【新製品レビュー】

リビング3Dへ。ソニー最上位“3D BRAVIA”を試す

-2D-3D変換も高品位。ソニー「KDL-46LX900」


KDL-46LX900

6月10日発売

標準価格:オープンプライス


3Dに標準対応したKDL-46LX900

 当初予定から若干前倒しし、ソニーの「3D BRAVIA」が発売された。4日に発売開始されたのは、3D標準対応の最上位シリーズ「BRAVIA LX900」の46型「KDL-46LX900」と40型「KDL-40LX900」の2製品で、順次LX900シリーズの大型モデルとして52型や60型が発売されるほか、最高画質を謳う「HX900シリーズ」、ステップアップ機となる「HX800シリーズ」も7月に発売される。

 4月に発売されたパナソニックの「3D VIERA」ことVT2シリーズに続き、国内2社目のフルHD 3D対応テレビ製品投入。映画産業と密接に協力し、テレビだけでない全社的な取り組みで3Dの事業化を進めてきたという点で、パナソニックと並ぶ3Dの“本命”の登場ともいえるだろう。

 先週末の株主総会でも積極展開をアピールするなど、ソニーの超重点事業である「3D」だが、フラッグシップ機のLX900シリーズでは、3Dメガネが2台付属した“標準対応”が特徴といえる(他の2シリーズはメガネとトランスミッタが別売)。

 今後も7月に「AQUOS LV3」を発売予定のシャープをはじめ、東芝、日立、三菱なども年内の3Dテレビ発売を予定している。激しい競争が予想される中、ソニーの3D BRAVIAは市場をリードできるのだろうか? 46型の「KDL-46LX900」を試用し、「ソニーの3D」を体験した。



■ モノリシックデザインのスマートで光沢間あるボディ

モノリシックデザインを採用

 新BRAVIAシリーズでは、「モノリシックデザイン」と呼ぶ、一枚板を引き延ばしたようなデザインを採用。

 3月に発売した「EX700シリーズ」でも同様のデザインを採用していたが、最上位機のLX900シリーズでは、液晶パネル前面にクリアなガラスを配し、このガラスとグレア加工のパネル部の間に特殊な樹脂を充填した「オプティコントラストパネル」を採用。これにより、光の透過率を維持しながら、ガラスから映像が表示されるようなデザインを実現している点が特徴となっている。


オプティコントラストパネルを採用

 液晶パネルは、1,920×1,080ドットのグレア(光沢)タイプで240Hz駆動に対応。バックライトにエッジライト方式のLEDを採用し、ディスプレイ部の奥行き25~55mmという薄型化を実現した。なお、LEDの部分駆動技術は搭載していない。映像エンジンは「ブラビアエンジン3」。

 光沢あるスマートなデザインは、確かに高級感があり、いままでのBRAVIAとは一線を画すインパクトがある。スピーカーはボディの下部に内蔵しており、出力は10W×2ch。本体の真ん中下部には「人感センサー」用のセンサーを備えている。


KDL-46LX900オプティコントラストパネルを採用。前面ガラスとの段差がなく、あたかも前面ガラスが光っているように見える
最薄部は22mm。2系統のHDMIなどを装備する

 チューナは、地上/BS/110度CSデジタルチューナを1基、地上アナログチューナを1基備えている。HDMIは4系統で、2系統は側面に備えている。そのほか、D5入力×1、コンポジット×2、PC用入力(D-Sub 15ピン)×1、光デジタル音声出力×1、アナログ音声出力×1を装備。USB端子、Ethernet端子も各1系統備えている。スタンドを含む外形寸法/重量は、1,112×320×761mm(幅×奥行き×高さ)、28.4kg。

 リモコンは無線(RF)対応の「お気楽リモコン」を採用。FeliCaリーダとしても活用できるほか、新たに「3D」ボタンを装備。新BRAVIAの特徴である2D-3D変換などの3D表示モードを一発で呼び出しできる。

