レビュー

ヤマハ“家でも使える”超小型モニタースピーカー「HS3」をPC机やスタジオで使ってみた

音楽制作者が音楽を作るときに聴いている音——モニターサウンドと呼ばれるそれは、オーディオを楽しむユーザーの間でも、しばしば注目の対象となる。“自分の大好きなアーティストが制作過程で聴いている音”に少しでも近づきたい。「好みの音」を目指すのもオーディオの楽しさではあるが、「作り手側の音」を楽しむのもまた一興だ。

今回取り上げるのは、ヤマハの新しいモニタースピーカー「HS3」(オープン/実売27,500円前後)。ヤマハのモニタースピーカーは「MSP5」と「MSP7」が惜しまれながらも終売になり、メインのラインナップがHSシリーズになった。

そして、HSシリーズの弟分が新たに登場したとあって、筆者は発売当初から注目していた。特にHS3は、シリーズで最も小型のモデル。設置場所のハードルを感じていた方も、モニターサウンドを手軽に楽しめそうだ。

HS3

本題に入る前に、モニターサウンドを一般のオーディオファンが楽しむことについて少し触れておきたい。まず、手っ取り早くモニターサウンドを聴こうとすれば、やはりモニターヘッドフォン/イヤフォンが最適だろう。

スピーカーの定番は「パワードタイプ」。ユーザーの所有するアンプの個性やスピーカーとの相性に左右されず、また均一なサウンドを担保するために、スピーカーの中にアンプを内蔵している。入力は、その多くがTRSやXLRのバランス入力のみ。今でこそ小型機を中心にRCAやステレオミニの入力が装備されるようになったが、基本的には音楽制作用のインターフェースと組み合わせるため、バランス入力の搭載が普通だ。電源ケーブルとラインケーブルは、左右のスピーカーに一本ずつ接続することになる。

オーディオ用のパッシブスピーカーは、スピーカーケーブルが左右に一本ずつあるだけ。それと比べると、モニタースピーカーはなかなかに導入ハードルの高そうな製品と捉えている人も多いのでは。しかし、ヤマハ「HS3」はそんな中でも、簡便な接続で利用できる本格派モニタースピーカーになっている。

小さくても本格的なモニタースピーカー

登場したのは昨年11月。現行機のHS5より小さな「HS4」と、シリーズ最小サイズの「HS3」が同時に発売された。

アクティブモニタースピーカー。大きいのが「HS4/HS4W」、小さいのが「HS3/HS3W」

両モデルとも2ウェイ・バスレフ方式で、HS3/HS3Wは0.75インチドームツイーターと3.5インチウーファーを搭載(末尾のWはホワイトカラーの意)。外形寸法と重量は、L側が132×189×223mm(幅×奥行き×高さ)で2.8kg、R側が132×177×223mm(同)で2.1kg。L側にはアンプや入出力のインターフェースが集中しているため、やや大きめだが、突起部を加味した数値のため、実際のエンクロージャーは同じ大きさだ。つまりR側の132×177mmの設置面積が確保出来れば置くことは出来る。重量もアンプ内蔵とは思えないほど軽い。

26W + 26WのClass-Dアンプは、左右2台の内、左側のスピーカーにのみ内蔵。お陰で、ケーブル配線がシンプルで済む。左側のスピーカーにL/R両チャンネルのラインケーブルを接続し、電源ケーブルは左側のスピーカーから一本のみ。左右のスピーカー間は、スピーカーケーブル1本だけで完結だ。

こう書くと、「いやいや、片側にアンプを搭載したら、スピーカーケーブルのグレードで音が影響されちゃう」とツッコミを頂戴しそうだが、そこは価格や製品グレードを考慮して、使い勝手とのトレードオフだと思って受け入れたいと筆者は考えている。これだけ小型のスピーカーなら、本稿で取り上げるような設置スペースの限られた環境でも容易に導入できるし、接続の煩雑さもないので、ビギナーの方でも手軽にモニターサウンドを導入できるメリットもある。

入力端子は、リアパネルにXLR/TRSフォーンのコンボジャック、RCAとステレオミニを搭載。PCやオーディオインターフェース、電子楽器、コンシューマオーディオなど、幅広い機器との接続が可能だ。なお、本機には入力セレクターは存在しない。全ての音声入力はミックスされて音が出るので、現実的には、XLR/TRSに1系統、RCAもしくはステレオミニのどちらかに1系統というのが妥当かと思われる。

