした。

 今世代の最新LCOSプロジェクタとしてはソニーのVPL-VW80、VPL-HW10、ビクターのDLA-HD750、DLA-HD350などがあるわけだが、今期のソニーのVPLシリーズは大画面☆マニアでの評価の時に色収差からの色ズレが気になったこともあり、今回は見送った。消去法で、DLA-HD750とDLA-HD350になったのだが、結局、コストパフォーマンスと輝度を重視してDLA-HD350とした。

 DLA-HD350の本体そのもののについての設置性については、基本的には第115回で紹介したDLA-HD750と同一だ。本体サイズは365×478×167mm(幅×奥行き×高さ)、重さは約11kg。縦長のデザインで、今回の設置では天吊り金具の延長フレームを用いたことにより、吊り支点がやや後方にずれた形となった。

 吸排気のエアーフローは、前面と底面から吸気し、側面からの排気となっている。背面には光源ランプの収納ハッチが配されているが吸排気口はない。筆者宅の設置ケースでは天井補強位置の関係で部屋の最後尾付近への設置となるので、背面側のクリアランスにそれほど神経を使わなくてよいHD350のデザインはちょうど良い。

正面向かって左側面(写真右側が投射レンズ側)背面には交換ランプハッチが配されている正面向かって右側面には接続端子パネルがある

 投射レンズは電動ズーム、シフト、フォーカスに対応する。ズーム倍率は2.0倍。レンズスペック(f=21.4mm~42.8mm,F3.2~4)は完全にDLA-HD750と同一だ。投射レンズには「電動スライドレンズカバー」機構が備わっており、電源オフ時にレンズを保護するレンズカバーが自動で閉まり、レンズへの埃の付着を避けることができる。電源オン時には「ガー」という音と共にカバーが開き投射レンズが現れる様はなかなか勇ましく格好いい。

正面。投射レンズはセンターからずれている位置にある

 100インチ(16:9)の投射距離は最短で約3m(3.01m)、最長で約6m(6.13m)。レンズシフト量は上下±80%、左右±34%。VPL-VW60では、映像を若干見上げる感じだったのだが(VPL-VW60は上シフト65%のみ)、筆者宅ではちょうどいい具合まで映像を下に下ろすことが出来たので映像の投射位置に関しての満足度は向上した。

 光源ランプは200Wの超高圧水銀ランプ。ランプ自体の型式番は「BHL5010-S」で、DLA-HD750と共用タイプとなる。交換ランプの価格は23,100円と今期モデルの中では最も安い部類で、ランニングコストの低さは今期DLA-HDシリーズの共通の訴求点ということができる。

 システム全体としての最大消費電力は280W。稼働時の騒音レベルはランプ輝度モード「標準」で19dBでかなり静粛性に優れる。1mも離れると動作音がほとんど気にならない。一方、最大輝度が得られるランプ輝度モード「高」では、1mほど離れても耳を澄ますと冷却ファンの回転音が聞こえてくる。ただ、以前のDLAシリーズと比べると破格に静かになった。ビクターによれば、出力輝度はランプモード「標準」は150W出力ランプ相当、「高」が定格の200W出力相当になるとのこと。

 ちなみに、ホームシアターは10畳程度のリビングに構えており、VPL-VW60もここに天吊り設置で運用していた。このVW60の天吊り金具として使用していたのは、数年前から人気商品となっている米SANUS製のユニバーサル天吊り金具「VMPR1」であった。

 VMPR1は、多様なプロジェクタの寸法に対応出来るように伸縮可能なフレーム構造をしているのが特徴で、日本産の20kg以下の、ほぼ9割のホームシアター・プロジェクタ製品を無加工で取り付けられることをウリにしている。「DLA-HD350はどうか」と調べてみたところ基本的には問題がない様子。引き続きこれを使用することにした。

 VMPR1は基本フレームで直径約30cmのレンジのプロジェクタ底面側の取り付け穴に到達でき、延長フレームを用いることで直径約47cmにまで到達できる。

 DLA-HD350の天吊り時には、本体底面部の4個の脚部を取り外し、このねじ穴を利用することになるのだが、VMPR1の標準フレームでこの4カ所に到達が出来ない。従ってVMPR1に付属する2つの延長フレームを利用することになる。

