鳥居一豊の「良作×良品」

第125回

ライバル登場でもその優秀さは揺るがない! テクニクス「EAH-AZ80」の魅力に迫る

テクニクス「EAH-AZ80」

テクニクスの「EAH-AZ80」(実売3万6,630円)は、今年の6月に発売されたモデルで、テクニクスのワイヤレスイヤフォンの最上位モデルだ。ソニーの「WF-1000XM5」など、競争の激しい完全ワイヤレスイヤフォン市場において覇権を取るべく開発された、力の入ったモデルでもある。

新製品というには少し時間が経過しているが、音質はもちろん、ノイズキャンセリング、通話品質、装着感など、さまざまな面で優秀な実力を備えている。個人的に気に入って、日々愛用しているので、その魅力を紹介したい。

EAH-TZ700譲りの口径10mmアルミ振動板を採用

この完全ワイヤレスイヤフォンというジャンルでは、ソニーやボーズ、ゼンハイザーやJBLといったメーカーが、いわば定番的存在で、もちろん実力も優れる。さらに高級イヤフォンブランドなども次々に参入してきており、競争は激しい。テクニクスはその母体であるパナソニックのブランド名でヘッドフォンやイヤフォンを発売してきたが、ブランド力とか知名度という点では先にあげたブランドには劣る。

そんなイメージを打ち破るべくブランド名をテクニクスとして新たにラインナップしたのが「EAH-AZ70W/AZ60/AZ40」というモデル。新たに登場したEAH-AZ80は、その意味で第2世代にあたる。

耳の中に収まる部分がふっくらと大きくなっているのが特徴

音質面の特徴としては、第一に直径10mmのアルミ振動板をドライバーに採用したことが挙げられる。これは有線タイプの高級モデル「EAH-TZ700」譲りのものだ。ちなみにEAH-AZ70Wは口径は同じ10mmだが、振動板はグラフェンコートのPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)となっている。またAZ60やAZ60M2は口径8mmのバイオセルロース振動板だ。

有線タイプの高級モデル「EAH-TZ700」

これについて技術説明で詳しく話を聴いたことがある。なぜ、同じ振動板ではなくさまざまな素材を使い分けるのかと。こちらが期待した10倍くらいの説明が返ってきて驚いた。

簡単にまとめると、アルミ振動板は優れた素材だがイヤフォンで使われる樹脂系の素材に比べると硬く重いため、使いこなしが難しい。そこでAZ70Wでは強度を内部損失に優れた素材としてPEEKを使って、グラフェンコートで硬度を高めている。

AZ60M2は口径8mmのためアルミは硬すぎてクセが出てしまうため使えない。バイオセルロースは昔からある素材だが、口径8mmの振動板として強度と内部損失のバランスが良く理想的とも言っていい素材だそうだ。つまり、口径によって求める特性は変わってくるので、最適な素材を選ぶ必要があるというわけだ。

使いこなしの難しい素材であるアルミ振動板は、TZ700では磁性流体をダンパーとして採用するなどの工夫を加え、AZ80では柔らかいエッジで支えるフリーエッジ構造を採用。これにより剛性の高さを活かして大振幅でも振動板が負けることがなく豊かな低域の再現と色づけのない中高域の特性を実現している。

左が10mm径のアルミニウム振動板
筐体内部

これに加えて、ドライバー後端に専用の音響空間を設けてドライバーの後ろ側の空気の流れを制御するアコースティックコントロールチャンバー、ドライバー前方に配置して高域特性を改善するハーモナイザーを搭載。完全ワイヤレスイヤフォンはご存じの通りバッテリーやBluetooth接続のための信号処理回路、駆動用のアンプなどがあり、ドライバーのスペースは思った以上に狭い。その制約の中できちんと音響構造を設計しているメーカーは実は思ったよりも多くはない。

振動板の素材の選択にしても、こうしたアコースティックな構造できちんとした音響特性を実現するという点でも、テクニクスはかなり豊富なノウハウを持ち、地道というか真っ正直な製品作りをしているメーカーであるとわかる。

