鳥居一豊の「良作×良品」

第107回

ソニー、“肩のせ”で驚きの臨場感!「SRS-NS7」で「ゴジラvsコング」

ソニーの「SRS-NS7」

何回か続けてきたDolby Atmos機器のシリーズもここで一段落。最先端のホームシアターシステムやサウンドバーなどを取り上げてきたが、今回取り上げるのはネックバンドスピーカー。首にひっかけるようにして装着するタイプのスピーカーシステムだ。

ネックバンドスピーカーは、ソニーが「SRS-WS1」で先鞭を付け、テレビなどで紹介されて人気に火が付き、一時は品薄になるほどになった新カテゴリーだ。ソニーも軽量・コンパクトでテレワーク向きな「SRS-NB10」を発売するなどラインナップを強化しているし、ソニー以外の他社からもネックバンドタイプのスピーカーがいくつか発売された。

ネックバンドスピーカーの良いところは、ヘッドフォンやイヤフォンのように耳を塞がないこと。長時間使っていても耳が痛くなるようなことはないし、使用中に家族から声をかけられたり、来客や宅配便の配達があってもすぐに対応できる。もちろん、耳のすぐ近くにスピーカーがあるので、絶対的な大音量を必要としないし、周囲への迷惑も少ない。ワイヤレスタイプならば装着したまま、自由に室内を歩き回れるのでこれまた快適。と、日常的に使う個人用のスピーカーとしてはかなり使いやすいものだ。

現在は人気も一段落しているようで、絶対的な高音質を求めるならば、高級機まで幅広く製品が揃っていて、音質の好みでも選べるヘッドフォンやイヤフォンをチョイスする人もいるし、ステレオ装置なりサラウンド装置なりの従来のスピーカーシステムを選ぶ人もいる。パーソナル用の使い方で快適性を重視する人が選ぶアイテムとして定着したと言える。

そこにソニーが投入した最新モデルが「SRS-NS7」(実売約3万3,000円)。その最大の特徴はソニーの薄型テレビの高級モデル「BRAVIA XR」シリーズと組み合わせることで、Dolby Atmosの立体音響が楽しめること。しかも、個人の聴感特性を解析・最適化してよりリアルな臨場感を得られる「360 Spatial Sound Personalizer」も備えている。快適に使えるネックバンドスピーカーで、本格的な立体音響までも楽しめるというわけだ。

【お詫びと訂正】記事初出時、“「BRAVIA XR」シリーズと組み合わせることで、Dolby Atmosや360 Reality Audioの立体音響が楽しめる”と記載しておりましたが“Dolby Atmosの立体音響が楽しめる”の誤りでした。お詫びして訂正します。(12月3日)

実売3万円ほどの価格でDolby Atmosというと、サウンドバータイプのスピーカーのAtmos対応モデルよりも安価だし、なかなか魅力的。ただし、Dolby Atmosの立体音響は前述の通り、今春モデルが初登場となるBRAVIA XRシリーズとの組み合わせでしか実現できない。その理由を簡単に言えば、BRAVIA XRシリーズの高性能なシステムLSIの処理能力を使ってサラウンド処理などを行なっていることが大きな理由。

ネックバンドスピーカー単体でこれを実現しようとすれば、高性能なシステムLSIを備えたコントロールボックスのようなものが必要になり、そこにはHDMI入出力なども備えることになる。そうなれば、価格は5~10万円近いものになるだろう。この価格帯になると、それならサウンドバーの方がいいと考える人もいるだろうし、手軽なネックバンドスピーカーとしてはハードルの高い高級機になってしまう。そこをBRAVIA XRシリーズとの組み合わせとしてリーズナブルな価格を実現したわけだ。BRAVIA XRシリーズのユーザーにはうれしいアイテムの登場だ。

