西田宗千佳のRandomTracking
第482回
iPhone 12は「動画」が面白い。HDRの魅力とLiDARの価値
2020年10月20日 22:00
iPhone 12およびiPhone 12 Proの実機レビューをお届けする。
前回、発表内容を見て「12は動画が面白いスマホになる」と予想した。これは完全に的中した。見事に「動画を撮るのが面白いスマホ」になっていたのだ。これで、手振れ補正が強化された「iPhone 12 Pro Max」だとどうなるのだろうか? と思うほどだ。
そこで本レビューでは、AV専門媒体ということもあり、「動画」に軸を置いた形にしてみたいと思っている。動画についてはYouTubeへアップロードした上で埋め込んでいるが、特にHDR動画については、そのままではわかりづらい部分が多数ある。
詳しくは後述するが、「有機ELディスプレイ搭載のiPhoneで、最新のiOS14にアップデート済み」の方は、ぜひ元データファイルを直接iPhoneにダウンロードし、視聴していただければと思う。これに限らず、すべてのサンプルについて、元データのダウンロードリンクを用意している。
超広角での夜間タイムラプスが画質アップ
まずはこの作例をご覧いただきたい。上がiPhone 12 Proの「超広角」での、下がiPhone 11 Pro Maxの「超広角」でのタイムラプス動画である。場所は夜の東京駅。驚くほど精細さ・明るさが違う。
どちらも小さな三脚にiPhoneをつけ、ほんの数分で撮影したものだが、iPhone 12 Proのものはあまりの出来の見事さに、我ながら驚いてしまった。スペック上、超広角のカメラにはiPhone 12もProも差がないし、低価格で11月に発売される「iPhone 12 mini」も同じなので、「すべてのiPhone 12でこの撮影ができる」と思えばいいだろう。夜景・遠景での撮影能力は大きく向上している。
HDR撮影は衝撃的! ディスプレイを動画に合わせて輝度変化
次に、もう一つの驚きである「HDR撮影」に移ろう。
iPhone 12シリーズは、Dolby Vison方式による動画の撮影に対応した。その効果をみていこう。
以下のYouTube動画は、iPhone 12/Proから「そのまま」書き出したデータをYouTubeへ登録したものだ。iPhone 12で撮影したサンプルは「HDR対応」になっている。ただし、YouTubeのHDR動画が再生できるかどうかは利用している環境によって異なるし、PCなどでは意図通りの表示にならず、明るすぎる状態になることも多い。
現状、最も意図通りに見る方法は、「iOS14にアップデートした、有機ELをディスプレイに使っているiPhoneに動画をダウンロードしてから再生する」ことだ。「ファイル」アプリの中からでもいいし、一旦「写真」のライブラリに登録してからでもいい。ただし、その他のファイル管理アプリや動画視聴アプリ上では視聴が難しい場合が多い。
この動画をiPhoneでみるとどうなるのか? 正直、非常に大きなインパクトがある。
ちょっと解説をしておこう。
映像配信などのHDRコンテンツを有機EL搭載のiPhoneで見ると、4K・HDR搭載のテレビで見た時と同じように「強い輝度の突き上げ」による、いかにもHDRらしい映像が楽しめる。特にiPhone 11 Pro/MaxとiPhone 12シリーズは、最高輝度が1,200nitsになるようHDR対応がなされており、非常に美しい。
例えば以下は、iPhone 12 Proで、Dolby Vison対応の「スパイダーマン:ホームカミング」のオープニングに出てくるコロンビア・ピクチャーズのロゴだが、掲げられた松明からの強い光はいかにも「HDR」だ。4K・HDRテレビでの体験に近い。
今回の「iPhone 12によるHDR撮影」とは、このように映画やドラマでだけ反映されていたことが、普通にiPhone 12で撮影するだけでできてしまう、ということでもある。iPhone内でHDR撮影の動画と判断されるとディスプレイモードが切り替わり、以下の写真のように、輝度の突き上げを忠実に再現するモードに変わる。この効果が非常に素晴らしいのだ。
撮影機能については、iPhone 12とProで若干の違いがある。iPhone 12でのHDR動画撮影は、4K/30フレームまで。だがProでは4K/60フレームまで可能になっている。画質そのものに差があるようには感じられないが、滑らかな60フレーム記録にこだわるなら、Proを選ぶべきだろう。
撮影データはどうなっているのか
