小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第890回
ついに来た! パナソニックのフルサイズミラーレス「LUMIX S1」で4K動画を撮る
2019年3月6日 08:00
やっぱりパナソニックは凄かった
かねてから予告されていたとおり、パナソニックは同社初のフルサイズミラーレスとなる「LUMIX S1」および「LUMIX S1R」の2モデルを3月23日から発売する。先週行われたCP+にてタッチ&トライコーナーに展示されたので、すでに実機を触った方もいらっしゃる事だろう。
元々パナソニックは、一眼カメラはミラーレスしか作っておらず、センサーおよびマウントはマイクロフォーサーズを採用してきた。フランジバックが短く、センサーサイズが4/3インチという事もあり、一眼としてはコンパクトなモデルも多数輩出するが、一方でGHシリーズのように動画撮影に強いモデルも多数リリースしている。そんな中、満を持してフルサイズモデルの登場というわけだ。
マウントは、ライカが開発したLマウントを採用。元々Lマウントは、2015年にライカから発表され、レンズおよびカメラも化されたが、カメラ本体は永らく「ライカSL」しかなかった。それが2018年のフォトキナにて、ライカ、パナソニック、シグマの3社でアライアンスが発表された。
フルサイズミラーレスのマウントは、これまで各社が独自のマウントを採用しているが、3社のアライアンスはかつてのマイクロフォーサーズ同様、多様なレンズやボディの組み合わせが楽しめる見込みだ。特に先日のCP+では、シグマが11本のLマウントレンズのリリースを発表。これが出れば、アライアンス全体では78本ものLマウントレンズが市場に出る事になる。
今回パナソニックから発売される2モデルは、「究極の表現力を求めるプロ」向けにS1R、「静止画と動画のハイブリッドクリエイター」向けにS1という位置づけになっている。本連載では当然の事ながら、動画に強いS1のほうをテストしてみたい。なお、今回の機材はβ機なので、実際の製品とは異なる場合がある点、ご注意いただきたい。
ガッシリ手応えのあるボディ
S1はボディ単体の店頭予想価格31万4,000円前後で、標準ズームレンズである「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」付属の「Mキット」が42万6,000円前後となっている。今回はこのMキットのほか、「LUMIX S PRO 50mm F1.4」(285,000円)、望遠ズーム「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」(210,000円)もお借りした。この春に発売が予定されている全レンズが揃ったわけだ。
まずボディだが、ミラーレスとはいえフルサイズセンサーなので、かなり大型。バッテリーも含め本体だけで約1,017gあり、標準ズームと合わせると約1,697gとなる。片手でホールドはなかなか難しい重量である。
センサーは35.6mm×23.8mm、アスペクト比3:2のCMOSセンサーで、有効画素数2,420万画素、総画素数2,528万画素となっている。静止画の最大撮影可能画素数は3:2の6,000×4,000ドットで、動画は3,840×2,160の59.94fps。動画は記録形式がMP4かMP4 HEVCかで、8bitか10bitかが決まる。
なおMP4 HEVCでの撮影に対応しているのは、S1のみだ。つまりHLGで本体記録ができるのはS1のみという事である。以下表組みでご確認いただきたい。
連続録画時間は、4K/29.97pまでは無制限だが、4K/59.97pのときのみ最大29分59秒までとなる。なお有償のアップグレードにより、HDMI出力から4K/29.97p/59.94pで4:2:2/10bit出力が可能になる予定だ。またV-Logによる撮影も、有償アップグレードで対応するという。現時点では、アップグレード日程及び価格は発表されていない。
カメラとしてのインターフェースは、これまでのフラッグシップGHシリーズとは全然違っている。伝統的に軍艦部左肩は連写モードダイヤルだったが、Sシリーズではここにモードダイヤルを配した。連写モードは、モードダイヤル下に二連ダイヤルとして設えてある。