BRAVIA XR「XRJ-55A80J」

単体のネックバンドスピーカーとしても使え、薄型TV用としても便利

ひとつ誤解しないでほしいのは、BRAVIA XRと組み合わせなくても、通常のネックバンドスピーカーとしてはきちんと使えるということ。サラウンド再生関連の機能のない、ステレオ再生用のネックバンドスピーカーとしてならば、テレビのメーカーを問うこともないし、スマホやパソコンなどと組み合わせて使うこともできる。BRAVIA XRと組み合わせで最大の特徴を発揮するモデルではあるが、決してBRAVIA XRユーザー以外はお断りというモデルではない。今はネックバンドスピーカーとして使っていて、いずれ薄型テレビを買い換えるときにBRAVIA XRを選べばいいし、実は意外と対応機器が少ない薄型テレビ用のネックバンドスピーカーとしても便利だ。

SRS-NS7の外観。ネックバンドスピーカーとテレビとの接続用のワイヤレストランスミッターがセットになっている

そのあたりも含めて、製品の概要を解説しよう。本体となるネックバンドスピーカーは、Bluetooth対応のワイヤレスタイプで、コーデックはLDAC/AAC/SBCに対応する。ネックバンドスピーカーだけで、スマホやパソコンなどとペアリングして、ワイヤレススピーカーとして使える。この点は他のBluetoothオーディオ機器とまったく変わらない。

本体の右側には、電源ボタンと通話用マイクのミュートボタンがある。写真では見えないが、充電用端子はUSB-C
本体の左側には、音量調整ボタンとファンクションキーがある

ネックバンドスピーカーは、見た目からして肩に乗せやすい形状になっている。左右を連結している中央部分は柔らかい素材になっていて柔軟に動く。このため肩に乗せたままでも首や肩を動かしやすく、快適に使える。そして、これまでのネックバンドスピーカーの開発経験もあり、重量の配分にもこだわっている。スピーカー類は左右が連結した根元側に配置し、操作のための回路やバッテリーなどを先端部に配置して、最適な重量バランスになるように工夫している。

このように柔らかい素材で出来ている
肩に乗せやすい形状

スピーカーは、近年のソニー・オーディオ機器で採用されている「X-Balanced Speaker Unit」を採用。これは、振動板の面積をかせぐための非円形ユニットで、口径は約32×33mm。振動板形状の最適化やオフセンターユニット設計などにより、振動板の振幅バランスの最適化を行なっている。また駆動部分に磁性流体を使用して応答性を高めるなど、音質的にも優れた特性を実現した。

SRS-NS7では、このユニットを左右それぞれに1個搭載。それに加えて、低音を増強するパッシブラジエーターを左右それぞれに2個配置している。2つのパッシブラジエーターは、上方向と下方向の対向配置として過剰な振動も抑制する構造になっている。

底面には開口部。この奥にパッシブラジエーターがある

同梱されているワイヤレストランスミッターは、円形のコンパクトなサイズで、テレビの側に置いても邪魔にはならない。SRS-NS7のネックバンドスピーカーとはあらかじめペアリング済みで出荷されているが、上面のペアリングボタンを使ってペアリングし直せば、他のBluetooth機器と接続することも可能。つまりはテレビ用のBluetoothトランスミッターで、「WLA-NS7」(実売約7,000円)で単体でも発売される。

最近は薄型テレビにもBluetoothスピーカーやヘッドフォンにワイヤレスでテレビ音声を送信できる機能を持つものが増えてきたが、多くの薄型テレビはBluetoothトランスミッター機能を持たないので、薄型テレビの音声をワイヤレススピーカーで聴きたいという人には便利なアイテムだ。

SRS-NS7に同梱されるワイヤレストランスミッター

しかも、ソニーのWH-1000XM4、WF-1000XM4といったワイヤレスヘッドフォン/イヤフォンを接続すれば、Dolby Atmosの立体音響を楽しむことができてしまう。BRAVIA XRユーザーで、かつWH-1000XM4なども使っていれば、約7,000円でヘッドフォンやイヤフォンによるDolby Atmos音響を楽しめるわけだ。これはなかなか魅力的。もちろん、今回の取材でも、XRJ-55A80JとWH-1000XM4をお借りしているので、ネックバンドスピーカーだけでなく、ヘッドフォンでのDolby Atmos試聴もレポートする(詳細は後述)。