 メガネは、専用の「TDG-BR100」が2つ付属する。付属のTDG-BR100はブラック。より小型化した「TDG-BR50」もブルーやピンクの2色展開で別売される。実売価格はTDG-BR100/BR50ともに約12,000円。

 メガネと電源はボタン電池「CR2032」で約100時間の利用が可能となっている。ディスプレイと3Dメガネの間の信号伝送には赤外線を利用する。通信距離は約6m。


一枚ガラスのような前面デザイン背面にHDMI×2やEthernetを備えている中央に顔認識/動き検知対応の「インテリジェント人感センサー」を搭載
3Dメガネの「TDG-BR100」が2つ付属するお気楽リモコン明るさセンサーなども装備する

 


■ 臨場感は明らかに向上する「リビング3D」。残像/2重像も少ない

画質モードは「シーンセレクト」から選択。ただし、3D表示時にはシネマ以外のモード選択はできない

 3D表示の前に、2Dの画質も簡単にチェックした。編集部に設置していた2006年発売の「KDL-46X2500」を外し、同じ場所に「KDL-46LX900」を設置したが、遥かに画質が良いことが一目でわかった。色の鮮やかさ、残像の少なさなど、地上デジタル放送を見ているだけで、明らかに違いが体感でき、この数年のテレビ画質の進化を感じることができた。

 画質モードは、自動画質調整機能を使った「オート」を中心で体験したが、鮮やかな発色とコントラスト感が印象的。録画したワールドカップ「日本 VS カメルーン戦」を見ても、残像感もほとんど感じられない。クリアパネルの影響か、艶やかでピーク輝度もあるので力強い印象を残す。

 それでは、3D再生を体験してみる。機材にはBlu-ray 3D再生用にパナソニックの「DMP-BDT900」を、3Dゲーム用にPlayStation 3を用意した。

DMP-BDT900PlayStation 3(CECH-2000A)Blu-ray 3Dディスクの「MONSTER VS ALIENS 3D」
3Dメガネを装着して視聴する

 LX900は本体に3D用トランスミッタを内蔵し、3Dに標準対応する。3D方式は、左目/右目用の映像を画面上に交互に表示する「フレームシーケンシャル方式」。左右のレンズを開閉するアクティブシャッターメガネで視聴する。

 メガネの装着感は良好。重量も約77gと軽いので、慣れれば長時間の装着も問題ない。ただし、メガネの上に3Dメガネを装着する場合はこの限りではないかもしれない。

 家庭での3D体験で注意したいのは、視聴角度と距離について。左右の目に異なる映像を見せるため、まず頭(視点)が画面に対して「水平」になっていないと3Dとして映像を知覚できない。また、左右の視差を利用するため、視野角の影響も大きい。基本的に画面に正対し、頭が画面に水平になるポジションで見るのが望ましい。

 なお、一般的にハイビジョンテレビの視聴距離は画面高さの3倍。37インチで約140cm、46インチが約170cm、52インチが約190cm、65インチが約240cmといわれており、3DDCコンソーシアムのガイドラインでもこの距離が推奨されている。3Dにはスイートスポット(最適な視聴位置)があるということを踏まえて、映像を体験したい。

 3D BRAVIAの特徴といえば、リモコンのワンボタンで、2D-3D変換が行なえる点。Blu-ray 3Dとのクオリティ差はあるのだろうか? というポイントも気になるところ。そのあたりも踏まえテストした。

 LX900は、Blu-ray 3DなどのフルHD 3D(HDMI伝送規格のフレームパッキング)のほか、サイドバイサイドやトップボトム方式の3Dにも対応。Blu-ray 3Dであれば、ディスクを対応機器に入れて再生し、付属のメガネをかけるだけでOKだ。


