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「パネルがないから高画質化に専念できた」。ソニー4K/HDR TV“2トップ”戦略

 ソニーブースは、CESに出展している他の大手家電メーカーとは、ずいぶん違った印象を受ける。徹底して「コンシューマ向けのAV・イメージング製品推し」だからだ。他社がB2Bや白物家電を含めた多角化に向かう一方で、ビジネス範囲を絞ることで経営を健全化しているところがあるからだ。気がついてみれば、AV機器を軸に展示をする企業の方が少なくなってしまった。

 その中でも、ソニーのテレビビジネスは、2015年の分社化以降収益性を大幅に改善した。現在は黒字化も達成し、同社内でも「利益を見込める基軸ビジネス」のひとつになっている。今年はOLEDも発売し、さらにバリエーションを増やす方向性だ。

 ソニーのAV製品は、今年どういう方向に向かうのか? ソニー・執行役 EVPで、ソニービジュアルプロダクツおよびソニービデオ&サウンドプロダクツ社長の高木一郎氏と、ソニービデオ&サウンドプロダクツ・企画マーケティング部門 部門長の長尾和芳氏に話を聞いた。

「パネル以外」に特化することで高画質化ができた?!

 今年のCESでは、OLEDを使ったテレビが多く発表された。日本人としてはまずソニー・パナソニックの製品が気になるところだが、パネルの供給元であるLGはもちろん、中国系メーカーもOLED TVを展示している。平井社長への取材でも出てきた言葉だが、「OLEDであること」だけでは付加価値とは言えない時代になっている。高木氏は、テレビ全体での戦略を次のように説明する。

ソニー・執行役 EVPで、ソニービジュアルプロダクツおよびソニービデオ&サウンドプロダクツ社長の高木一郎氏

高木社長(以下敬称略):以前よりOLEDについては「価格・性能の面で自信をもてるものになったら採用する」としてきましたが、今回の「A1E」は、独自の音響技術・画質技術で付加価値を追加することができました。お客様に納得していただける、自信をもっておすすめできる製品になったと考えています。

 事業的にも、テレビは3年連続での単年黒字は当然達成できると見込んでいますし、年初の業績見込みに対して、若干の上方修正も検討しています。

 テレビは大画面になればなるほど、スピーカーの配置が難しくなります。音響の定位の面では、画面の真横にスピーカーを配置するのが望ましいのは事実です。そうするとあまりにも幅を取り過ぎますし、色々な弊害もあります。今回ひとつの答えとして、「A1E」では、OLEDならではの「画面を振動させて音を出す」という要素を入れました。これなら定位はほぼ完璧ですし、横に張り出しもなく、デザイン的にもシンプルなものができます。これは、「デザイン上の高付加価値化」と認識しています。そこが他社との差異化です。

 技術は蓄積が重要です。例えば「A1E」ですが、弊社では以前よりフルフラットスピーカーをやっていましたし、円柱型のガラスで出来ていて、100万円くらいする背の高い「サウンティーナ」という製品も出していました。フラットスピーカーで培ったDSPの技術の蓄積があって、はじめて出来たものです。

BRAVIA A1E。OLED搭載で注目度も大きいが、ソニーとしては「OLEDを活かし、OLED以外の部分で差別化した」製品でもある

 そうした蓄積があり、さらにデバイスが揃ってくることで、新しいものづくりができます。ですから、技術開発の大切さを実感しているのが現状。ここまで継続したことが、形になってきたと実感しています。現時点では弊社しかできないのではないか、と思います。

 単純に「OLEDです」「キレイです」だけでないパッケージングが重要です。

 とはいえ、テレビの高付加価値の中心は、やはり「画質」だとは思っています。OLEDはコントラストが非常に素晴らしい。プラス、アップコンバートやHDRという、「X1 Extreme」というシステムLSIで実現出来るものは、A1Eに全部入れ込みましたが、画質そのもののフラッグシップとしては「Z9D」です。総合力で勝っている、と思っています。Z9Dの真価こそ、ソニーの考える「BRAVIAの画質の真価」であり、それをどこまで下方展開・横展開できるかが他社との差異化であり、我々がやるべきことだと考えています。

