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第598回

3万円安くなって性能は(ほぼ)同じ。「Meta Quest 3S」を最速ハンズオン

Meta Quest 3S。本日より予約開始で、発売は10月15日より

9月25日(アメリカ太平洋時間)、Metaは開発者会議「Meta Connect 2024」にて、新しいXR用機器「Meta Quest 3S」を発表した。日本での発売は10月15日から。価格は4万8,400円からで、本日より予約が始まる。

Meta Quest 3S

現在筆者はMeta本社のある米・メンローパークに取材にきている。そこで一足先にMeta Quest 3sのデモを体験できたので、新製品情報とともに、その詳細をお届けしたい。

Quest 3を低価格化。新スタンダードとなる「Meta Quest 3S」

まず現状のMetaのラインナップを整理しておこう。

メインとなっているのは、昨年発売された「Meta Quest 3」。カラーによるMixed Realityにも対応した製品で、ゲームなどのアプリケーション環境がもっとも充実したXR機器でもある。

Meta Quest 3。Quest 3S発売後も併売予定

価格的には上位モデルとなる「Meta Quest Pro」もある。アイトラッキングの採用や長時間装用時を想定したデザインなど優れた点もあるが、性能やパススルー画質などの点でQuest 3に劣り、現時点での購入はお勧めしない。

Quest 3の課題は価格だ。これまで、ストレージが128GBのモデルで7万4,800円だったのだが、「お手軽な値段」とは言い難かった。

これはアメリカでも同様だ。低価格路線としては、旧機種にあたる「Meta Quest 2」が価格を下げて流通していた。

しかし今回、Metaはラインナップを整理する。

Quest ProとQuest 2がラインナップからは消え、Meta Quest 3についても、ストレージが512GBの最上位モデルのみが価格改定の上残る。

そして新しく、普及価格とMixed Realityの普及の両面を担うことになるのが、Quest 3の再設計版にあたる「Meta Quest 3S」というわけだ。

米ドルだと299ドルからとなり、これはゲームコンソールなどのコンシューマ機器で「マジックプライス」とも呼ばれる価格だ。

Meta Quest 3Sは価格を大きく下げ、ゲーム機の「マジックプライス」に近づいた

結果、ラインナップは以下の3つに整理される。

  • Meta Quest 3S (128GB) 4万8,400円
  • Meta Quest 3S (256GB) 6万4,900円
  • Meta Quest 3 (512GB) 8万1,400円

Meta Quest 3については、128GBモデルが6万9,300円に値下げされ、在庫がなくなり次第販売を終了する。Quest 3の512GBモデルは、9万6,800円から8万400円に値下げしてラインナップに残る。

すなわち、Quest 3は実質的にQuest 3Sで置き換えられるということだ。

違いは「ディスプレイ」周り。実質的な低価格モデル

では、Quest 3Sとはどんな製品なのだろうか?

見た目にはカメラの部分の変化が目立つ。3つの円をクラスター化した、ちょっと特異なデザインだ。ここにはパススルー用のRGBカメラといわゆる「インサイド・アウト方式」の位置に認識に使うセンサー、ハンドトラッキングや照明の状況把握に活用するLEDが搭載されている。

Quest 3Sの正面には、両目の位置にセンサーを含む3つの「印」がつく

使っているプロセッサーはSnapdragon XR2 Gen 2で、Quest 3と同じ。当然、ソフトウエアの互換性も維持されている。

コントローラーもQuest 3のものと同じだ。

コントローラーはQuest 3のものとまったく同じ

2025年4月までにMeta Quest 3ファミリー製品を購入すると、新作タイトルである「バットマン:アーカム・シャドウ」とサブスクリプションサービス「Meta Quest+」3カ月分が付属する。これも当然、Quest 3SがQuest 3と互換性を持っているからできることでもある。

Meta Quest 3独占タイトルとなる「Batman Arkam Shadow」は今後Quest 3シリーズを購入すると付属。3Sでも、もちろん動く

10月4日に世界同時公開となるVR映画「機動戦士ガンダム:銀灰の幻影」もQuest 3Sで見られる。もちろん、YouTubeやNetflix、Amazon Prime Videoなどでの動画視聴も、Quest 3と変わらず楽しめる。

動画視聴体験などはQuest 3と同等

逆にいえば、OSを含めたプラットフォームとしてはQuest 3向けに進化し続けている「Meta Horizon OS」がそのまま使われる。

同社は今後の計画として、「電車向けトラベルモード」「寝転がって利用するモード」の搭載のほか、Prime Videoなどのアプリで「コンテンツをダウンロードして利用」も可能になることを明かしている。また、同社が開発中のMeta AIについても、Quest対応を進める。(ただし、Meta AIについては、日本語への対応予定は公開されていない)

Quest向けのPrime Videoがアップデートし、UI刷新と「ビデオのダウンロード機能」に対応する

Quest 3とは違う点も複数ある。以下、表にまとめてみた。

Quest 3SとQuest 3の違いを表にまとめてみた。違うところは色付けしてある

最大の違いはディスプレイと視野角だ。

Quest 3は片目あたり2,064×2,208ドット・25PPD(Pixel Per Degree)のディスプレイを使っており、視野角は水平110度・垂直96度だった。レンズとしても「パンケーキレンズ」を使用、結果としてボディの薄型化が実現できていた。

