小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第878回
キヤノン期待のフルサイズミラーレス「EOS R」、その動画性能を試す
2018年11月28日 08:00
期待大のフルサイズミラーレス
各社一斉に動き出した感のあるフルサイズミラーレス。すでに「Nikon Z 7」のレビューをお送りしたところだが、今回は10月25日に発売になったキヤノンの「EOS R」を取り上げる。ボディの価格はオープンプライスで、直販サイトでの価格は237,500円だ。
これまでキヤノンのミラーレスと言えばEOS Mシリーズだったが、これも初号機は単なるMで、その後M2、M3~と展開していった。その法則からすれば、今回のEOS Rも今後R2、R3といった具合にシリーズ展開していくことが予想される。
Mシリーズがコンパクトボディを売りにしたレンズ交換カメラだったのに対し、EOS Rはキヤノンが初めて出したフルサイズミラーレスということで、動画方面でも期待が高まるところだ。なぜならば、ミラーレスというカメラの構造はほとんどビデオカメラと同じなので、動画性能の向上も期待できるからである。
長年愛されてきたEFマウントはこれまでのフルサイズ一眼レフで引き続き採用されるが、ミラーレスとなってマウントも新しくRFマウントとなった。もちろんレンズも新しいシリーズだ。
今回キヤノンとしては2012年のEOS M以来の新シリーズとなる、EOS Rの動画性能を試してみる。
「ミラーレス=小型」時代の終了
従来ミラーレスといえば、小型で機動力の高いレンズ交換式カメラというポジションだった。一方ミラーレスは、ミラーがないぶん、多少薄型ではあるが、十分なグリップの深さやフルサイズのレンズまで含めると、もはや小さいとは言いがたい。Nikon Z 7もそうだったが、EOS Rもシリーズ初号機ということもあるのか、ユーザーに不安を抱かせない大型のカメラシステムとなる。
まずボディから見ておこう。ミラーレスだけあってボディ部の厚みはそれほどでもないが、グリップ部は横幅は狭いが奥行きはある設計になっている。深く握るイメージだ。
注目のRFマウントは、フルサイズが収まる径として考えれば必然なのだが、EFマウントと同じ54mmだ。うっかりするとそのまま付いてしまいそうな気がしてしまうが、実際にはつけられない。両方のレンズを持っている人は、しっかり区別して管理しておかないと、現場に持っていって「しまった!」ということになりかねない。
単純な見分け方として、マウントの合致位置を示すマーカーが、EFレンズは赤い点なのに対し、RFレンズは朱色の線になっている。ここに注意すれば、いちいち前玉の表示を確認しなくても見分けが付くだろう。
軍艦部は左側に電源のロータリースイッチ、右手には2つのコントロールダイヤルを備える。表示部には反射型のドットマトリクスパネルを採用し、電源OFF時でも露出モードが常時確認できる。
操作系で特徴的なのは、背面上部にあるマルチファンクションバーだ。これは左右どちらかへのタッチでパラメータを動かせる以外に、左右にドラッグしてパラメータ調整ができる。ステップでも連続値でも動かせるコントローラとして期待が持てる機構だ。特に動画撮影中には、クリックがなく無音で操作できるので、重宝するだろう。
センサーは有効画素数約3,030万画素のデュアルピクセルCMOSで、静止画の最大記録画素数は6,720×4,480となる。動画撮影機能としては、ファイル形式はMP4固定で、コーデックもMPEG-4 AVC/H.264 可変ビットレート固定と割り切っている。ただフレームはALL-IとIPBが選択できるようになっている。
4K All-I撮影ではビットレートが480Mbpsにもなり、かなり高速かつ大容量のカードが必要になるが、SDカードが使える点でコスト的には有利だ。一方フルHDではビットレートを抑えた軽量IPBを採用するなど、軽量化を意識した方向性のように感じる。
ビューファインダは0.5型の有効画素数約369万ドット、視野率約100%のOLED(有機EL)を採用。筆者のようなメガネ利用者でも全域が覗ける設計となっている。液晶モニターは3.15型の約210万ドットで、タッチスクリーン対応だ。
端子類は左側に集中しており、リモコン端子、マイク、イヤホン端子のほか、USB-C端子とmini-HDMI端子を備える。なおボディの電源OFF時には、USB端子経由でUSB PDに対応したACアダプタやモバイルバッテリー等からの充電も可能だ。しかし電源投入時の外部給電には対応しない。
本シリーズは、マウントアダプタが充実している。EFとの単純な変換アダプタのほかに、コントロールリングを付加したアダプタもある。さらには可変NDフィルタが挿入できるもの、円偏光フィルタが挿入できるものがある。EFレンズを併用しながらも、色々面白いことができるよう工夫されている。
完全に機能が切り分けされた動画
では早速撮影である。RFレンズは現在4本がリリースされているが、今回は「RF24-105mm F4 L IS USM」と「RF50mm F1.2 L USM」をお借りした。またマウンドアダプタのテスト用として、EFレンズの「EF24-70mm F2.8 L II USM」もお借りしている。マウントアダプタは、コントロールリングが付いているものをお借りした。
