小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第995回
ソニー最上位サウンドバーが進化! ワイヤレス拡張も体験「HT-A7000」
2021年7月28日 08:00
ハイエンドサウンドバーの世界
7月23日の開会式を以て東京2020オリンピックが開幕した。一部の会場を除いて無観客での開催となったため、多くの方がテレビで観戦していることと思う。今季のオリンピックは、NHKは毎日、民放は持ち回りで放送している。
加えて今季は、BS4K・8Kが実用放送が開始されてはじめてのオリンピックとなる。これを機にBS4Kチューナー付きのテレビやレコーダを新調された方も多いことだろう。
地上波・BSのハイビジョン放送はステレオ放送だが、BS4K・8K放送はMPEG4 AACサラウンド放送だ。それならサウンドバーも、ということになるわけだが、ソニーのフラッグシップ「HT-ST5000」を買おうと思ったら生産終了になっていて驚いた方も多いことだろう。長期に渡りよく売れたモデルだが、発売が2017年といささか古かったのも事実である。
その代わりとして発売されるのが、新フラッグシップ「HT-A7000」だ。7月21日に発表されたばかりで、発売は8月28日。店頭予想価格は154,000円前後となっている。
オリンピックに間に合わないじゃないかと思われるかもしれないが、BS4KをDR録画していればサラウンド音声もそのまま収録されているので、あとからでもサラウンドが楽しめる。
先日、30万円を超えるゼンハイザーのフラッグシップ「AMBEO Soundbar」をレビューしたばかりだが、これに比べれば、半額以下で買えるフラッグシップだ。
4年越しの世代交代を、早速体験してみたい。
アプローチを変えてきた新モデル
本体は幅1,300mm、高さ80mm、奥行き142mmと、高さを抑えつつもかなり横が長いボックス型だ。横幅を考えると、60インチ以上のテレビと合わせるのが妥当だろう。重量は8.7kgで、大人であれば一人で十分設置可能だ。
スピーカーの内訳としては、46×54mmのフルレンジ×5基、51×97mmのウーファー×2基、ビームツイーター×2基、46×54mmのイネーブルドスピーカー×2基の7.1.2ch構成。
多くのフラッグシップが音の癖を嫌って楕円形スピーカーを敬遠する中、ソニーは歪みを低減するための新形状振動板を使った「X-Balanced Speaker Unit」を新開発、果敢に楕円形スピーカーに挑戦している。振動板はサブウーファーでよく使われてきた発泡マイカだ。
ビームツイーターも新開発。音響管に位相を制御する複数の穴を設け、指向性の強い音を放射するという。加えてブラビアA90J、A80J、X95Jシリーズと組み合わせると、ブラビアのスピーカーをセンタースピーカーとして組み込む「アコースティックセンターシンク」にも対応する。
今回の新モデルのポイントは、上に向けたイネーブルドスピーカーやビームツイーターを使い、天井や壁の反射を積極的に使ってサラウンドを実現しているところである。ソニーのバーチャルサラウンドは以前から反射音を使わないため、設置場所を選ばないというところがウリだったわけだが、本機では「S-Force PROフロントサラウンド」と「Vertical Surround Engine」を同時に駆動させることで、反射音アリのシアターサウンドを実現している。
本体天面右側にタッチ式のボタンを備えており、リモコン無しでもある程度の操作は可能だ。ただ天面が黒のアクリル張りとなっており、視聴角度によっては映画字幕がちょうど反射してしまうのが気になるところである。
フロントは全面パンチンググリルでカバーされており、着脱はできなくなった。以前のモデルではハイレゾ音源再生時にはグリルを外すことが推奨されたが、今回は穴のサイズ等を見直してグリルありの状態でもハイレゾ再生に支障がないように設計したという。正面右よりにディスプレイがあり、グリルの穴越しにステータスを表示する。