【Blu-ray 3D】

BRAVIAの設置で、3D自動検出をONにする

 まずは、Blu-ray 3Dを見てみる。プレーヤーは、パナソニックのBlu-ray 3D対応BDプレーヤー「DMP-BDT900」。ディスクは市販品がまだ無いので、DMP-BDT900付属の「3Dブルーレイディスクお試し版」と、Samsungの北米向け3D対応テレビにバンドルされている「MONSTER VS ALIENS 3D」を使った。

 ディスクを入れて、プレーヤー側で2Dか3Dを選択して再生(プレーヤーの設定で自動再生も可能)。すると、BRAVIAが自動的に3Dモードに切り替わり、3Dでの視聴が可能になる。

 3Dモードになると基本的に「スタンダード」などの他の画質モードは選択できない。ただし、専用ボタンが用意されている「シネマ」は選択できる。

リモコンの3Dボタンで3D/2D切替が可能[オプション]ボタンから3Dメニューで入/切も可能となっている。設定項目は3Dモードとメガネの明るさ程度3Dモード選択。2D-3D変換の「シミュレーテッド3D効果」のほか、3Dモードとして、「左右分割」(サイドバイサイド)、「上下分割(トップアンドボトム)」が用意される。なお、Blu-ray 3D入力時にはモード選択はできず、3DのON/OFFのみの選択となる

 映画「MONSTER VS ALIENS 3D」を見てみると、確かに3Dのインパクトは十分だ。冒頭のシーンでは、背景と建物、部屋、人と、それぞれの奥行きの差がしっかりと認識できる。不用意な飛び出し感もないので見ていて疲れることもなく、数分見続けていれば3Dで見ているということを忘れるくらいに自然だ。あまり2Dとの差を感じないシーンもあるが、安定して3Dを楽しめるのは魅力的だ。

4倍速を活かして、クロストークと残像感を抑制する

 自然に3Dを楽しめる第一の要因は、クロストーク(2重像)もほとんど感じられないからだろう。後述するが、表示方式に起因するクロストークではなく、視線や頭を動かした際に3D像がぶれてしまうことのほうがはるかに気になる。

 落ちてくる隕石に逃げ惑う人を下から見上げるように撮影した冒頭のシーンでも、残像やクロストークは皆無といえ、自然に3D立体視が楽しめる。また、明るい場所で見ても輝度は確保されているので、“暗い”と感じることも無い。

 残像感が少ないのも特徴。ここにも3Dを見ているうちに、慣れて2Dと違いが判らなくなってくることの要因があると思う。240Hz/4倍速駆動が3D BRAVIAの3Dの特徴だが、3D表示時には左右の画像を交互に表示するのではなく、同じコマを2度書きし、前のコマからの上書き時の1コマはLEDバックライトをOFFにして表示する。

3D表示は明るいが課題もある
 これにより、前のフレームが視認されることによる網膜残像を排除し、残像感とクロストーク(2重像)を防いでいるのだという。2Dに比べて3Dではフレーム数が半減することになるものの、3Dで見ても残像を意識することはなかった。

 輝度も十分。3Dメガネをかけると必然的に輝度が落ちてしまうのだが、「BRAVIAシリーズ」のメガネでは、偏光膜を省き、透過率を高めることで、ディスプレイからの光の損失を最小限に抑えている。これによりリビング環境でも「明るい3D」が見られるということが3D BRAVIAのセールスポイントだ。

 「3Dブルーレイディスクお試し版」を見てみると、確かに以前、パナソニックの3D VIERA「TH-P50VT2」で見た時より明るく感じた。特に屋外のオフロードバイクや川下りなど、“明るさ”がキーになるコンテンツでは、BRAVIAのほうが迫力があるといっていい。輝度パワーがコンテンツの魅力として味わえる。

 また、ソニーでは、インバータではない蛍光灯の下で、フリッカー(ちらつき)が出るという問題が無くなった点も、偏光膜を省いたことによる利点として訴求。同様に最近増加しているLED電球においても、ソニーの3Dメガネではフリッカーが出ないことから、視聴者のストレスを抑制するとする。

