鳥居一豊の「良作×良品」

第127回

復活オンキヨー/パイオニアのAVアンプを試す(後編)。これがDirac Liveの実力だ!

オンキヨー「TX-RZ70」はHi-Fi志向の色づけのない音

今回はオンキヨーテクノロジーから登場した高級クラスのAVアンプの第2弾。オンキヨー「TX-RZ70」(実売価格43万7,800円)を紹介する。前回紹介したパイオニア「VSA-LX805」とは兄弟モデル的な位置づけとなる。

試聴取材はパイオニアとオンキヨーを同時にお借りして聴いているので、特にパイオニアとの違いを比較しながら紹介していきたい。

オンキヨーTX-RZ70

概要としては、パイオニア同様に11chのパワーアンプを内蔵。信号プロセッシングは11.2chで、プリアウト出力も11チャンネルとサブウーファー用2チャンネルが備わっている。若干価格の高いパイオニアには、フロント用プリアウトにはXLR出力があり、サブウーファーは同じ2系統でも2出力(合計4出力)となっていた違いがある。

フロントパネルのデザインは、こちらもかつてのオンキヨーにならったものになっており、パイオニアとはずいぶん顔付きが異なる。大型のボリュームツマミを右側に備えるほか、細かな機能ボタンが数多く備わっていることが大きな違いだ。そのぶん、パネル内の操作ボタンは十字キーを中心にすっきりとした配置となっている。

TX-RZ70のフロントパネル。ボタン数が多めとなった印象で、ボタンの仕上げも異なっている
TX-RZ70の背面パネル。パイオニアに比べると、XLR入出力がなくなっているなど、装備する端子数はやや違いがある。スピーカー出力はすべてバナナプラグ対応

ネットワーク機能については、有線LANとWi-Fiを内蔵しており、Chromecast Build in、Spotify connect、Amazon Music HD、Deezer、Tune-inに対応。家庭内LANに接続されたNASなどに保存した音源の再生やUSBメモリー音源の再生なども可能だ。このほかRoon Readyにも対応したほか、Google、Alexa、Apple AirPlay、SONOSとの連携にも対応する。Bluetooth機能は送信(SBC/aptX/aptX HD)、受信(SBC、AAC)の両方に対応。このあたりの機能としてはパイオアニアと共通だ。

スマホ用アプリ「ONKYO Controler」(無料)では、ネット機能をより手軽に操作できる。各種の音楽配信サービスやネット連携機能が選べる。

背面の入出力端子は、HDMI入力が7系統。出力は3系統。背面のHDMI入力はすべてHDMI2.1対応で、4K/120pやALLM、VRRといった新機能にも対応する。もちろん、HDRにも対応しており、HDR10、HDR10+、HLG、Dolby Visionのパススルー伝送が可能。アナログ音声入力はRCA×5、デジタル音声入力は光×2、同軸×2、アナログビデオ入力として、コンポジット×2、コンポーネント×1を備える。パイオニアVSA-LX805と比べると、XLR入出力、光デジタル入力1系統、サブウーファー出力が2系統2出力となっている点が異なる。

大きく変わっているのは音に関わる部分で、オンキヨーは独自の高音質技術が盛り込まれている。D/Aコンバーター部には、アナログ波形生成技術「VLSC」が全チャンネルに搭載される。これはDACチップから出力されるパルスノイズなどを除去する技術で、通常はDAC後段のLPF(ローパスフィルター)で低減しているが、TX-RZ70ではさらにVLSC回路を盛り込み、パルスノイズなどを完全に除去するという。

パワーアンプ回路は、伝統的な技術をブラッシュアップしたハイカレント3段インバーテッドダーリントン回路を採用。動特性に注目し、NFBを最小限度とした設計思想を踏襲している。各パワーアンプは、東芝製バイポーラトランジスタを使用し、優れた瞬時電流供給能力を誇るハイカレント設計とし、左右が独立したディスクリート構成のパワーアンプとなっている。さらに高い駆動力を実現するための大容量カスタムブロックコンデンサー(1,8000μF)や、東信工業と共同開発した音響用コンデンサーを使用するなど音質を吟味した部品をぜいたくに使用している。

また、外装やアンダーシャーシは一般的な鋼板にリブを設けて補強したものを使っていて、この点はパイオニアと同様。ただし、インシュレーターはメタリックな質感のものとなっていて、クッション材もコルクであるなど、独自のパーツを使用している。