 中でもバックライトは非常に重要ですね。どう光らせるか。Z9Dのための「Backlight Master Drive」を作りましたけれど、あのノウハウとは「どうやってピクセル単位で光ることに近づけるか」ということ。究極はすべてのピクセル単位で光らせることなのですが、それにどう近づけるのか。バックライトコントロールでは弊社が業界ナンバーワンだと思っていますし、そここそが曲げられないポイントです。

 一方で、弊社はパネルの開発はやりません。今後も他社から調達します。今回のOLEDも、他社から供給を受けたものです。

 パネルというのはひとつの「デバイス」だと思っています。そのデバイスにどういうスパイスを効かせるのか、料理をするのか。私たちは料理人のようなものです。素材は買ってきますが、どう料理するかがノウハウで、差異化の源泉だと思っています。

 別のいい方をすれば、数年後にはOLEDを止めているかも知れない。それは、もっといいデバイスが出てくるかも知れないからです。もっといいものがあれば、我々はそれを選ぶだけで、OLEDそのものにこだわっているわけではありません。

 我々はソニーとしてテレビ事業をやっていく上で、いかにユニーク性が出せるかを考えてきました。パネル以外の領域でなにができるかをずっと考え続けていたんです。そこで、バックライトでどういうふうに映すか、画像エンジンをどう高度化するかに専念しました。

 ある意味で、ですが、「パネルをやらなかったので、パネル以外に発想やリソースを集中できた」とも言えます。もしかすると、ですが……パネルの製造をやっていたら、ここまでの絵が出なかったかもしれません。

 今年、多くの企業はOLEDをアピールする一方、サムスンだけは量子ドット技術によるバックライトを使ったテレビを「QLED」としてアピールしている。これについては「デバイスとしては検討するものの、今は性能においても価格についても、候補になるレベルでない」(高木氏)と語った。筆者がデモで見る限りも、OLEDや既存のLEDバックライトより大幅に優れているとは思えず、その判断は正しい、と感じる。

2年目のHDRは「2トップ」戦略、Z9Dは「21世紀のプロフィール」に

 では、個々の商品戦略はどうなるのだろうか? 商品企画のトップである長尾氏は、今年のBRAVIAのラインナップが、次のような考え方で構築されたものである、と説明する。

長尾:昨年(2016年)が「HDR元年」だとすると、今年は裾野を広げる年だと思っています。昨年はコンテンツとして、ネットストリーミング系しかありませんでした。しかし、今年はソニーも、遅ればせながらUltra HD Blu-rayのプレイヤーも出します。放送もハイブリッドログガンマ(HLG)を使った放送がスタートします。日本ではスカパー!が、他国でも複数の放送局がスタートします。そしてゲームについては、PlayStation 4全モデルがHDR対応しました。ゲームのHDRはすごいですね。実写のビデオより、どちらかといえばリアリティがある。

ソニービデオ&サウンドプロダクツ・企画マーケティング部門 部門長の長尾和芳氏

 そうしたコンテンツの広がりがあり、今年はもう一段HDRを推進する年だと思っています。ですから、BRAVIA全体としても、「コントラストをいかに高く表現するか」「モノの質感をどう表現するか」が、HDRの良さを伝えるカギだと思っています。

 昨年Z9Dを出して、HDR時代に到達すべき方向性を示したつもりでいます。Backlight Master DriveとX1 Extremeで示した軸をぶらさずに、いかに下方展開するか。X1 ExtremeはZ9Dだけでなく、「X93E」「X94」シリーズや「A1E」に展開することには大きな意味がある、と思っています。

BRAVIA X93E。新しい「Backlight Slim Drive+」を搭載

 当然バックライトも、「Backlight Slim Drive」を「Backlight Slim Drive+」に進化させています。バックライトの導光板の構造を見直し、全体として分割数を伸ばし、全体輝度が高まりました。見た目のコントラスト感は、昨年のモデルに比べかなり進化するはずです。さらにX1 Extremeが入りますので、全体の質感・光の表現力が上がってきます。

 OLEDのA1Eでは液晶に出来ないことができるわけですから、新しいたたずまい・新しい視聴体験を提案します。

 従来は、一番上にZ9Dがあり、その下にXシリーズという「垂直」のラインナップヒエラルキーを作っていたわけですが、A1については垂直のヒエラルキーではなく、フラッグシップの市場の幅、お客様を広げるような提案の製品と位置づけています。