 なお、フレーム部とDLA-HD350を接続するときに1つ小さな問題が発生。というのは、DLA-HD350の脚部のネジ穴の直径が5mmで、しかもネジの深さが20mm以上もあり、VMPR1の標準同梱のネジでは取り付けが出来ないことが分かった。しかし、ホームセンターなどで直径5mm、全長20mm程度のボルトを買ってくればOK。4本で160円くらいだった。

底面の様子。この脚部を取り外してここに天吊り金具を固定する脚部はネジ式で取り外しが可能買ってきた直径5mm、全長20mm程度のボルト(右)。このネジの緩め/締め具合で最終的な回転方向及び上下方向の微調整を行なうため、長さは20mm程度あった方がよい

 天井側にはベースとなる天吊り金具を取り付け(筆者宅ではVPL-VW60設置時にすでに取り付け済み)、プロジェクタ本体側に取り付けたフレーム部と合体させて固定すれば設置は完了する。なお、上下方向、左右の微妙な傾きについては、前述のネジの締め具合で調整できる。

 また、VMPR1では約30cmほどのオフセットパイプも同梱しているので、天吊り設置時に、映像を少し下げたいときなどはこれを利用するといい。筆者の設置ケースでも、この延長パイプは利用している。

フレーム部を本体底面に固定したところ。延長フレームを使用した関係で吊り位置が後ろにオフセットされているオフセットパイプを取り付けたところ
天井部の取り付け金具と合体させて固定すれば設置完了。とはいっても、このあと映像を出しての映像四辺の直交出しの微調整に結構な時間がかかる

 


■ 接続性チェック ~基本はDLA-HD750と同じだが、PC入力とトリガ端子を省略

 接続端子パネルはDLA-HD750と微妙に異なっており、HDMI入力の数などは同じだが、PC入力端子とトリガ端子がカットされている。

接続端子パネル。DLA-HD750とほぼ同じレイアウトだが、PC入力とトリガ端子が省略されている

 HDMI端子は2系統を備えており、これはDLA-HD750と同じだ。HDMIバージョンは1.3で、DeepColor、1080/24p、HDMI CECに対応する。ただし、x.v.Colorには未対応だ。

 アナログインターフェイスとしては、コンポジットビデオ入力、Sビデオ入力、そしてコンポーネントビデオ入力(RCA)を各一系統ずつ備えている。D端子入力はなし。このあたりもHD750と同じだ。

 違うのはPC入力とトリガ端子の省略。HD750では、PC接続用のアナログRGB(D-Sub15ピン)と、電動スクリーン、電動シャッター、照明などと連動させるためのトリガ端子を備えていたのだが、これが省かれている。VPL-VW60にも搭載されていたアナログRGB端子は前期型Xbox360(HDMI端子なし)との接続に重宝していたので、これがカットされていたのは少々痛かった。

 なお、PCからのリモート制御インターフェイス用のRS-232C端子はDLA-HD350でも搭載されている。

 PCとの接続を行ないたい場合は、HDMI端子を用いることになる。VPL-VW60ではHDMIでPC接続したときにHDMI階調レベルが16-235のビデオ信号として認識され、暗部階調が潰れて明部が飽和してしまっていた。しかし、HD350では、0-255階調レベルに対応する「エンハンス」モードを持っているため、PCとHDMI接続した場合でも正しい階調表現が行なえた。今回の買い替えで改善された点となった。

 また、HD350では、HDMIのカラースペース(色域)についての明示設定も行なえる。色差(YCbCr)信号の映像をHDMI入力したときに、色解像度が4:4:4とみなして表示するのか、それとも4:2:2とみなして表示するのかを明示選択できる。使用しているプレーヤーなどの色解像度アップコンバートに信頼がおけ、これを間違いない設定で表示したい場合には明示選択するといい。通常は「オート」設定で問題はない。

DLA-HD350ではHDMI階調レベルの明示設定ができる「カラースペース」設定

 


