小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第991回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

サウンドバー界の超弩級戦艦、ゼンハイザー「AMBEO Soundbar」

ゼンハイザーの「AMBEO Soundbar」。横幅126.56cmとかなり長い

ようやく日本発売へ

Dolby Atomsに初めて対応した作品は2012年のピクサー「メリダとおそろしの森」だそうで、作品の登場からまもなく10年ということになる。とはいえ当初は天井へのスピーカー設置が必要ということで、家庭で環境を作るのはなかなか大変だった。

だが上向きに音を放出する立体音響対応スピーカーの登場や、最近ではアップルの「空間オーディオ」にてイヤフォン・ヘッドフォンでも楽しめるようになり、ようやく多くの人が映画館以外でこの技術にふれることができる環境が整ったと言えるのではないだろうか。

そしてサウンドバーもまた、立体音響の実現に向けて大きく動いている分野である。今回はその先駆者とも言える製品をお借りした。

ゼンハイザーの「AMBEO Soundbar」は、日本導入が発表されたばかりの大型サウンドバーである。最初にお披露目されたのは2018年のIFAで、翌年5月からドイツ・オーストラリア・イギリス・アメリカでのみ発売されていた。日本発売が待たれていたところだが、7月27日の発売が決定、価格はオープンプライスで、店頭予想価格は325,000円前後(税別)。

これまで国内において、Dolby AtmosおよびDTS:X対応の高級サウンドバーとしては2017年発売のソニー「HT-ST5000」が159,880円(ソニーストア価格)であったが、それを倍以上上回る。

性能は折り紙付きの本機は、一体どういう音を出してくるのだろうか。早速テストしてみよう。

ド迫力のボディ

まずボディだが、昨今のサウンドバーの平均からするとかなり大型である。横幅126.5cmは、55インチテレビとほぼ同等。奥行き17.1cm、高さ13.5cmとなっており、テレビと同じ台に乗せてしまうと画面の下の方が隠れてしまう。従って合わせるテレビは、55インチ以上を壁掛けにするか、プロジェクタ投写で使うのが妥当ということになる。

また重量が18.5kgあり、1人で持つのはしんどい重さだ。2人で設置した方が安全だろう。

設置イメージ

天板の中央部に操作ボタンがあるが、基本的にはリモコンかスマホアプリでコントロールする。また正面下部には小型のディスプレイがあり、LEDとともに現在のステータスを表示できる。

中央上部にあるボタン
下部にディスプレイとリモコン受光部

内蔵スピーカーは、正面の真ん中がセンタースピーカー、その両脇に圧巻のサブウーファー6発。正面両端と側面はツイーターだ。また天面の両脇に、斜め上向きに設置されたトップファイリングスピーカーが1ペアとなっている。トータルで5.1.4chの音像を再現できる。一台のサウンドバーで5.1.4chを実現できるのは世界初だそうだ。

側面にもスピーカー
上部両脇にもスピーカーが仕込まれている

対応するイマーシブオーディオフォーマットは、Dolby Atmos、DTS:X、MPEG-H Audioの3つ。加えてステレオと5.1chの音源を立体音響化する「AMBEO Upmix-Technology」を搭載する。MPEG-H Audioは筆者が知る限りこれで配信する動画のプラットフォームはまだないと思うが、放送で立体音響を伝送する技術として検討が進められているところだ。

左上部に対応コーデックが記載されている
Dolby AtmosやAMBEO Upmix-Technology使用中はAMBEOロゴが点灯する

背面端子を見てみよう。右から電源端子、USBはアップデート専用だ。ただ電源は取れるようなので、FireTV等を動かしたいといった用途には使える。LAN端子はあるが、無線LANにも対応している。続いてeARC端子、HDMI入力が3系統。そのほか光デジタル入力、サブウーファー出力、AUX入力となっている。またBluetoothも搭載しており、対応コーデックはSBCとAACだ。NFCによるペアリングにも対応する。

背面の端子郡
背面上部は放熱スリットになっている

リモコンはボタン面が少し手前に起き上がっている角形で、デザインとしてはなかなか面白い。ボリュームのアップダウン、ソース切り替え、サウンドモード切り替えといった基本機能のみ操作できる。

専用リモコンも付属

それ以上の細かい設定は、専用アプリ「Smart Control」で操作する。各サウンドモードの中をさらにいじることができるので、好みの広がり感や音質に調整できる。

設定用アプリ「Smart Control」

また付属品として、立体音響キャリブレーション用のマイクがある。台座の上に約70cmの支柱が立っており、その先端にマイクがある。本体正面にあるマイク端子に接続し、キャリブレーションモードに入ることで音響測定を行なうものだ。

付属のキャリブレーション用マイク

キャリブレーションは、製品購入時は電源を入れるとすぐ測定モードに入るが、2回目以降はスマホアプリから指定するのが簡単だ。その後AMBEOボタンを4秒以上押すと、測定開始となる。測定中はかなりの音量で何度もスイープ音が再生されるので、深夜には起動させない方がいいだろう。

マイク位置はリスニングポジションに置くのが理想だが、ベストな条件が色々ある。まず部屋の面積は40m2以下とされている。平方メートルで言われてもピンとこないと思うが、だいたい25畳ぐらいだ。例えばリビングとダイニングがぶち抜きのワンフロアに設置する場合などが該当する。この場合は低音が不足がちになるので、サブウーファーを追加するなどの工夫が必要になるだろう。さらに反射音を使用するため、左右と背面にはカーテンなどの吸音物がないことが望ましい。

また理想のリスニングポジションは、スピーカーから2m以上離れた位置とされている。これはトップファイリングスピーカーの音が天井に跳ね返って聞こえてくる角度を考えると、だいたいそれぐらいの距離になるようである。天井が高い場合は、もう少し距離が必要になるかもしれない。