 過去に液晶テレビでは、フラッグシップが「高画質系」と「デザイン系」に大きく分かれる時期があった。今でこそ「薄型特化」モデルはなくなったが、2K液晶テレビが成熟していく過程、特にLEDが採用される初期の頃には、薄型化するためのバックライト機構が高価であり、「分厚いが画質重視」と「画質はそこまで良くないがデザインはすごい」モデルに分かれたものだ。

 今回、ソニーが採る「2トップ」体制は、それを思わせるものがある。

 しかしもちろん、当時とは違う点もある。OLEDの画質が良い、ということだ。

長尾:あのときに近い、という理解で結構です。ただし、液晶では薄型化と高画質化が相反する部分があったのですが、OLEDですと、デバイス自体が「ウルトラ超多分割」みたいなものですからね。私たちとしては、コントラスト・質感を求めるという、HDR世代での基本的な考え方に合致しているデバイスです。ですから、薄型にしても求める画質の方向性を曲げる必要がない。デザインと画質の両立が出来たモデルだと思います。だからこそ、Z9Dで掴むことの出来たプレミアム層のお客様を、さらに大きく広げることができるのでは……と期待しているところです。

 一方で、もうひとつのZ9Dはそのまま販売される。ソニーは「画質のプレミアム」のトップを、OLEDのA1Eではなく液晶+Backlight Master DriveのZ9Dに置いている。

長尾:OLEDにZ9Dやその下位液晶モデルの価値がかき消される……というような心配は、あまりしていないです。画質を評価する方は、Z9Dを選んでいただけると確信しています。

 映画製作の現場やプロダクションは、Z9の価値をすごく評価していただけていて、彼らのHDRの品質評価用モニターやグレーディング用に、実際に使っていただけています。

 プロにも評価される……、いわば、過去の「プロフィール」のようなポジションが少しずつ出来ています。そのポジションを長く続けていきたいと思っています。そういう新しいブランドが出来つつある手応えは感じていますね。高画質を求めるお客様への信頼を作っていきたいです。ですから、Z9Dはじっくり、長く売りたいです。本当にいい商品に仕上がったと思っていますので。

「スペック買い」でなく「体験買い」へ、HDRで再び単価アップを狙う

 長尾氏の説明でもおわかりのように、ソニーは今年、HDRのラインを積極的に伸ばす。サイドライト型LEDのX93/94ラインにもX1 Extremeが搭載されるということは、HDR画質が大幅に向上する、ということでもある。

 ソニーはプレミアムの大きな(=利益率の高い)テレビに特化することで息を吹き返した。高木氏は「今年も、特に2,500ドル以上のプレミアムラインに注力する」と説明している。HDR路線は、その強化だ。

 それは別のいい方をすれば、単なる「4K」ではプレミアムから落ちるようになってきた、という事情もある。

長尾:ここ数年、テレビも再び平均単価が下がってきました。アメリカでは、BestBuyの店頭などでも、きちんと陳列される商品と、そうでない「箱が並ぶだけ」のテレビが分かれてしまっています。アメリカ市場では、もはや50型のテレビでも「箱で持っていく」ような状況です。

筆者が2017年に入ってから、ラスベガスのBestBuyで撮影したもの。40型から50型までのテレビが「箱」のまま並べられ、中身も比較することなく売られていく

 しかしそれでは、単価は上がりません。実際に「見て」「体験して」違いがわかる製品をアピールしていきたいのです。ここでもう一度、単価を押し上げるタイミングだと考えています。

 HDRになって、テレビの市場も、また一時のように「スペック競争」になった、と感じます。CESの話題を見ても、コントラストの値や高色域など、数字だけが先行しています。HDRは本来、数字だけでは語れないんです。全体で良さがわかる。見ていただいて「ああ、確かに違う」と思っていただけるものです。特に今年の製品は大きな違いがわかるものになりました。A1Eについても、「アコースティック・サーフェス」について、「どんな音が出るんだろう」「どういう体験になるんだろう」という皆様の期待感を感じます。店頭に足を運んでいただき、体験したいと思っていただけるような商品作りを心がけています。