TX-RZ70の底面。パワーアンプ部の下に冷却用ファンがある作り。脚部のインシュレーターは前側だけが偏心タイプとなっているのもユニーク
付属品一式。電源コードや測定用マイクはパイオニアと同じもの。リモコンもほぼ共通だが照明のライト色が違っていた

音の定位が良好で、くっきりとした空間表現を行うDirac Live

接続を済ませてセットアップを行なう。ポイントはDirac Liveだろう。

TX-RZ70にもネットワーク接続やスマホアプリを使わずに行なえる自動音場補正機能「AccuEQ Room Calibration」もあるが、実際に試したところ、パイオニア「MCACC」の機能限定版と言えるもののようでテストトーンや測定の仕方がまったく同じだった。ただし、Phase ControlやPhase Control+といった付加機能は省略されている。

マニュアル設定でイコライザーや群遅延特性をグラフィカルに表示したり、微調整を行なう機能もない。それぞれ排他利用となるのも同じ仕様で、「Dirac Live Bass Control」が有料で使えるようになっている点も同様だ。

TX-RZ70の場合、Dirac Liveでの測定は本体側での操作ではなく、スマホ用アプリ「ONKYO Controler」から操作する。これは、測定したデータをクラウドに送信して最適化するDirac Liveの仕様に合わせたものだろう。測定は付属の測定用マイクが使用でき、視聴位置を中心に簡易測定では3箇所、推奨測定では8箇所の測定を行なう。スマホとネット接続環境が必要になるものの測定などは難しいことはなく、スマホの画面の指示に従って測定するだけでいい。

Dirac Liveも測定時間はやや長め(20分程度)。測定の信号もパルス音のほか独自の信号を使っているなど、一般的な自動音場補正機能とはずいぶんと違っている印象を受けた。測定が完了すると部屋の周波数特性が表示されるので、「機器へ転送」を選択すると測定・補正データがAVアンプに送信される。これで完了だ。Dirac Liveでの測定後はスピーカーの距離なども測定したデータに基づいたものに変更され、手動で変えることはできなくなる。フロント左右のスピーカーを等距離となるように設置している場合、マイクの設置位置や部屋の反射などの影響で誤差が出る場合がある。

自動音場補正のほか、手動によるスピーカー設定も可能。ドルビーイネーブルドスピーカーやTHXオーディオ設定などもある
スピーカーのクロスオーバー設定は、各スピーカーごとに選択可能。Klipsh用のプリセットメニューもある
各スピーカーの距離の設定画面。Dirac Live測定後はこの数値の変更ができなくなる

Dirac Liveでは部屋の反射による影響(特に一次反射)を重視した補正を行なうようで、周波数特性の補正のほか位相特性の補正も行なう。つまり、各スピーカーによる音色の違いを揃えるというよりも部屋そのものの音響特性を補正するものだと思われる。これはつまり、各スピーカーが少なくとも同じメーカーの同じシリーズであるなど、ある程度音色などの特性が揃ったシステムを使っていることを前提としたものだろう。このあたりも、どちらの自動音場補正機能を使うべきかを選ぶポイントになりそうだ。

そのため、片方のフロントスピーカーが壁よりになっている場合、あるいは片側だけカーテンや窓などがある場合、壁の反射の影響でスピーカー距離の実測値と測定値が変わってしまう場合があるわけだ。このあたりもそれなりの知識や経験は必要になるが、スピーカー設置を見直すときの参考になる。

音質や空間感についての詳しい紹介はこの後での試聴記で行なうが、簡単にAccuEQ Room CalibrationとDirac Liveでの音の違いについての印象を紹介しておこう。どちらも音色的な色づけはあまりなく、空間の広がり方に違いが出る。

AccuEQ Room Calibrationの方が空間の広がりはのびやかで部屋が広くなったような感じもある。一方で個々の音の定位はやや甘くなる。Dirac Liveでは個々の音の定位がきちんと定まり、前方から後方へ移動していくような音の定位も明瞭だ。そのぶん、空間感は特に広いという感じはなく、映画ならば室内か屋外かなど制作時に設定された空間感が忠実に再現されているようなイメージと感じた。そのため、若干ではあるがきれいに補正されすぎていつもの部屋の感じがなくなり、慣れるまでは妙に落ち着かない感じもあった。