背面
入力端子部分のアップ

ボリュームノブ兼電源スイッチとヘッドフォンジャックは、前面に搭載している。主電源スイッチは裏面に配置されており、スタンバイとオンを切替える。頻繁に使うときは、主電源はオンのまま固定し、前面のボリュームノブで電源を入/切するのもありだろう。

ボリュームノブ兼電源スイッチとヘッドフォンジャックは前面

環境や用途に合わせた音質調整機能として、ROOM CONTROLとHIGH TRIMを備える。ROOM CONTROLは、壁際に近接したとき強調される低音域を補正することが出来る。HIGH TRIMは、2kHz付近から高音域を減衰または増幅して、聴き疲れを和らげたり、高域の不足を補ったり出来る。

ROOM CONTROLとHIGH TRIMの切り替えスイッチ

「低域はともかく、なぜ高域?」と思われるかもしれないが、部屋の環境によって高域が目立ったり/埋もれたりすることもある。モニタースピーカーは、繊細な音のジャッジを長時間に渡って行なうようなハードな使い方も珍しくない。違和感のある音を我慢して、常に脳内補正しながらチェックをしていくのはとても疲れてしまう。エントリークラスであっても、細かいところまで配慮が行き届いているのは嬉しいポイントだ。

個人的には、ROOM CONTROLとHIGH TRIMは、使用者の普段使っているモニターヘッドフォンとの音質差を緩和する役割もあると考えている。作業中に両機器を付け替えるのは、十分あり得ることで、ヘッドフォンとスピーカーの音の印象が違いすぎると、筆者としてはやりづらさを感じるからだ。

筐体は高剛性で均一な音響特性を持つMDF材を採用している点は、上位のHSシリーズと同様。さらにHS3/HS4独自の売りとして、バスレフポートにヤマハのサブウーファーなどで採用されている独自技術「ツイステッドフレアポート」がHSシリーズでは初搭載された。ポートの入口から出口に向かってその広がり方を変化させ、さらに「ひねり」を加えることで、ポート両端で発生するノイズを大幅に抑制し、クリアで正確な低音を実現するという。

特徴的な形状の「ツイステッドフレアポート」

再生周波数帯域は、85Hz~20kHz(-3dB)だ。(-10dB)の下限ポイントは70Hzなので、低音域はヘッドフォンを併用してチェックしていくのが無難だろう。

今回試用したのは、ホワイトモデル。HSシリーズのトレードマークともいえる、真っ白なウーファーユニットは、白の本体に調和し主張を抑えている。部屋や家具の色合いによっては、ブラックよりホワイトの方が環境に溶け込めると思う。

真っ白なウーファーユニット
0.75インチドームツイーター

ブラックは、HSシリーズの真っ白なウーファーを見た目でも楽しみたいという方にお勧めしたい。黒いキャビネットは様々な環境にマッチしそうだ。正面から見た四つ角は、ラウンドしており、威圧感を抑えている。小型スピーカーであることも相まって、優しい見た目だと感じた。

付属品

付属品は、左スピーカーから右スピーカーに接続するためのスピーカーケーブルが一本、ステレオミニからRCAに変換するケーブルもご丁寧に付属している。ゴム脚もあるが、後述するスタンドを使ったので今回は未使用だ。

セッティング開始。まずは気軽に寝室で使ってみる

筆者は音声を専門にする音響エンジニアでもある。最初に何から試そうかと思ったが、せっかくRCAとスレテオミニ入力があるので、DAPと組み合わせたリスニング用の最小構成を試してみた。

寝室にスピーカーとDAP「PLENUE R2」を持ち込み、オルトフォンのステレオミニケーブルでHS3の3.5mm入力に接続する。音量調整は、DAP本体で行なうのであまり現実的なシステムとはいえないが、コンシューマのオーディオ機器を繋いでPCレスで使うというのが趣旨だ。スピーカーケーブルは、余っていたケーブルで結線した。防音室のスピーカーに使用しているSPC-REFERENCE-TripleCだ。

まずは寝室に持ち込み、DAPと組み合わせる

ご覧のように置いてみた。チェストは80cmほどの高さがある。スピーカーの正面はベッドだ。広さは5畳ほどの洋室。まずは、チェストにそのままポン置きして、普段聞く曲を掛けてみる。ベッドに座ると、耳の高さとツィーターの高さはちょうど同じくらいになった。