 やはり、高い製品は実際に見て、触れていただいて、そこから価値を生み出すものでなくてはいけない、と思うのです。

 そして高木氏は「コンテンツのクオリティ向上が、プレミアムラインの魅力を高める」とも話す。

高木:現在、コンテンツのクオリティが良くなっています。広帯域のネットワークが広がり、ストレージの容量も大きくなりました。コンテンツを作る人々もよりクリエイティブな方向性に動いています。Netflixはその典型で、オリジナルの良質なコンテンツがどんどん出てくる。そうしたコンテンツが増える中で、いつでも「機器のリーディングカンパニー」でいられるようにしたい、と思っています。

 8Kについても積極的にやります。しかし、時期などは申し上げられる段階ではありません。放送のタイミングなども見計らいながらやっていきます。

 一方で、テレビの「サイズ」問題は、日米で大きく戦略が異なる部分だ。

高木:アメリカでは65インチから75インチが人気になってきましたが、日本ではサイズが10インチくらいは違うのではないでしょうか。46から49インチが主流ですが、ここでの差別化はなかなか難しくなってきています。50インチ台での差別化をどうするかが、大きな課題です。

 テレビについては、会場には65インチ・77インチが中心に展示されていた。しかし、A1Eの場合にも、実際には55インチを含めた3ライン展開となっている。日本国内向けには、「HDR世代らしい50インチ台」の製品が投入される……と予想できる。

「音声入力」を積極展開。アメリカでは「あって当然」の存在に

 ソニーは2015年に、テレビのOSを「Android TV」に切り換えている。「初期には非常に苦労した」と長尾氏も言う通り、パフォーマンスや開発難易度との戦いもあった。今もまだ「動作が遅い」との批判もある。ソニーとして、Android TVの採用を、商品化から2年が経過し、どう評価しているのだろうか。

高木:Androidは「常に進化の途中である」という認識でいます。だからこそ、バージョンアップして使い勝手や機能を追加し、ご提供できる。アプリでも進化する。それが出来ることが付加価値、とご評価いただいている、と認識しています。アメリカだけでなく、アジアや他の地域でも同様です。ご指摘いただいたリモコンの反応の改善も、かならずやっていきます。

 日本でも、Android TV採用モデルのネット接続率は6割を超えています。以前モデルでは、ネット接続率は20〜30%くらいでしたから、倍に増えている計算です。もちろん、Android TVを選ぶ方はそういうリテラシーがある方、という部分はあるのでしょうが、「ネットにつないで進化させながら使う」という要素が、我々の想定するように伸びている、ということでもあります。

 一方で、それでもまだ4割の方々がネットにつないでいないのです。コンテンツの楽しみ方も含め、日本に特化したものが必要なのかも知れません。

 ソニーのAndroid TVは、同社がSoCメーカーのMediaTekと共同開発したLSIを使って動作している。この部分については、「今年のモデルでも大きな変更はない」(長尾氏)という。OSのアップデートなどはもちろん継続して行なわれていく。

 Androidを採用した中で、特に大きな価値となっているのはなにか? 「それは音声だ」と長尾氏は分析している。

長尾:ボイスサーチは、本当に使用率が高い。ひとたび使うと、その方はほぼ毎日使うことになります。音声対応も色々ありますが、Googleのバックエンジンをつかうことで、言語対応の多彩さや「訛り」への対応など、特に「認識の正確さ」の部分がすごい、と評価しています。

 今年は特に、アメリカのモデルから「Google Assistant」への対応をはじめました。これで、番組検索以上にインタラクティブな操作が出来るようになります。例えば、テレビの入力切り換えも行なえますから、使い勝手は大きく向上します。

 日本にもある普遍的な問題として、「リモコンのボタンが多い」「機能が呼び出せない、使えない」ということがありますが、ボイスをうまく使うことで解決できます。

 ただし、現状はアメリカだけでの対応です。日本での対応がいつになるかは、Google側がスタートしなければいけないので、こちらではコメントできる状況ではありません。しかし、Googleがはじめてくれれば、日本でもすぐに基本的な部分は対応できるものと思っています。テレビ側に特化した部分については、Googleの用意するものだけでなく、ソニー側でカスタマイズした部分も相当にあります。そうしたことはAndroidというプラットフォームがあってできたもので、「テレビとしての機能」の最適化は、こちらでもより進めていきます。

 今回のCESでは、あらゆる機器で「音声対応」が進んだ印象を受けた。少なくともアメリカにおいては、音声入力を使う機器は「あたりまえのもの」になり、そのバックエンドを担うのはAmazonやGoogle……という流れが支配的だ。背景には、「Amazon Echo」や「Google Home」といった、いわゆる「スマートスピーカー」のヒットがあるのは間違いない。