そのことがよくわかる新しいフィーチャーが「ダイレクトモード」だ。

小さなボディにさまざまなパーツを詰め込む必要がある完全ワイヤレスイヤフォンでは、Bluetooth用IC、オーディオ信号処理&アンプ回路などの部品は1チップ化されている。ここには音質調整のためのイコライザーもあり、メーカー側でも音造りに使用しているしユーザーはスマホなどのアプリで音質調整を行なうこともできる。

しかし、イコライザー回路は音質への影響もあるため可能ならばバイパスしてしまいたい。だが1チップ化の進んだ現在の部品ではバイパス回路を追加するのは難しかったので、イコライザー回路の動作をシンプル化して音質への影響を最小限とするモードを追加した。これが「ダイレクトモード」だ。当然イコライザー機能は使うことができなくなるが不要な音質劣化を大幅に抑えることができたという。

ダイレクトモードを備えている
スマホ用アプリ「Technics Audio Connect」のサウンドモードの画面。ここで「ダイレクト」モードに切り替える。各種のプリセットを選んだり、好みでイコライザー調整もできる

「ダイレクトモード」はスマホアプリで切り替える機能だからスマホで音楽を聴くときだけ有効な機能を思われがちだが、それは違う。一度「ダイレクトモード」に切り替えると、イヤフォン側ではそのまま固定されるのでその後に音楽再生用のオーディオプレーヤーなどと接続しても「ダイレクトモード」が維持される。優れた音質のプレーヤーで音楽を聴くときもダイレクトモードを利用できるのだ。逆にイコライザー機能を使いたいときはスマホアプリで切り替えれば、他の機器との接続時でもイコライザー機能が入った状態となる。

これがなかなか有効な機能で、サウンドモードでイコライザープリセットの「フラット」を選んだ状態と、ダイレクトモードを聴き比べてみると、明らかに情報量が変わっていることがわかる。前述の通り動作としてはイコライザー回路をバイパスしているわけではないが、オーディオアンプなどでトーンコントロールや不要な回路をバイパスする「ピュア・ダイレクト」などの機能と同等の効果があると感じる。さすがはオーディオ専業ブランドとも思うが、回路のバイパスではなく信号処理をシンプル化するという手法でそれを実現するあたり、高音質へのこだわりが並のものではないとわかる。

ノイズキャンセル機能をはじめとする、機能性へのこだわり

完全ワイヤレスイヤフォンはそもそもが有線タイプのケーブルの煩わしさを解消するためのものでもあり、音質だけ良ければそれでいいとはならない。なかでもノイズキャンセル機能は完全ワイヤレスイヤフォンの高級モデルでは購入の選択肢となる重要な機能だ。

デュアルハイブリッドノイズキャンセリング
小さな穴が沢山空いているのがノイズキャンセリングと通話用のフィードフォワードマイク

EAH-AZ80では、EAH-AZ70Wで採用された「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」を継承。本体外側のフィードフォワードマイクはデジタル制御、本体の内側のフィードバックマイクはアナログ制御とし、ノイズキャンセルの精度を向上している。周囲のさまざまな音を拾ってその音を打ち消すフィードフォワードでは高精度な信号処理が可能なデジタル制御を使い、耳の中まで侵入したノイズを打ち消すフィードバックでは遅延の少ないアナログ制御で、違和感なくノイズを打ち消すというわけだ。なんともきめ細かい心配りだ。

そのためもあって、テクニクスの完全ワイヤレスイヤフォンのノイズキャンセル機能は聴き心地が良いというか、不自然さのない静けさが得られることが印象的だ。EAH-AZ80では外側のフィードフォワードマイクの性能を向上させ、さらにノイズ低減性能を高めていることもあり、より静かでしかも心地よさが得られるようになっている。

ノイズキャンセル機能は各社ともに性能が向上してきているが、製品によっては耳の穴に指を突っ込んで耳を塞いだときのような閉塞感を感じるものもあるし、静かだが緊張を強いられるような違和感を感じるものもある。EAH-AZ80にはそうした違和感はほとんどなく、不快な音をシャットアウトできる。