 ただし、偏光膜を省いたことによるデメリットもある。それは頭を動かすと、クロストークが見えるだけでなく、色が変わってしまうということ。ちょっと首をかしげる程度であれば、クロストークが出てもそれほど気にはならないが、同時に色も変化。右側に首を傾けると赤に、左側だと青に色が寄ってしまうのだ。

 アクティブシャッター方式の3D表示では左右の目の視差を利用しているので、首を傾ければ、2重像が見えてしまう。それは当然なのだが、色が変わるので、その違和感をすぐに感じやすくなる。これはパナソニックの3D VIERAでは意識しなかったので、明確に違うポイントといえる。

【3Dメガネの課題点】
頭を傾けると色が変わってしまう。当然2重像も増えるので、基本は“両目水平”だが、ちょっとした動きでも色が変わるのは気になる

 もっとも、関連業界各社が集まり3Dコンソーシアムが定める「3DDCガイドライン」においても、「両目を水平にした姿勢が基本」と定められているので、「頭を固定する」というのは鉄則。それが守れないと体への影響なども心配されるので、これは遵守すべきルールではある。しかし、10度程度の傾きでも色がかなり変化するので、やはりスイートスポットが狭く感じてしまう。3D BRAVIAを使っていて気づくのは、今まで何気なく見ていたようで、結構首を傾けながら壁に頭を寄せて安定させたり、ストレッチ的な動きを映画視聴中に取り入れていたんだな、ということだ。

 この点は個人的には改善が必要だと思う。また、ソファーや周辺アクセサリなどで、「安定して3Dを見られる」という環境づくりも今後必要になってくるのかもしれない。

 いずれにしろ、このあたりは各社のアプローチも違い、発展途上だ。「3Dテレビ」におけるメガネの最適解は出そろっていないように感じる。たとえばVIERA VT2シリーズは、偏光膜が入っていることと、プラズマ方式ということで、BRAVIAに比べえると“暗い”のは間違いないと思う。また、偏光膜のトレードオフとして、インバータ無しの蛍光灯ではフリッカーが出るという課題もある。

 シャープは、偏光膜付のメガネを採用しているが、開口率の高いUV2A+4色クアトロンパネルを採用により3D視聴時の“明るさ”を確保するというアプローチを採っている。“明るさ”と“メガネ”が、「3D」の楽しさや使い勝手を左右する大きな要素になっている。そういう意味で、各社の最適な3Dをめぐる模索はまだ続くと思われる。ともあれ、「3D体験」を重視してテレビを選ぶのであれば、こうした違いはぜひおさえておきたい。

【Blu-rayで2D-3D変換】

 3D BRAVIAの一つの大きな特徴といえるのが、2D-3Dの自動変換機能だ。先行するパナソニックのVIERA VT2シリーズは搭載しておらず、BRAVIAのアドバンテージの一つともいえる(ただし、VT2シリーズでも6月発売の40/46型では搭載する)。

 「MONSTER VS ALIENS 3D」のBlu-rayディスクには3D/2Dが1枚に収められているので、プレーヤー側で2Dに切り替えて出力。それをBRAVIA LX900の3D自動変換で3D化して視聴した。

 2D-3D化はごくシンプルで、リモコンのボタンを押すだけ。オプションメニューの「シミュレーテッド3D効果」から、強/中/弱の3段階の設定が可能となっている。デフォルト設定は中だ。

 再生してみると、案外しっかりと「3D」に見えるので驚いた。ファーストインプレッションとしては、「Blu-ray 3Dとあんまり違いがわからないかも……」というくらい、冒頭の教会のシーンなどが立体的に見えた。

