第139回:International CES特別編

ソニーの有機EL新活用。シャープは次世代Quattron
~パナソニックは3Dのクロストークを劇的に改善~



■新技術をアピールする日本メーカー達

 CESでは毎年、その年のトレンドとなる最新技術や発売前の最新製品や試作機が多数公開されるが、今年も各社から様々なものが登場している。一方、ここ数年、LGやSamsungなどの韓国勢の勢いに圧倒されてきたわけだが、今年は、日本メーカーから、我々、大画面☆マニアを喜ばせてくれるようなネタが多く出てきてくれて頼もしい限りだ。

 今回は、 2011 International CESに見た、大画面☆マニア的に嬉しい日本メーカーの動きをお届けしよう。


■有機ELの新しい応用先を見出したソニー
 ~最も美しい3D映像を実現する有機EL型ヘッドマウンドティスプレイ!?

 ソニーが、裸眼立体視テレビ(ディスプレイ)の試作機を展示していたことは既にレポート済みだが、これ以外にも、興味深いディスプレイ関連の展示があった。有機ELを使ったディスプレイ製品の試作機達で、1つは、有機ELディスプレイパネルをマイクロディスプレイパネル的に活用したヘッドマウントディスプレイ(HMD)だ。

 いわゆるゴーグルタイプのディスプレイ装置だが、3D表示に対応していることと、表示デバイスに有機EL(OLED)を採用しているところがホットトピックになる。

 10年以上も前になるが、過去にソニーは、「グラストロン」と呼ばれる、HMDタイプのディスプレイ製品群を市場投入していたことがある。グラストロンでは、透過型の液晶パネルを表示デバイスに採用し、これをバックライトで光らせて映像を生成していたために、黒浮きが強く知覚され、コントラスト的には優れた画質ではなかった。

 今回、展示された有機EL-HMDは、自発光ディスプレイパネルであるために、黒が漆黒で表現されると同時に、高輝度画素も共存できる特性が実現されるため、とんでもなくコントラスト感が高い画質が実現できているのだ。これまでの「一般的なHMDの画質」を知っている人であればあるほど、このクオリティには驚かされるはずだ。

 また、有機ELの潜在的な高速応答性能によって提供される動画のキレも素晴らしい。しかも、このクオリティで立体映像を見られるのだから、恐れ入る。

有機EL-HMDの公開されているスペック装着している様子。今のところ有線接続となる

 HMDには2枚の有機ELディスプレイパネルが内蔵されており、左右の目は、個別のパネルを見ることになるので、原理的にクロストークなどは存在しない。おそらく、裸眼立体視、眼鏡立体視、現存するあらゆる3D映像表示形式のなかで、もっとも高画質な立体映像システムと言っても過言ではない。

 ちなみに、この試作機で採用されている有機ELパネルの1枚あたりの解像度は1,280×720ドットで、フルHDではないもののハイビジョンクオリティの3D映像表示に対応している。ただ、ユーザーは比較的、近い位置にある映像パネルを見ている感覚になるため、実際の製品時にはフルHD解像度は欲しいところではある。

 現状では映像出力側機器とは有線接続となっていたが、無線式HDMIなどを活用してワイヤレス接続してバッテリ駆動させれば、完全なワイヤレス運用も実現できるはずだ。

 要望を言わせてもらえれば、もう少しFOV(視界、視錐台)の広さが欲しい気がする。現状でも、2~3メートル先に80~100インチがある感じでホームシアター代替としては必要十分だと感じるが、ゲームなどの没入感重視のエンターテインメントまでを想定すると、もう少し広ければ(大きければ)……と思う。用途に応じて解像度を変えずに画面をズームイン/アウトできれば、パーフェクトだ。


イヤパッド部分がバーチャル5.1chサラウンドに対応したヘッドフォン。試作機ということもあって固定用のヘッドバンドは無し

 今回展示されていた試作機では、耳当て部に5.1chのバーチャル式のヘッドフォンをも内蔵していた。つまり、この有機EL-HMD単体で、完成された3D-AVシステムとなっていた。PlayStation 3と接続すればパーソナルに立体視ゲームが立体音響付きで楽しめる環境が実現できるわけで、ゲーミング向け周辺機器としての価値も高いと思う。