接続端子は、光デジタル音声入力と、USB-C端子がある。光デジタル音声入力は音声信号の伝送用で、USB-C端子は電源供給用だ。一般的なBluetoothトランスミッターとしては、BRAVIA XRシリーズだけでなく、他社製を含む多くの薄型テレビでも使うことができる。このワイヤレストランスミッターとSRS-NS7のネックバンドスピーカーやBluetoothヘッドフォンなどとの接続はSBCコーデックでの接続となる。

ワイヤレストランスミッターはUSB-C接続と光デジタル接続が可能

BRAVIA XRとワイヤレストランスミッターを接続。スマホで個人特性の最適化も行なう。

SRS-NS7のネックバンドスピーカーとワイヤレストランスミッターはペアリング済みで出荷されているので、BRAVIA XRとワイヤレストランスミッターを光デジタル音声ケーブルとUSB-C端子で接続すれば準備は完了。

取材用にお借りした「XRJ-55A80J」と接続すると、ワイヤレストランスミッターのインジケーターが点灯。SRS-NS7の電源をオンにすると自動的に接続される。接続完了のメッセージがネックバンドスピーカーから聴こえたら、XRJ-A80Jのリモコンを使ってクイック設定で機能メニューを呼び出せばいい。メニューに「3Dサラウンド」の項目が追加されていて、そこに「SRS-NS7」の名称が表示されている。

基本的には、この状態で3Dサラウンドを「入」にすれば、Dolby Atmos音声のコンテンツの再生中ならばDolby Atmosの再生になる。Atmos音声以外のステレオ音声や5.1ch音声なども3Dサラウンド機能で擬似的な立体音響になる。軽く試してみたが、ステレオ構成のネックバンドスピーカーながらもサラウンド感はなかなか豊かで、高さ感もしっかりとある。空間の広がりも頭の周りだけでなく、身体全体を包み込むような包囲感もあり、サラウンド感はなかなか優秀だ。

ただし、ちょっとバーチャルサラウンド的というか、人工的なサラウンドにも感じられる。これは、一般的な人の聴感特性の平均値を元にした特性のため。もうひと手間かけて、個人の特性に合わせた最適化を行なう必要がある。

個人の特性の最適化は、別途スマホ用アプリの「Headphones Connect」や「360 Spatial Sound Personalizer」を使って行なう。「360 Reality Audio」を体験したことのある人ならばご存じかもしれない。左右の耳の写真を撮影して特性を測定するものだ。

アプリを起動して、ガイドの指示通りに撮影を行えばいい。注意点は、スマホでのアカウント登録と、BRAVIA XRでのアカウント登録で同じユーザーIDを使用すること。BRAVIA XRでは、初期設定時にアカウント設定などを行うので、ひととおりきちんと設定しておこう。個人の測定データはクラウド上に保存され、クラウド経由で同じアカウントのBRAVIA XRに転送されるわけだ。

「360 Spatial Sound Personalizer」を使った個人聴感特性データの作成。アプリを起動したらガイドの説明通りに写真撮影を行なう
左耳の撮影。一人でも撮影ができるようにカメラの位置などを指示してくれる
左耳と右耳の撮影が完了。この画像を元に、聴感特性の最適化が行なわれる
耳の形の測定中。測定が完了すると、データはクラウド上にアップロードされる

聴感特性データの作成が完了したら、スマホでの操作も終了。XRJ-55A80Jに戻って、設定画面を呼び出す。そこにある「リモコンとアクセサリ」の項目を選択すると、「3Dサラウンド ネックバンドスピーカー/ヘッドホン」の項目が増えている。ここで設定を行なう。

3Dサラウンド機能のオン/オフはクイックメニューから切り替えできるが、聴感特性データの変更はここでしか行なえない。初期設定である一般的な人間の特性データのほか、先ほど測定した個人データが選択できるようになっているので、ここで切り替えるとデータの最適化が完了する。3Dサラウンドのデモを試してみれば、立体的な音の広がりがより自然なものになっているのが感じられるだろう。

「設定」にある「リモコンとアクセサリ」の項目。3Dサラウンド関連の項目が増えている
「3Dサラウンド」のオン/オフ、聴感特性データの変更、3Dサラウンドのデモが行なえる
聴感特性データの変更では、測定した個人データに切替ができる。複数のデータを管理できるので、使用するユーザーごとのデータを登録しておくことが可能だ
3Dサラウンドのデモ。動画に合わせて立体的に広がる音が再生される