スマホ用アプリ「Technics Audio Connect」を使えば、ノイズキャンセリングの最適化も行なえるのでユーザーはぜひ試してみてほしい。この最適化を行なうことで、不自然な感じや騒音は感じないものなにかざわざわした感じも解消でき、さらに使い心地がよくなる。

「Technics Audio Connect」の設定にある「ノイズキャンセリングの最適化(事前調整)」。ノイズの多い場所で一番静かに感じるところを選ぶだけでいい

通話品質へのこだわりも同様だ。独自の音声処理技術「JustMyVoice」テクノロジーは、複数のマイクを活用したビームフォーミング技術や音声解析技術などを組み合わせたもので、周囲のノイズと発話者の声を判別し、ノイズを低減して相手に自分の声がはっきりと聞こえるようにするもの。

面白いのは、最近各社でもアピールすることが多い風切り音の低減。テクニクスではノイズキャンセル用のマイク自体も風切り音の影響が少ないラビリンス構造とするなどの工夫をしていたが、EAH-AZ80では、風の強い場所では発話検知マイク(骨伝導マイク)の音声を重畳して風切り音の影響を低減するという。骨伝導マイクの拾う自分の声は聞き慣れない声になってしまいやすいので本来は発話を検知するためだけに使っているが、風が強い時だけ使用するというわけだ。

ハウジング上に黒くスリットのように見えているのが通話用マイクク

ビームフォーミング技術や高性能MEMSマイクの採用など、ハイテクの塊であり、ソニーやボーズのようにノイズキャンセリングヘッドフォンを長年やってきたメーカーならともかく、テクニクスがすぐにモノにできてしまうことに感心するが、実はパナソニックのコードレス電話の技術だとか。

パナソニックという会社は洗濯機や冷蔵庫といったいわゆる白物家電も扱う総合電器メーカーだ(以前は携帯電話も開発していた)。そのぶん基礎研究の分野でもさまざまな領域をカバーしており、その底力は計り知れないものがある。ちなみに操作のためのタッチセンサーをBluetooth用アンテナとして活用するアイデア、イヤフォンの左右独立受信方式などでも、パナソニックの技術力が集結しているという。

「Technics Audio Connect」では、快適な通話を実現する機能もこまかく気配りされていて、通話相手からの声がノイズにうもれがちな場合のノイズ低減効果の調整ができる。また、「JustMyVoiceの確認」という機能を使うと、相手に届く声がどう聞こえるかを確認することが可能。うるさい場所などで事前にチェックしてもいいし、ふだんあまり電話をしない筆者にとっては通話品質の確認が容易にできるという点でも重宝している。

トップ画面から選べる「JustMyVoiceの確認」。うるさい場所でも周囲のノイズだけを打ち消して自分の声だけはっきり聞こえるのがわかる

大きなようで小さい!? ユニークな「コンチャフィット形状」

筆者がEAH-AZ80で一番気に入っているのが、これだ。「コンチャフィット形状」とは耳穴の周囲のくぼみである「コンチャ(耳甲介)」にフィットする形状のこと。EAH-AZ80の本体をよく見てみるとイヤーピースのある内側がふっくらとした膨らんだ形状になっているのがわかる。最初は音のため(ドライバーの音響空間を確保するため)の形状かと思ったが、装着せずに本体をみるとボディが思った以上に大きいことがわかる。

だが、その膨らんだ部分は耳のくぼみに収まってしまうので、耳の外にはみ出す部分はそれほど大きくない。耳の外へのはみ出しが大きくで髪に触れたくらいで当たってしまうこともないし、ちょっと首を振っただけでずれたり、外れてしまったりすることもない。