 有機ELディスプレイパネルは、製造時の有機物の蒸着精度の困難さから大型パネルが作りにくいとされ、現状、小型パネルのみの実用が進んでいるが、このアプローチならば、バーチャルに大画面が実現できる。有機ELディスプレイの、現実的な「次なる一手」を感じ取れるだけに、市販化に向けて、さらなるブラッシュアップを期待したいと思う。


 この他、有機ELディスプレイ関連としては、24.5型/1,920×1,080ドットで、裸眼立体視も可能な試作機を展示していた。しかし、視差バリア方式か、レンチキュラーレンズ方式かといった裸眼立体視の実現様式は非公開。

 見え方としては、自発光画素の有機ELディスプレイらしいコントラスト感の強さは感じられたものの、見た目として得られる立体感や奥行き感に関しては、それほど大きく液晶方式と変わるところはなかった。

有機ELディスプレイを使った裸眼立体視ディスプレイ。右はスペック


■シャープ、70型のAQUOS Quattronbと次世代Quattronを公開

シャープブース

 シャープの目玉は、70型(正確には69.5型)の4原色Quattronパネル採用モデルの投入のアナウンスだ。これまで液晶テレビAQUOSとしてリリースされた製品としての最大画面サイズは65型で、かつて108型の液晶ディスプレイを発売したことはあったが、あちらは液晶テレビとしてのAQUOSではなかった。

 また、これまで最大サイズだった65型はQuattronではなく、従来型のASV液晶パネルを採用したモデル。Quatronパネル採用のAQUOSで最大サイズは、現状60型だ。その意味で、この“70型”は、液晶テレビAQUOSとして最大であり、Quattron採用機としても最大と言うことになる。

 この70型は、3D未対応の「LC-70LE732U」から、北米市場に5月より投入予定となっており、後に3D対応モデルの「LC-70LE935」の発売も2011年内に計画されている。

 そして、北米現地時間1月5日に行なわれたプレスカンファレンスでは、シャープ・アメリカのプレジデント、JOHN HERRINGTON氏が興味深いアナウンスを行なった。

 これまで、シャープは、光配向技術を応用して製造したQuattronでは、理想的な光出力特性が得られることから、直下型LEDバックライトシステムを活用しつつも、エリア駆動は不要……という立場を取ってきたが、70型のQuattron採用AQUOSの“3D対応モデル”では、エリア駆動を復活させると言及したのだ。

 高価なハイエンド機になるため、ややコストが上乗せとなるエリア駆動を復活させるのだと思われる。ちなみに、AQUOSにおけるエリア駆動採用は、2008年にRGB-LED採用モデルとして登場して注目を集めたAQUOS XS1シリーズ以来となる。

“70型”は、液晶テレビAQUOSとして最大であり、Quattron採用機としても最大3D対応モデルではエリア駆動が復活採用されるとアナウンスされた

 このエリア駆動には、局所コントラストを上げるだけでなく、きめ細かいスキャニングを実現することで、3D表示時のクロストーク現象を低減する狙いがあるのだと思われる。

 私見になるが、現状、3D液晶テレビで最もクロストークが少ないと感じられるのは、水平16分割スキャニングを実践している東芝のレグザ「X2」だ。シャープAQUOSシリーズも3D対応モデルはバックライトスキャニングを行なっているが、分割数は1桁台(非公開だが4~5だと言われている)であり東芝レグザ「X2」に劣る。これを機に、3D対応モデルの上級機には70型以外のモデルでも直下型LEDバックライトモデルではエリア駆動を復活させていく動きが今後見られるかも知れない。

 シャープブースではこの他、「次世代Quattronパネル」の展示が行なわれていた。担当者によれば、この「次世代」というのは、実際には「2011年仕様のQuattronパネル」と言う意味で、原色数が増えていたり、開口率が変わっていたりということはないようだ。

次世代Quattron(2011年仕様Quattron)と従来のASV液晶との比較デモ。いずれも、上段が次世代Quattronで、下段が従来のASV液晶。色域、輝度ピーク、黒の沈み込みが桁違いであることが写真からもうかがい知れる
次世代Quattronを近接撮影してみたところ。画素形状に大きな変化はないようだ