これで、SRS-NS7を使うための準備はほぼ完了。SRS-NS7での操作は音量調整のみだ。ここで軽くXRJ-55A80Jについても紹介しておこう。

【お詫びと訂正】記事初出時、BRAVIA側の音質設定がSRS-NS7にも反映されると記載しておりましたが、誤りでした。お詫びして訂正します。(12月3日)

有機ELパネル採用のBRAVIA XRシリーズには上級機にA90Jシリーズもあるが、認知特性プロセッサー「XR」の採用はもちろん、使用する有機ELパネルも共通。画質的な実力や機能的な違いはほとんどない。A90Jシリーズとは、内蔵スピーカーや装備など、細かな仕様の違いがあるだけだ。サイズバリエーションはA90Jが83/65/55型に対して、A80Jが77/65/55型となっている。

現時点でちょっと気になるのは、SRS-NS7がパーソナル用途のモデルなのに、液晶テレビのBRAVIA XRシリーズも含めても最小サイズが50型という点。50型となると家族みんなで使うリビングに置かれることが多いと思うし、パーソナル用ならば40型クラスのサイズを選びたい人もいるだろう。来春モデルでは、BRAVIA XRシリーズのラインアップに有機ELの48型や液晶の40型クラスも加わると期待したい。

XRJ-55A80Jは、新しいインターフェースのGoogle TVも採用していて、充実した動画配信サービスへの対応に加えて、独自のサービスである「BRAVIA CORE」なども備え、魅力の大きなモデルだ。なにより、最新鋭の有機ELパネルによる映像はコントラストもさらに向上し、暗部再現性の豊かさも含めて実にリアルな表現力を得ている。こうした映像表現力の実力は見事なもの。

ちょっと手間取ったのが、何故かドルビービジョン信号を受け付けなかったこと。外部入力からの4K HDR信号は受け付けるのに、ドルビービジョンとはならずHDR10として認識されてしまう。もちろん、動画配信サービスで試せばドルビービジョン信号をきちんと受け付ける。

結論としては、HDMI信号フォーマットの設定の問題だった。標準的なHD信号と、4K信号や8K信号にも対応するように設定で切り替える必要があった。そのフォーマット切り替えで、4K信号などに対応する拡張フォーマットに切り替えるのだが、拡張フォーマット(ドルビービジョン優先)という項目まであったのが盲点だった。4K HDR信号には対応するので、HDMI信号のフォーマットの問題とは気付かなかったのだ。UHD BDプレーヤーなどでドルビービジョン収録のソフトを再生する場合は、この点に注意して信号の設定を確認しておこう。

「設定」にある「放送と外部入力」の項目。ここの「外部入力設定」で「HDMI信号フォーマット」を選択する
「HDMI信号フォーマット」の項目。標準/拡張のほか、拡張(ドルビービジョン優先)という項目がある
設定の確認後。無事にドルビービジョン信号を認識し、画質モードがドルビービジョン用のものに変わっている
入力信号を確認したところ。きちんとドルビービジョン映像とDolby Atmos音声を認識している。動画配信でのAtmos音声はロッシー圧縮のDolby Audio+Atmosであるため、UHD BDなどの再生ではきちんとロスレスのDolby True HDであることを表示するのが最近のトレンド

「ゴジラvsコング」の上映。豊かな立体感はどこまで味わえるか

いよいよ上映だ。「ゴジラvsコング」は、ギャレス・エドワース版の「ゴジラ」、続編となる「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」に連なる作品で、同じモンスターユニバースの作品である「コング」とも世界観を共有している。個人的には、日本版「ゴジラ」でも登場したキングギドラなどが登場する「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」の方が好きだが、こうしてシリーズを通して見てみると、本作もなかなか楽しい。

コングは本作では斧のような武器も使うが、基本的に徒手空拳で戦うので、放射能火炎という飛び道具のあるゴジラとのバトルでは不利に感じるが、それを俊敏な動作で超接近戦に持ち込む展開が痛快。要するに生身の殴り合いだ。