■ 操作性チェック~基本操作系はDLA-HD750と同一

リモコン最下段の[LIGHT]ボタンを押すことで全ボタンがオレンジにライトアップされる

 リモコンはDLA-HD750と、基本形状はもちろん、ボタンのレイアウトやボタンの刻印文字に至るまで同一。厚さの薄いバータイプのリモコンで、上面には、やや小さい、オレンジのバックライトで自照する白い樹脂製ボタンが立ち並ぶ。

 ライトアップボタンは蓄光式になっていて、周辺にクリアランスを設けつつ、横に長くとったボタンデザインで、最下段にあることとの相乗効果もあってとても押しやすい。

 底面にはちょっとしたくぼみが3つあり、持ったときに底面にまわる人差し指を収めるためのエルゴデザインとなっている。上段のくぼみに人差し指を収めると画質調整関連のボタン領域に親指があてがわれ、下段のくぼみに収めると十字キーとメニュー操作ボタン領域にあてがわれる。リモコンの質感はあまりいいとはいえないが、機能設計自体はよく考えられている。

 電源を入れると、電動スライドカバーが開き投射レンズが顔を出す。電源投入後からHDMI入力の映像が出るまでの所要時間は約44秒であった。最近の機種としては遅い部類に属する。

 [LENS]ボタンを押すことで、投射レンズの調整モードに移行できる。[LENS]ボタンを押すたびに順送り式にフォーカス→ズーム→シフト……という具合に調整モードをスイッチしていく。調整はデフォルトのクロスハッチ表示を見ながら行なえるほか、メニューで設定することで投射映像を見ながらの調整にも対応している。

 入力切換は[INPUT]ボタンで順送り式に行なう。切換速度はHDMI1→HDMI2で約4.4秒。HDMI2→コンポーネントビデオで約3.5秒、コンポジットビデオ→Sビデオで約2.7秒。Sビデオ→HDMI1で約4.3秒。HDMIに絡んだ切換が遅いようだ。

 入力切換は切換速度が遅いだけでなく、リモコン操作から遅れて反応するため、リモコンの入力が受け付けられたかどうか不安になることが多い。[INPUT]ボタンを連打していると希望の入力先を飛び越えて行き過ぎてしまったりすることもあってやや使いにくい。入力切換自体が遅いのは目をつぶるにしてもリモコン操作を受け付けを知らせるビープ音か、あるいは画面表示のレスポンスが欲しかった。また、未接続端子のスキップ機能も欲しい。

 アスペクト比切換も[ASPECT]ボタンによる順送り式切り換え方式。アスペクトモードは3つのみ。非常にシンプルなラインナップで、いわゆる4:3映像の疑似ワイド化モードもない。だが、HD映像主体の活用が主体となってきている昨今、そこに不満はない。アスペクトモードの切り替え所要時間はほぼゼロ秒で、操作した瞬間に切り替わる。DLA-HD750に搭載されていた2.35:1のシネスコ映像をパネル全域に拡大表示するアナモーフィックレンズ向けアスペクトモードはDLA-HD350にも搭載されている。これは[ASPECT]ボタンから切り換えるのではなく、「入力信号」メニュー階層下の「Vストレッチ」モードのオン/オフで行なう方式となっている。

4:3アスペクト比4:3映像をアスペクト比を維持して表示する
16:9入力映像をパネル全域を使って表示する
ズーム4:3映像にレターボックス記録された16:9映像を切り出してパネル全域に表示する

 プリセット画調モードは「CINEMA1」、「CINEMA2」、「NATURAL」、「STAGE」、「DYNAMIC」の5モードを取りそろえている。これはHD750の6モードよりも1モード少ない。HD350にてカットされた画調モードは「THX」モードだ。HD750はTHXディスプレイ規格の認証を獲得しているが、HD350ではこれがない。ここも大きな両モデルの上下関係のポイントとなっている。

画質調整入力信号設置
表示設定機能情報

 ユーザーメモリは相変わらずクセのある仕様だ。USER1、2、3の3つがあり、それぞれが最初は「NATURAL」で初期化されており、これをエディットしていくことになる。なお、USER1、2、3の3つのユーザーメモリは入力系統ごとではなく、DLA-HD350全体で3つだけだ。