 担当者の説明では、液晶パネル部分については「ほとんど現行のQuattronパネルと同じである」とのことだが、「光学系と駆動系の改良がさらに進められた」ともいう。

 展示されていたデモは、従来のQuattronパネルの駆動と同じく、エリア駆動なしの状態で、そのハイコントラストがアピールされていたが、比較対象が、2010年仕様のQuattronではなく、さらに前の世代のASV液晶であったため、2011年仕様の改良の成果は比較しにくかった。いずれ、日本向けの2011年春モデルの発表会などにおいて、2011年仕様のQuattronの改良ポイントなどが明らかになるはずだ。期待して待っていたい。


■パナソニック、3Dプラズマのクロストークを独自技術で解消へ

パナソニック・ブース

 3D画質において、もっとも問題とされるのが反対側の目用の映像がかすかに見えてしまうクロストーク現象だ。

 パナソニックが強力に推進するプラズマでは、画素の点灯応答速度こそ高速だが、消灯応答速度はLEDバックライトベースの液晶に比べて遅い。具体的には、プラズマの消灯応答速度は数msのオーダーであり、これは液晶パネルの液晶画素の応答速度と変わらない。

 一方、LEDバックライトの場合、消灯応答速度はわずか数μsであり、プラズマの消灯応答速度はLEDバックライトを組み合わせた液晶に比べて桁違いに遅かったのだ。


 このクロストーク問題に対処するために、パナソニックは、プラズマ画素の階調生成のためのサブフィールドの発光順序を、時間進行上、“最初明るく、終わりに暗く”なるように並べ替える工夫と、さらに3D眼鏡の液晶シャッターの遮断タイミングを早めに行なう最適化を、2010年モデルの3Dプラズマには採用していた。

プラズマの階調生成のキモとなるサブフィールド発光順序を3D画質のために最適化した。この工夫は2010年モデルにも盛り込まれている

 しかし、前者の工夫は、明るいエッジ表現などのクロストークを低減するのには十分ではなく、後者の最適化は映像全体を暗くし、なおかつ明るいエッジのクロストークを目立たせる方向に働くこともあって、3Dプラズマの画質は、後発の競合他社の3D液晶テレビに及ばない部分が多々あった。


ついにパナソニックも32インチと37インチにおいては3Dテレビを液晶で提供していく方針を決定

 そこでパナソニックは、2011年においては、液晶VIERAシリーズにおいても3D対応製品を投入すると共に、3Dプラズマの画質に"攻め"の改良を採用していく。それが、クロストークの発生箇所を予測して、クロストークをキャンセルする画像処理を行なう「クロストーク・キャンセラー」という新機能だ。

 プラズマでクロストークが目立ちやすいのは、左右の明暗差が大きいところだ。輝度差だけでなく、明るさが同じであっても、補色の関係にある組み合わせでもクロストーク現象は目立ちやすい。


 そこで、事前に、こうした箇所に対して、描画内容を補償するようなサブフィールド駆動を、次の目用の映像描画に先だって行なうようにするのが、クロストーク・キャンセラーの働きになる。

クロストーク・キャンセラーの働きの模式図。クロストークが起きると予測される場所に対して、先だって補償駆動する

 この効果は非常に大きく、よほど気にして見ない限りはクロストークが見えない。3Dプラズマのクロストークにうんざりしていたユーザーにとっては驚きの改善ぶりだろう。

 なお、このクロストーク・キャンセラーは、3DプラズマVIERAだけでなく、3D液晶VIERAの製品群にも搭載されるという説明がなされていた。

 ちなみに、液晶パネルの場合は、プラズマのようなサブフィールド駆動ではないため、クロストークが起こると予測される箇所に対してアナログ的な補償駆動が行なわれるのではないか、と思われる。

 フレームシーケンシャル方式アクティブシャッター眼鏡方式の3Dテレビの画質も、まだまだ進化は止まらない。

パナソニックブース内に設置された、クロストーク・キャンセラーの効果を体験できる展示コーナー

(2011年 1月 8日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。