日沼諭史の体当たりばったり!

第40回

USBマイク、カワイイ「SNOWBALL」とカッチョイイ「Yeti X」で音質どう変わる?

Blueのマイク「SNOWBALL」と「Yeti X」を、ノートPCなどのマイクと比較してみた

オンラインのWeb会議や取材なんかでは、やっぱりできるだけきれいな音声を相手に届けたい。いくらオッサンの取り立てて魅力があるとは言えないしゃがれ声であっても、歪みまくり&ノイズだらけよりは、リアルに近い聞きやすい音質の方がいいに決まっている。直接会うことが少なくなっている今、ネットを通じた自分の声(と顔)が名刺代わりみたいなものなのだから。

というわけで、いまだにWeb会議・取材環境の試行錯誤を続けている筆者なのだが、なんだか面白そうなUSBマイク2製品が登場したので試してみることにした。Blue(Baltic Latvian Universal Electronics)の「SNOWBALL」と「Yeti X」だ。いずれも同じコンデンサーマイクだが、機能や性能、価格帯が異なり、それぞれにユニークなところがある気になる存在。既存の環境と比べて音質がどう変わるのか、Web会議と動画配信でチェックしてみた。

「Yeti X」(左)と「SNOWBALL」(右)

指向性を変えつつシンプルに使える「SNOWBALL」

球状デザインが特徴の「SNOWBALL」

丸っこい愛らしい姿の「SNOWBALL」は、USB接続のコンデンサーマイク。実売価格はおおよそ9,000円前後で、導入しやすいエントリーユーザー向けの製品と言える。「無指向性」と「単一指向性」、「単一指向性で-10dB」という3つのモード切り替えが可能なこと以外、特に細かい設定などを気にすることなく、PCなどにUSBケーブルで接続するだけで使える手軽さが特徴だ。

球状のマイク本体の背面に指向性切替のスイッチと、USBポートが用意され、下部にはスタンド取り付け用の5/8インチのネジ穴がある。ここに付属のスタンドを取り付けてもいいし、一般的なマイクスタンドなどに固定することもできる。付属スタンドは高さ調整も可能な構造で、調整範囲は実測で18~22cm(設置面からマイク本体中心までの高さ)の間。デスクに置き、椅子に座って使うことを想定した仕様であると考えればちょうどいい感じだ。

正面にはうっすら灯る通電ランプ
5/8インチのネジ穴が底面にある
スタンドの高さは調整可能。これは最も高くした状態

機能的なところは、すでに述べたように指向性を3つから選択できる部分だけで、ごくシンプルな作り。「無指向性」にするとマイク周囲の音をまんべんなく拾い、「単一指向性」にすると前面方向(ロゴがある側)の音をよく拾うようになる。「単一指向性で-10dB」のモードでは、感度を下げることで楽器演奏などに向いた音質になるとしている。

背面には指向性切替スイッチとUSBポート

USBマイクということで、PCと接続してWeb会議やライブ配信(演奏収録)に活用するのがSNOWBALLの基本的な用途となるだろう。音質は本格的だとしても、見た目が面白く、ある意味「本気のマイク」という雰囲気が出ることもないので、Web会議などで映り込んでもいいというか、むしろ映り込ませたくなるマイクかもしれない。緊張感のあるオンライン取材なんかでは、場を和ませるちょっとした話題も提供できるのではないだろうか。

ノイズ低減、エフェクトも追加可能。こだわりの音を追求できる「Yeti X」

こちらはやや本気感がかいま見えるかもしれない「Yeti X」

本格派のシルエットをもつ「Yeti X」も、SNOWBALLと同じUSB接続のコンデンサーマイクだ。価格帯は実売で2万円台前半ということで、Web会議のみの用途に導入するのは二の足を踏みたくなるが、その性能・機能を見ていくと納得の価格と感じるかもしれない。

まず、SNOWBALLとの最も大きなハードウェア的な違いは、モニター用のヘッドフォン端子を備えていること。Yeti X自体をUSBオーディオインターフェースとして扱うことができ、PCから出力するサウンドとマイクに入力した音声をヘッドフォン端子を通じて聞ける。

角度を自在に決められるスタンド。取り外すことも可能
底面には5/8インチのネジ穴。他のマイクスタンドやブームなどに取り付けて使うのもOK
ヘッドフォン端子もあり、入出力音声のモニターができる

PCのサウンド(Web会議だと相手の声など)とマイクに吹き込んだ自分の声の各音量、そして双方の音量バランスは、正面にあるツマミで調整できる。音声入出力のレベルもツマミ周囲のレベルメーターで確認可能。きちんとマイクに音声入力できているか、聴覚的にも視覚的にも確認できるのは、Web会議でもライブ配信でもありがたい。