 プリセット画調モードもエディット可能で、調整した結果はそのまま、電源OFF後も維持される。よってプリセット画調モードもいわばユーザーメモリ的な活用が出来るのだが、こちらもユーザーメモリ同様、プリセット画調モードも全入力系統から共有されてしまっている。

 つまり、プリセット画調モードも、ユーザーメモリもDLA-HD350の全入力共通設定となるということだ。プリセット画調モードの完成度は高いので、それほどエディットの世話になることもないかも知れないが、少なくとも他機種では、入力系統ごとに個別の調整結果を持てる仕様にはなっている。その意味では、調整マニアにとっては調整自由度の低い印象を与えてしまうかも知れない。ちなみにDLA-HD750も、同様の仕様となっている。

 ユーザーに調整を開放しているパラメータとしては、一般的な「コントラスト」、「明るさ(ブライトネス)」、「色のこさ」、「色あい」など。「シャープネス」の調整は「画質調整」メニューの1ページ目にはなく、「アドバンスト」メニュー階層下のメニューページにて行なうことになる。画一的なディテール強弱調整を行なう、一般的なシャープネス調整の他、高周波領域(テクスチャ・ディテール)に対して選択式に強調を行なう「高域強調」調整も可能だ。デジタルソースやハイビジョンソースでは特にいじる必要はないと感じる。これはSDのアナログソース向けという捉え方でいいだろう。なお、過度に強調を行なうと滲みが出てくるので注意。

アドバンストシャープネス

 色温度は5800K、6500K、7500K、9300Kの4つから選択する方式。マスターモニターライクな9300Kと、かなり赤味を帯びる5800Kが用意されているのが特徴的。個人的には青すぎず赤すぎないベストなホワイトバランスな7500Kに対して好印象を持った。CG映画、ゲームはもちろん、映画との相性もいい。

 K(ケルビン)指定の色温度とは別に、照明下使用時に適した「明るさ優先」モードという特別な色温度モードも用意されている。

「色温度」メニュー

 また、オフセットとゲインを個別に設定して作るオリジナルの色温度制作が行なえる「カスタム色温度モード」も用意されている。カスタム色温度は専用のユーザーメモリが3つ用意されており、これも、各入力系統ではなく、DLA-HD350全体で3つだ。

 ガンマ補正の管理方式もDLA-HD750と同様で、プリセットでは「ノーマル」「A」「B」「C」の4つのガンマカーブが提供されている。ただし、HD350では、プリセットのガンマカーブの割り当てがHD750とは微妙に異なっている。


「ガンマ」メニュー

 具体的には、HD350では「ノーマル」を「NATURAL」で、ガンマ「A」を「CINEMA2」で、ガンマ「B」を「CINEMA1」で、ガンマ「C」を「STAGE」「DYNAMIC」で使用している。

 HD750では、ガンマ「A」が、どのプリセット画調モードからも利用されていなかったが、HD350では、ガンマとプリセット画調モードがほぼ一対一に対応するような設計となっている。ガンマカーブの名称が「A」「B」「C」とわかりにくいが、AとBはシネマ系、Cは明るさ重視系ということは、プリセット画調モードの対応で何となく読み取れてくる。

 ガンマカーブは、ユーザー作成が可能となっており、12バンドのグラフィック・イコライザーのようなGUIで任意のカーブを描くことが出来る。作成したオリジナルのガンマカーブはカスタム1、2、3の3つのガンマカーブ専用のユーザーメモリに記録することができる。もちろん、この3つのガンマカーブ用メモリもDLA-HD350全体で3つだ。

 アドバンストメニュー階層下のノイズリダクション(NR)関係、カラー・トランジェント・インプルーブメント(CTI)関係の機能についてはDLA-HD750と全く同一なので、詳細は本連載第115回を参照して欲しい。ともにSD映像専用の機能という位置づけだ。