背面の端子類は、HDMI 2以外はすべて横向きに挿すように設計されている。端子数はHDMI入力×2、HDMI出力×1(eARC)、USB×1、光デジタル×1、アナログ入力×1となっている。
対応フォーマットはかなりの種類に対応しており、何が来ても大抵は再生できるのが強みだ。
テレビとの接続はARCかeARCで繋ぐことになると思うが、eARCであればHDMI直接入力と同じパフォーマンスが得られる。
テレビと接続すると、ホーム画面が表示できる。ここから様々な設定や入力切り替えが可能だ。
リモコンも見ておこう。サウンドバーに対する入力の切り替えのほか、サウンドモードの選択ができる。またIMMERSIVE AEボタンは、2chや5.1chソースを立体音響に展開してくれる。
また今回は、別売のワイヤレスサブウーファーー「SA-SW3」(実売44,000円前後)と、ワイヤレスリアスピーカー「SA-RS3S」(実売44,000円前後)もお借りしている。接続するのは電源だけなので、設置の自由度も高いシステムとなる。
本機はオーディオコンテンツの再生にも対応している。このあたりはあとでチェックしてみよう。
簡単セットアップで高い効果
まず映像コンテンツの再生からテストだ。今回はAmazon FireTV 4KをHDMI入力に直結し、テレビとはHDMI ARCで接続している。本機のHDMI入力は最大で4K120p/8Kまで対応しているが、この設定ではFireTV 4Kがコンテンツ再生に入るときにフレームレートの通信がうまくいかないようで、FireTVが再起動してしまう。4Kの互換性を優先する「拡張フォーマット」に設定したらうまく再生できた。購入予定の方は覚えておくといいだろう。
コンテンツはいつものように、Dolby Atmosに対応した「トム・クランシー / CIA分析官 ジャック・ライアン」シーズン1第1話を再生してみる。まずは、サウンドバー本体のみで後半の銃撃戦のシーンを試聴してみた。反射音を使ったバーチャルサラウンドは良好で、縦方向の立体感に驚かされる。サウンドの中心部が位置的に上昇した印象で、画面位置と音音像の位置の一致感が感じられる。
一方横方向のサラウンド感は、反射音を上手く使って明瞭度は高いものの、筆者の耳には180度横ぐらいまでの回り込みで、それ以上後方に回る感じは聴き取れなかった。
低音はスピード感があってキレがいいが、バランス的にはおとなしく、1ランク上のサウンドを目指すならサブウーファーは欲しいところだ。
続いてサブウーファーを追加して再度同じシーンを視聴した。ワイヤレス接続は非常に簡単だ。サブウーファーの電源を入れてリンクボタンを押すとペアリング待ちになるので、ホーム画面からワイヤレススピーカーをマニュアルでペアリングするだけである。ペアリング速度も早く、一度繋がれば電源連動もしてくれる。
その後、測定音再生による「音場最適化」に移るわけだが、測定用マイクを立てる必要もなく、測定も30秒程度しかかからないので、再測定も苦にならないスピードだ。
サブウーファーはかなり低い周波数でカットオフされているようで、爆発シーンは「ドーン」の部分ではなく、その後の「ドドド……」という地鳴りのような低い部分が追加される。バランスは音場最適化である程度自動でセットされているはずだが、リモコンでサブウーファーバランスの増減ができるので、過不足はマニュアルで簡単に修正できる。
サブウーファーが加わることで、音の密度感が随分変わってくる。SE以上に挿入される音楽のバランスがよくなり、濃厚な空気感の演出を見事に再現する。やはりサブウーファーとの組み合わせを標準で考えたいサウンドバーだ。
続いてリアスピーカーも追加してみる。同じシーンを見ているが、音に包まれるというより、具体的に背後に音が配置されるようになり、リアリティが全然違う。最初、家の者が誰か帰ってきて音を立てたのかと思ったが、劇中の音であった。