 きちんと比較してみると確実に違いはある。教会の壁と背景や、人物のそれぞれの奥行き感の違いなどは、Blu-ray 3Dをそのまま3D出力したほうが明らかにしっかりとわかる。また、落ちてくる隕石を下から見上げるシーンでは、立体感と迫力の違いは顕著で、3Dならではの演出が“体験レベル”で効いてくる。

 2D-3D変換の効果は、中、もしくは弱でもしっかりと3Dが味わえる。強にするとクロストークが明らかに目立ち、特に字幕を表示した時に、中央は問題ないけれど画面の端に視点をやると、2重ににじんで見えることがある。字幕が入る場合は「強」は選択しないほうがよさそうだ。

 思いのほか、2D-3D変換が「使える」という印象で、Blu-ray 3Dとの比較でも「こちらのほうが自然じゃない? 」と思うこともあった。例えばBlu-ray 3Dをそのまま表示すると窓の向こうの背景、部屋の中、家具、人物などがそれぞれに分離してくっきりと立体化されるのが、2D-3D変換だと、立体感の差がなだらかで、より自然に思えるということがあるのだ。

 このあたりは、どの程度の飛び出しや奥行き感が望ましいのか、といった基準や経験が、視聴者の側にもあまり無く、コンテンツもまだリファレンスとなるものがないので、「どの表現が正しい」とはなかなか判断できない。そういった意味で、3Dにおける映像表現の進歩はまだこれからで、ユーザーとしても「快適な3D」に向けて、フィードバックを返しながら考えていく段階なのかもしれない。

【PS3】

PS3を接続して、ディスプレイ設定でサイズを必ず設定する必要がある

 もう一点試しておきたいのが、PS3ゲームだ。今、3D BRAVIAを買ってもソニー製品でBlu-ray 3D対応プレーヤーが無いので、3Dを想定して作成されたコンテンツとしてはゲームが一番手に取りやすいものになっているのだ。

 まず始めに、PS3を接続し、「ディスプレイ」-「映像出力設定」で、「3D用ディスプレイ」として認識させる必要がある。PS3用の3Dゲームでは、このディスプレイ情報を元に視差を計算し、3D映像を生成する。そのため、ここの設定は間違えずに必ず利用しているテレビのサイズを指定したい

 基本的にHDMI経由でディスプレイサイズもそのまま検出してくれるはずなのだが、今回PS3(CECH-2000)と「KDL-46LX900」を接続したところ、なぜか「65型」と誤検出されてしまったため、手動で46型に修正した。

 PS3用の3Dゲーム「Wipeout HD」をダウンロードしたが、実際にプレイしてみると、なかなか強烈。メガネを装着した際に、2Dより輝度が落ちるのだが、それを補う体験の差が十分にある。奥行き方向も、飛び出し量も映画や2D-3D変換よりダイナミックに感じ、それが直接的に迫力に結びついている印象。Wipeout HDが3Dに適したゲームということもあるが、映像の没入感は明らかに2Dを上回っている。

 2D-3D変換で「グランツーリスモ5」の体験版をプレイしてみたが、これもそれなりに立体感が味わえ、山並の遠近を楽しみながらプレイできる。ゲームの種類にもよるが、特に没入感の向上という点で、ゲームは3D立体視との親和性が高いというコンテンツといって間違いないだろう。

 


■ “実用的”な2D-3D変換機能

 3D BRAVIAの大きな特徴のひとつが、2D映像のリアルタイム3D変換機能。リモコンの3Dボタンを押すことで、2D映像を3D化できるもので、映像のフォーカスがある場所を検出し、擬似的な3D表示を行なっているという。

 テレビ放送だけでなく、HDMIなどの外部入力、USBメモリのデジタルカメラ画像などのさまざまなコンテンツを3D化できる。放送波だけでなく、すべての外部入力で2D-3D変換が行なえる。