 また、DLA-HD750には、赤、黄、緑、シアン、青、マゼンタの6色の代表色を選択して、この代表色を含む近辺の色の「色相」「彩度」「明るさ」を調整できる優秀なデジタル方式のカラーカスタマイズ機能「カラーマネージメント」が搭載されていたが、HD350では機能が丸ごとカットされている。HD750では、この機能を実現するために、追加の映像プロセッサを搭載していたが、HD350では、このチップ自体が搭載されていない。ここもモデルの上下関係の大きな象徴ということになる。

 


■ 画質チェック ~圧倒的なレンズ解像力は健在。+100ルーメンの明るさこそが武器

 DLA-HD350の映像パネルは、いうまでもなく、ビクター独自の反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)パネルの「D-ILA」(Directdrive Image Light Amplifier)だ。DLA-HD750とDLA-HD350とでは、パネル世代は同じとされており、0.7型のフルHD(1,920×1,080ドット)パネルを採用している。

 基投射エンジン部も、基本設計は同じだが、一部のパーツにおいて、DLA-HD750では選別良品を採用しているとのこと。おそらく投射レンズやワイヤーグリッド偏光板などがそうなのだろう。前述したように、HD750では、専用プロセッサを搭載してのカラーマネージメント機能が提供されるが、この機能に合わせる形で、ランプ直後の光源色補正光学系システムにおいて、色ダイナミックレンジをHD350よりも広く取れるようにHD750専用設計のフィルタ系を配してファインチューニングを行なっているとのこと。ここで、輝度よりも色ダイナミックレンジをとった関係で、DLA-HD750はDLA-HD350よりも最大輝度がスペック値で100ルーメンほど暗い。逆に言うと、この+100ルーメンの明るさこそがDLA-HD350の特長ということになる。

レンズシフトを上方向にほぼ最大にシフトして、画面左端での撮影でこのフォーカス力と色収差の少なさはお見事。これがDLA-HDシリーズ伝統の光学解像性能

 言ってみれば、「スペシャリティ機のDLA-HD750」と「量産機のDLA-HD350」という関係性だと思うのだが、実際にその投射映像を見ると、DLA-HD350においても、ビクターのDLA-HD系の特長である投射映像の光学的解像力の優秀さは健在であった。

 1ピクセル1ピクセルがとてもクリアに描き出されており、視力が向上したような鮮明感がある。

 フォーカス感も良好だ。画面中央でフォーカスを合わせれば、画面外周もちゃんと合焦してくれて鮮明に映ってくれる。

 レンズシフト機能付きの投射系ではフォーカス性能とレンズ解像力性能をなかなかよいレベルに持っていけてない機種が多いのだが、この点において、ビクターは今回も優秀だ。今後も、ビクターDLA-HD系の映像の伝統として引き継いでいって欲しいものだ。

「画素調整」メニュー

 色収差は画面外周にはないこともないが、それもおよそ半ドットくらいに収まっており、レンズ解像力の高さにも助けられ、ピクセルがぼけて見えるような感覚はない。ピクセルをRGBの各プレーンレベルでデジタルシフトする「画素調整」機能がHD350にも備わっているが、1ピクセル単位での上下左右移動しかできないため、半ピクセル単位のズレには使いようがない。もともと色収差が少ないのでこの機能にお世話になる機会はあまりないと思うが、どうせ付けるならば、ソニーのVPLシリーズのような、誤差拡散的アプローチで1ピクセル以下の疑似シフトを行なう機能にして欲しかった。

 公称輝度は1,000ルーメン。前述したようにHD750の900ルーメンよりも100ルーメン高いわけだが、暗部でコントラストを稼ぐLCOS機のわりには、HD350は潤沢な輝度性能を持っており、蛍光灯照明下でも相当明るく見える。工場出荷状態ではランプパワー設定が「標準」となっており、これはいわゆる他機種で言うところの低輝度モードだ。1,000ルーメンの最高輝度を得るためにはこの設定を「高」にする必要がある。

