西田宗千佳のRandomTracking

第485回

「史上最大のiPhone」と「最小5G iPhone」の選び方。12 Pro Max/12 mini

iPhone 12 Pro Max。カラーはゴールド

11月13日に発売される、「iPhone 12 Pro Max 」と「iPhone 12 mini」の製品版実機レビューをお届けする。

iPhone 12 mini。カラーはブラック
上がminiの、下がPro Maxの箱。どちらも薄くなったが、本体サイズの分大きさは異なる

今回のiPhoneは例年から発売が遅れた上に、10月23日の「iPhone 12」「iPhone 12 Pro」と今回の2機種の、2段階に分けた形で市場に出ていく。前回が同じサイズでカメラとデザインが違うモデル、今回が大幅に違うサイズのモデル同士の比較となった。

AV的に気になるのは、やはりカメラでの差別化が行なわれた「iPhone 12 Pro Max(以下12 Pro Max)」だが、日本でヒットしそうなのは「iPhone 12 mini(以下12 mini)」の方ではないか……という気がする。

というわけで、その辺の直感が正しかったかどうかも含め、確かめていきたい。

大きな違いは「サイズ」に集中

わかりやすい、外観上の特徴から見ていこう。実のところ、後述するカメラを除くと、iPhone 12シリーズ各機種のパフォーマンスには大きな差がない。だから、外観がなにより重要なのだ。これは「同じ世代のiPhone」にいつも共通している点である。

メインメモリーに違いはあっても、プロセッサパワーそのものに大きな違いは見つけられない。ベンチマークソフト「Geekbench 5」の値も、12 miniと12 Pro Maxの間に顕著な差はない。ただし、メインメモリーについては前者が4GB、後者が6GB。要は、スタンダードラインが4GB、Proラインが6GBということなのだろう。

左から、12 Pro Max・12 mini・12のGeekbenck 5でのテスト結果。どれもほぼ違いがない

4種類のiPhoneが手元に揃うことになったので並べてみたが、やはり「上と下だけが特殊」という感じになっている。

4機種を並べてみた。左から、12 Pro Max・12 Pro・12・12 mini

小さい方であるminiは、片手でうまく握れることが最大のメリットだろう。初代iPhone SEには譲るものの、現行の第二世代iPhone SEよりは小さい。SEは「安価なiPhone」であって小さかったのはデザイン流用に伴う特殊事情だったとはいえ、「小さいスマホ」としてSEを愛用していた人も多い。そういう人には、間違いなくminiは刺さる。

iPhone 12 miniを片手で持ってみた。軽々と手の中に収まる
iPhone 12を同じく片手で。持てなくはないが親指は画面の端に届かない
iPhone 12 Pro Max。こちらは「持てるが片手だけで使うものではない」感じだ

ポイントは、繰り返しになるが「これでパフォーマンスは劣っていない」点だ。もちろん5Gも同様である。

どうしてもスマホの世界では、大きいものがハイエンドで小さいものはローコストモデル、という扱いを受けやすかったが、iPhone 12は間違いなく「ハイエンドスマホ」であり、miniも例外ではない(その分少々高価だが……)。後述するが、カメラの面でも特にマイナスはないどころかちょっとしたメリットもある。

ただ、バッテリー動作時間が若干短くなったのは気になる。実際使ってみると、夕方あたりには、12 Proでは感じにくかった「不安感」がでてくる。カタログスペック上はiPhone 12で「ビデオ再生で17時間」、miniは「同15時間」と短くなっている。Pro Maxはさらに長い「20時間」だ。

ベゼルが細くなってさらに画面が大きく

一方で12 Pro Maxは本当に大きい。筆者は日常的に2台のスマホを使い回しているが、そのうち1台がiPhone 11 Pro Maxである。だからこのクラスには慣れていたつもりだが、実機をみた時の最初の感想は「デカい」しかなかった。

