ミニレビュー

磁性流体ドライバー搭載、テクニクス「EAH-AZ100」さっそく聴いてみた。AZ80との違いは?

EAH-AZ100

Technicsブランドから、完全ワイヤレスイヤフォンの新たな最上位モデル「EAH-AZ100」が登場した。評価の高かったAZ80を超えるイヤフォンの登場というだけでも注目度が高いが、さらに完全ワイヤレスで業界初の“磁性流体ドライバー”を搭載しているのもポイント。体験会で短時間だが試聴できたので、そのサウンドのファーストインプレッションをお届けする。

磁性流体ドライバー

EAH-AZ100の注目ポイント

EAH-AZ100の詳細については、同日に掲載しているニュース記事を参照していただきたい。ここでは進化点の中から、特に注目のポイントに絞ってお伝えする。

まず発売日は1月23日で、価格はオープンプライス、店頭予想価格は39,600円前後と、最上位モデルなので当然ではあるが、TWSとしては高価なモデルだ。だがこの実売価格は、考え方によってはかなり“バーゲンセール”と言って良い。

というのも、EAH-AZ100は前述の通り磁性流体ドライバーという特殊なドライバーを搭載している。この磁性流体ドライバーを採用したイヤフォンには先達があり、それがTechnicsの有線イヤフォン最上位モデルとして2019年に発売された「EAH-TZ700」(132,000円)だ。

EAH-TZ700

このTZ700に搭載している磁性流体ドライバーと、EAH-AZ100に搭載している磁性流体ドライバーは、筐体内スペースが限られるEAH-AZ100に内蔵するために薄型化しただけで、構成要素としてはほぼ同じものだ。つまり、132,000円するハイエンドイヤフォンの、音質における心臓部であるドライバーと、ほぼ同じものを搭載しながら、実売約39,600円を実現したのがEAH-AZ100というわけだ。

磁性流体ドライバーとは何か?の詳細はニュース記事や以下の動画をご覧いただきたい。

簡単に言えば、既存のダイナミック型ドライバーを改良したもの。振動板の裏側にあるボイスコイルと、磁石の間に、磁性流体という、液体でありながら、砂鉄のように磁性を帯びたものを塗布する事で、ボイスコイルがより滑らかにストロークするよう工夫されている。

磁性流体
磁性流体の動き

振動板が前後に振幅する時に、ふらつかず、正確にストロークできるため、歪の少ない再生ができるというわけだ。

磁性流体ドライバーの仕組み

磁性流体による、音質改善は正確なストロークだけでなく、振動板を支えるエッジの改善にも繋がっている。振動板の動きを邪魔しないよう、エッジは柔らかく、しなやかな素材が使われるものだが、柔らかすぎると振動板を保持できない。

しかし、磁性流体ドライバーの場合は、振動板の正確な保持が可能であるため、エッジの負担が減り、より薄くできるようになった。正確に振幅する振動板の動きを、より邪魔しないエッジを採用できたというわけだ。

この磁性流体ドライバー、先ほど「TZ700に搭載しているものを、EAH-AZ100に内蔵するために薄型化しただけ」と書いたが、性能を落とさずに薄型化、小型化するのは容易な事ではない。

薄型化を実現した、ハード設計部の田中悠氏は、ちょうど入社した年にTZ700が発売されたという。「TZ700を初めて聴いた時は、そのサウンドに、言葉にならない感動がありました。あの時の衝撃をもう一度味わいたい、そして、それを有線ではなくワイヤレスの形で、沢山の人に届けたいと考えました」という。

パナソニック エンターテイメント&コミュニケーション スマートコミュニケーションビジネスユニット ハード設計部 ハード設計一課の田中悠氏

しかし、その道のりは非常に困難なものだった。「TZ700のドライバーをそのまま持ってくれば、目指した音になるかというとそう単純なものではありません。筐体の中には基板、マイク、バッテリーなど多数のパーツがあるため、搭載するには小型化する必要がある。機構部門と共同で、磁気回路や内部の容積を維持しつつ、厚みを減らすにはどうすればいいか、試行錯誤を繰り返しました。(TZ700のドライバーは既に)磁性流体、構造、各パーツが既に絶妙なバランスで成り立っていたので、本当に苦労し、構想から丸1年を費やしました。その末に、試作機から、思い描いていた音が出た時は感動しました」と振り返る。

音質を高める工夫は他にもある。BluetoothコーデックのLDACをサポートしているほか、イヤフォン内部の処理過程において、音声データが伝送される際に通過する回路での動作をシンプルにする事で、音質の変化を防ぐダイレクトモードを、AZ80から踏襲している。

イヤーピースも改良。ノズルに取り付ける根本部分に、より硬い素材を採用。全体では、従来の2層構造から、3層構造へ進化した。ノズルをより締め付ける硬さが得られ、低音をより外に逃さずに鼓膜へ届けられるようになったという。

EAH-AZ100を聴いてみる

スマートフォンとLDACで接続し、既存のAZ80とAZ100を比較試聴した。

音の進化は、圧倒的なものがある。特に低域のクオリティがまったく異なる。「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」のベースで比較すると、AZ80では「ブォーン」と低域が団子のように1つのカタマリになってしまう部分が、AZ100では分解能が高く、弦の動き1つ1つが見えるように、ほぐれて聴こえる。それでいて、低域の沈み込みはより深く、頭蓋骨に響くようなパワフルさも兼ね備えている。

“重さと細かさ”という、両立が難しい要素を、見事に両立させている。この低域再生能力の高さは、間違いなく磁性流体ドライバーの利点だ。

「星野源/POP VIRUS」で聴き比べても、AZ100の方が、声がより生々しく、伴奏ギターの描写も細かい。細かい情報も聴き取れるので、自分の耳の性能が良くなったかのように感じる。

特筆すべきは、これだけ解像度が高いのに、音がナチュラルな事だ。音のエッジが強調されるような不自然さが無く、人間の声や楽器の音に、しっかりと血が通っている。アコースティックな曲や、クラシックなどにもマッチするイヤフォンだ。

また、ノイズキャンセリング性能もAZ80から進化しており、音が出る前の無音の空間が、AZ100ではより無音になる。そのため、無音の空間から、スッと音が出てくる時の立ち上がりの素早さや、出てきた音の細かさなど、AZ100の高音質が、ノイズキャンセリングの進化によって、“よりしっかり味わえる”ようになった。この相乗効果も、AZ100の特徴と言えるだろう。

いずれにせよ、AZ80から音の進化は著しい。“じっくり聴いて違いがわかる”レベルではなく、誰でも、音が出てすぐに「まったく違う」と感じるはずだ。新年早々だが、AZ100は2025年の完全ワイヤレスイヤフォン市場において、非常に強力なモデルとして君臨するだろう。

山崎健太郎