小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第998回
ソニーだけじゃない! LDAC対応製品を集めてみた
2021年8月25日 08:00
WF-1000XM4好調の影で
完全ワイヤレスイヤフォンとしては初のLDAC対応となった、ソニー「WF-1000XM4」。6月25日から発売が開始されているが、人気が高いのに加え、昨今の半導体不足も手伝って、供給が間に合わない日々が続いている。ソニーストアでは8月20日にプラチナシルバーのみ入荷したということだが、希少な在庫を高値で売る業者もあり、消費者としては適正な価格で入手するように気をつけたいところである。
そんな中、7月28日にAnkerから、ワイヤレスヘッドフォンながらLDACに対応した「Soundcore Life Q35」が発売された。価格が10,990円と、1000XM4の33,000円からすれば約1/3である。もしかしたら、ソニー以外でもLDAC対応製品はそこそこ登場しているのではないか。
というわけで今回は、ソニー以外のLDAC対応製品を集めて聴いてみることにした。1000XM4以外の選択肢として、参考にしていただければと思う。
一番安いLDAC対応ヘッドフォン? Anker「Soundcore Life Q35」
ではまず、Ankerの「Soundcore Life Q35」(以下Life Q35)から試してみよう。Ankerは今やワイヤレスイヤフォンメーカーとしてもかなりのシェアを誇っているが、ワイヤレスヘッドフォンもLifeシリーズとして多数展開している。このLife Q35は、前作「Life Q30」の上位モデルという格好で展開されている。
デザインはQ30とほぼ同じだが、カラーリングがネイビーとピンクの2色展開となっている。写真で見るとオンイヤータイプの小型モデルに見えるが、実際は耳全体をすっぽり覆うぐらいのサイズだ。
エンクロージャやアーム部は樹脂製だが、ヘッドバンド部はヘアライン仕上げの金属板となっており、ネイビーはなかなかかっこいい。ただエンクロージャ外側に円盤がくっついているようなデザインはあまり今風ではなく、好みが分かれるところである。
飛び出した円盤部底面にボタン類がある。左側に充電用USB-Type Cコネクタと電源ボタン、NC切り替えボタン。右側に再生・ポーズボタンとボリュームボタン、ワイヤード接続用アナログ端子がある。一見するとタッチセンサーがないように思えるが、実は右側だけセンサーが組み込まれており、手のひらで1秒触ると、外音モードに切り替えることができる。また同じ右側にNFCも備えており、スマホとタッチでペアリングできる。
エンクロージャ内部にもセンサーがあり、ヘッドフォンの着脱で自動的に音楽の再生・停止が連動する。
ノイズキャンセリングは、ON/OFF/外音取り込みの3切り替えだが、ノイズキャンセリング自体にも交通機関モード/屋内モード/屋外モードの3種類がある。種類の切り替えは、専用アプリで変更できる。
キャンセリング強度は、筆者が個人的にリファレンスにしているAnkerの「Soundcore Liberty Air 2 Pro」を100とした場合、80ぐらい。ほとんどのノイズ帯域はキャンセルできるが、人の話し声みたいなところはやや通ってしまう感じがある。
装着感は良好で、エンクロージャの容積もあり、どこかが耳たぶに当たる感じはない。クッションも良好で、あたりが柔らかい。再生可能時間はLDAC使用かつノイズキャンセリングモード使用時、最大38時間となっている。
収納ケースも付属している。中に小さなポーチがあり、そこに充電用ケーブルとアナログ接続用ケーブルが入っている。
コーデックはSBC/AAC/LDACの3つ。この価格でLDAC対応は大したものだが、説明書の中に気になる記述を見つけた。「周波数応答」として、「20Hz-20kHz(Bluetooth接続時)、16Hz-40kHz(AUXケーブル接続時)」とある。
Bluetooth接続時は、デコード後にDACを通り内蔵アンプでヘッドフォンを駆動するわけだが、ケーブル接続時はヘッドフォン内のDACおよびアンプは使わない。LDACのデコードはできても、DACとアンプの周波数特性が従来製品と同じで、ハイレゾ帯域まで届いていないのかもしれない。
実際にLDACとアナログ接続で音を聴き比べてみた。プレーヤーはソニーのウォークマン「NW-A105」である。Bluetoothとワイヤード接続では、通る回路が違うので多少サウンドのニュアンスは違うものの、それほど大きな差は聴き取れなかった。ただ、ワイヤード接続の方が若干細かいニュアンスの表現力は高いように思う。全体的には元々40mmドライバの特性がいいこともあって、音質的にも素直な明るい音である。
ハイレゾは周波数特性だけが向上するわけではなく、ダイナミックレンジや解像感にもメリットがあるので、LDACによる伝送に意味がないわけではない。違いが聴き取れないなら関係ないという考え方もあるが、若干モヤッとするのは事実である。
LDAC対応完全ワイヤレス2作目、Edifire「NeoBuds Pro」
Edifireはどちらかというと高コスパPCスピーカーメーカーという印象だが、今年でブランド設立25周年だそうである。今回取り上げる「NeoBuds Pro」は現在Makuakeにてクラウドファンディング中で、10,359円で応援購入できる。一般発売時の予価は13,999円となっている。