正面にあるツマミで入出力の音量、音量バランスなどが調整可能
レベルメーターがあるため、声を拾っているかどうかをきちんと確認できる。トラブル防止には有効だ

指向性は4つのモードを用意。「単一指向性」と「無指向性」に加えて、対面インタビューなどで使える「双指向性」、さらに対面と左右から広がりのある音を取り込む「ステレオ」がある。これらはマイクの背面にあるボタンで切り替えられるほか、パソコン用の専用ユーティリティ「Blue SHERPA」から設定することもできる。

背面のボタンを押すたびに指向性を切り替えることができる

このBlue SHERPAは、Yeti Xを最大限に活用するうえでは必ず使いこなしたいツールだ。先ほど説明したハードウェア側で設定できる内容以外に、さまざまな音質加工が可能な「Blue VOICE」機能を利用できるのが最大のポイントとなる。周波数帯域ごとの強弱、ハイパスフィルターやコンプレッサーの効かせ具合、ノイズ低減のレベルなど、実に多くの設定項目があり、好みの「音づくり」が可能なのだ。

専用ユーティリティ「Blue SHERPA」
感度やボリューム、バランスの調整などを行なう設定画面
「Blue VOICE」では音質に関わるさまざまなパラメーターを自由に調整可能
ノイズリダクションの設定だけでも、細かなパラメーターが存在する

どの設定項目をどれだけ反映させるかはまさに自由自在なので、試行錯誤するのも楽しいが、サウンドのプロではない筆者の場合は正直「何をどうすれば最適なのかわからない」ほど。ただ、そういうユーザーのためにプリセットもあらかじめいくつか用意されているので、好みに近い音質(声質)に簡単に調整可能だ。AMラジオ風の若干ノイジーな雰囲気の設定や、ノイズをできるだけ抑えてきれいに聞こえる配信者向けの設定などがあり、そのプリセットをもとに狙った音質に追い込んでいくのもアリだろう。

プリセットから選べば簡単に好みに近い音質に変えられる。調整した音声はリアルタイムにはモニター出力されないので、「マイクテスト」のところで録音・再生してチェックする

Web会議を想定した音声テスト。どれが一番聞きやすい?

さて、SNOWBALLとYeti Xとで、ハードウェアと指向性による聞こえ方の違いはどれだけあるのだろうか。ノートPC(MacBook Pro 2016)内蔵マイクや、普段Web会議に使っているアクションカムとも比較してみることにした。

比較用に使ったMacBook Proとアクションカム
SNOWBALLを使ったテスト時の状況としてはこんな感じ

最初はZoom会議で確かめてみる。近くでは2台のデスクトップPCとエアコンが動いており、連続的なファンノイズが混じっているはず。多少はZoomの背景雑音の抑制機能(「低」設定)で低減されているかもしれないが、どうだろうか。

ノートPCのマイク、SNOWBALL、Yeti XでZoom会議テスト

・元データ:sample_webmtg.mp4(204.00MB)

ノートPCの音声は、ある意味耳慣れた「Web会議らしい」音質のように思える。聞こえにくいことはないけれど、室内の反響音らしきものも聞こえる、特段いい音とも良くない音とも言えないもの。キーボードを叩いている音は、マイクが近いこととそもそも筐体でつながっているため、はっきりとしたノイズになっている。

「SNOWBALL(無指向性)」になると、明らかに音質が向上していることがわかる。よりリアルな声質を再現し、聞き取りやすさも一段上だ。ただ、無指向性ということもあって背景のファンノイズがやや入り込んでいる。打鍵音もノートPCのマイクほどではないとはいえ、目立つ。

「SNOWBALL(単一指向性)」は、背景のファンノイズがほぼ消え去り、声だけがクリアに聞こえる。キーボードの打鍵音もかなり低減されているようだ。マイクはキーボードと筆者の間にあるため、単一指向性のメリットがよく活かされている。

次の「単一指向性の-10dB」は、その前の単一指向性の音をただ小さくした、という感じではある。が、キーボードを叩き始めるところから音量が通常のボリュームくらいにまで上がっている。これは、おそらくZoomの音量自動調整機能が働いたものと思われる。Web会議目的では-10dBにする意味はあまりなさそうだ。

SNOWBALLを使ったテスト時の状況

「Yeti X(無指向性)」は、SNOWBALLよりもさらに音の解像感が上がっている。くっきりした声でさらに聞き取りやすさが増しているが、無指向性のため室内の反響音が少し混入している。これが「Yeti X(単一指向性)」になると、周囲のノイズや反響音がほぼなくなり、声の明瞭さだけが残る。ただ、キーボードの音はSNOWBALLほどは低減されていないようだ。机の振動を拾っているような音もあるので、スタンドの下に防振マットを敷けば少し改善できるかもしれない。

