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第477回

Netflix最高執行責任者 単独インタビュー。コロナ禍でのビジネスと日本戦略とは

Netflixが日本に参入して5年が経過した。そして本日、8月末時点で国内500万加入を超えたことと、2022年までに15作以上の実写ドラマの制作が予定されていることが発表されている。Netflixは2019年9月に国内登録者数300万人と発表しており、1年で200万人もユーザーが増えたことは、Netflix自身の好調さと同時に、「サブスクリプション型映像配信」の定着を示すものとも言えそうだ。

Netflixの現在のビジネスはどうなっているのか? そして、5年間の日本でのあゆみをどう分析しているのだろうか?

Netflix 最高執行責任者 兼 最高プロダクト責任者のグレッグ・ピーターズ氏への単独インタビューをお届けする。ピーターズ氏は、5年前にNetflixが日本参入をした時の、日本事業の責任者でもある。筆者もこの5年の間、何度も取材で意見を交わしてきた。

この5年の、Netflix自体の変化と日本市場への取り組みを聞くには最適な人物でもある。

Netflix 最高執行責任者 兼 最高プロダクト責任者のグレッグ・ピーターズ氏

成長理由は1つではない、日本でもアニメだけでなく「実写」に投資を加速

−−まず、日本でのサービス開始5周年、おめでとうございます。この5年間、いかがでしたか?

ピーターズ氏(以下敬称略):ありがとうございます。

これまで私たちは、本当に毎日、サービスをより良くしようと努力してきました。より良い日本語でのローカライズを目指し、日本のコンテンツクリエイターとのパートナーシップも作りました。さらに、私たちがより多くの日本のタイトルを、世界の他の地域に紹介できるようになりました。ここについては、かなり満足しています。

−−日本で500万契約を達成しましたが、成長率についてはどう評価していますか?

ピーターズ:ご存知のように、私たちはソフトバンクやKDDI、J-COMとの提携など、サービスをより良いものにし、よりアクセスしやすいものにするために、多くのことをしてきました。その結果、成長率が加速しています。

実際には、なにか1つや2つのきっかけではなく、文字通り何百ものことをした結果、成長してきたと思っています。翻訳の質も向上しましたし、字幕や吹き替えも改善しましたし、パートナーシップも改善しました。

−−今後の日本での成長の目標をどう設定していますか?

ピーターズ:ちょっと懐かしいですね(笑)。5年前から取材のたびに、あなたとずいぶんその話を議論した記憶があります。

ご存知のように、私たちは具体的な数字について言及しませんし、本当にそういう考え方はしていません。常に一定の改善を目指しています。1年後にこの話を東京でする時には、「さらに良くなっている」と話したいと思っています。

私たちにとっての目標は、「すべてをより良いものにする」ということ。サービス体験を向上させ、パートナーシップを強化し、デバイス体験を向上させることです。

現状でも、我々がこれまでに想定していた以上の作品数を提供できています。そして、2022年までには、日本から世界に、15を超える実写オリジナル作品を提供しようと計画しています。

ご存知のように、アニメは驚異的な成長を示しています。私たちはアニメの制作を加速するために、日本のアニメスタジオとパートナーシップを結びました。Production I.Gにボンズ、デイヴィッドプロダクションにANIMA、そしてサブリメイションと協力関係を築いています。私たちは彼らと一緒に成長していきます。

9月17日より全世界独占配信がスタートするNetflixオリジナルアニメシリーズ「ドラゴンズドグマ」。2012年にカプコンから発売されたオープンワールドアクションゲームを原作とするアニメで、サブリメイションが手掛けている
Production I.GとSOLA DIGITAL ARTSが制作、配信中の攻殻機動隊 SAC_2045。シーズン2制作も決定している

−−最近は韓国の実写ドラマにもずいぶん投資をしているようですね?

ピーターズ:はい、その通りです。ですがそれも、日本でのあり方と似たような話です。

韓国には素晴らしい物語を作るアーティストがたくさんいて、彼らのドラマは、韓国や日本はもちろん、アジアの他の地域、南米でも愛されています。

私たちのプラットフォームは、アニメでもドラマでも、世界中の人々に提供します。「これは日本のもの」「これは韓国のもの」「このジャンルが好きな人」というような、既存のファンだけではなく、新しいファンにも届けます。

例えばインドに住んでいる人は、過去に韓国ドラマを見ようとは思わなかったでしょうし、日本のアニメを見ようとも思わなかったでしょう。しかし、今まで日本のアニメを見ようと思っていなかった人に視聴者が拡大し、クリエイターに新しい機会が生まれるのです。

「巣ごもり」需要は一時のもの、技術を活かして「安全な制作体制」を構築

−−新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は世界中に大きな影響を与えましたが、Netflixへの影響はどうでしたか?