ベッドの上なので、いろんな場所・姿勢で聴いてみたところ、スイートスポットは上下にも左右にも狭いことが分かった。左右の軸をずらすと、遠い方のスピーカーの音は薄く平面的になり、上下の軸をずらすと奥行き感が損なわれる。しかし、左右スピーカーの正面、二等辺三角形を意識して聴けば、驚くほど精密な奥行きや広がりが目の前に現れた。これは体験しないと分からない。激変というレベルだ。適切な位置で聴けば、楽器の定位が精密で、音像もクッキリと立体感を放ち、センターの定位もスッと浮かび上がるように明瞭だ。寝室は“拍手が響きすぎる”、いわゆる定在波が気になる部屋であるが、音量を大きく上げなければ十分に聴けるクオリティだった。

オーケストラもバンドインストも、ボーカルものも、ありのままに正確に鳴らす、素直で生真面目な音に感動だ。スピード感はあるものの、ローエンドは高めなので、激しいバンド系の曲はちょっと物足りない。ボーカルは、リスニング用のスピーカーでたまにみられる誇張や味付けがなく、それでいて輪郭や空気感はしっかり感じられるので情報量は十分だ。モニターライクな音でありながら、質感にはヤマハらしい優しい音作りも感じた。もちろん、隠し味程度にさりげなくだ。

壁面からも適切に離して設置できた故に、ROOM CONTROLは未使用で問題なく。HIGH TRIMも調整は不要だった。一発録りのジャズセッションを聴くと、ハイレートで録られた楽器音の太さや実在感の表現が小型スピーカーという枠を超えて、真に迫っている。とにかく音に濁りがなく、どこまでもピュアだ。“小型モニターなりの大健闘”、なんて評価は失礼だろう。ポン置きでここまで聴かせてくるのはとても驚いた。

これはスタンドを使ったらもっと化けるに違いないと、ISO Acousticsの組み立て式スタンド「ISO-155」を組んでいく。ISO-155は、短めのパイプが4本、長めのパイプが4本、角度を付けるためのインサートパーツは大と小の2種類が同梱。これらを組み合わせることで、高さの調整はもちろん、仰角を付けたり、逆に見下ろすように俯角を付けることも出来る。

ISO Acousticsの組み立て式スタンド「ISO-155」
角度をつけた設置も可能になる

寝室では短めのパイプのみで角度は付けずに設置した。スタンドに乗せると、ドラムやベースの実像が見えやすくなる。中低域の収束がスピードを増し、その量感の多少も描き分けが出来ている。オーケストラ系は、奥行きがクリアになり、上下の広がりも空気感を伴ってリアルさが向上。音量をそれほど上げなければ、ポン置きでもいい案配に鳴ってくれるが、インシュレーターなどの振動対策はぜひ実施してほしいと思う。

デスクトップオーディオで使ってみる

続いて、リビングのデスクトップで試す。パソコンデスクのスピーカーを置く場所は、モニター用の一段上がった狭い棚板。奥行きが20cmしかないので、スピーカーを内向きにしても壁面との距離は「5cm」ととても短い。対策として机そのものを前に出そうとすると、真後ろにある座卓の邪魔になり、生活に支障が出てしまう。せっかくなので、「背面の壁から距離を取れないモデルケース」としてそのまま試すことにした。

デスクトップに設置
壁面との距離は5cm

オーディオインターフェースは、Antelope Audioの「Zen Go Synergy Core USBモデル」を使用。TRSのモニターアウトから、TRSケーブルでHS3のコンボジャックへ接続した。線材は癖が少ないMOGAMIの2534、プラグは安心のNEUTRIK製。スピーカーケーブルは、筆者がデスクトップのスピーカーに使っている、アコースティックリバイブの「SPC-AV」を外して使用した。PC-Triple C単線導体に、ポリエチレン絶縁材を採用した伝送特性に優れる筆者お気に入りのケーブルだ。