右肩はステータスLCD用に大きくスペースを割いており、電源ボタンはレバー式で独立している。調整用ダイヤルは、前後に一つずつ。シャッターボタン後ろのホワイトバランス、ISO感度、露出補正ボタンという3つの並びが、GHシリーズを継承している部分である。
背面は大型カメラ特有の、ジョイスティックとコントロールダイヤルの2インターフェース仕様。録画ボタンはビューファインダの横にあり、普通にグリップしていると親指では届かない位置だ。動画モードではシャッターボタンでも録画スタートは可能だが、動画注力モデルとしてはこの位置は使いづらい。なお、Fn設定で好きなボタンを動画REC機能に割り当てることも可能だ。
ファインダーはアスペクト比 4:3、0.5型約576万ドットのOLED。モニターはアスペクト比3:2、3.2型約210万ドットの液晶モニターで、タッチパネル方式だ。ヒンジは上下方向に動くほか、左側のレバーを上に持ち上げると、右側にも45度程度倒れる。右側にしか倒れないのは中途半端だが、GHシリーズのような横出し回転式のヒンジではなく、どうしても光軸上モニターを配置したかったのかもしれない。
端子類は左側に集中しており、上からリモート端子、マイク入力、ヘッドホン出力、USB-C端子、フルサイズのHDMI端子となっている。バッテリー充電は、USB-C端子を使った本体充電も可能。グリップ側にはメディアスロットがあり、上がSDカード、下がXQDカードスロットだ。ただしUI上のスロット番号は、上が2番、下が1番となる。
GH5ではスロットの高さを抑えるため、2スロットを段違いに配置する工夫があったが、Sシリーズではストレート配列だ。そのためフタ部分が縦に長く、ショルダーストラップ取り付け金具が挟まってフタが閉じづらい。ストラップを使わないなら、金具は取り外してしまった方がいいだろう。
バッテリーは底部から差し込むスタイルで、縦撮り用バッテリーグリップ用の接点もある。
カリッとした描写が魅力
今回初めてLマウントを触ったが、レンズ着脱用のボタンがグリップ側、右下にある。加えてレンズとマウントのはめ込み位置を示すマーカーも、そのボタンの位置にある。一見わかりやすそうだが、三脚に立てて撮影する場合、レンズの着脱はボディの左側に回り込んで行うのが普通だろう。右側からではグリップ部が出っ張っていて、マウント部が見えにくいからだ。
だがLマウントは、取り外しボタンも右下、マーカーも右下にあるので、レンズの取り付け時にレンズ自身の影になって、ちょうどマーカーが見えない。ハンディ撮影時のレンズ交換はカメラを上から覗き込んで行うので問題ないだろうが、三脚に固定する機会が多い動画撮影では、ちょっとやっかいだ。このへんがLマウントの課題であろう。
本機では、動画撮影時のセンサー使用範囲設定として、3種類のモードがある。「FULL」はCMOSセンサーのほぼ全域を使うモード、「APS-C」はSuper35mm画角記録モード、「PIXEL/PIXEL」はセンサーの1ピクセルを動画の1ピクセルとして記録するモードだ。4K撮影で利用できるのはFULLとAPS-Cのみで、PIXEL/PIXELが使えるのはHD解像度のときである。焦点距離24mm時のそれぞれの画角は、以下のようになる。
PIXEL/PIXELは画質的にはそれほど期待できないが、いざという時にはエクステンダーのように使えるところがポイントだろう。
今回のサンプルは、せっかくのフルサイズなので、FULLによる撮影を行なっている。撮影モードはMP4 HEVCによる4K/29.97p/4:2:0,10bitによるHLGだ。
特筆すべきは、解像感だろう。過去LUMIXには、廉価なGレンズ、ハイグレードなXレンズ、ライセンス製造によるLEICA DGレンズをラインナップしていたが、フルサイズ向け新開発のLUMIX Sレンズは、どれも高い解像感を誇る。センサーもフィルターレスなので、余計に解像感が高く感じる。特に望遠ズームの解像感およびボケの柔らかさは、標準ズームとともに是非使いたい1本だ。
AFに関して、特に4Kフルサイズともなると、フォーカス精度が問題視されるところだ。本機では同社独自の「DFDテクノロジー(空間認識技術)」をフルサイズセンサーに最適化し、高速性と高精度を両立させた。
いつものように手前に向かってくる人物を撮影してみたが、歩き出しスタートはあまりにも遠すぎるのか、人物を認識していない。だが2mほど進んだところで人物全体を認識し、体全体がオレンジの枠で囲われる。