 3Dテレビがブームになっているものの、実はコンテンツはまだ3D化がさほど進んでいない。ソニーでは「最高のクオリティで3Dを体験してほしいので、基本的にはBlu-ray 3Dや専用のコンテンツを見てほしい」と付加的な機能と位置づけているものの、現在3Dコンテンツといえば、放送がBS11のごく一部の時間と、スカパー! HDのPPV程度。ディスクもBlu-ray 3Dは、まだタイトルの発表すらほとんどされていない段階だ。強いて言えば富士フイルムの「FinePix REAL 3D W1」というデジタルカメラがある程度だ。

 もちろんこれから、放送、ディスク、カメラなどのさまざまな3D対応が図られる見込みだ。しかし、“いま”3Dコンテンツを集めようとするとほとんど無い。そうした中で気軽に3Dを楽しめるという意味では、この機能はなかなか面白い。

 Blu-ray 3Dとの比較は先に記したが、そのほかのコンテンツでも3D変換してみた。基本的に、リモコンで3Dボタンを押せば、どんなコンテンツも3D化してくれる。前述の通り視差は3段階が設定できる。

 まずは地デジ放送を見てみる。「中」にして、スタジオ収録の「徹子の部屋」を見たところ、ゲストの川平慈英と黒柳徹子の距離の違いがくっきりと出て、さらに背景や飾りの花瓶などが立体的に設置されていることが良くわかる。2Dでみるより、3Dのほうが川平慈英と黒柳徹子の距離が離れているように錯覚するなど、「結構変わるな」という印象だ。

 もっとも、こうしたトーク番組の場合、3Dで見て面白いかといわれると微妙。とはいえ、3Dに見えるという新鮮さは十分に味わえる。同様にバラエティ番組でも、雛壇の1列目、2列目、3列目でそれぞれに奥行きの違いがわかり、司会との距離感など、2Dとはちょっと違った“雰囲気”が出てくる。2Dとは違った感覚が味わえるという意味で、3D化の効果はあるといえるだろう。いずれも基本は「中」か「弱」でいいと思うが、「飛び出し感」を楽しみたくて、クロストークが気にならなければ「強」もありだ。

シミュレーテッド3D(弱)シミュレーテッド3D(中)シミュレーテッド3D(強)

 期待されるのは「スポーツ」だろう。サッカーワールドカップの「日本 VS カメルーン戦」を見たところ、スタジアム中段からのピッチを俯瞰したショットなどは、思いのほか臨場感を感じなかった。それより、ピッチ目線の選手のアップや、ピントがきている選手と、ゴール、他の選手などとの奥行きの違いがかなりわかりやすい。

 このあたりは、カメラの位置や撮影手法などに依存するとは思うが、3Dならではの迫力というか“現場感”の向上というのは確かにある。また、選手がアップになったときには、肌にぴったりと密着したユニフォームから浮き出る筋肉のラインなど、ぐっと立体的に見え、3Dを強く印象付ける。

 動きも多いし、視点移動もそれなりにあるためか、スタジオ収録の番組よりは若干クロストークを感じることもある。そのため、スポーツの場合も視差は弱と中でよさそうだ。

 強にした場合、左上部のスコア表示などで明らかにクロストークがわかってしまう。さらに、スイートスポットがより狭くなってしまうのも問題だ。複数人で見る場合は、中央の一番いい位置をシェアして、やや視野角がついた形で見ることとなる。そのため、こうしたスポーツでは弱めの設定のほうがいいと思う。

写真の3D表示は案外楽しめる

 一方、PS3ゲームの場合は、スイートスポットを独り占めして一人でプレイするというケースも多いだろう。そうした場合は強を使ってもいいのかな、と思える。

 効果が大きく、実は楽しめると思うのが「写真」だ。PS3などに記録したJPEG画像などを3D化できるのだが、これがなかなか使い出がある。

 弱や中でも、十分に3D効果が感じられるが、クロストークが少し出ても動きがないので「強」でもそれほど不快さを感じずに立体視が楽しめる。自分が撮った写真が立体的に見える、というのは、なかなか面白いし、自分が実際にいた撮影現場を再度3Dで再現できるという経験も、なかなか意義深いように思える。