Zen Go Synergy Core USBモデル

Zen Go Synergy Coreのモニターアウトは、最大+20dBuなのに対して、HS3の最大入力レベルは+20dBuとマッチングも適切。オーディオインターフェースやアナログミキサーのモニターアウトから繋げるのであれば、最大出力レベルが+20dBuを超えるケースは少ないと思われる。が、接続前に手持ちの機器の仕様はチェックしておきたい。上流機器の最大出力レベルが+20dBuを超えていると、状況/条件によっては音が歪むこともあり得るからだ。

音量調整は、オーディオインターフェースからモニターアウトのボリュームノブを回して行なった。HS3側のボリュームは筆者環境では3時くらいの位置で固定。HS3はアナログボリュームを採用している模様のため、ギャングエラー(左右の音量差)を回避できる9時以上までボリュームノブを回すのは必須となる。オーディオインターフェースからモニターアウトの音量を調整したとき、調整幅と実際の出音の音量感がちょうどいい具合にコントロール出来るようにスピーカーのボリュームを調整&固定しよう。

ROOM CONTROLは、0dBだと低音域がブヨブヨと過多気味で、淀みも目立つ。-4dBにしてみたらスカスカでむしろ違和感が出たので、-2dBで設定するといい感じにまとまった。環境によって適切な設定は異なるため、実際に聴きながらスイッチを切替えて、違和感が少ない設定を選んでいこう。ソース本来の音はどうなのか知っておく上で、信頼できるモニターヘッドフォンを選んでおくことも大切だ。

市販の音楽を聴く分には気にならなかったが、ドラマCDや、筆者が自宅スタジオで録音したボイス素材を流したところ、数kHz付近でやや耳に刺さる感覚があった。ツィーターから耳までの距離が、寝室と違って大幅に近いのも要因かもしれない。HIGH TRIMを-2dBに設定すると、ちょうどいい出音になった。

さすが同一メーカーだと感心したのは、筆者愛用のモニターヘッドフォンHPH-MT8で聴いたときの感覚に近いこと。ヤマハらしい素直な音色感、高解像度の出音はもちろんだし、ほんの僅かに質感に優しさが感じられるのもそっくりだ。

MT8を使って自宅スタジオで録音および整音を行なったサンプルボイスが、HS3で聴くと低音域を除いて、かなり近い印象をスピーカーでも感じられた。ソニーの「C-100」で録った、とても精細かつありのままに捉えられた音声が、スピーカーでも実在感を持って表現出来ている。エントリークラスのモニタースピーカーでここまで質の高い出音が聴けるとは予想しておらず、いい意味で期待を裏切ってくれた。

低域の処理をするときは、ヘッドフォンとの併用をお勧めしたいが、ダイアログ(人の声)中心の映像コンテンツであれば、スピーカー単体でもそこそこ追い込めそうだ。環境音などが混ざってくると、いわゆる“暗騒音”はローまで深く伸びているので、HS3だけのジャッジでは心許ない。きちんと低音が鳴るヘッドフォンでも確認したい。

ちょうど、とあるZoom講演の編集作業があったので、「映像コンテンツの音声調整用途」とに使ってみた。80人キャパの会議室で広範囲から拾えるUSBマイクを使って収音した状態の悪いソースだ。部屋の反響の度合いがZoom音声とはいえ、リアルに感じられる。音の粗さ(Zoomの圧縮音声らしさ、歪み感など)もパソコンのスピーカーで再生するより遙かに正確にチェック出来た。どのくらいまでならセーフか、逆にアウトか、微妙な見極めは正確に鳴っていないとジャッジもままならない。Zoomの音声をYouTubeアップ用に軽く調整するくらいなら、HS3だけでも全然問題ない。EQによるローカットと、コンプレッサーで音量感を調整する程度の作業はスムーズに完了できた。

エンタメ用途でも使ってみよう。今期ハマったTVアニメ「この素晴らしい世界に祝福を! 3」をネット配信で視聴。ABEMAやバンダイチャンネル、dmmTV、Leminoとサービスを変えながら無料で観られる第1話やPVをチェックしたところ、テレビ放送よりラウドネスが大きくて、リミッターかコンプレッションが掛かっているような音声が気になる。配信サービスによって、微妙な音の違いはあったかもしれないが、おそらく納品マスターは同じだろう。テレビ放送はもっと音声が繊細でダイナミクスの幅が広いので、配信サービスならではの音声マスターの違いがよく分かる視聴となった。イマイチなところもありのままに描くのがモニタースピーカーだ。