ランプパワー=標準ランプパワー=高「ランプパワー」設定

 公称コントラスト比は30,000:1。もちろんビクターのDLA-HDシリーズなので動的可変アイリス機構なしでのネイティブコントラストの値だ。HD750は50,000:1。ここも明確なモデルの上下関係を表すスペック値となる。最大輝度は10%の違いしかないのに、コントラスト比は60%以上もDLA-HD750の方が上なのは、HD750がコントラストを暗部方向で稼いでいるからだ。わかりやすく言えば、HD750の方が一層、暗部の沈み込みに優れると言うことだ。とはいえ、HD350も全黒表示や黒領域が多い映像のときは、かなり暗くなっており、HD750に対して見劣りしない。見比べれば差が分からないこともないが、HD350も、暗部の描写力に不満はない。同一フレーム内に明部と暗部が併存していても、暗部表現が明部表現の光の影響を受けて明るくならず、ちゃんと暗さを維持できているのは優秀だ。

 そして、DLA-HD350の特長である最大輝度1,000ルーメンは、明るいシーンでのエネルギー感をもたらし、そのハイダイナミックレンジ感は透過型液晶機に迫るほどの印象がある。陽光に照らされた日中の明るいシーンなどはかなり目映く見えるし、特に光に照らされて出来るハイライト表現は鋭く見えて感動する。また、黒いボディの車に映り込んだ情景や照り返しなどもとてもリアルに見える。映り込みは黒付近の暗色表現が主になるが、ここで"潰れず浮かず"の的確な描画が出来ているため、立体感すら感じる。また、放射状に伸びる照り返し表現に至っては強烈に明るい。もしかすると、場合によっては明るいシーンでの高エネルギー感はHD750よりも上かも知れない。

 発色の傾向はブラウン管のテレビ的というか、素直な感じ。あまり広色域感というか、記憶色再現には振らないチューニングだ。モニター的ともいえる。赤はやや彩度が高い感じがするが、緑は黄味感のなく純度が高い色合いとなっている。青は色ダイナミックレンジ高く、最暗部でもグレーに落ち込まず青みを残している。二色混合のグラデーションも美しく決まり、総じて色ダイナミックレンジは高めといってよさそうだ。

 人肌の発色もよい。これはHD750にも負けておらず、なにより、黄味がからず透き通るような自然な肌色の質感が出せている。今世代のDLA-HDシリーズは肌色をとても綺麗にまとめていると思う。肌のハイライト部の白付近から肌色のグラデーション、陰の茶付近からの肌色へのグラデーションもまろやかで美しい。

 階調表現も優秀だ。最暗部の沈み込み単体だけで評価するとHD750に軍配が上がるが、最暗部付近の描写力、最暗部の色ディテール表現力は、上位機に肉迫するところまでいっていると思う。階調表現だけに関して言えば、HD750は暗部表現重視のチューニングで、漆黒から自然に繋がることを最優先させている意図を感じる。一方、HD350は明部のエネルギー感に重きを置きながらも、その中で出来る最大限の暗部階調表現を実装したという感じ。両者はよく似ているが細かい部分ではずいぶんとコンセプトが違う製品だと感じる。

ガンマ=ノーマル。とても素直
ガンマ=A。暗部の立ち上がりを遅めにしている
ガンマ=B。暗部表現を見えやすく配慮がなされている
ガンマ=C。中暗部以上の情報量重視

 色と階調については、もう一点補足しておく必要があるだろう。DLA-HD750の画調モード「CINEMA1」については、前出のカラーマネージメントプロセッサを用い、コダックの協力の下、同社製フィルムの現像後のカラープロファイルを忠実に再現したものになっている。HD750では、このフィルムの質感を再現するために、階調と色味の相互関係に配慮した三次元データテーブルを用いて最終描画カラーを決定しているというのだ。

 今回、筆者のHD350購入直前にHD750との比較デモをやっていただいたのだが、暗部階調の変化がとても緩やかで陰影が濃いめに出ること、そして赤の発色がずいぶんと渋くなることが見て取れた。このHD750の「CINEMA1」はビンテージなフィルム映画には絶妙なマッチングを示すのだが、最近のデジタル撮影されたハリウッド最新作映画などでは、逆に地味な画作りに見えてしまう。その意味では、最新のデジタル時代の映画ソフトを再生するのが主体ならばDLA-HD350で不満がないということになる。