「iPhoneで撮影されたHDR動画」がどのようなものなのか、プレーヤーソフトの「VLC」でチェックしたのが以下の結果となる。
MOVのコンテナに入ったHEVCで圧縮された、BT2020での深度10bitの映像で、ガンマは「ハイブリッドログガンマ」(HLG)となっている。現状、他のプラットフォーム(例えばPixel 3 XLなど)でも再生できて、その際にHDRを認識しているのも確認できているが、動画編集ソフトなどによってはちゃんと認識されないこともあるし、Adobe Premire Rush・iPhone版のように、読み込めなかったものもある。本来データとしてはDolby Visonのはずなのだが、どうなっているかは現状情報公開がなく、時間も非常に限られていたので、検証しきれなかった。ご了承いただきたい。今後情報がアップルなどから出て、各種ソフト・サービスへの対応が広がっていくのではないかと予想されるのだが。
編集そのものはiPhone 12だけで行なえる。カット編集や色味調整ならこれだけでいい。ただし、書き出しにはかなりの時間がかかった。数十秒のデータでも10分以上かかったこともある。その辺、作業内容によっても変わるため、ここもまだはっきりしない。「最後の書き出しにだけは時間がかかる」ことだけは覚えておいていただきたい。
なお、HDRでの「輝度突き上げ」表示はないものの、iCloudで同期した場合、MacやiPad、HDR表示非対応のiPhoneでも「HDR動画」と認識はされる。編集も可能だ。そのため、iPadなど画面の大きいもので編集し、視聴はiPhone 12で……という形も採れる。この際も、HDR情報はちゃんと残っている。
静止画撮影は「色味」が変化、
では静止画はどうか?
以下をご確認いただきたい。昼間、明るいシーンでの撮影は、「色味の変化」が大きい。おそらくは、ホワイトバランスの調整と、空を認識しての最適化が入ったことの効果ではないだろうか。とはいえ、iPhone 11 Pro Maxでも精細感などに大きな変化はなく、「順当だがそれなりの変化」といえそうだ。
iPhone 12 Proには「LiDAR」が搭載され、これによって「夜間のピントの精度アップ」「夜間のポートレートモードでの画質向上」が見込める、とされている。この「夜間の」というところがミソ。試してみた限り、どうもカメラでのLiDAR活用は、明るいシーンではあまり目立たないようだ。
以下のサンプルは、夜間にポートレート撮影をしたものである。一見どれも良さそうに見えるが、輪郭に注目すると、11 Pro Max>12>12 Proの順に忠実さが増しているのがわかる。
また、夜間撮影の場合、ちょっとしたブレなどで細部が潰れることがあるのだが、iPhone 12 Proではそういうことが起きづらい気がする。はなはだ感覚的な話で恐縮なのだが、「ちょっとシュッとしている」のだ。拡大すればある程度わかるが、拡大しなくても「なんとなくエッジやディテールがしっかりしている」と感じる写真が撮りやすい。そういう意味でも、やはり「夜に強いスマホ」になったのだろう。
一方、同じく夜間にナイトモードで撮影したとき、レンズ内反射でのゴーストが写るシーンがあった。これはiPhone 11でも同様だったのだが、12でも残っているようだ。ライバルのPixelなどでは起きづらい現象なので、さらなる改善が求められる。
性能は順当に向上、5Gは「未来に期待」
さて最後に、性能や通信機能について触れていこう。スマホのレビューとしてそれはどうか、という気がしないでもないが、これはAV専門メディア向けなのでご理解を。
性能は、はっきりいって「圧倒的に高い」。iPad Proと比較しても、マルチコア性能こそiPadの方が良いものの、シングルコアではiPhone 12の方が上。手のひらの上にiPad Pro並み(すなわちミドルクラスのPC級)の性能が入っているわけだ。
CPU・GPUの性能は、12もProもあまり変わらない。ただし、Proはメモリー量が6GBになっている。ここはiPad Proと同等だ。
5Gについては「エリアにいれば速い」の一言に尽きる。ざっくり言って、同じ場所の4Gの3倍から10倍の速度が出る。もちろんそれでも、5Gのスペック上の最高速度である「ギガクラス」には届かない。1Gbps超えは、相当条件の良い場所でないと難しそうだ。
このテストがなかなかに難題で、東京都内ですら、5Gがちゃんと入るところはまだまだ少ないことを思い知らされた。それを考えると、「今日5Gを使うために買う」必要はないが、「これからのために備える」目的で選ぶのがいいだろう。