小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第858回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニーRX100についに高倍率ズームが! 第6世代になった「RX100M6」

みんなが待ってた高倍率

 ソニーのRX100シリーズと言えば、言わずと知れた“高級コンデジ”というジャンルを確立した商品である。初号機が発売されたのが2012年。当時新機軸だった1インチセンサーを搭載し、当時は1万円台だったコンパクトデジカメ業界に、店頭予想価格7万円という価格で登場、マニア層に圧倒的な支持を受け、それ以降各社から1インチセンサーモデルが乱立した。

RX100 VI(DSC-RX100M6)

 同じ本体デザインのまま、そこからM2、M3…と続いて、ついにはM6である。M3ぐらいまでは、もういい加減デザイン変えたら? と思ったのだが、逆にここまで続いたならもはや伝統芸能みたいな事になってきている。M2000ぐらいまで頑なにこのデザインで続けて欲しいところである。

 過去本連載では、初号機M3M4をレビューしている。今回のM6もなかなか見どころの多いカメラだ。

 RX100シリーズは、明るいズームレンズを搭載し、高画質を狙ったカメラである。したがってズーム倍率は抑え気味で、光学3倍程度というのがある意味お約束だった。だがM6では大奮発の8倍ズームレンズを搭載。高倍率と高画質は両立しないものとされてきた中、どういうバランスで仕上げてきたのか気になるところである。

 そんな「RX100 VI(DSC-RX100M6)」だが、6月22日に発売で、店頭予想価格は14万円前後。通販サイトでは13万5千円を割ったあたりで激戦となっている。写真の評価は他誌に任せるとして、本項では動画性能についてチェックしてみたい。

変わらぬボディに全然違う設計のレンズ

 いつものようにまずはデザインから、と行きたいところだが、基本的な形は歴代からほとんど変わらないので、ここでは主にスペック面を押さえておこう。

見た目はほぼ変わらずのRX100M6

 レンズはZEISSバリオ・ゾナーT*レンズで、35mm換算24-200mm、F2.8-4.5。24mmスタートはもはやRX100シリーズのお約束だが、そこから200mmまで寄れるレンズを搭載した。ただしワイド端でF2.8と、過去F1.8で頑張ってきた設計からは大きく変わることとなった。またNDフィルターもなしとなった。それにしてもこれだけ構造の違うレンズが、よく同じ筐体に沈胴で入ったなと感心する。

ワイド端
テレ端

 光学手ぶれ補正はテレ端200mmで最大4段の補正力となり、センサー側の電子補正と組み合わせが可能。ただし4Kでは電子補正が使えず、光学補正どまりとなる。また全画素超解像による電子ズームも、HDでは16倍(光学の2倍)だが、4Kでは12倍(光学の1.5倍)止まりとなる。

光学手ぶれ補正も強力

 センサーは1型の「Exmor RS」で、総画素数約2,100万画素、有効画素数約2,010万画素。フォーカスエリアは位相差検出方式で315点、コントラスト検出方式で25点。これを組み合わせた「ファストハイブリッドAF」を搭載し、レンズ駆動制御も含めた高速AFは0.03秒を誇る。

 また被写体に対して高密度にAF枠を集中配置させ、動体追随性能を大幅に向上させる「高密度AF追従テクノロジー」を搭載。これはすでに「α6500」や「RX10 IV」で搭載された技術だが、RX100シリーズとしては初搭載となる。

 画像処理プロセッサは従来機比約1.8倍の高速処理となった「BIONZ X」で、これにより瞳AFの追従性能は従来比で約2倍となっている。

 モニターは3.0型92万画素のエクストラファイン液晶で、タッチパネルとなった。タッチフォーカス機能が使えるほか、ファインダを覗きながらでもパネルをなぞってフォーカス位置が移動できるタッチパッド機能も搭載した。

タッチパッド機能も搭載
設定方法はαなどと同じ

 特徴的なポップアップ式ビューファインダはM3から搭載されたが、以前はボディ横のレバーでポップアップさせたあと、接眼部を手動で手前に引っ張り出さなければならなかった。仕舞う時も同様に、まず接眼部を押し込んで格納してから、飛び出したビューファインダをしまう必要があった。

 これがレバー1発でポップアップと接眼部の飛び出しが行なわれるようになった。格納時も、ポップアップした頭のほうを押し込むと、自動的に接眼部も収納される。これは楽ちんだ。ビューファインダの使用機会も増えるだろう。

ビューファインダは横のレバーだけで完結

 動画撮影機能については、RX100シリーズのみならず、サイバーショットシリーズとしても初となるHLG/4K撮影が可能となった。またS-Gamut3/S-Log3でも撮影可能となり、4K撮影時にプロキシファイルも同時記録できるなど、プロ機と同じ機能を備えるに至っている。