YouTubeでトーク番組や報道番組のナレーションなどを聴くと、サイドアドレスのスタジオ収録用のマイクと、ピンで服に留めるリベリアマイクとの音の違いが如実に伝わってくる。演者が声を張ったとき、リベリアマイクの音がたまに割れていたのだが、音の歪み具合がどの程度の事故レベルか、エンジニアとしてヒリヒリするほどリアルに分かってしまう。

ツイキャスの生放送も聴いてみたら、スマホのモバイル通信による、状態の悪い圧縮音声でも、屋外の建物による反響がリアルに感じ取れた。ライブ配信の臨場感もモニタースピーカーなら一段上のクオリティで楽しめるだろう。

防音スタジオで本格的にチェック

最後は、モニタースピーカーの本領発揮、自宅の防音スタジオに設置してチェックする。

オーディオインターフェースは、Antelope AudioのDiscrete 8 Pro Synergy Core。モニターアウトからリビングと同じTRSケーブルを使って接続。後ろの壁(吸音パネル)からの距離は適度に取れていたので、ROOM CONTROLは調整の必要はなく、HIGH TRIM は0dBに戻して試聴した。

Antelope AudioのDiscrete 8 Pro Synergy Core

防音室に移動したら、スピーカーからのサーというノイズに気が付いた。確認したら、どうやら寝室でもリビングでも鳴っており、機材由来のアンプのノイズのようだ。防音室が静粛であることに加えて、16インチのMacBookProの画面に近付いて作業するので、どうしても耳に入ってくる。S/Nはもう少し頑張ってほしいところだ。念のため断っておくが、実際に鳴らす音声の音量と比べれば遙かに小さい。ボリュームノブの位置に関わらず、ノイズの音量は一定だった。ノイズを心配してスピーカー側のボリュームを上げられない事態にはならないだろう。実際、防音室ではインターフェースとのバランスを考えて、ボリュームノブはMAXで固定した。

画面を見ながら、Pro Toolsのショートカットキーを押して、マウスを操作してという作業中は、片方の耳から相対するスピーカーのユニットまでの距離が40cmくらいだった。マウスから手を離し、画面からゆっくりと距離を取ると、耳から90cmくらいまで離れればサーノイズは気にならなくなった。画面にかぶり付きで音を聴くと、ステレオの音場にめり込むような位置関係になり、音場感は正確ではなくなる。理想は、大きな外部モニターを設置してデスクからは距離を取るか、スピーカーを単体のスタンドに設置して机の後方に設置することだろう。

防音室のようなルームアコースティックがしっかりしている環境で聴いても、ヘッドフォンとの感覚の近さは不動の評価だ。試しに音声のローカット処理をスピーカーだけで作業してみたら、ヘッドフォンで調整したときと同じくらいの周波数設定に自然に落ち着いた。ヘッドフォンとの併用が必要ないとまでは言わないが、ある程度適当な値までスピーカーだけで調整できるのはとても助かる。

iZotopeのOzone 10でマキシマイザーをテストした。マキシマイザーとは、コンプレッサー等で音量バランスを整えた後、聴感上の音量感を稼ぐために使用するエフェクト。ヘッドフォンを使って調整した方がやり易いパラメーターはあったものの、おおむねスピーカーだけでも音の違いを確認したり、最適解を探っていける。ただ、音楽制作をする方はまた違った評価になるかも知れないことはおことわりしておく。

ISO-155のインサートパーツ(小)を使って、見上げるように仰角を付けた

HS3は、とても高解像でトランジェントは素早く、音色感は自然で、周波数バランスに癖もない。サイズ的に低域の量感や、ローエンドの対応能力に限界はあるものの、エントリークラスとは思えない質の高い出音を聴かせてくれた。

モニターサウンドとしての生真面目さは、確かに好みがあるかもしれない。正確すぎるサウンドは、ともすると疲れに感じる方もいるだろう。自分の感性とマッチするか不安な方は、ヤマハのモニターヘッドフォンをお店で試聴して、その感触を確かめてみてほしい。

「これは自分の理想とするバランスかも!」と思える方は、きっとHS3が向いている。とってもコンパクトで、コンシューマ機器との接続も安心。いざとなれば、映像編集や、音楽の制作にもバッチリ対応。初めてのモニタースピーカーとして、筆者も愛着を持ってお勧め出来る製品だ。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site