ゴジラも噛みつきや両手の爪で攻撃するなど、きちんと肉弾戦の相手をしてくれるあたりは横綱の風格。ただのプロレスには陥らず、コングの素早い動きに合わせて、ゴジラが四つ足歩行で突進するなど、今まではあまり見られなかった恐竜的な動きでバトルを展開するのもいい。ストーリーを丁寧に紹介するような作品でもないので、映像的・音響的な見どころをピックアップしながらインプレッションをしていこう。

SRS-NS7は3Dサラウンドをオンとした。まず感じるのが、Atmosらしい立体的な音響がきちんと再現されているところ。SRS-NS7は前半での解説の通り、スピーカーユニットが左右が連結された根元に近い位置にあり、装着した状態ではちょうど耳の直下にスピーカーユニットがあるイメージだ。そのせいもあって、3Dサラウンドをオフとしてステレオ音声の音楽などを聴くと、スピーカーというよりもヘッドフォンに近い聴こえ方になる。多くのネックバンドスピーカーが、ユニットをネックバンドの下端に配置して音が前の方から聴こえてくるのとはかなり印象が違う。

だから、ヘッドフォンに慣れた人に馴染みやすく、スピーカー的な音を期待するとちょっと不自然さもある。Dolby Atmosなどのサラウンド音響のものではなく、音楽やテレビドラマなどのステレオ音声が多いものを中心に見る人だと、好みが分かれそうだとも感じる。これが3Dサラウンドをオンにすると、ガラリと聴こえ方が変わる。セリフはきちんと目の前に浮かび上がるし、音楽は前方を中心に広々と左右に展開する。横や後ろへの音の響きも加わって包まれるようなドーム状の音響空間になる。もちろん、高さ感もしっかりとあり、思った以上に本格的なサラウンド音響だと感じる。

コングを保護するモナークの面々は地球の内部にあるとされる空洞世界がコングの故郷であるとの仮説のもと、その入り口のひとつである南極にコングを移送する。駆逐艦や空母に守られた巨大なタンカーに乗せての船旅だ。タンカーの艦橋からコングの様子を見て、甲板に出てコングの間近に向かうシーンがあるが、コングが画面に見えているときはその声が前から。カットが変わってコングが見えなくなると、コングがいると思しき横の方や後ろの方からコングの唸るような声が響いている。シーンのアングルの変化に合わせて音も移動するので、サラウンド感の確認にも使える場面だ。

このシーンで、コングの声を前方だけでなく横や後ろからも実体感のある音で再現する。方向感や定位も優秀だし、移動感もスムーズだ。強いて言うならば、真後ろの音はやや距離が近い感じで後ろの空間の広がりはやや足りないと感じるが、横方向の広がりは自宅の120インチのスクリーンで見ていても不足を感じないほどワイドだし、セリフなどの前方の音もスクリーンやXRJ-55A80Jの画面から鳴っているような距離感があるので大きな不満はない。ちなみに個人の聴感特性データの最適化を行わないと、この空間の広がりがやや方向感を強調したような感じになり、不自然さや違和感になる。

のんびりとした船旅と思わせながら、当然のようにゴジラがやってくる。今作でのゴジラの行動はきちんと筋が通っていて、モナークに敵対する陣営が密かに計画している何かを追っている。だが、太古の昔からの因縁の相手であるコングが姿を現せば、無視はせずに攻撃してくる。背びれだけを見せながら海上を進むゴジラを戦闘機やミサイルで迎撃するが、ミサイルの飛翔音は空間を自在に飛び回るし、そのまま駆逐艦を真っ二つにしてしまうなど、映像的な迫力も満点。

一度はタンカーにつながれたまま海中に没するコングだが、暗い海の中でのシーンも見通しがよく、放射能火炎を吐くときに尾や背びれだけでなく目も光る演出も迫力満点。ディテイルの精密さと海中での青みがかった色調もリアルで、XRJ-55A80Jの実力の高さもよくわかる。

なお、本作は3D上映も行なわれており、海外盤のみだが3D版も発売されている。アクションパートでは3Dを意識した演出も数多いので、3D対応の薄型テレビやプロジェクターをお持ちの人は海外盤の3D版も楽しい(ただし音声はDolby AtmosではなくDTS HDの7.1ch)。ディテールの再現などでは4K HDRの方が情報量が多いと感じるが、3D版のアトラクション的な立体感もなかなかいい。