高木:Google HomeにしろEchoにしろ、ああした機器はどんどん普及していきます。私たちの商品に「独自の頭脳」を持たせるか否かは、考え方次第です。一方、そうした機器が普及した中でうまく使ってもらえる「クライアント」としての機能は、常にやっていかなくてはならない、という認識です。自宅の中にあり、映像や音が出るハードウエアでは、そうした機器との連携は、あたりまえのものになるでしょう。

 一方、弊社がスマートスピーカーを製品として手がけるかどうかは、コメントできません。正直、技術的にはいつでもできます。ですが、「いつやるか」「どうやるか」は戦略ですからね。

 ソニーはGoogleとの関係が近い。テレビについても、当初はGoogleとのビジネスの進め方で相当に苦労したようだが、「いまは進め方がわかってきた」(長尾氏)とも言う。スマートスピーカーのような製品も、ソニー独自の付加価値をつけることができれば「ソニーブランドのGoogle Homeが出ることもあるのでは」というのが、筆者の予想だ。

日本のUHD BD展開は「まだノーコメント」、完全ワイヤレスNCヘッドホンは「近々発売」

 テレビ以外についても触れていこう。

 他社に遅れること1年、ソニーもようやくUHD BDプレイヤー「UBP-X800」を市場投入することになった。実際には、アメリカ市場ではホームシアターのインストーラー(導入業者)向けの高級製品として「ES」型番のUHD BDプレイヤーがすでにあったが、一般向けとしてはまだ出ていなかった。PlayStation 4 ProがUHD BDに対応しなかったこともあり、ソニーのUHD BDへの対応は「冷淡」の一言だった。その辺は、市場動向を見ていた、という部分に加え、開発用の半導体の準備に時間が掛かった、という側面もあったと聞いている。

 それはともかく、UHD BD製品の日本での発売はどうなるのだろうか?

高木:アメリカへの投入は決定していますが、日本での発売については決定していません。日本ではニーズを見ながら検討します。一方、日本はアメリカと違い、レコーダの需要がマジョリティです。レコーダはどうするのか検討しているところです。ただ、ここでお話できる状況にはありません。

 日本においては、レコーダの状況含め、もう少し様子を見る必要がありそうだ。

 ソニーのもう一つの柱であるオーディオについては、特に現在「ヘッドホン」「サウンドバー」「ワイヤレススピーカー」の3軸を中心にビジネスが進められている。特に急務なのはヘッドホン事業だ。

高木:当然、リソースについても販売についても大きく割り振っています。

 技術の方向性として、ヘッドホンではやはり「ハイレゾ」が重要です。ハイレゾの高音質を実現しつつ、ノイズキャンセリングやワイヤレスといった高付加価値化の機能を実現していきます。ノイズキャンセリングができる、ワイヤレスができるといっても、ハイレゾにならないようでは、商品としてやりたくない。ハイレゾ第一です。それに業界最高級のノイズキャンセリング機能と、安定したワイヤレス機能を搭載していきます。

 その意味で「MDR-1000X」という製品は、ワイヤレスかつノイズキャンセリングが業界最高水準で実現できて、しかもハイレゾ。それを実現するためのデザイン・材質・機構を想定して開発をはじめていました。いったん半年、市場への導入を伸ばす決断をしたのですが、満を持して、自信をもってお出しできる製品になりました。だからこそ、ブースでもあそこまでアピールしているんです。

 あの性能を別の形、インイヤーで左右独立やネックバンドなど、別のニーズにきっちりとシリーズ化して広げていきます。プロトタイプでの展示で申し訳なかったのですが。そう遠くないタイミングで商品化しなければいけない、と思っています。

 一方で、より上位、高級なオーディオはどうだろう? テレビが高画質化するのだから、音もさらに「トップ」を目指すべき部分がある。ここも高木氏は否定しない。しかし、そこで性急な展開を行なうつもりもないようだ。

高木:スピーカーも含め、粛々と続けています。ハイレゾに世に問う以上、そういうスピーカーなどはきちんと、常に検討しています。しかし、スピーカーは他の分野に比べ、技術改革のスピードが遅いもの。製品の特質として、毎年出すカテゴリでもないとは思います。良い新しいものが出せるタイミングでやっていきます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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