満足度の高い映画体験

今回試聴に使用するテレビはARC対応ではあるが、あいにくeARC対応ではないので、ソースはAMBEO Soundbarに直接接続することにした。具体的にはAmazon Fire TV 4K及びM1 Macbook AirをHDMI端子に直結、映像は本機とテレビをARC接続してテレビに出すという結線である。

テストの結線状況

まずAmazon Prime VideoでDolby Atmos作品として、「トム・クランシー / CIA分析官 ジャック・ライアン」シーズン1第1話を再生してみる。後半の銃撃シーンは音楽もミックスされており、効果がわかりやすい部分だ。

入力されているコーデックはアプリ側で確認できる

本機のサウンドは特定のクセがなく、非常にナチュラルだ。さすがウーファー6発も積んでいることもあり、低音出力も十分で、確かに25畳以下の部屋ならサブウーファーはいらないだろう。

反射音をうまく使うことで、音の出どころがスピーカーの設置位置ではない場所、すなわち何もないはずの壁やテレビ画面の上のあたりから聞こえてくる。スピーカーは非常に存在感のあるサイズだが、そこから音が出ている気がしないというのは、なかなか衝撃である。

今回はリスニングポジションをスピーカーから2m30cmの位置に設定して測定しているが、その場所でなければ立体に聴こえないわけではない。再生したまま部屋を歩き回ってみたが、どの位置でも概ね問題なく立体音響で聴くことができた。部屋全体を音像空間として構成しているようなので、スイートスポットはかなり広い。家族や友人たちと一緒に見る場合も、全員が満足できるだろう。

サウンド的には、映画館での音響にかなり近い。もともとホームシアターとはそういうものなわけだが、本当に映画館の音のように聴こえる機器はそう多くない。ただ、セリフを目立たせるような機能がないので、セリフがドンパチ音に紛れて聞き取りにくいところもあった。それはそれでリアルではあるのだが、トークが中心の作品では、オーディオモードを「Movie」ではなく「NEWS」や「Natural」あたりで聴いた方がいいだろう。

セリフが聴こえないからといって、スピーカーに近づくのは逆効果だ。前に出過ぎると音が左右に飛び散って聴こえるので、センター位置の芯がなくなってしまう。サウンド全体をバランスよく聴くには、やはりある程度の距離が必要のようだ。

Dolby Atmosのような立体音響ではなく、5.1chのソースも、そつなくこなす。リモコンや本体の「AMBEO」ボタンを押すと、独自の「AMBEO Upmix-Technology」が起動し、立体音響のように聴かせてくれる。“この音がこの位置”といったオブジェクト的な定位ではないが、上下方向も含めて部屋全体を包み込むように音が鳴るという効果は感じられる。ボタンをON/OFFして聴き比べると、効果の絶大さがよくわかる。

音楽の立体音響再生にも対応

これだけのスピーカーであれば、映画を見る時だけに使うのは勿体無い。音楽再生でも昨今盛り上がっている立体音響で聴いてみたいものだ。本機の能力的には、Dolby Atmosはもちろん、MPEG-H Audioにも対応しており、ソニーの360RAにも対応するそうだ。ソニーの360RAはMPEG-H Audioがベースになっている。ただ、今回試用した製品では360RAを試せていない。

そこで、Apple Musicの空間オーディオが再生できるか試してみた。Apple MusicはBluetooth経由でAirPodsなどへ空間オーディオを伝送可能だが、本機とiPhoneをBluetooth接続した場合は、単にAAC接続となるだけである。

そこで、MacのUSB-C端子からHDMI変換して、そこから流せないかとテストしてみたが、設定ではリニアPCMで8chに変換された出力には設定できるものの、変換なしでDolby Atmosストリームを流す方法が見つからなかった。ちなみに8ch出力に設定してもAMBEO側で受け取れないので、2ch設定の時と結果的には同じである。

少なくとも現時点では、音楽の立体音響配信サービスは特定ハードウェアのセールスに繋がるエコシステムで動いているので、汎用のイマーシブ対応製品で鳴らせるようになるのはまだ当分先になるのかもしれない。

MacOSからDolby AtmosをHDMI経由で直接出す設定が見当たらない

しかしながら「AMBEO Upmix-Technology」は2chソースに対しても有効なので、空間音響風のサウンドで聴くことはできる。モードOFFの時と比べるとこちらも劇的に広がりがあるので、また違ったサウンドで楽しむことができる。さらにアプリを使えばサウンドモードの編集もできるので、音楽的に気に入る音に変更することも可能だ。

3Dサウンド効果は自分で調整できる

総論

ゼンハイザーと言えば、5月にコンシューマ事業がスイスSonovaに譲渡されることになり、先行きが気になるところだ。だがすでに4カ国で先行販売されていた製品が計画通り日本でも発売されるということは、基本的な製品の計画に変更はないと言うことだろう。

とはいえ日本円で30万円越えという超弩級サウンドバーである。部屋のサイズや合わせるテレビのサイズなどを考えると、なかなか人を選ぶ製品ではあるが、現存するイマーシブフォーマットには全対応しており、将来的にも安心できる。そもそも対応AVアンプや5.1.4chスピーカー及びその設置工事などを考えれば、30万円ぐらいはあっという間に吹っ飛んでしまうわけで、設置するだけで簡単に立体音響を楽しめる本機も選択肢としてはアリだろう。

サウンドはクセがないが、モニタースピーカーのように色気のない音ではなく、音楽再生機として聴いても実にゼンハイザーらしいサウンドに仕上がっている。

今年はイマーシブオーディオ界隈が熱くなりそうだが、本機はその頂点に限りなく近い製品という事になるだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。