Quest 3Sではそこで若干質が変わる。

ディスプレイは片目あたり1,832×1,920ドット・20PPDとなり、視野角は水平96度・垂直90度になる。レンズはパンケーキ方式からフレネル方式になった。

ちなみにこのディスプレイ解像度・PPD、レンズ構成はQuest 2とまったく同じだ。

結果としてだが、視力補正用のインサートレンズはQuest 3用でなく「Quest 2用」と互換性がある。

Quest 3Sのレンズ部は、Quest 2と同等の構成
インサートレンズはQuest 3と互換性がないものの、Quest 2とは互換性がある

結果として、ボディの厚みは62.3mmから73.9mmへと増す。重量は1g軽い514gになり、バッテリー容量も5,060mAhから4,324mAhに減る。

しかしバッテリー動作時間は2.2時間から2.5時間に伸びている。動画再生ならば2.8時間の動作だそうだ。

これはディスプレイデバイスの解像度が若干低いこと、レンズフレネルレンズの方が明るく、バックライトでの消費電力を減らせたからであるという。

実機で変化を確認すると……

気になるのは、この変化によってれだけ体感性能が変わってくるかだ。

ここからは実機を体験した感想をお伝えしよう。

外見的にはやはり「Quest 3よりQuest 2」に似ている。外界認識用のセンサー類が目立つが、それ以外の部分の厚み・構造はほぼQuest 2という印象だ。

Meta Quest 3S実機
横から見ると、Quest 3よりQuest 2に似ている
レンズ部を接写。フレネルレンズになっていることもあり、Quest 2で見慣れた構造
本体下部と側面
正面。センサーやLEDなどを集めた「複眼的デザイン」が目を惹く
コントローラー。Quest 3のものとまったく同じだという

すなわちQuest 3Sとは、やはり「Quest 3の技術をQuest 2に近いボディと光学系に組み込んだ低コスト版」なのだ。

では画質が悪いのか、というとそうではない。

確かに少し視野が狭い気はするし、描画のエッジを見ると解像度も若干下がっている。

しかし、外界のカラーパススルー品質はQuest 3と見分けがつかない。プレイしてみるとQuest 3との違いを顕著なものと思うタイミングはほとんどなかった。

これはなにも、Quest 3での画質向上に意味がなかった、という話ではない。差がわかる時は確かにわかる。

結局、Meta Questシリーズの画質にとって重要なのは「処理能力」や「カラーパススルー」、という話かと思う。OSの進化による画質改善をそのまま受け継いでいるので、Quest 2の光学系でも満足できる画質になっている。Quest 3とQuest 3Sのディスプレイ・光学系の違いくらいだと、ソフトの出来がきわめて重要である……ということが見えてきた。

XR機器でディスプレイの解像度が注目されるが、それだけで画質は決まらない。トータルの設計+「ソフトウェアの力」が非常に重要であり、Quest 3で1年磨いたOSが搭載されているからこその低価格版、と言える。

なお、今回デモに使ったのは、Metaが新たに用意する「Meta Quest 3S Breathable Facial Interface」。メッシュ素材で通気性が良い。HMD内の蒸れが気になる人や、フィットネス用途に使う人などにおすすめだ。標準添付のカバーは既存のものに近い、濃いグレーのものになる。

デモで使った「Meta Quest 3S Breathable Facial Interface」。メッシュ素材で通気性が良い
製品に標準添付するのはこちらのタイプ

すでに持っている人の買い替えは不要だが、これから買うなら3Sを

これらを考えると、Quest 3Sの位置付けは明確になってくる。

すでにQuest 3を持っている人は、無理に買い換える必要はない。もし予算が十分にあって少しでも画質を求めるなら、Quest 3を買った方がいいだろう。

だが、価格差と価値のバランスを考えた時、Quest 3Sはかなり良い位置にいる。実質3万円の値下げで、ほぼ同じ体験ができることになるからだ。

Meta Questの美点は、「コストパフォーマンスが良い」ことと「OSが積極的に改善されている」ことだ。この程度の画質差で価格が下がり、市場が拡大するならむしろウェルカム……という人もいるだろう。

XR機器の用途は色々だ。

ゲームを楽しむ人もいれば映像コンテンツを楽しむ人もいるし、PC連携を含めた、いわゆる「空間コンピューティング」を重視する人もいる。

それぞれで求めるスペックは大きく違い、支払えるコストも重視する点も違う。

Quest 3Sは「より多くの人にHorizon OSの価値を広げる」ことに注力した製品であり、前出の用途をまんべんなく、コストパフォーマンスよく満たすことを狙っているのだろう。

そう考えると、まさに狙い通りの製品に仕上がっている、といえそうだ。

Meta自身の狙いや今後については、Meta Connectでさらに興味深い話が語られている。その点については、追って掲載するレポートで詳しくお伝えしていく。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41