 対応ディスクや放送がほとんど無い中で、3Dを積極的に使うという意味では、写真の3D表示はかなり“遊べる”機能だと感じた。


■ 顔認識+人感センサーなど機能も充実

 2D/3D画質はさすがにソニーのフラッグシップ機というハイクオリティ。スピーカーは、ユニットが正面を向かずに下を向いた、いわゆる“インビジブル”タイプ。パワーはそれなりにあるが、最上位機としてはやや物足りない印象も残った。

インテリジェント人感センサーの動作イメージ

 フラッグシップモデルなので、そのほかの機能も充実。従来のEX700シリーズなどで搭載している「人感センサー」を進化させた「インテリジェント人感センサー」で使用し、視聴者の動きだけでなく顔認識にも対応。人がテレビの前にいるかどうかだけでなく、テレビを観ているかどうかも感知し、自動で輝度の調整や消画を行なうもので、より正確な省エネ制御を可能としている。

 また、このセンサーを活かした「近すぎアラーム」も新搭載。子供がテレビ画面に近づきすぎて、キズや転倒を引き起こすことを防ぐもので、子供が1mまで近づくと、映像を自動でOFFにし、警告画面とアラームを発するなど、新しい機能も多数備えている。

近すぎアラーム子供が近づきすぎると警告を発する視聴位置自動調整メニュー
番組表

 また、ネットワーク機能は「ブラビアネットチャンネル」を搭載。XMB(クロスメディアバー)からYouTubeにアクセス可能で、独自のUIを使ってYouTubeのブラウズが可能。パソコンで設定したアカウントにログインし、「お気に入り」コンテンツの再生もできるほか、U-NEXTビデオ配信サービスにも対応する。

 「アクトビラ ビデオ・フル」や携帯電話からの写真やメールをBRAVIAで表示する「ブラビアポストカード」にも対応。好みのウィジェットを追加できる「アプリキャスト」も搭載している。また、DLNA/DTCP-IPクライアント機能の「ソニールームリンク」に対応。ソニーのブルーレイレコーダで録画した番組をネットワーク経由で再生可能で、MPEG-4 AVC録画した番組も再生できるなど、ソニーのフラッグシップテレビとして充実した機能を装備する。 


■ 3D時代を感じさせる「リビングの3D」

 スペック的にも充実しているが、やはり注目したいのは3Dの価値。BRAVIAシリーズの新モデルとして、充実した機能を持ちながら、最上位シリーズで40型が20万円台中盤~30万円弱、46型でも30万~35万台程度。ソニーでも、3D化による価格プレミアはそれほど高く付けていないようで、3Dメガネが2台ついてくると考えるとリーズナブルな設定といえるだろう。

 「今すぐ3Dテレビが欲しい」という人は最注目の機種といえるし、3Dが気になるけれど、様子を見たいという人には、下位モデルのHX900、HX800で、後日メガネとトランスミッタを追加するという選択肢もある。ラインナップ的にも選びやすい3Dテレビ展開だと感じる。

 液晶ならではの「明るさ」や高画質、さらには2D-3D変換など3Dの機能/画質面でも充実している。ただし、メガネの事例のように、3D技術はまだ発展途上。今後もさらなる進化が見込めるし、メーカー間や機種間の違いも結構大きく、まだまだやれることはありそうだ。今後の3Dの進化には期待したい。

 画質や機能などフラッグシップらしく、充実した気合の入った新製品。3D以外の点でも、例えば2D画質の進化なども目を見張る点は多い。ともあれ3Dの市場拡大、産業化に向けて、重要な製品の登場だ。同時にそろそろBlu-ray 3Dなど“コンテンツ”の登場にも期待したい。


(2010年 6月 22日)