シーン中に右後ろからマシンガンの音がするシーンが2回あるのだが、フロントサラウンドでは全然気が付かなかった音だ。Dolby Atmosでは、従来の5.1chサラウンドよりもかなり具体的に音が定位するので、リアスピーカーの追加は効果が高い。
音楽再生にも強い
ハイレゾ対応からもおわかりの通り、本機は音楽再生もかなりのフォーマットおよび入力ソースに対応している。
Bluetooth接続でスマホから音楽再生が可能だが、SBC、AAC、LDACに対応しているので、簡単にハイレゾ再生が可能だ。
またDSEE Extremeにも対応しており、ハイレゾ以下のソースもアップスケールして再生してくれる。
Bluetooth再生でも「IMMERSIVE AE」ボタンは有効だ。OFFだとセンター寄りの求心的なハイレゾサウンドだが、ONだと音質をあまり変えずにサラウンド全体が手前に来る感じだ。派手にサラウンドになるわけではないが、効果として楽しめる。ただステレオハイレゾ特有の音のソリッド感を楽しむなら、OFFのほうがいいだろう。
またUSBやDLNA経由でもハイレゾフォーマットのファイル再生に対応しており、NASに保存したハイレゾ音源なども再生できる。
またネットワークサービスとして、Chromecast built-in、Spotify Connect、Airplay2に対応している。特にSpotifyは、一度設定しておくと、リモコンの「Music Service」ボタンから起動できる。またAmazon Alexaの設定をしておくと、Amazon Echo等から音声で音楽再生ができる。
せっかくのイマーシブサウンド対応なので、3Dの音楽再生もしたいところだ。Amazon Music HDの3Dソースに関しては、ソニーのサウンド機器設定アプリ「Music Center」経由で設定可能のようだが、現時点ではまだ試用機がMusic Centerに対応しておらず、再生確認できなかった。製品版ではちゃんと対応できているはずだ。
一方でソニーが推奨する360RAにも対応している。こちらも対応サービスからスマホ経由でキャスト再生可能になる予定だが、8月下旬のファームアップデートで対応するとしている。
本体内蔵のデモソングで確認する限りでは、本機とサブウーファー、リアスピーカーまで組み合わせたセットは以前レビューした「SRS-RA5000」および「SRS-RA3000」よりも音源の定位が明確だ。手軽に設置、というわけにはいかないが、やはりディスクリートで後ろにスピーカーがあるセットは面白い。
おそらく一部量販店やオーディオ専門店では、フルセットでデモが視聴できるコーナーも設置されると思うので、一度体験してみることをお勧めしたい。イヤフォン、ヘッドフォンとも、フロントサラウンドだけともまた違う、ディスクリートに近い360RAが聴けるはずだ。
総論
以前ヤマハの「SR-B20A」をご紹介したが、今サウンドバーもかなり低価格化が進んでおり、2万円~3万円ぐらいでイマーシブサウンドが楽しめるモデルが出てきている。もはやBluetoothスピーカー並みに買いやすくなっているジャンルである。
そんな中、15万円オーバーのフラッグシップモデルを買う意義はなにか、ということになるわけだが、ソニーの場合はどんなフォーマットが来ても対応できるところだろう。なんとなくふわっと広がるサラウンドではなく、ちゃんとそのフォーマットを生かした、製作者の意図したサウンドが出せるところが価値ということになる。
加えてハイレゾ/3Dスピーカーとしても利用できるなど、映像の音声再生以外でも活用できるところも魅力である。普段リビングで仕事するときは音楽再生スピーカーとして、Netflix見るときはサウンドバーといった使い方も面白い。
AV機器は巣ごもり需要で2020年から大幅に売上を伸ばした分野だが、巣ごもりもだんだん板についてきた昨今、これまでのセオリーとは若干違う使い方も出てきているところだ。こうした幅広いニーズに対応できる余力や拡張性があるという点もまた、フラッグシップモデルの面白いところだと言える。