さらに接近すると顔認識が働き、顔へのフォーカス、さらには瞳へのフォーカスへと遷移する。最終的には最短焦点距離より手前に来るため追えなくなるが、空間認識としては期待どおりに上手く動くようだ。
ただし今回お借りした望遠ズーム「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」では、β機だからかもしれないが、AFが動作せずマニュアルフォーカスのみ動作した。レンズの焦点距離によっては、AFが利かないレンズもあるようだ。(※編集部注:パナソニックによれば、製品版では問題なく動作するそうです)
手ブレ補正は、レンズ側とボディ内での補正にプラスして、動画専用アルゴリズムによる電子手ブレ補正も使える。さらにもう一段強力にブレを補正する「手ブレ補正ブースト」機能も搭載する。
歩きの補正については、24mmワイド端ではレンズ補正だけでかなりいけるので、ボディ内補正を入れてもそれほど大きな変化はない。一方、手持ちでフィックス撮影するときには、「手ブレ補正ブースト」を併用したほうが効果が高い。電子手ブレ補正はONにしただけで画角が一段狭くなるが、手ブレ補正ブーストはアルゴリズムが変わるだけで電子補正と同じ画角で使えるのも魅力だ。
夜間撮影もまずまず
続いて特殊条件による撮影を見ていこう。本機は4Kで2倍、HDで5倍と6倍のハイスピード撮影が可能だ。それぞれのモードで微妙にクロップ度合いが変わるので、画像でご確認いただきたい。
なおハイスピード撮影ではAFが動かないので、マニュアルでフォーカスを追いかける必要がある。
続いて夜間撮影を試してみよう。S1は動画撮影時の最高ISO感度が51200までとなる。一方最低ISO感度は、MP4(4:2:0,8bit)撮影時は100スタート、MP4 HEVC(4:2:0,10bit)撮影時は400からのスタートとなる。今回はHEVC撮影にて、ISO感度を上げながら撮影した。
筆者の感覚では、4Kでノイズ感がギリギリ我慢できるのは25600ぐらいまでかなと感じた。51200では空など単一平面のS/Nが気になるが、4Kで撮影してHDに縮小するならノイズも減るので、そういう使い方はアリかなと思う。
もう一つ、これは写真の機能だが、「HLGフォト」という撮影モードが新設されている。このモードで撮影した写真は、HDMI出力経由でHLG対応テレビに出力した際に、HLGのダイナミックレンジおよび色域を使って表示することができる。HLGフォトのファイル拡張子は.HSPで、まだPC等では処理できるアプリはなさそうだ。同時にjpgファイルも生成されるので、「撮った写真がテレビでしか見えない」という事にはならない。
HLGはその名前からしても、HDRとSDR両方の画像が取り出せるはずなので、写真編集系のアプリで扱えるようになれば、RAWほど難しくなくダイナミックレンジが調整できるフォーマットとなるかもしれない。ただ元々テレビ向けの規格なので、PCのディスプレイでどう扱うか難しいところなのだが……。このあたりは関係各社のパートナーシップに期待したい。
総論
ミラーレスとはいえ、フルサイズのカメラなのでかなりデカいし重い。初号機なので仕方がない部分もあるが、そう考えてもソニーα7シリーズは、最初からかなり小さく作られていたんだなということを改めて認識する次第だ。
とはいえ、Lマウント向けに作られた新レンズの出来は非常に良く、パナソニックもレンズメーカーとして評価すべきステージに登ってきたように思う。今回は特に言及していないが、フィルターモードもマイクロフォーサーズ機と同等の機能を搭載しており、GHシリーズ等から引き続き使える機能は多い。
S1Rに比べると低価格なS1だが、廉価版という事ではなく、きちんと動画と写真のハイブリッド機に仕上げてきたところが嬉しい。加えてLマウントアライアンスにより、多彩なレンズ群が一気に使えるのも魅力だ。
ただしマウントアダプタを購入する場合は、日本で俗に「Lマウント」というと、かつてライカで使われていた39mmのスクリューマウントを指していた時代が長いので、間違えないように注意したい。今後は日本特有の通称ではなく、メーカーの正式名称で呼ぶように習慣づけた方が良さそうだ。
いずれにせよ、GHシリーズに次ぐ動画カメラの新しいスタンダードが誕生した事は喜ばしい。今後このフルサイズをどのように展開していくのか、そちらもまた楽しみである。