ピクチャープロファイルのHLG撮影モード
プロキシも同時記録できる
バッテリは従来機種同様Xタイプ

多彩な画角が楽しめるカメラ

 では早速撮影だ。動画・静止画関わらず一番の注目ポイントは、倍率がアップしたズームレンズだろう。これまでは3倍程度、全画素超解像領域を含めても6倍程度しか寄れないカメラが、いきなり光学8倍、全画素超解像では12倍~16倍まで寄れることとなった。

24mm
HD動画手ぶれ補正:手ぶれ補正なし
ワイド端
24mm
HD動画手ぶれ補正:スタンダード
ワイド端
26mm
HD動画手ぶれ補正:アクティブ
ワイド端
29mm
HD動画手ぶれ補正:インテリジェント
ワイド端
210mm
HD動画手ぶれ補正:手ぶれ補正なし
テレ端
210mm
HD動画手ぶれ補正:スタンダード
テレ端
230mm
HD動画手ぶれ補正:アクティブ
テレ端
260mm
HD動画手ぶれ補正:インテリジェント
テレ端
384mm
HD動画手ぶれ補正:手ぶれ補正なし
全画素超解像
384mm
HD動画手ぶれ補正:スタンダード
全画素超解像
416mm
HD動画手ぶれ補正:アクティブ
全画素超解像
464mm
HD動画手ぶれ補正:インテリジェント
全画素超解像

 光学で焦点距離が長くなれば、それだけ背景はボケやすくなる。本機にはNDがないので、絞りを開けるにはシャッタースピードを上げるしかないが、ボケ味は綺麗だ。やはりズームに幅があると、いろんな構図が作れるので、撮影が楽しくなる。

背景のボケはなかなか綺麗
あまり奥行きがなくてもボケが作れるのは210mmテレ端のおかげ

 撮影していて良かったのは、野鳥などの撮影だ。あまり近づくと警戒されてしまうものだが、これまでは撮りたくても撮れなかった被写体にチャレンジできる。

離れた被写体も余裕の画質

 懸念された画質も、動画に関しては全域でシャープに結像しており、周辺の画質低下も感じられなかった。補正処理も加えての事だろうが、画質を気にせず素直に寄れるレンズと言えるだろう。

 本機は4K撮影が可能だが、フレームレートとしては30p(29.94)までとなる。RX100シリーズで4K撮影が可能になったのはM4からだが、M4は連続撮影時間が5分という制限があり、これはM6でも同じだ。

 撮影中はかなり発熱する。今回はそれほど連続撮影はしなかったので、途中で録画が停止することはなかったが、長尺で撮影する方は温度には注意した方がいいだろう。加えて4K撮影ではバッテリの消費が激しい。今回はテスト撮影を開始して40分程度のところでバッテリー切れとなった。かつてHDカメラが出始めの頃には、テスト撮影中にバッテリー切れの経験があるが、近年では珍しい。幸い個人所有のRX100M3用バッテリーがあったので、事なきを得た。

 本機に採用されているXタイプバッテリは、2012年にソニー初のアクションカム「HDR-AS150」のあたりからコンパクトカメラ用として主流になってきた。当時は高密度バッテリーとして長時間記録に貢献したが、すでに発売から6年である。一方でRX100シリーズは筐体が一緒なので、バッテリもそう簡単に変えられないという事情もある。

 4K撮影が恒常化しつつある現状では、そろそろバッテリ容量を上げるか、なんらかの技術革新で大幅に低消費電力化するかしていかないと、実用的ではない。現時点での実用的な解は、USB端子に外部電源を繋ぐ事だろうが、せっかく小型なのに、機動性は下がる。

 HDR撮影機能として、本機はHLG撮影とS-Log3による撮影も可能だ。使用方法はαなどと同じで、ピクチャープロファイルから設定を選ぶだけだ。モニターも擬似的にHDR表示をシミュレーションする「ガンマ表示アシスト」機能を搭載しており、撮影に不自由はない。

 今回はSDRとHLGの両方で撮影してみた。S-logと違ってHLGは、編集ソフトのモード設定さえ間違えなければ何も考えずにHDRコンテンツが作れるので、スピードが要求される報道を中心に広がりを見せている。コンシューマ用途にも向くだろう。

SDRでの撮影
SDR.mov(158.24MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
HLGで撮影
HDR.mov(158.12MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

なおS-Log3の簡単なカラーグレーディングとして、「Catalyst Browse」をご紹介しておきたい。基本的にはメディアブラウザなのだが、動画ファイルの詳細なメタデータが確認できるほか、Log撮影したクリップのカラーグレーディングができる。

詳細なメタデータが確認できるCatalyst Browse

 M6では4K撮影時にプロキシファイルを一緒に収録できるが、Catalyst Browseを使ってファイルのインジェストを行なえば、プロキシファイルでカラーグレーディングできるので、高速プレビューが可能だ。編集機能などはないが、素材管理やファイル変換、LUT作成などができる。プロ向けのツールだが無償なので、カラーグレーディングの勉強のために、ダウンロードしておいて損はないだろう。