「Yeti X(ステレオ)」は、空間の雰囲気が伝わってくるような音質で、部屋の広さまでもがわかりそうなほど。こういった1人の声だけだとメリットがわかりにくいところもあるが、楽器や周囲の音も含めて録音するようなときは抜群にいい音を再現してくれるはず。

最後のパターンは「Blue VOICE」のプリセット「Broadcaster 2」を使用した

そして最後の「Yeti X(Blue VOICE)」は、より一層声のエッジが立ったような聞こえ方だ。たしかに「何を言っているか」がわかりやすくなっているとは思うけれど、多少の「作った声感」も拭えない。このあたりは好みにも左右されそうだが、Web会議用途で明瞭さを重視するのであれば、このモードが役に立つことは間違いないだろう。

ライブ配信を想定した音声テスト。ノイズだらけの環境で最適なマイク、モードは?

室内サイクリングしながらのライブ配信を想定したテストだとどうか

次に、よりノイジーな環境におけるライブ配信を想定したテスト音声もチェックしてみよう。バーチャルサイクリングソフトの「Zwift」で自転車をこぎつつ、マイクと指向性を変えて録画したものだ。サーキュレーターのファンノイズや、自転車のチェーンがこすれる音が激しいはずだが、どう聞こえるだろうか。

なお、YouTubeにアップロードされた動画の音声は圧縮により劣化し、聞きにくくなっている場合があるため、元データも用意した。ダウンロードして聞いてみて欲しい。

アクションカムのマイク、SNOWBALL、Yeti Xでライブ配信のテスト

・元データ:sample_livestreaming.mp4(154.20MB)

意外にも(?)、アクションカムのマイクはノイズは大きいものの不快というほどでもなく、声も聞き取りやすい。ステレオマイクではあってもさほどステレオ感がないのは残念だが、ライブ配信用のマイクとしてそのまま使ってもよさそうだ。

「SNOWBALL(無指向性)」では、アクションカムよりもチェーンノイズが落ち着いた感じに聞こえる。続く「SNOWBALL(単一指向性)」になるとノイズが一段抑えられ、声の聞き取りやすさがアップ。「Yeti X(単一指向性)」でさらにジェントルなノイズになり、これまで聞こえていなかった低音が臨場感をアップさせている。

チェーンノイズは騒々しいが、単一指向性にするとある程度声は聞き取りやすい

最後の「Yeti X(ステレオ)」は、激しいチェーンノイズにも広がりが加わり、しかも低音からしっかり拾っていることもあって、かえって心地良いかもしれない。声は一部聞き取りにくく感じるところもあるので、全体的な雰囲気を伝えたいとき用のモードと言えるだろうか。このケースに限って言えば、一番配信向きなのは「Yeti X(単一指向性)」のようだ。

こだわるならYeti X、Web会議用途ならSNOWBALL

SNOWBALLとYeti Xでは、確実にYeti Xの方が音のクオリティとしては高い。が、Web会議用途に限ると、Yeti Xは解像感が高すぎるために、デフォルトの聞きやすさという点ではまろやかな音質のSNOWBALLの方に軍配が上がる。

Blue VOICEで音質をとことんこだわれるという意味では、Yeti Xのポテンシャルの高さも考慮に入れるべきだけれど、凝った設定をすることなく、すぐに最適な音質で届けられるSNOWBALLはまさにWeb会議向きのマイクと言えるだろう。9,000円前後で手に入るにもかかわらず高音質という、コストパフォーマンスの高さもかなりの魅力。低予算でWeb会議の環境を着実にアップデートしたい人はSNOWBALLがおすすめだ。

一方で、ノイズの激しい環境も含め、あらゆるシーンでその場の臨場感を美しく再現できるYeti Xのポテンシャルの高さはさすがの一言。音声入出力モニターの機能とBlue VOICEを利用できるだけでも、2万円超の値段相応か、それ以上の価値はあると感じられる。音質にとことんこだわって、ある意味マイクで遊び倒したい人はYeti Xを選びたい。

ちなみに、このオシャレなSNOWBALLやYeti Xを、オシャレな音声SNSの「Clubhouse」でも使いたい! と思ったのだが、残念ながらiPhone向けにしかリリースされていない同アプリでは、USBマイクの使用を制限しているせいか利用できなかった。

「Lightning - USB 3カメラアダプタ」経由でiPhoneと接続すれば、他の録音アプリではマイクとして認識されるものの、Clubhouseでは認識されない。Android版が登場したときにこの制限がどうなるのか気になるが、願わくば自由に好きなUSBマイクを使えるようになってほしいところだ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。