しまいには空母の甲板上にコングとゴジラが乗って、壮絶な殴り合いを展開するのだが、音響的な迫力もあってかなり楽しめる。SRS-NS7はコングやゴジラのうなり声に含まれる重低音や、重量感たっぷりの足音ではローエンドの伸びにやや不足はあるのだが、うなり声が空間に響いていく感じやズシンとした音の感触はきちんと再現できるなど、低音感はしっかりとしている。このあたりの低音がたっぷりのシーンではパッシブラジエーターもわずかながら振動し、その感触もあって迫力不足とは感じない。けっして安っぽい怪獣のプロレスを見ているような興醒めの感覚にはならない。

そして、SRS-NS7を装着している聴き手としてはかなりの大音量で鳴らしているが、そばに居る人からはあまりうるさく感じない音量であるのは大きなメリットだ。隣に居る人の感覚としては、音量的には一般的なテレビの音量程度のもので、横で一緒にテレビの画面を見ていると、音場感は少々変になるが、セリフも含めてきちんと音は聞き取れる感じ。そして、それだけの大音量で視聴していても、隣りにいる人の声もきちんと聴こえるし会話も問題なくできる。このあたりがヘッドフォンでの視聴とはまるで異なってくる。

SRS-NS7の空間再現はかなり優秀で、サウンドバーや後で紹介するヘッドフォンよりも空間感は優れると感じた。さらに映画館そのままの音響を求めるならば、HT-A9とオプションのサブウーファーの組み合わせとか、AVアンプとスピーカーによる本格的なDolby Atmos対応システムということになる。

そう考えると、SRS-NS7のコストパフォーマンスはかなり優秀だ。音質的にもクセのない自然な感触で、ステレオ再生での素の音質は穏やかで聴きやすい傾向だ。だから、セリフもくっきりと明瞭でありながら、絶叫でも耳障りにならないし、音楽も重厚でメロディーまできちんと再現する情報量を確保しながら、聴き疲れのしない心地よさがある。無理に重低音を欲張っていないのも、こうした聴き疲れしないことや聴き心地の良さを意識しているのかもしれない。

ヘッドフォン「WH-1000XM」では、3Dサラウンドはどう感じるか

WH-1000XM4。高機能なノイズキャンセル機能を備えたワイヤレスヘッドフォンで、人気の高いモデルのひとつ

ここからは、単売のトランスミッター「WLA-NS7」対応モデルであるWH-1000XM4で聴いた印象と合わせて紹介していこう。

ゴジラは香港に上陸し、暴れ回っている。空洞世界での故郷を発見したコングも、ゴジラとの対戦のためか香港へと向かう。香港の夜景はビルのネオンが美しく、かつての電脳空間を思わせるような独特なものになっていて、都市部の夜景から連想するイメージとはずいぶん違う。これはこれでもなかなか見応えがあり、コロナ禍が収束したらぜひとも香港に行きたいと思うほど。それはさておき、高層ビルに囲まれながらもコングはビルの谷間を自在に駆け回る。ゴジラは対照的に邪魔なビルはなぎ払い、放射能火炎で破壊する。実に対照的なスタイルだ。

WH-1000XM4への切り替えは、SRS-NS7のワイヤレストランスミッターの接続ボタンを長押しにしてペアリングを行なうだけでいい。ペアリングが完了すると、XRJ-55A80Jでも認識し、機器データが保存される。あとの操作はSRS-NS7とまったく同じで、クイックメニューには機器名が表示されるし、個人特性データの切り替えなどもできる。

ワイヤレストランスミッターとのペアリングが完了すると、自動的にBRAVIA XRで機器データの保存が行なわれる
接続完了後は、クイックメニューにWH-1000XM4の名称が表示され、切り替わっていることが確認できる

WH-1000XM4に切り替えると、3Dサラウンド:オフではまったく通常のヘッドフォン音質になる。音質的にはWH-1000XM4の方が低音までしっかりと出るし、情報量もより豊かだと感じる。さすがは音質の面でも評価の高い人気モデルだけのことはある。

