日沼諭史の体当たりばったり!
第44回
マイクを“デスク下から生やす”!? 「SAMSON Q9U」でさりげなく、本格的に
2022年4月14日 08:00
USBカメラの内蔵マイクに、ちょっとずつ不満が溜まってきた。後で録音した自分の音声を聞くと、さすがにクリアとは言えない音質。このままだとWeb会議やオンライン取材での印象がよろしくない。ということで、かねてから使ってみたいと思っていたダイナミックマイクを導入してみることにした。
ただ、ダイナミックマイクを使ううえではいくつかのハードルがある。なかでも大きな課題は2つ。1つはXLR接続が一般的なのでオーディオミキサーなどのデバイスが追加で必要になってしまうこと。もう1つは、図体の大きいダイナミックマイクはデスクスペースが狭い環境だと邪魔だし、目立ってしまうことだ。
できるだけ余計なコストを抑えつつ、デカくても邪魔にならず、目立たない感じでさりげなく高音質なダイナミックマイクを使えないものか。そう思って購入したのが「SAMSON Q9U」(実売価格2万3,800円)だった。
USB接続も可能なダイナミックマイクが決め手
ダイナミックマイクは、冒頭で書いたようにXLR接続が一般的だ。この場合、Web会議用途であれば、通常はマイクとオーディオミキサーをケーブル接続し、さらにオーディオミキサーからパソコンにケーブル接続する、というような構成になる。オーディオミキサーを間に入れることで、音量・音質の調整がしやすいとか、ノイズをより減らしやすいとか、いろいろと副次的なメリットも得られるだろう。
けれども、オーディオミキサーという追加のコストがかかり、操作の手間が増えるのは避けがたい。音声が相手に聞こえないなどのミスにもつながりやすいだろう。なによりデスクスペースがオーディオミキサーに占有されてしまうのは困る。オーディオミキサーの機能やメカメカしさには憧れがあるので、いずれは使ってみたいとも思うが、最初のうちはマイクからパソコンにケーブル1本でシンプルに接続して使いたいところ。
そういう条件で考えると、XLRに加えてUSBでの接続も可能な「SAMSON Q9U」は都合がいい。USBケーブル1本をパソコンに接続するだけで認識され、すぐに使えるし、もし将来的にオーディオミキサーを加えて本気の環境にしたいと思ったときにも即座に対応できる。XLR、USB両対応のダイナミックマイクは他メーカーからもいくつか登場しているが、マイク側のUSBインターフェースがType-C形状なのがQ9Uの利点でもある。Mini USBやMirco USBなどのレガシーなケーブルを使い続けなくてもいいのだ。
Q9U本体には、他にミュートボタンとローカットフィルターのオンオフボタン、主に人の声の周波数帯を強調するミッドブーストスイッチがあり、マイクへの音声入力をモニターするヘッドフォン端子も用意されている。
Web会議用途だと、ローカットフィルターやブーストは、ほぼ固定(ローカットフィルターオン、ブーストオン)でOK。ミュートボタンは、いちいちZoomなどのミュートボタンにマウスカーソルを合わせるまでもなく、手元でさっとオンオフを切り替えられるので重宝している。ミュートオン時に「ボッ」というノイズが入りやすいので、そーっと押さなければいけない、というのはちょっと難点だが……。ヘッドフォンによるモニターは、相手の声を聞きたいWeb会議では不要だけれども、音声・動画配信もしている人には便利そうだ。
本体側で細かな音のレベル調整、ものによっては音質や指向性の変更などもできてしまう多機能なコンデンサーマイクと比べてしまうと、機能としては最小限ではある。ただ、操作する部分が少ないほどミスが減るということでもあり、スムーズにWeb会議やオンライン取材をするという目的ではちょうどいいシンプルさだ。初期コストを抑えつつ、本格的なダイナミックマイクを使いたいなら、誰でも簡単に使えて音質向上も見込めるこういったUSB接続対応製品はおすすめである。
デカいマイクを目立たせず、視界に入れないようにしたい
もう1つの課題、デスク周りにマイクを置くと邪魔になったり目立ったりしてしまうというのは、特にダイナミックマイクでは悩ましいというか、仕方のない部分かもしれない。だいたいのダイナミックマイクはサイズが大きく、このQ9Uも500mlのビール缶並みの存在感。デスク上に置けばスペースが圧迫されるし、だからといって普段はしまっておき、使うときに取り出してケーブル接続して……という手間もかけたくはない。
よくある方法は、マイクアームで吊すというものだろう。ただ、これも狭いデスクスペースのどこにマイクアームを固定するかが問題になる。これ以上デスク上に物を増やすのは勘弁だし、常にマイクやアームが視界に入っていると目障りで気が散ってしまう。カメラの向こう側の相手にとっても、映像のなかにデカいマイクが映り込んでいるのは気になるはずだ(アイスブレイクの話の種になるとしても、それは最初のうちだけだろう)。
というか、声を使う仕事がメインではないにもかかわらず、大げさなダイナミックマイクで相手に本気っぽく見えてしまうのは、なんとなく気恥ずかしい。筆者としては、映像上はマイクが見えず、こだわっている雰囲気はないのに、ノイズの少ない音質で声がきれいに(きれいな声ではない)聞こえる、そして支障なくやりとりできる、と相手に無意識に感じてもらえるのが理想。それでいてこちらとしてはマイクを使うとき、使わないときの切り替えの手間も極力ゼロにできるのが望ましい。