色温度=5800K。やや赤みが強め色温度=6500K。標準設定色温度=7500K。白が純白に
色温度=9300K。青みが強め色温度=明るさ優先

 DLA-HD350にもHD750同様、投射レンズの中段に備えられた絞り機構「レンズアパーチャー」が備わっている。いわゆる「アイリス」になるのだが、ソニーのVPLシリーズに採用されている動的絞り機構ではなく、あくまで迷光低減のための「固定絞り」の役割のみを果たす。ネイティブコントラストにこだわるビクターらしい構造だ。

 この「レンズアパーチャー」だが、実は、HD750とHD350とでは微妙に機能が異なっている。

 HD750では、絞り具合を-15(絞り切り)~0(絞り開放)の16段階が指定できたが、HD350では1(絞り切り)、2(中絞り)、3(絞り開放)の三段階指定となっている。これは特に実害のないスペックダウンだと思う。もともとDLA-HDシリーズはネイティブコントラストに優れているため、この固定絞りは、ほとんど隠し味をくわえるような感覚でしか使わない。なので、HD350の3段階絞り設定はこれでも十分すぎるくらいの機能だと思う。ランプパワーを「高」設定にしていて、黒浮きが目立つと感じた場合は、中絞りくらいにするといいかもしれない。

1(絞り切り)。黒浮きが減りコントラスト感が増加2(中絞り)。コントラスト感と情報量のバランス設定3(絞り開放)。コントラスト感よりも情報量重視

 DLA-HD750とはモード名が同じでも映像プロセッサの仕様が異なることからプリセット画調モードのチューニングが異なっている。

【プリセットの画調モード】

 1,920×1,080ドットのJPEG画像をPLAYSTATION 3からHDMI出力して表示した。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用。レンズはSIGMA 18-200mm F3.5-6.3 DC。撮影後、表示画像の部分を800×450ドットにリサイズした。
 
●シネマ1

 DLA-HD750ではコダックのフィルム色再現モードだった「シネマ1」は、DLA-HD350では汎用性を重視した、すっきりした画調となった。結論から言うとDLA-HD750の「シネマ2」がベースになっている画調だと思われる。

 色温度は6500Kに設定され、若干赤味が残るホワイトバランスだが、模範的なシアター系画調モードという味わいがある。 緑と青の純度は高く、赤もそれなりにいいバランスにチューニングされている。後述の「ナチュラル」に並び、汎用性の高いモードだといえる。

 人肌は全モード中、最も自然に見える。黄味が少なく、赤味の具合もわざとらしくなく、透き通った白味が残っている感じがとてもリアルだ。

 階調は、暗部と明部のバランス感に優れつつも、リニアな輝度割り当てがお見事。シアター系画調モードのわりには明部のエネルギー感もある。後述の「シネマ2」よりも暗部の持ち上げ感は強いため、暗部ディテールの描写に力点を置いた意図を感じる。

 実用度は高いので「ナチュラル」とともに最初に合わせてみたい画調モードだと思う。

 
●シネマ2
 フィルムのアナログ感を出そうとするコンセプトの画調で、かなり赤味を帯びたホワイトバランスになっている。色温度は5800Kと全モード中、最も低い。

 色合いがやや濃くなり、特に青や緑に深みが出る。赤も純度が高まる。ただ、人肌は若干赤味が強さくなるため、「シネマ1」の方が自然に見える。

 階調は暗部を漆黒から緩やかに立ち上げて中暗部からは若干持ち上げぎみ、一方で明部の輝度をやや控えめにしている。これにより黒浮きを極力抑えつつ、高い暗部描写力を両立させている。画面全体的なコントラスト感は「シネマ1」に及ばないが、長時間視聴では「シネマ2」の方が疲れないかも。

 無理にして利用する必要性は感じないが、フィルム時代のビンテージ/クラシックな映画を見る場合には試してみてもいいモードだ。

 
●ナチュラル

  いわゆる他機種で言うところの標準画調モード。

 発色傾向は「シネマ1」とよく似ており、総じてブラウン管ライクな色合いとなる。ただ、人肌は若干黄味を帯びる。この黄味感を消すには色温度をこの画調モードのデフォルトの6500Kから7500Kに変更するといい。