簡単なグレーディング機能も備えている

 なお本機でも引き続きスーパースロー撮影にも対応している。960fpsのみ画角が少し狭くなるが、解像度はフルHDをキープしているのがポイントだ。

得意のスロー撮影も健在
Slow.mov(27.75MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

M3で困ってたポイントもクリア。動画AFが爆速に

 筆者は個人的にRX100M3を購入して取材等に活用しているが、1つ断念したことがある。手軽で高画質な動画取材機材として使えないかと実践投入してみたのだが、上手くいかなかった。

 その理由は2つ。1つめは、カメラ音声の性能が低いことだ。マイク入力がないのは諦めるとしても、例えば展示会場など周囲のガヤがうるさい場所での音声収録では、明瞭感が乏しくS/Nも悪い。

 ただ音声は別途ボイスレコーダなりを使えばカバーできる。あとで編集で合わせればいいだけだ。2つ目の理由が致命的だった。動画撮影時のAF追従速度が遅いんである。

 会場をぶらぶらしながらおもしろいモノを見つけたらサッとアップを撮る、みたいな使い方が、全然できなかった。この点でM6はどうだろうか。実際にM3と比較してみた。

 音声については、ヘッドフォンで聞いていただくとわかりやすい。全く同じ音声を同時収録しているが、M3のほうは高音に伸びがなく、明瞭度に欠ける。今回の撮影場所は比較的静かな場所だが、道路沿いなど騒音があるところでは、この明瞭感の低さが問題となる。

 一方M6の音声は高域に伸びがあり、明瞭感が高い。まさにツルンと一皮剥けた感がある。両方とも撮影フォーマットはXAVC S HD30P 50Mbpsに合わせている。地味なところだが、マイクやエンコーダの改良はモデルごとに進めているようだ。

マイク集音も改良されている
Audio.mov(23.13MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 続いてAFの追従性をテストしてみた。静止画における合焦の早さは話題になるが、動画撮影時のコンティニュアスAFの速度はあまりこれまで言及がない。

 実際に比較してみると、動画撮影時もM6のAFは爆速であることがわかる。そもそもM3には合焦スピードをコントロールするパラメータはなく、M6にはAF駆動速度とAF被写体追従感度の設定がある。テストではAF駆動速度「高速」、AF被写体追従感度「敏感」に設定している。

AFの追従性能は段違い
focus.mov(84.16MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 町歩きでぶらぶら動画を撮るといった際にも、AFの追従性が良くないと、せっかく撮ったのに「まったく絵にならない」事が起こりうる。特に1度しか行けないような海外旅行などでは、ガッカリしたくないだろう。

 こうした速度向上は、高速化したBIONZ Xに負うところが大きいと思われる。他にも速度向上したところは、静止画のHDR撮影だ。この機能はM3にもあり、照明の暗いブース内撮影では積極的に使いたいところではあるのだが、いかんせん撮影後の処理が遅く、リズム良く撮れないため、取材しながら撮影することができなかった。

 だが静止画のHDR撮影も、M6は高速化しており、これなら説明員の話を聞きながらバシバシ撮影しても間に合うスピードである。

総論

 RX100と言えば、“明るい高画質レンズの高級機”というイメージだが、M6は明るさを断念して高倍率ズームに振った、ある意味チャレンジングなモデルである。開放側で3段ほど暗い事になるが、そのデメリットよりも、バリエーションの広い画角が作れるカメラなので、オールマイティに使いやすいカメラに仕上がっている。

 動画性能に関しては、4Kは当然としてHLGやS-Log3にも対応し、本格的なHDR撮影にも気軽に挑戦できるようになった。AF追従速度も大幅にアップし、動画撮影時もその恩恵に預かれる。もちろん、あえて追従を遅らせることもできるので、これもまた様々な用途に合うだろう。

 その一方で、これまでカメラのセッティングを変えただけでは不可能な機能を数多く提供してきた「Camera Apps」には非対応となっている。星空撮影やタイムラプスといった機能が使えなくなっている点は、残念である。

 なお強力なBIONZ Xで明るいレンズのほうがいいという方は、ちょうど昨日、RX100M5のリファインモデル「RX100M5A」が発表された。これまで縦のラインナップを拡充してきたが、横に枝が出る形での拡充は初めてである。なおRX100M5AもCamera Appsには非対応だ。ソニーによれば「モデルごとに総合的に、搭載、非搭載を判断している」とのことだ。

 RX100シリーズは、過去モデルも並行してよく売れる。同じボディで違う性能を楽しむのが通のやり方だ。RX100M6はそんな中にあって、一段尖ったモデルと言えそうである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。