EAH-AZ80を内側から見たところ。イヤーピースを中心に膨らんだ形になっている

装着感というかフィット感で言うと、カスタムIEMのような自分の耳型を取ってそれに合わせた形状にしたものは確かに理想的ではある。専用のカスタム仕様のものはピタリと吸い付いて簡単には外れないくらいだ(正しい外し方がある)。ただしフィット感が良すぎてよほど慣れた人ならばともかく、慣れないと常時硬いモノが耳に押し込まれている感覚があって好みははっきりと別れると思う。

EAH-AZ80のコンチャフィット形状はそこまでピタリと吸い付くほどではないが収まりが良い。ずれにくさは十分だし、ピタリとハマっているわけではないから不自然さもない。ボディを耳の穴の周囲(コンチャ)全体で支えるため、イヤーピースだけでボディを支える一般的なタイプと違って耳の穴への負担が少ない。この装着感はたいしたものでぜひ試してみて欲しいと思う。写真や実物を見ていると大きく見えて邪魔になりそうにも感じるが、試聴のできる店などで実際に装着してみると印象はかなり変わるはずだ。

イヤーピースもシリコン製の正円タイプを7つのサイズ付属している。ありがたいのは耳の穴の小さい人用にXSとSサイズは高さの異なるものを用意していること。最近は各社も追従してきているが、小さめのサイズを重視するのはパナソニック時代からの伝統で、現行モデルでもEAH-AZ40は完全ワイヤレスでは最小クラスのコンパクトなサイズとなっている(ドライバーは専用に設計されている)。

さらに興味深いのが、スマホアプリ「Technics Audio Connect」の「最適なイヤーピースを選ぶ」という機能。まず現在使っているイヤーピースで測定し、異なるサイズのものと交換して測定を行なって音漏れなどをチェックして最適なサイズかどうかを確認できるもの。これが実に便利で、なんとなく決めてしまいがちなイヤーピースのサイズをきちんと確認できる。こういう機能を次々にアプリに盛り込んでいる点もテクニクスのワイヤレスイヤフォンの大きな魅力だ。

「Technics Audio Connect」の設定画面。使用するためのガイドをはじめ、さまざまな設定機能がある
「最適なイヤーピースを選ぶ」の測定中の画面。多少手間はかかるが、最適なイヤーピースのサイズに迷うことが多い人には実にありがたい機能だ
「Technics Audio Connect」のトップ画面。電池残量などが確認でき、主要な機能へのアクセスもしやすい。また、手元に充電ケースがない場合のため電源ボタンがついているのが便利

充電ケースにも触れておきたい。充電ケースは一見大きな違いがないようだが、EAH-AZ80Wものはケース上面がアルミ製でヘアライン仕上げにTechnicsのロゴが彫られている。これはハウジングのタッチパネル部分のスピン加工と同じくテクニクスの据え置きオーディオ機器に通じるデザイン。細かい部分ではあるがフタを開けたときのヒンジ部分を改善して開けたときの強度を向上。ケース内部にもLEDを追加して動作状態が確認しやすくなっているなど細かく改良されている。

ワイヤレス充電規格「Qi」に対応したのも便利な点だ。USB-Cでの充電も従来通り行なえるが、頻繁に使っていると置くだけでOKのワイヤレス充電は本当に便利だ。このように、EAH-AZ80は本体はもちろんのことケースに至るまで完成度を高めている。SNSなどでユーザーが増えているのをよく見るし満足度も高そうなのは、こうした細かな気配りがよく出来ていることも大きな理由だと思う。

付属の充電ケース。上面はアルミのヘアライン仕上げ
イヤフォンを収める部分の真ん中にある黒い点が新設されたLEDランプ
ケースの後ろ側。充電用の端子はUSB Cとなっている。ワイヤレス充電にも対応する

丁寧に仕上げられた音質、PS5の3Dオーディオも効果大

音質についても紹介していこう。

クラシックのオーケストラ演奏などを聴くとよくわかるのが、カリカリの高解像度という感じはあまりなくどちらかといえば穏やかで聴きやすい音だ。けれど情報量が不足しているわけではなく個々の楽器の音色や質感まできちんと描く。話題になることの多い低音も、いかにも低音を増強しましたよ、という感じはあまりなく、自然に豊かな低音の伸びを感じるし、出音のスピード感や勢いの良さもしっかりと出る。そのためイヤフォンらしからぬ余裕のある鳴り方をする。