おおざっぱに区別すると、映画館のような広々とした空間感を楽しむならばAccuEQ Room Calibrationm、映画の世界に踏み込んだような音の配置や精密な空間再現を聴き取りたいならばDirac Liveという印象になる。このあたりは、有料のDirac Live Bass Controlを使うとまた変わると思うし、好みで使い分けて構わないだろう。

音楽ソースをピュアダイレクトで。やや細身ながらも、繊細できめ細やかな再現

試聴では、まずは自動音場補正などをオフにしたピュアダイレクトで、2チャンネル再生で音楽を聴いた。プレーヤーは前回と同じくMac mini+Audirvana ORIGINで、PCのUSBオーディオ出力をCHORD「Hugo2」に接続してアナログ出力をTX-RZ70に接続している。

久石譲/ロイヤル・フィルによる「ジブリ音楽集」を聴いてみると、個々の音を精密に再現しオーケストラの個々の楽器の音色も鮮明だし、混声合唱によるコーラスもそれぞれのパートの声質をしっかりと描き、またハーモニーも美しく再現する。個々の音の分離の良さ、粒立ちのよい再現も含めてAVアンプというよりはHi-Fiアンプ寄りの鳴り方をすると感じた。

AVアンプとは言っても音楽も聴くし、どちらかというと音楽モノの方が視聴する機会が多いという人ならば、良い意味でAVアンプらしからぬピュアオーディオ的な音は好ましいと感じるだろう。

AVアンプらしい音とか、映画の音というと、感じ方は人それぞれだし定義も変わると思うが、ここでは中低音を中心とした音のバランスや特に低音の量感を多めにしたバランスとする。

その点で言うと、パイオニアのVSA-LX805は映画寄りの音のバランスで特に中低域の厚みや力強さがよく出る。アクション映画も迫力のある音で楽しめるし、力強い音のバランスだ。一般的にAVアンプはこうした音の傾向のものが多い。ただし、中低音の厚みはそのまま中低音域の混濁に繋がるため、音楽ソースだと分解能が低いと感じることもある。

オンキヨーのTX-RZ70はその意味で中低域はフラットなバランスで、音楽としては混濁感もなく粒立ちのよい再現となる。一方で映画としてはやや細身の印象になる。このあたりの違いは悩ましいところだ。

ただし、TX-RZ70が繊細で清らかだが非力なアンプかというとまったく違う。細身ではあるが低域はしっかりと力があってコントラバスや大太鼓のような低音の出音の勢いもよく、しかも芯の通った力強さもある。これはアンプの駆動力の高さだし、さまざまに変化する音楽信号に合わせて反応する動特性重視のアンプ設計やそのために瞬時電流供給能力を重視した電源供給能力の高さを示している。

ジャズを題材としたアニメ映画「BLUE GIANT」のサントラを聴くと、自分の生き様をそのまま音にしているかのようなテナーサックスの強い音もダイレクトに届くし、金管楽器特有の輝きと勢いも豊かに描かれる。ピアノは天才肌らしい繊細勝つテクニカルな演奏だが、低音パートのピアノのフレームごと共振させるような重たい響きの感触もしっかりと出る。

ドラムスも正確なリズムを刻み、派手さはないが堅実だ。このあたりのリアルな感触の表現はなかなか面白い。映画そのものをHi-Fiアンプで聴くと、音数の多さや音そのものリアルな感触に驚き、AVアンプはやっぱり音が悪いと思いがちだが、TX-RX70はそういう音が出る。AVアンプの音質にあまり良いイメージのない人ほどTX-RZ70を聴いてみてほしい。

続いては映画をサラウンドで再生。「すずめの戸締まり」をDirac Liveで見た。序盤のハイライトでもある神戸の朽ちた遊園地での戸締まりの場面を見たが、Dirac Liveを入れると最初の小さな地震での家具の揺れる音などが実に精密で、街から遊園地へと急ぐ主人公たちの様子も静かな夜の街の雰囲気と、ただならぬ災いが生じている不穏なムードもしっかりと出る。

また、戸締まりをすることになる観覧車のカゴのひとつも、ガラガラと音を立てる様子も生々しいし、扉の奥に入ってしまい、生きた人間が立ち入れない場所である隠世が垣間見えるシーンでの無機質な空間の広がりもしっかりと出る。このあたりの空間描写の精密さは見事なもの。

