レビュー

“次世代アンプの本命”2ch環境でもHi-Fiを超えろ、マランツ「SR6015」

マランツ「SR6015」

AVアンプといえば“巨大”なイメージだったが、それは過去の話になりつつある。2018年6月に、マランツが“薄型AVアンプ”を発売し、爆発的な人気を獲得。以降、新モデルが登場するたびにレビュー記事でその進化を追っているが、その人気は高まるばかりで、AVアンプ全カテゴリで市場シェアナンバーワンを獲得しているというのはAV Watch読者であればご存知だろう。

マランツ薄型AVアンプの最新機種「NR1711」

この薄型AVアンプ、NR1700シリーズが人気の理由は大きく3つある。1つは薄型で、リビングや書斎などの省スペースに置きやすい事。2つ目が“薄かろう安かろう”ではなく、値段が9万円とミドルクラスで“薄いのに音が本格派で機能も充実している”事。これは頻繁に買い換えないAVアンプではとても重要なポイントだ。

そして3つ目は薄型で導入しやすいので、5.1chや7.1chといった多くスピーカーを用意して“いない”、つまり2chスピーカーしか持っていない人にも選ばれている事だ。要するにAVアンプだとか、2chアンプだとかを意識せず、「HDMI入力が沢山ついてて、ゲーム機とか映像配信などとも親和性が高く、2chでも音が良く、将来的にマルチチャンネルスピーカーを買った時でもホームシアター環境がしっかり構築できる」点を評価して買っている人が多いというわけだ。

ここまでは「イマドキのユーザーニーズを捉えているんだな」、「人気の理由もわかるな」という感じだが、実は、今回はレビューするのはこの薄型AVアンプ“ではない”。NR1700シリーズの1つ上のモデル、「SR6015」を紹介する。なぜかというと理由はシンプルだ。価格は148,000円で、薄型AVアンプと比べると5~6万円高価だが、価格差を忘れるほど“音が良い”のだ。

今回紹介する「SR6015」

結論から言うと、SR6015の実力は、2chでHi-Fiアンプと比較しても、音質で勝ってしまう面があるほど高い。ぶっちゃけ「どうせ買うならSR6015を選んだ方が幸せになれる」という話なのだ。

というわけで、SR6015の音質をチェックすると共に、薄型AVアンプの最新モデル「NR1711」、さらに“HDMI入力付きの2chアンプ”として人気の「NR1200」も用意。SR6015との音質の違いをチェックした。試聴からは、SR6015が“次世代アンプの本命”と言っても過言ではない、確かなクオリティが実感できた。

HDMI入力を備えた2chアンプ「NR1200」

8Kや4K/120pにも対応“将来も安心”な仕様に

いきなりライバル機も含めた話をガーッと書いてしまったが、試聴する前に「SR6015がどんなアンプか」を簡単に振り返ろう。音質については後ほどゆっくり紹介するので、その前に見逃せない機能にスポットを当てる。実はこの機能面が、このアンプが“オススメ”な理由の1つでもある。

最新AVアンプとして当然だが、Dolby Atmos、DTS:Xに対応、頭上も含む全方位に展開するサラウンド再生に対応できる。2chスピーカーで十分楽しめるが、9chパワーアンプを搭載しているので、将来的に、5.1.4ch、7.1.2chシステムまで構築できる。「いずれ本格的なホームシアターを作りたい」と考えていても、対応できる懐の深さがあるわけだ。

「でも9chなんてアンプいらない」、「そんなに何個もスピーカーは置かない」という人もいるだろう。だが、スピーカーを買い足さなくても、マルチチャンネルアンプには利点がある。例えば、サラウンドバック、およびハイトスピーカーを1組しか接続していない環境では、余ったパワーアンプをフロントスピーカーのバイアンプ駆動に使えるのだ。要するに、メインで使う2chスピーカーを、4基のアンプで高音質かつ強力にドライブする。「2chの音をより高音質に聴くため、9chアンプ選ぶ……」という買い方もアリなのだ。

2chアンプとして使うのも良い。バイアンプ駆動できるスピーカーと組み合わせれば、さらなる高音質化も可能だ

最新のIMAX Enhanced認定を受けており、IMAX Enhancedコンテンツの再生用に「IMAX DTS」、「IMAX DTS:X」というサラウンドモードも備えている。

さらに注目は、新4K/8K衛星放送で採用されている音声フォーマットのMPEG-4 AAC(ステレオ、5.1ch)に新たに対応した事。「4Kや8K放送をまだ導入していない」という人もいると思うが、テレビを買い替えて4K/8K放送が受信できるようになった時に「AVアンプが対応していなかったので買い換えなきゃ」とならないのは安心できるポイントだろう。