中高域は自然でどちらかといえば穏やかだが、もうひとつ言えるのが広がりの良さ。音が自然に広がる感じで、いわゆる抜けの良い音だ。ヘッドフォンやイヤフォンの頭内定位で解像感だけが突出すると、頭の中でこぢんまりとしたステージが精密に再現される感じになりがちで、どのメーカーも解像感と音の広がりやスケール感のバランスにはいろいろと苦労していると思うが、そのあたりのまとめ方もうまい。これは、きちんと音響空間を確保するなどドライバーとハウジングで「素の音」から音作りしているためだと思う。真っ当なアプローチで仕上げられた上質な音だ。

また、オーディオプレーヤーでLDAC接続で聴いた時とiPhoneなどとのAAC接続時を比べても、良い意味で大きな落差を感じない。プレーヤーの差もあるとはいえLDACで聴いた方が情報量豊かで質感にも優れるが、AAC接続だからといって大きな落差を感じることはない。AACで大きめの音量で聴いていると、曲によっては高域がやや粗っぽく感じることがあったくらいだ。これも通勤や通学など屋外で日常的に使うことの多い人にはありがたい。

LDACは電波状況が良い環境では音質的に明らかに優位だが、混雑した場所などではどうしても接続が不安定になりがちだ。そのため、電車などでの移動でよく使う人はLDACを使わない接続安定性を重視した設定にしている人もいるかと思う。そんな使い方でも音質の良さ、聴き心地の良さを実感できる出来になっているのは立派だ。

今やすっかりお気に入りの久石譲とロイヤル・フィルによる「ジブリ音楽集」から「ナウシカのテーマ」を聴くと、ホール感の豊かさを解放感のある音場で再現し、フォルティッシモの雄大な合奏の力感もしっかりと出る。イヤフォンはバッテリー消費を抑えるためもあり、アンプ出力が控えめなことが少なくなく音量は得られてもエネルギー感やダイナミックレンジの広さが物足りないこともあるが、EAH-AZ80はそれを感じさせない底力のある音が楽しめる。イヤフォン単体で約4.5時間(LDAC接続時、ノイズキャンセルON)~約7時間(AAC接続時、ノイズキャンセルON)使えるなど、連続再生時間も十分ある。

iPhone14からAstell&Kernの「A&futura SE300」に変えてLDAC接続で聴くと、ステージの広さはさらに拡大しそれでいて音像はさらにフォーカスが上がる。ピアノによる主旋律も引き締まった音になる。それでいて音自体はゆったりとなめらか、丁寧に音楽を描く。映画でもクライマックスに使われる「鳥の人」などは、出音のスピードが良いため穏やかな音色でも勢いや鮮烈さがしっかりと伝わる。実にドラマティックな再現だ。

ユーザーでもあまり試していないことも紹介しようと、あれこれ考えて結局いつものゲームを試してみることにした。PS5はBluetooth機能を備えるが、Bluetoothオーディオには非対応で直接的に完全ワイヤレスイヤフォンを使うことはできない。ワイヤレスコントローラーにある有線のイヤフォン端子を使うか、専用のトランスミッターが付属する純正(または認証済み)のワイヤレスヘッドフォンを使う必要がある。これはおそらく一般的なBluetooth接続での遅延によってプレイに支障が出ることを嫌ったものではないかと思われる。

しかし、USBオーディオ出力には対応しているので、端子に接続してBluetoothでオーディオ信号を飛ばす「Bluetoothトランスミッター」があれば、EAH-AZ80だけでなく一般的なBluetooth接続の完全ワイヤレスイヤフォンなどを使うことができる。比較的安価なものも多いので試して使ってみたところ、問題なく接続ができた。PS5側ではUSB接続されたヘッドフォン/イヤフォンとして認識している。だから、3Dオーディオ機能も利用できる。