ただここで注意しておきたいのは、ダイナミックマイクは、コンデンサーマイクと比べて、一般的には離れたところの音声を拾いにくいという特性があることだ。パソコンの動作音や空調の音など、環境ノイズの少ない音声を相手に届けられるという意味では有利なポイントではある。しかしその分、音源をマイクに近づける、要するに口をマイクにある程度近づけてしゃべらないと聞こえにくい、ということも頭に入れておかなければならない。
Web会議中にマイクがフレームインしないようにしつつ、マイクアームを使ったときのように、マイクを口に近づけられるようにする。どうすればそれが可能になるのか。いろいろ考えて思いついたのが、マイクをデスク下に収納しておき、使いたいときに手前に引き出す、というスタイルだ。デスク下からマイクを生やすのである。
デスク下からマイクを生やすには
デスク下からマイクを生やそうとすると、通常のマイクアームは使えない。多くは上から吊す構造になっていて、下から上に支えるような仕組みにはなっていないからだ。床にマイクスタンドを置いて使う、というのは却下である。それこそ狭い仕事部屋がもっと狭くなってしまう。
なので、正攻法でマイクアームを使うのは諦め、代わりにモニターアームを使うことにした。モニターアームといってもご存じの通りいろいろなタイプがあり、デスクの天板を挟んで固定するタイプもあれば、壁掛けして使うものもある。が、デスク天板に固定するタイプではマイクアームと邪魔さ加減は変わらないし、壁掛けにすると距離が遠くなる。
というわけで、ここではポールを挟んで固定できる多関節タイプのモニターアームをチョイスした。固定先はデスクの四隅にある脚だ。固さ調整可能な多関節タイプなので、ポールに取り付けた状態で左右に軽く力を入れるだけで動かすことができ、関節を折り曲げて伸縮させたりもできる。この先端にマイクを取り付ければ、簡単にデスク下でマイクの出し入れができるというわけ。
ちなみに今回選んだのはサンワサプライの「高耐荷重支柱取付けモニタアーム」(実売価格約7,000円)だが、マイク自体はモニターに比べればずっと軽いので高耐荷重である必要はない。むしろゴツすぎるので、すっきりした見た目にしたいなら細めのアームの方がいいだろう。
とはいえ、これはあくまでもモニターを取り付けるためのアームであって、先端部分はマイクを取り付けるようにはできていない。そこでもう1つ追加したのが、長尾製作所の「モニターアーム用VESAカメラ&マイクマウント」(実売価格約3,200円)というもの。モニターアームにセットすることで、カメラやマイクを容易に取り付けられるようにするアイテムだ。
さらにもう1つ。このマウントにはマイクスタンドなどに使われる3/8インチのねじが付属しているが、Q9U側のねじは5/8インチなので、そのままでは固定できない。そこで、3/8から5/8に変換するアダプター(実売価格約500円)も用意する。大型家電量販店やカメラ店などで取り扱っている場合があるようだが、筆者が探したところでは見つからなかった。少し割高だったとしてもネット通販を利用した方が手っ取り早いと思われる。
さりげないのに高音質なダイナミックマイク環境が完成
以上で必要なアイテムはすべて揃ったので組み上げていこう。最初にデスクの脚にモニターアームを取り付けるが、アームがデスクの奥方向に向くようにして、とりあえずは軽く仮留めしておく。この後マイクを取り付け、引き出したときにベストな高さになるように調整したいからだ。自分の脚やデスクのフレームなどにぶつかったりせず、そのうえでマイク先端を自分の口に可能な限り近づけられる高さを探っていく。
最終的には、デスク下に収納するときは(水平に近い角度に)マイクを寝かせ、使うときは引き出してから、マイクの先端が自分の口の方に向くように起こす、という利用手順に落ち着いた。使用時はマイク先端がデスク天板から少し頭が出るくらいの感じに。完全に垂直に立たせると、今度は自分の太ももにマイクの根本部分やUSBケーブル(コネクタ)が当たってしまうので、奥から手前方向へ斜めに狙いをつける感じにすると良さそうだ。
この位置なら通常の姿勢でいる限りマイクが邪魔になることはない。お腹にマイクがつかえるのでは、と思うかもしれないが、デスクワーク(Web会議など)をしているときにお腹をぴったりデスク端にくっつけるような姿勢でいることはそうはないはず。けっこう大きな隙間ができていたりするものだ。まあ、将来的にお腹がぽっこり出てくるようであれば困ったことになるかもしれない。ここは頑張って体型を維持するほかないだろう。
口からマイクまでこれくらいの距離であれば、声を張らなくても問題なく拾える。でもって、マイクを使い終わった後は軽い力でデスク下の奥の方に追いやっておけるし、多関節アームのおかげで折りたたんでコンパクトにしておくこともできる。これで普段はマイクを目にすることもない。邪魔に感じないどころか、存在すら忘れてしまうほどだ。
あと気になるのは、ちゃんと声が拾えて、音質も上がるのかどうかだろう。Webカメラ内蔵マイク(USB接続、モニター上に固定)とQ9U(USB接続)のそれぞれで録音してみたので、参考までにお聞きいただきたい。比べるまでもなく、Q9Uの方が圧倒的に高い音質であることが実感できるはず。それほど声を張っているわけではないが、しっかり聞き取れるレベルだと思う。
内蔵マイクの方は背景にサーというノイズが聞こえるうえに、金属的な音の歪みみたいなものも感じられる。対してQ9Uは背景のノイズも、金属的な響きも一切聞こえず、声のみがくっきりしている。Web会議向けにはオーバースペックとも言えるマイクだが、音質が良くて困ることはない。退屈な社内会議もいいマイクがあればちょっとは参加するのが楽しみになったりするのではないだろうか。