HDMI端子は7入力、3出力を搭載。そのうち、1入力、2出力が、8K/60p、および4K/120pのパススルーに対応している。PS5などの次世代ゲーム機は、ゲーミングPCレベルの超高解像度、ハイフレームレートに対応するが、このAVアンプであれば、その映像をキチンとそのままパススルーできる。テレビと次世代ゲーム機の間に接続して「AVアンプが対応していないのでフレームレートが落ちちゃった」とかいう話にならないわけだ。映画だけでなく、ゲームでもバリバリ使おうという人には、見逃せないポイントだ。

HDR映像は、HDR10、Dolby Vision、HLGに加えて、新たにHDR10+およびDynamic HDRにも対応している。さらに、HDMI 2.1の新機能「ALLM(Auto Low Latency Mode)」、「VRR(Variable Refresh Rate)」、「QFT(Quick Frame Transport)」、「QMS(Quick Media Switching)」にも対応。ゲームやVRコンテンツへの対応をより強化するもので、詳細は省くが、レイテンシーを抑えるためにAVアンプ側の処理をスルーするような設定を自動で行なってくれる。

ここまでは“AVアンプとしての機能”だが、SR6015にはネットワークプレーヤーとしての機能もある。ワイヤレス・オーディオシステム「HEOS」テクノロジーを搭載しており、LAN内のNASなどに保存した音楽ファイルや、USBメモリーに保存したファイルを再生できる。

Amazon Music HDやAWA、Spotify、SoundCloudなどの音楽ストリーミングサービスも、アンプから直接再生できる。要するに映画のBlu-rayを再生したり、テレビを見る時だけ使うのではなく、音楽を再生するための“ハイレゾプレーヤー兼アンプ”にもなるわけだ。

ハイレゾファイルは、PCMが192kHz/24bitまで、DSDは5.6MHzまで対応している。AirPlay 2やBluetoothにも対応しているので、より手軽にスマホやタブレットの音声を再生する事も可能だ。

細かな機能を挙げるとキリがないが、1つだけ書いておきたいのが“Bluetooth送信機能”だ。受信ではなく“送信”だ。映画やテレビの音声など、AVアンプで再生する音を、スピーカーから鳴らすのではなく、Bluetoothでワイヤレス送信できる。それを、ユーザーが持っているBluetoothヘッドフォンで受信して聴ける。つまり、深夜でスピーカーから音が出せない時に、Bluetoothヘッドフォンで映画を楽しむ……といった使い方ができる。実際に使ってみると、かなり便利な機能だ。

MMカートリッジ対応のPhono入力も備えているので、フォノイコライザーを内蔵していないレコードプレーヤーも接続できる。機能面では“てんこ盛り”と言っていい。

背面

薄型アンプの新機種「NR1711」と比較してみる

機能の特徴はこのへんにして、音を聴いてみよう。2chアンプとして使うことを想定し、B&Wの本格的なフロア型スピーカー「800 D3」と接続して、2chのCDをアナログ入力する。アンプとしての“素の実力”をチェックするためだ。宮田大の「エルガー チェロ協奏曲 第4楽章」、「SINNE EEG/Comes love」、「Acoustic Weather Report 2/Donna Lee」を聴いてみる。実際の利用シーンでは、小型のブックシェルフなどと組み合わせるアンプだが、より大型なスピーカーが鳴らせれば、駆動力の高さは問題ないことになる。

まず、薄型AVアンプで7chの最新モデル「NR1711」(9月中旬発売/9万円)と比べてみる。このNR1711だが、かなり“音が良い”。従来モデル「NR1710」と比較試聴すると、高域のしなやかさ、低域の深みといった面で、確実に情報量が増加した。「AVアンプは質感の描写がちょっと雑だよね」なんてイメージを持っている人も、「お、これいいじゃん」と思うほど“丁寧な音”に進化した。Hi-Fiの2chアンプ「NR1200」に迫る音質と言っていい。SR6015から見ると下位モデルだが、“安くて薄いけど、あなどれない弟”という存在だ。

薄型AVアンプで7chの最新モデル「NR1711」

ぶっちゃけNR1711だけ聴いていると、「薄くて、7chもアンプ入ってて、9万円でこの音は凄い」、「もうこれでいいんじゃないの?」と思えてくる。だが、SR6015に繋ぎ変えて音が出た瞬間、「あ、ごめんなさい」と言いたくなるほど、音がグレードアップする。