 階調は中明部以降は「シネマ1」とほぼ同じだが、「シネマ1」で感じられた最暗部から中暗部までの持ち上げ感を止めて、モード名の通りナチュラルなリニア特性に戻しているようなチューニング。その効果もあって、最明部のエネルギー感と全体的なコントラスト感においては全モード中、一番いい。

 「シネマ1」と並び、汎用性が高いモードだといえる。

 
●ステージ

 色温度が7500K設定され、白が純白に近い色合いとなり、液晶テレビっぽい映り方になる。

 赤や緑の傾向は変化ないが、青に力が乗るのが特徴的だ。人肌は「ナチュラル」よりも黄味感がなく、赤味と白味のバランスがいい。

 階調は、最暗部を緩やかに立ち上げていく特性は「シネマ2」とよく似ているが、中暗部から上に対して輝度パワーを潤沢に割り当てていくチューニングは独特だ。結果として、映像は明るく見え、暗部の沈み込みの強さから見た目としての立体感が強くなる。ただし、暗部階調付近の描写力はそれなりとなる。

 モード名の割には実用度は高く、ゲームやアニメ、CG映画との相性はよい画調モードだ。

 
●ダイナミック


 モード名の割にはずいぶん整った画調。色温度が9300Kになり、白に若干の青さが乗ったPC液晶モニタっぽい色合いとなる。

 青に「ステージ」以上のパワー感が乗るが赤や緑への影響は小さい。人肌は黄味感が少なく、「ナチュラル」よりもさらに透明感を増して見える。

 階調特性はほぼ「ステージ」と同じで、中明部から上に対して多くの輝度パワーを割いたチューニングとなっているが、他機種の同名モードのような明部飽和や暗部潰しは行なわれていない。

 モード名からは、明るい部屋での使用を想定した専用画調モードに思われてしまいそうだが、なかなかどうして、暗室でも十分使える画調モードになっていると思う。「ステージ」と同様にゲーム、アニメ、CG映画を視聴するときに利用するといいだろう。

 

 


■ まとめ ~DLA-HD350は「中の上」のベストポジション機

 DLA-HD350は今世代LCOS機の中では面白い位置づけだと思う。

 上位機のDLA-HD750そして、ソニーのVPL-VW80はややプレミアム機のイメージを色濃く押しだしたモデルとなっており、価格帯はやや高めだ。

 一方、LCOS機の価格破壊に挑んだVPL-HW10は、今や20万円前後で購入できる魅力的な製品なのだが、レンズ制御が手動式になってしまい、色収差の強い画素描画などなど、コスト削減の爪痕もそれなりに出てしまっている。

 この中で、電動制御可能なレンズ操作性と、LCOS機の上質な画質を両立させて、約30万円の価格に持ってきたDLA-HD350は、価格と性能のバランスの良さで今期LCOS機のナンバーワンといえる。メーカーこそ違うが、立場的には、2007年にヒットしたLCOS機のソニー「VPL-VW60」の後釜的な存在となっていると思う。その意味では、ソニーには、また、このポジションの後継機を出して欲しいところだ。

 なお、DLA-HD750の評価のときに指摘した、グラデーション表現を伴うものが画面スクロールのようにパン移動するとそのグラデーションに擬似輪郭が見える現象は、やはりDLA-HD350でも時折知覚された。再現は簡単で、顔写真などを上下左右に動かしてこれを目で追って見ると分かりやすい。頬のグラデーション表現に淡い等高線のようなものが現れるはずだ。通常の映画ソフトなどではフィルムジャダーの影響の方が大きいのであまり気にならないが、ハイフレームレートなゲーム映像などでは気になることがある。

 これはD-ILAのデジタル駆動方式に原因があることが判明している。この問題について、ビクターも把握しており、次世代機等ではD-ILA駆動の際のサブフィールドの増加等で改善したい、というコメントを開発関係者から頂いている。今後も、LCOS機の進化が止まらないことを期待したい。

(2009年 7月 17日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。