ピーターズ:大きな悲劇であり、あらゆる人々に影響がありました。

Netflixの観点でいえば、世界中で感染対策としてロックダウンに入り、その結果として、外出自粛が広がった点で大きな影響がありました。外に出られずレストランにも行けませんでしたから、人々は娯楽を必要としていました。

率直に言って、私たちは良い立場にいました。彼らに何か安心感を与えることができたんです。結果として、会員数は大きく伸びました。人々が苦しい時の助けになれたのは光栄なことです。

しかし、これはあくまで一時的なものです。長期的な傾向ではありません。

−−コンテンツ制作や開発の面ではどんな影響がありましたか?

ピーターズ:大きな影響がありましたね。多くの地域でCOVID-19は高い発生率を示していましたので、制作を行なうのが難しい状況に置かれました。

しかし重要な点は、COVID-19の流行状況は、国によって大きく異なるということです。ご存知のように、私たちは多くの国で制作していますから、地域によっては「制作ができた」のです。

別の側面もあります。

私たちは製品体験において、革新的であることを追求してきました。例えば、最新のビデオフォーマットである4KやHDRへの対応ですね。

もちろん「安全性」が一番の関心事だったのですが、私たちが持っているテクノロジーの中には、制作する人々が一緒に集まったときでも、ちょうど「バブル」に包まれるように安全性を確保するために使えるテクニックがたくさんあることがわかりました。

私たちは業界の中で、いろいろなものを基本的には「共有する」ことで、多くの人々とともに活動しています。だから今、私たちは、世界中のさまざまな領域で、「安全に制作を進める基準」を設定し、共有しています。これは非常に効果的でした。

アメリカはCOVID-19の流行という観点で、決して良い状況にありません。しかしそんなアメリカでも、これらの革新的な技術を使って、コンテンツ制作を進めることができています。

−−COVID-19だけでなく、「Black Lives Matter」など、様々な形で環境が変化しています。その影響は?

ピーターズ:確かに、現在の環境はあらゆる意味で劇的に変化しています。自然なものもあれば、そうでないものもある。ただ、環境は「常に」ダイナミックに変化しているものです。

その中で私たちは、ほとんどの場合、目標の中心に集中しようとしています。その目標とは、「加入者のことを第一に考える」こと。加入者の体験をより良くして、より満足してもらえるように、常に改善していくことです。

もう一つ、私たちが一貫して取り組んできたのは、クリエイティブなコミュニティとのパートナーシップを発展させ、彼らに自分たちのストーリーを伝える能力を与えることです。

私たちは、世界中のすべてのクリエイターに、ストーリーを伝えるツールを提供したい考えています。世界中のどこに住んでいようと、どこの国に住んでいようと、どこの言語を話していようと、です。ツールがこれまでに見たことのない最高のものになるように努力しています。そして、クリエイターのレベルアップにつながる、素晴らしい機会だと考えています。

取材はネット会議で行なわれた

コンテンツを「見つけやすくする」ことに今後も注力

−−コンテンツ制作だけでなく、プロダクト(システムやアプリケーション)面はいかがですか?

ピーターズ:それは私の仕事の面白い部分の1つですね。

コンテンツをどんどん制作していくうちに、見るべきものは増えていきます。私たちは実際、より挑戦的な製品を制作し続けています。

ボタンに触れるだけで、これまで存在したことのないような番組を見られるというのはすばらしい価値です。ただ、それを快適に体験できるように構築することは、非常に困難なことです。

私たちは、加入者がもっと簡単に、望む番組を見つけられるよう努力しています。番組同士のつながりに着目し、加入者が見たことがない、考えたこともない番組を見つけられるようにしたいのです。これは私たちが経験した最大の課題の一つです。

それを我々なりに提示できるようになり、コンテンツを見ているのと同じように番組のラインナップを見ることを楽しんでもらえるようになってきたのは、大きな成果と言えます。

−−7月から最高執行責任者に就任しましたね? 職責はどう変わりましたか?

ピーターズ:そうですね……、日本での時間を過ごした時に、様々なことを考えていました。今の私は、日本で考えていたことを世界規模で行なうことで、世界中の多くの人たちと一緒に、自分たちだけよりもさらに効果的な方法を考えています。

私たちの会社には、テクノロジーとデータ、それに創造性と芸術・コンテンツという2つの側面があります。私たちの仕事は、それらを同期させて、今まで以上のものにすることです。

だからほとんどの場合、私は世界中を回ってきたのですが、今は、世界中の人とテレビ会議を介して話をする毎日ですね(苦笑)。

−−最後に、日本のNetflix利用者の方々に向けて、メッセージをお願いします。

ピーターズ:まず、皆様、ありがとうございます。本当に、皆様が私たちのクラブに参加してくれたことに感謝しています。

私たちを突き動かすのは、「あなた」に焦点を当てることです。より良いサービスを作ることに毎日注力し、これからも、あなたが見る多くの素晴らしい物語を配信していきます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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