具体的には、音場の奥行きの深さ、左右や上下に広がるスケール感が一気に広大になる。さらにその広い空間に定位する個々の音が、よりパワフルになる。ベースやドラムといった楽器に勢いが出て、“音に力が宿る”。奏でられる音楽に躍動感が出るので、「低音がこう変わった、高音がこうなった」とか言う以前に、「無意識に体が動く」音になる。もう、聴いていて“楽しい”のだ。

SR6015

NR1711は、薄くて9万円。具体的なサイズ(アンテナを寝かせた状態)を言うと、440×378×105mm(幅×奥行き×高さ)で、高さが105mmなのがポイントだ。重量は8.3kg。

対するSR6015は148,000円で、価格差は58,000円。サイズは440×398×161mm(幅×奥行き×高さ)で、高さは161mmと、60mm厚い。重量は12.8kgだ。奥行きは20mmほどしか違わないので、床の専有面積としてはあまり違いはない。

約6万円の価格差があるので、音が良いのはある意味“当たり前”だ。ただ、実際に音を体験すると値段うんぬんは置いておいて「こりゃだいぶ違うな」というのが正直な感想だ。NR1711の音が悪いわけではない。むしろこの価格で、薄い筐体という制約がありながら、このサウンドは驚異的で、オススメ機種だ。ただ、SR6015を聴いてしまうと、こっちの方が問答無用で楽しいので、「自分が買って持って帰るならどっち」と聞かれると「……やっぱりSR6015で」と言いたくなる。

マランツの音の“門番”、尾形好宣サウンドマネージャーに聞くと、この音の違いは主に、電源とシャーシ、そして高音質パーツによるものだという。SR6015は9chのパワーアンプを搭載しているが、Hi-Fiアンプと同様に、理想の音を追求するために既存のオペアンプは使わず、パーツ一つ一つの選定や回路設計の自由度が高いフルディスクリート・パワーアンプを採用している。また、チャンネル間の音質差をなくすために全9chを同一構成としている。

この9chアンプで安定した出力を得るためには冷却機構が重要となるが、肉厚なアルミ押し出し材を使用したヒートシンクに、2分割(5chと4ch)したパワーアンプ基板を取り付けている。下位モデルのNR1711では7chのアンプを一列に取り付けているが、それよりもリッチな構造だ。効率的に冷却すると同時に、振動にも強い構造になっている。これも音には重要なポイントだ。

また、大音量再生時にも余裕をもった電源供給を行なうために、電源トランスにも大型のEIコアトランスを選んでいる。これは非常に重いパーツであり、しっかりと支えるべく、シャーシの中にさらにシャーシを追加。二層シャーシにして、強固に固定。脚部のインシュレーターにも高密度なタイプを選び、大きなトランスの“うなり”などを吸収したそうだ。

大型のEIコアトランス
二層シャーシでコアトランスを強固に固定
脚部のインシュレーターにも高密度なタイプを選択

さらに、電源回路で重要となる、パワーアンプ回路に電源を供給するブロックコンデンサーには、SR6015専用に開発したというカスタムコンデンサー、12,000μFのものを2基搭載している。低ESR電解紙を使ったもので、入念なリスニングテストを経て開発したものだという。

SR6015専用に開発したというカスタムコンデンサー

フィルムコンデンサーも、部品メーカーと協力して新たに開発したものだ。通常、こうしたオーディオメーカーが“チューンしたバージョン”のパーツを作るのは、コストがUPするので、高級モデルでないと難しい事が多い。しかし、尾形氏によれば、「AVアンプの場合は、Hi-Fiのアンプと比べて作る台数が多いため、コストを吸収でき、メーカーチューンのフィルムコンデンサーを採用できました」という。AVアンプの“数の強み”を活かした高音質化手法というわけだ。

プリアンプには、マランツの代名詞と言える高速アンプモジュール「HDAM」を採用している。広帯域にわたるフラットな周波数特性とハイスルーレートが特徴だ。

尾形氏によれば、前述のように強化された電源部と、このHDAM採用のプリアンプが組み合わさる事で、特に、トールボーイやフロア型など、「大型スピーカーをドライブした時に、音にスケール感や厚み、迫力が出てきます」と言う。つまり「ドライブ力」と「スピード」というアンプの“地力”が、誤魔化しが効かない、鳴らすのが大変な大型スピーカーを接続した時に、“アンプの実力差”としてモロに出てくるというわけだ。

さらに、総合的なスピーカーのドライブ力がアップする事で、「高音質パーツを投入した事で進化した音の色艶の良さ、響きの良さなど、細かな描写が、よりわかるようになるという利点もあります」(尾形氏)。“アンプとしての地力アップ”と“高音質パーツで音を磨く事”は、どちらか一方ではなく、両方強化する事で、互いの良さしっかり味わえるようになる……というわけだ。

Hi-Fiアンプに勝てるか?