音質を求めるならば、BRAVIA XRとWH-1000XM4を組み合わせ、WLA-NS7を追加するのも有効な選択だと思う。ヘッドフォンでしかもノイズキャンセルも優秀で、隣の人の声も聴こえにくくなるほど映画の音に没入できてしまうので、使い勝手は大きく違う。このあたりは実際の使い方や好みでの選択になるだろう。

サラウンド空間の再現としては、空間の広がりという点ではSRS-NS7の方がより広大だ。WH-1000XM4では狭いと感じるほどではないが、SRS-NS7が大きめの映画館とするならば、WH-1000XM4だとミニシアターくらいの広さと感じるような、その場所にいる空間の広さ感に違いがある。これは、WH-1000XM4が密閉型ということの影響が大きいと思う。

このあたりは、カナル型イヤフォンの「WF-1000XM4」ではまた違った空間感になると思うし、仮に開放型のヘッドフォンならばより空間の広い再現になると思う。SRS-NS7はそのあたり、ヘッドフォンではなくスピーカーなので空間の大きさでは有利だ。

一方で、低音はサブウーファーを備えたシステムに匹敵するほどローエンドまで伸びるので、迫力はWH-1000XM4が段違いに勝る。ずしんと響く足音はその実体感のある感触だけでなく、その場の空気まで震えるような耳に聞こえない重低音の響きまで伝わる。細かな音の再現性や定位もさらに緻密なので、空間が広大すぎないこともあって、ダビング用のスタジオで聴いているような、精密に細かな音まで確認できるような感覚がある。情報量は明らかに上だし、音質的な満足度も高い。「ゴジラvsコング」のような映画を1本見たら、ヘッドフォンを外して耳を休めたくなるくらいの心地良い疲労感はある。

そのため、香港でのゴジラとコングの戦いでも、ビルの谷間をかいくぐるようなコングの俊敏な動きはWH-1000XM4の方がより実感できるし、より間近で両者のバトルを見ている感覚もある。SRS-NS7は高みの見物というほどではないが、少し遠目の位置から見ている感覚。ゴジラがビルをなぎ倒しながら突進するときの迫力や両者が激突するときの迫力など、スケール感が豊かだ。極論すれば空間のスケールの大きさか、重低音のエネルギー感と情報量の豊かさかの選択になるが、どちらを選んでもサラウンド再生としての満足感はかなり高いと思う。

サラウンドを存分に楽しむための環境はますます充実してきている。今こそAtmos導入を

ゴジラとコングの戦いは一進一退の攻防となるが、クライマックスでは本作でゴジラが各地に上陸した理由がついに姿を現す。このラスボスとの対決も当然ながら見応え満点だ。前作のような豪華さにはやや欠ける感もあるが、東西の二大怪獣の対決でありモンスターユニバースのひとつの締めくくりともなる作品なので、怪獣ファンならばぜひ見てほしい作品だ。しかも巨大な怪獣のスケールを味わうならば、劇場で見るのが理想だし、家庭での視聴でも大画面テレビとAtmos音響は欠かせないと思う。

BRAVIA XRとの組み合わせが前提とはいえ、SRS-NS7のような価格的にも手頃な製品が登場してきた今、Dolby Atmosへの対応は映画ファンやAVファンだけでなく、誰でも検討した方がいいと思う。

その意味で、BRAVIA XRシリーズがテレビ自体の優秀さだけでなく、オプションとして組み合わせる機器を充実していくことで商品の魅力をさらに高めていくのも上手いやり方だと思う。他社製のテレビやプロジェクターを使っている人にはちょっとくやしいところだが、テレビやオーディオ機器、ゲーム機まで発売しているソニーならではの強みでもある。

動画配信サービスの普及で映画はますますお手軽なものになっているが、映画は設備や環境の整った映画館で見るのが理想的な姿であることを忘れないでほしい。スマホなどで視聴を否定はしないが、映画ファンを自認するならば、映画館に脚を運んだり、自宅のテレビや音響を少しだけでも映画館に近づけてみてほしい。その方がきっと映画の魅力も増すと思うのだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。