AccuEQ Room Calibrationとの比較で言うと、空間の精密さではDirac Liveが優位だ。AccuEQ Room CalibrationはPhase Contorolなどの機能が省略されていることもあり、各スピーカーがみじんも遅れずに一斉に音を出したときの力強さや迫力が得られず、もう一つ持ち味を活かせていない感じになる。

Dirac LiveではVSA-LX805でも感じたがアンプそのものの音色がそのまま出る印象で、TX-RZ70でもステレオ再生で感じたHiFi調の精密でリアルな音で空間を描く。だから、その場面や場所の臨場感が増す。惜しむらくはサブウーファーの低音が遅れ気味で地震の地をはうような低音は出るものの、微妙にずれてしまって迫力につながらない。

これはサブウーファーの音量を上げて解決できる問題ではないので、スピードの速い低音を出せるサブウーファーが欲しくなる。この点に関しては、サブウーファーの低音域までしっかりと位相を揃えるならばVSA-LX805のMCACCを活用するのが正解だし、TX-RZ70ならばDirac Live Bass Controlの導入を考えたいところ。

さらに迫力たっぷりの場面が続く東京での戸締まりの場面でも、東京上空の高い場所での風の音や、それが発する不穏な気配の描写もDirac Liveの方が上手だ。5.1ch収録のソフトだが高さ感もしっかりと出るものになっていて、風の音の高さ感も出るし、音の定位がシャープなのでその場の雰囲気もよく伝わる。

また、その後の東北を目指すドライブの場面では、軽快に流れるカーラジオ特有のやや音域が狭い感じまでよくわかるし、オープンカーでカーラジオを鳴らしている空間の広がりや車の走行音が絶妙に入り交じった感じをよくわかって楽しい。

休憩に寄ったサービスエリアでのちょっと重たいシーンでも、主人公らの熱の入った演技がよくわかるし、激しく降る雨は雨粒が大きくその数もたっぷりと降っている感じになる。

「すずめの戸締まり」は、地震による災害を題材としているので、地震が来るときの地鳴りや空気が揺れ動く感じなど低音がかなり入っていて、苦手な人も多かろうと思うほど迫力のある音に仕上がっている。その点で言うと、TX-RZ70は地鳴りの超低音が鳴っている感じや実際に揺れているときの動揺も伝わるが、やや細身ではある。そこが好みの分かれる部分だ。

わかりやすい例として、今やすっかり車が活躍するアクション映画になっている「ワイルド・スピードX」などを見てみると、それぞれの場面のでもアクションは十分力があるし、街中を爆走したり、高速道路を逆走するような場面でも、音の定位や移動が精密に再現されるのでスピード感はあるし、ちゃんと楽しめる。ただし、見終わった後の満腹感がやや足りない。

V8エンジンを積んだアメリカンマッスルカーが、並列4気筒の小排気量でキビキビと回るエンジンになってしまったように、全体に小粒に感じてしまうところはある。音の傾向として、こうした爆音が魅力のアクション映画にはあまり向かないので、IMAXシアターで見たときのような分厚い音の満腹感を求めるならば、パイオニアのVSA-LX805が合うと思う。

オンキヨーのTX-RZ70は、音楽映画は一番相性がよいと思うし、サスペンスやミステリー作品などなかなか緊迫感があってスリリングに楽しめると思う。オンキヨーとパイオニアの協業は以前からすすめられていたものだが、より協業が進んだ最新モデルでもそれぞれのキャラクターがしっかりと出ているのは立派だ。このあたりは北米でいくつものオーディオブランドを抱えているPremium Audio Companyの傘下であることが良い影響をもたらしていると思う。

AVアンプは日本では「そんなにいっぱいスピーカーを置けない!」ということもあるし、Hi-Fi志向が強まっている傾向を感じる現在ではあまり人気がない。HDMI(ARC)を備えたHi-Fiアンプが人気だし、その実力も優れているのだが、基本AVアンプ派の筆者には「音に拘ってHi-Fiアンプを選ぶ人がHDMI(ARC)の音でいいの?」という疑問もある。

HDMI入力でしっかりとした音を楽しむならばAVアンプに一日の長がある(アンプがいっぱいあってムダという人はバイアンプ駆動を試してみてほしい。凄いよ)。そしてオンキヨーのTX-RZ70のようなHi-Fi志向の強いモデルも登場してきている。オンキヨーとパイオニアの復活というだけでなく、AVアンプの復活も期待させてくれたこの2台はホームシアター派だけでなく、HiFiオーディオ派にとっても注目してほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。