動画と静止画撮影の切り換えは、多くのカメラではモード内に動画モードがあり、そこからさらに掘ってプログラムAEや絞り優先などの撮影モードを選ぶ。つまり動画モードだけは、さらにもう一段深く入るという、二重構造になっている。
一方本機の場合、モードボタンを押してINFOボタンを押すことで、動画モードと静止画モードが切り替わる。いったん動画モードにすると、簡単に静止画モードへは戻れず、これ以降のモード変更操作は、すべて動画撮影用の変更動作となる。かなりはっきり動画と静止画を切り分けた印象だ。
ではまず動画撮影時の画角からチェックしてみよう。本機は4K/30pまでの撮影に対応するが、フルHD撮影に対して4K撮影時は、画角がかなり狭くなる。これはセンサー全域を読み出すのではなく、クロップして全画素読み出ししているからだろう。
加えてEOS Rでは、動画の手ブレ補正もかなり強力だ。レンズ内のジャイロセンサー情報と、センサーの画像情報から検出したブレ量比較解析し、最適な結果を出す。これをコンビネーションISと呼んで訴求している。なおコンビネーションISが使えるのは光学IS搭載のRFレンズ装着時のみで、EFレンズ装着時はレンズ側とボディ側補正は独立して動くことになる。
ただ、ボディ内は電子補正なので、補正力を強めるほどさらに画角は狭くなっていく。つまり4K撮影で手ブレ補正を強力にすればするほど、どんどん画角としては狭くなっていくことになる。
フルHD手ブレOFFのワイド端24mmと比較すると、4K手ブレ強のワイド端は65mmぐらいになってしまい、もうほとんど別のレンズのようだ。これはかなりガッカリポイントである。だたしこのコンビネーションISは、かなり威力がある。歩き出しは補正が安定していないが、数歩歩き続けると安定して補正が強まるのがわかる。
本機はHDR撮影が可能とされている。ただしその撮影は、記録サイズがフルHD 29.97p/IBP設定時のみに限られる。今回この設定でテストしてみようとしたが、なぜかHDRがグレーアウトして撮影できなかった。他にも動作条件があるのかもしれないが、説明書にもそれ以上の記述がなく、テストできなかった。
今回は4K All-Iで撮影しているが、発色や輪郭のキレなどは標準設定でも十分だ。特に逆光での発色は、標準色域でも高い表現力を誇る。
今回はEFレンズとも撮り比べてみたが、まったく同じ設定ながら、RFレンズのほうが若干発色に深みがあるようだ。ちょっと撮っただけで違いがわかるあたり、さすがに新設計レンズである。
また本機は、Canon Logによる撮影も可能だ。ただし撮影モードはマニュアルモードのみとなる。本体記録する場合は8bit、HDMI経由の外部出力には10bitで出力される。今回は外部レコーダを用意できなかったので、内部記録のみ簡単にテストしたのみだ。
撮影に際しては、HDRのダイナミックレンジをシミュレーションする「ビューアシスト機能」を使う事ができる。またカラーマトリックスもCinema EOS OriginalとNaturalの2タイプから選ぶ事ができ、Cinema EOSシリーズと混在させて撮影した際にもカラーマッチングが取りやすいようになっている。
キヤノン得意の顔認識+追尾優先AFも健在だ。顔が認識可能領域に入るとすぐに反応する様子がわかる。この反応速度は調整可能だ。ただF1.2などあまりにも人の顔がボケ過ぎると、認識がかなり遅れる。ここは撮像センサーで測距している以上、仕方のないところだろう。
本機のセンサーは裏面照射ではないが、ISO感度は動画では最高25600まで上げられる。いつものように夜間撮影を行なっていたが、ノイズリダクションが旨く、なかなか綺麗な絵を出してくる。ただし今回はフリッカーを嫌って、F4でシャッタースピードを1/50に設定した。これまで同シーンの撮影は1/60で行っていたため、厳密には同じではない点に留意頂きたい。
総論
写真のプロカメラマンからも、数年前から「ついでに動画も撮ってください」という依頼が多いと聴く。一方動画のカメラマンも、一眼で撮影していると「ついでに写真も押さえてください」と頼まれることが多い。
もはやデジタル一眼は、写真と動画両方のニーズを満たすのは必然である。そんな中、動画と静止画をきちんと棲み分けたEOS Rの設計はなかなか面白い。ただ動画撮影機能そのものは、残念ながら画角の面で他社に一歩譲る格好となった。
ボディが20万円強、レンズも標準ズームが15万円程度と、トータル35万越えのカメラで4Kを撮らないという手はない。発色、コントラストともに良好ではあるが、新機軸のフラッグシップモデルで4K撮影では画角が狭くなるというのは、いかにも残念でならない。
コンビネーションISは、手持ちで動画撮影せざるを得ない状況においては、かなり強力だろう。ただ動画撮影においては、昨今はスタビライザー等も安くなってきているので、画角が狭くなるのを回避するため、それらと組み合わせて使うという判断もあり得る。
動画、静止画両方いけるカメラとして、メニュー設計などはずいぶん配慮されている。この路線で、4Kフルサイズを実現して頂ければ、言うことなかった。