比べてみると、確かに少々サイズが大きくなってる。だが、実物から受けるインパクトはそれよりも大きい。ディスプレイが6.5インチから6.7インチに大型化した影響だろう。ディスプレイのベゼルが半分くらいの太さになったので、よりインパクトが大きくなっているのかもしれない。

左が11 Pro Max、右が12 Pro Max。同じようなサイズ感なのだが、一回り大きくなっている
左が12Pro Max、右が11 Pro Max。ベゼルが半分くらいに細くなっているのがわかる。
おまけに。miniとPro Maxを比べるとこれだけサイズが違う。だが、性能は基本的に同じだ

そもそもこの大きさ・重さ(226gはかなりのものだ)がNG、という人はもう想定外だろうが、そうでない人にとって、このディスプレイはやはり魅力だろうと思う。筆者も大きさを優先して11 Pro Maxを使って来たので、ウェルカムである。

悩ましい「カメラの進化」

違いは、すでに述べたように、デザイン以外では「カメラまわり」に集中している。12 Pro Maxは「広角」カメラのセンサーを大きく変え、「望遠」カメラも対広角比で「2.5倍」(12 Proや11 Proは2倍)になっている。

そのためか、12 Pro Maxをよくみると、カメラ部の「盛り上がり」が少し大きくなっている。そのことは、純正のケースをつけるとよりはっきりとする。カメラ部を守るための「縁」がより高くなっているのだ。ここを邪魔に感じないためには、ケースをつけた方がいい。ただ、本体だけでも重い12 Pro Maxにケースをつけるのはあまり気が進まないのも事実だ。

順に、12 Pro Max・12 Pro・12 miniのカメラ部。ケースの縁をみると、12 Pro Maxのみ盛り上がりが大きいのがわかる

では画質はどうか?

圧倒的な画質差……と言いたいところなのだが、正直、「条件が悪い暗いところなどでちょっとプラスかな?」という程度だ。サンプルをみていただいても、クオリティ的な差を見つけるのは、等倍に拡大していかないと厳しい。

以下の撮影サンプルは全て

  • iPhone 11 Pro Max
  • iPhone 12 Pro

を比較として入れた上で、

  • iPhone 12 Pro Max
  • iPhone 12 mini

の分を用意している。

iPhone 11 Pro Max
iPhone 12 Pro
iPhone 12 Pro Max
iPhone 12 mini
iPhone 12 Pro
iPhone 12 Pro Max
iPhone 12 mini
iPhone 11 Pro Max
iPhone 12 Pro
iPhone 12 Pro Max
iPhone 11 Pro Max
iPhone 12 Pro
iPhone 12 Pro Max
iPhone 12 mini
iPhone 11 Pro Max
iPhone 12 Pro Max
iPhone 12 mini
iPhone 11 Pro Max
iPhone 12 Pro Max
iPhone 12 Pro Max

なお、全ての写真のHEIF形式データは以下からダウンロードできる。

もちろん、得意なシーンはあるのだ。あくまで印象論に近いが、「サッとスマホを取り出して片手で急いで撮る」ようなシーンでは、手ぶれ補正の効果もあってか、失敗しにくい印象がある。どうやら手ぶれ補正システム変更の効果は「絞り1段分」くらい、というところのようだ。

また夜間の動画では、搭載している手ぶれ補正技術の性質上、歩行のぶれが消えるわけではないものの、ぶれに伴う「光が尾を引くような現象」が減る。結果として映像が見やすくなっていると感じた。以下、iPhone上でのHDRの再現が最も忠実だと感じたVimeoで動画を共有してある。iPhone X以降の有機ELを採用したiPhoneで、最新のiOS14.2が入っていれば、HDRらしい表示が確認できるだろう。ダウンロードボタンも有効にしてある。