PS5のUSB端子にBluetoothトランスミッターを装着し、EAH-AZ80でゲームの音を聴いてみた

EAH-AZ80は3Dオーディオ対応というわけではないが、3Dオーディオの立体的な音響をきちんと再現できていた。「ファイナルファンタジーXVI」をプレイしてみると、なんと移動中に操作するプレイヤーキャラクターの後を追従するパーティーメンバーの足音や声がちゃんと後ろから聴こえる。BGMが前方を中心にプレイヤーを包み込むように鳴る感じや町の中のあちらこちらから住人たちの会話が聞こえる感じもなかなか臨場感がある。ワイヤレスだからプレイを中断して飲み物を取りに行ったり、トイレに行ったりするときもイヤフォンを外す必要もなく、なかなか快適。

没入感という点では現在ハマっている「アーマードコア6」がなかなか楽しかった。ゲームとしてはロボットを操るシューティングゲームで、常時ロボットの後ろ姿が見える三人称視点。序盤のヘリコプターから難易度が高く、プレイそのものは遅々として進まないが、匍匐前進で進行している。

この音響はなかなか凝っていて、どうやらロボットのコクピット内の音響を再現しているように感じている。たとえばゲーム中に作戦の説明やガイドをしてくれる通信者の声は画面に定位するというより頭の中に響くような、ちょうどヘッドセットを装着しているような感じになる。攻撃を受けた時の衝撃音なども外部の衝撃がコクピット内で反響しているような感じもする。

こういった音響のため、イヤフォンでのプレイがなかなか臨場感があっていい。3Dオーディオで音の方向感もきちんと再現できているのでプレイしやすいし、なんといっても没入度が高い。気になる遅延についても、アクションゲームがあまり上手くない筆者だとほとんど気にならないレベル。ふだんのスピーカー再生と比べて音の遅れが気になるとか、遅延の影響でプレイしづらいと感じることもなかった。これでPS VR2向けにコクピット視点というか一人称視点のモードが楽しめたりするとかなりの没入度になると感じた。

ゲームに夢中になるとついつい時間が経つのを忘れがちになるが、そんな長時間の使用でも耳が痛くなることもないし、ノイズキャンセル機能で周囲の音も聞こえないから完全にゲームの世界に入れる。Bluetoothトランスミッターが必要になるが決して高価ではないのでユーザーでゲーム好きという人はお試しを。

強力なライバルは現れても、実力の高さや総合力ではひけをとらない

完全ワイヤレスイヤフォンのような人気ジャンルでは次々に新製品が登場するし、進歩のスピードも速い。だが、EAH-AZ80は音の良さはもちろん、さまざまな機能すべての総合力では最新鋭にけっして劣らない。こうして発売以来ずっと使っていてその良さを実感しているし、次々と登場する最新モデルに埋もれてしまって話題にならなくなってしまうのは残念だ。

この記事はそんなユーザーの怨念にも似たテコ入れである。

多くの人が気になるソニー、WF-X1000M5との比較だが、音質については両者をきちんと比較試聴したわけではないが、どちらも実力は優秀。使い慣れている点や好みで筆者はEAH-AZ80が好ましいと感じている。ソニーのノイズキャンセル機能はさすがなもので、効果も優秀だし使用する場所に応じた最適なノイズキャンセル設定を自動で切り替えるなど、利便性を含めて一日の長を感じる。そして、サイズもコンパクトになって装着感が軽快になっていて使いやすさも大幅に向上した。コンパクト化したのに低音はむしろパワフルになっているのも感心する。装着感については、EAH-AZ80もぜひ試してほしいところだが、ノイズキャンセル機能やコンパクトなサイズが魅力と感じる人はWF-10000XM5がおすすめ。EAH-AZ80は音質を含めた総合力と細かな部分で完成度の高さならば決して劣ることはないはずだ。

これからも実力の高いモデルは続々と登場するだろうが、これから完全ワイヤレスイヤフォンを買おうと思っている人にも十分に候補となるモデルであることが伝わればいいと思う。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。