では、9chの「SR6015」(148,000円)と、2chのHi-Fiアンプ「NR1200」(78,000円)を比べてみよう。価格差は2倍近いが、2chアンプはコストを全て2chに投入できるだけ有利なのは間違いない。

2chのHi-Fiアンプ「NR1200」

NR1200のサウンドは、確かにHi-Fiアンプだけあり、女性ボーカルや弦楽器などの高域のしなやかさ、低域の沈み込みの深さ、さらに全体的なSN感の良さで、前述のNR1711と比べても、より音が丁寧で、質感が豊かなサウンドだ。

相手はなかなか手ごわいが、SR6015に切り替えると、同じように質感豊かな描写でありながら、音場の奥行きの深さ、スケール感、そして個々の音のパワフルさが、ワンランク上にグレードアップする。しなやかさに、躍動感がプラスされたような印象で、アンプとしての駆動力の高さがそのままサウンドのアドバンテージにつながっていると感じる。

これまで「AVアンプと2chアンプを比べると、2chアンプの方が音がいい」という漠然としたイメージを持っていたが、逆転する事もあるのだと関心する。「1chのアンプに割けるコストが少なくなるのでAVアンプは音が悪い」というのは、もはや過去の話と言えるだろう。これだけAVアンプの音は進化しているし、NR1200のように“2chアンプでHDMI入力を備えたモデル”も登場すると、いよいよ「Hi-Fiアンプ」、「AVアンプ」というカテゴリ分け自体に、あまり意味がなくなってきたな……という気がしてくる。

マルチチャンネルでも確かな実力

体験してきたように、SR6015の2ch再生は、確実にHi-Fiアンプレベルの実力を備えている。「AVアンプをとりあえず2chアンプとして使う」という負い目を感じずに、フツーに2chで楽しめるアンプだ。

では、マルチチャンネルで聴くとどんな感じだろうか? SR6015に、サブウーファー、サラウンド、フロントハイト、リアハイトを追加。センタースピーカーは無しという環境で、映画「不屈の男 アンブロークン」や、Dolby Atmosデモディスクの「Amaze」を聴いてみた。

さすがはAVアンプ、全身を包み込むサラウンドの心地よさと、「いま、ココに鳥が飛んでる」と指し示せるほどのリアルな定位と移動感が凄い。SR6015は駆動力が高いので、とどろく雷鳴の鋭さ、迫力がたっぷり味わえると同時に、降り注ぐ雨音の描写もディテールが細かい。

「不屈の男 アンブロークン」では、爆撃機の大型エンジンによる「グオオオオ」という地鳴りのような騒音が押し寄せてくるが、その中でも、乗組員達の会話がクリアに聴こえる。迎撃に来たゼロ戦による銃撃音は鋭く、砕けるガラスの音が強烈だ。音の1つ1つがシャープに描かれるため、迫力と“怖さ”が同居している。

“次世代アンプの本命”

次世代ゲーム機を見据えた8K、4K/120pへの対応、新4K/8K放送への対応、HDRサポートの拡充など、機能面で、マランツの今年のAVアンプは“買い時”だ。その中でも、アンプとしての実力の面で「SR6015」は最注目モデルと言っていい。薄型の下位機種と比べれば高価ではあるが、この機能とサウンドで148,000円は“破格”レベルだ。

筐体の薄さにこだわらず、価格差が許容できるのであれば「SR6015」をオススメしたい。「音楽だけでなく、ゲームやテレビ番組、音楽配信なども良い音で楽しみたい」、そして「家にスピーカーが2chしかない」という人は、普通のHi-Fiアンプを買うより、SR6015の方がオススメだ。音が良いだけでなく、日常生活で“活用する場面”が圧倒的に多い。それはそのままコストパフォーマンスの高さにも直結する。

また、“Hi-Fiアンプを超えるサウンドを聴かせてくれるAVアンプ”としても、SR6015は印象的なモデルだ。カテゴリとしてはAVアンプではあるが、映画と同じレベルで音楽/映像配信、ゲーム、放送なども楽しむ“次世代アンプの本命”と言っても、過言ではないだろう。

(協力:ディーアンドエムホールディングス/マランツ)

山崎健太郎