【撮影サンプル:東京駅 夜間に歩行撮影】

【11 Pro Max】

【12 mini】

【12 Pro Max】

むしろ感じたのは、12 miniのカメラとしての優秀さだ。軽くて(122g)小さいのでそもそも手ぶれしにくい。少々明るく撮りすぎるとも感じるが、iPhone 12は、シリーズ全体でのカメラ画質改善が顕著だ。センサーやレンズの進歩のみならず、計算によって写真画質を上げていく「コンピュテーショナル・フォトグラフィ」の進歩が大きいためだろう。その恩恵は、プロセッサーが同じとみられる全てのiPhoneに等しく提供され、結果として、センサーが大きく改良されている12 Pro Maxの進化が目立ちにくくなっている……という部分はありそうだ。

12 Pro Maxのわかりやすいメリットは「望遠」にある。今までよりも「寄れる」絵が撮れることは、どのシーンでも効果的だ。

また12 Proシリーズは、メモリーの大きさを生かしてか、今後のアップデートで「Apple ProRAW」という新しい形式での保存に対応する。微細な違いを取り込み、写真を加工して楽しむのであれば、この要素が有用になるシーンも出てくるだろう。

アプリが急速に充実、LiDARで遊ぶのは楽しい!

もう一つ、Proシリーズの大きなメリットとして「LiDAR」の搭載が挙げられる。LiDARは写真撮影時のピント合わせにも使われるが、iPhoneの場合、それはあくまで暗いシーンに限られるようで、「カメラのためのLiDAR」というのは難しい。

やはり今は「AR関連技術」として捉えるべきだろう。

iPhone 12 Proをレビューしたタイミングでは「iPhoneでLiDARを生かしたアプリ」はまだあまり公開されていなかった。しかしその後、先行してLiDARを搭載していたiPad Pro向けに開発したアプリがiPhone 12 Proシリーズ向けにも公開されるようになり、色々面白いアプリが増えている。

特に、手軽に持ち運べるスマホならではの価値が大きいと思うのが「3Dスキャニング」だ。LiDARで立体構造を把握し、その上にカメラで撮影した映像をテクスチャーとして重ねることで、「3Dのデータ」を得られる。

特におすすめなのが「Polycam」というアプリ。取り込みだけなら無料で試すことができて、他で活用するためにデータ化する場合、有料版が必要になる。

こちらでの3Dスキャンは簡単だ。アプリを立ち上げてスキャンしたいところを動くだけ。映像を見れば、スキャンできた範囲とそうでないところがわかる。その気になれば、オフィスの中全体や街角をそのまま3D化することもできる。

せっかくなので、東京駅の前にある「カウントダウンクロック」と、自宅近所の公園にある水飲み場をスキャンしてみた。スキャン時間はともに30秒ほどだ。

ぐるりとスキャンしたい風景の周りを動くだけで簡単に3Dのデータができる。品質はそこまで高い訳ではないが、数分の作業で、スマホだけでできると思えば驚きだ

面白いのは、こうやって作ったデータを、アップルが推奨する3Dデータ形式である「usdz」形式で保存しておくと、好きな場所にこの物体を「召喚」できることだ。iOS・iPadOSが標準で備える「AR Quicklook」を使ったものなので、iPhone 12などの新機種でなくても「召喚」できる。

スキャンした段階では実寸だが、もちろんサイズは変えられる。本来とは違う場所にその物を配置し、確認できる。以下にusdz形式のデータのダウンロードリンクを用意したので、ダウンロード後に「ファイル」アプリ内で開いて、ご確認いただきたい。

3Dスキャンがこれだけ簡単にできてしまうと、著作権上の問題も懸念される部分はある。とはいうものの、こうした技術の発展は非常に大きな可能性を秘めていることが体験していただけるはず。特に建築工事やデザインなど、ビジネス上の可能性も大きい。なお、アップル製品に搭載されているLiDARはそこまで細かなデータは取れないらしく、「机の上のフィギュア」などを高精度にキャプチャするのは向いていない。

そういう部分での可能性があることが「Pro」シリーズの特徴であり、いつかは多くのiPhoneに搭載される基本機能になっていくのだろう。まずは、iPhone 12 Pro Maxを使い、この可能性を楽しむのもいいと思うのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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