ポイントとしては、ファームウェアアップデートでLDAC対応予定という点。今回は発売前の試作機をお借りしているが、こちらは中国版で、先行してLDACが使える。日本版のLDAC対応時期は、Makuakeサポーターに製品が届く頃には搭載されているとのこと。
完全ワイヤレスイヤフォン分野でLDAC対応は、本家ソニーWF-1000XM4に続いて2作目ということになる。
ドライバ構成としては10mmダイナミックドライバと、Knowles製BAドライバの2Wayハイブリッドで、再生周波数帯域は20Hz~40kHz。ノイズキャンセリング、防水・防塵機能もあり、IP54となっている。タッチセンサーも左右に備えており、NCのON・OFF、再生・停止、曲のスキップ等の操作ができる。
イヤーピースはXXSからXXLまで7セットが付属しており、耳穴の小さい人にも安心である。ケースはクラムシェル型で、ペアリングボタンなどはない。マルチペアリング中はLDACなどの高音質コーデックが対応しないので、あえてマルチペアリングは非対応としているようだ。駆動時間は単体で5時間、ケースが15時間。
対応コーデックはSBC/AAC/LHDC/LDAC(予定)。LHDCはあまり聴いたことがないコーデックだが、台湾のSavitechが開発したもので、2019年には96kHz/24bit伝送ができるハイレゾオーディオコーデックとして、日本オーディオ協会から認証を受けている。現在はHuaweiの独自コーデック「HWA」として提供されているようだ。
専用アプリもあり、ノイズキャンセリングの2モードを切り替えられる。またサウンドチューニングとして、ピュア、ダイナミック、オーディオマニアの3モードがある。オーディオマニアはいわゆるユーザー設定だ。一見すると4バンドのグライコのように見えるが、実際にはQや周波数が自由に設定できる、パラメトリックEQである。最終的なカーブが見えるわけではないので、設定にはかなりの知識と耳が必要である。確かにこれはマニアックな機能だ。
音質はハイブリッドの良さがよく出ており、高解像度のBAに、サブウーファのようなドシンと来る低音が魅力だ。「ピュア」ではしっとりした中高域、「ダイナミック」ではカリッと抜ける高音が楽しめる。軽快さとスピード感があり、低音の量感もある、多くの人が納得の音質だろう。
ノイズキャンセリングのレベルは、高ノイズキャンセルで100点中70点。交通音には強いが、人の声は割と抜けてくる。安全性は高いが、人がガヤつくところでは効果は薄く感じられるかもしれない。
ハイレゾヘッドフォンをワイヤレスに、FiiO「BTR3K」
ハイレゾというフォーマットの登場は2013年ごろに遡るが、それまでの製品は2019年で一旦歴史が切れている。というのも、それまでのハイレゾはファイル再生が前提であり、音楽配信もハイレゾはダウンロードして聴くというものだった。しかし2019年にAmazon Music HDが登場して以降、ハイレゾはいかにしてストリーミング+ワイヤレスで聴くかに変質した。
当然ハードウェアも変わる。以前のハイレゾブームに乗っかって対応製品を買った人は多いと思うが、ソースがストリーミングになってしまうと、なかなか当時の機器が活用できなくなってしまっているのではないだろうか。
筆者宅にはV-modaの「Crossfade II Wireless」というヘッドフォンがあるが、これはワイヤード接続ではハイレゾ対応だが、Bluetooth接続ではハイレゾ対応しない。昔はワイヤレスでハイレゾを聴くという発想がなかったのだ。そこでこうした古いハイレゾ機器をワイヤレス対応にするための製品を探してみた。
まずはFiiOのBluetoothヘッドフォンアンプ、「BTR3K」をご紹介する。こちらもLDAC対応で、スマホからの音楽をLDACでワイヤレス受信し、BTR3Kにハイレゾ対応の有線ヘッドフォンと繋ぐことでワイヤレス化できるわけだ。昨年5月に発売されており、実売はだいたい9,000~10,000円程度のようである。
ボディはUSBメモリぐらいのサイズで、上部にUSB-Type C端子がある。これは充電用でもあるが、スマホ側の端子と接続してUSB DACとしても使用できる。右サイドに電源、再生・停止、ボリュームボタンがある。底部にはステレオミニ端子と、2.5mmバランス端子を備える。
バッテリーは連続再生約11時間、充電は1.5時間となっている。服やベルトに装着できるクリップも付属している。
対応コーデックは、SBC/AAC/aptX/aptX LL/aptX HD/LDACで、aptX Adaptive以外は全対応である。どのコーデックで接続しているかはロゴのカラーで見分けることができ、SBCは青、AACは水色、aptX HDは黄色、aptX/LLは紫、LDACは白となる。
音質は接続するヘッドフォンの能力次第ではあるものの、解像感は高く、パワフルだ。さすがDACとアンプを左右独立2系統積んでいるだけのことはある。
同じFiiOの製品として、オマケで紹介しておきたいのが「BTA30」だ。こちらは据え置き型のDAC/Bluetoothトランスミッタ・レシーバで、背面にはアナログ端子ほか光デジタルのIN/OUT、同軸デジタルのIN/OUTを備える。
これを使えば、ハイレゾアンプ/スピーカーシステムに向かってLDACで音楽を飛ばせるほか、ハイレゾプレーヤーにデジタル接続すれば、LDAC対応イヤフォン/ヘッドフォンに向かって音楽を飛ばせるという優れものである。
価格も11,000円程度となかなか手頃だったのだが、残念ながら既に生産完了・販売終了になっており、市場在庫も売り切れのようだ。LDACでのBluetooth送信機能が、光/同軸入力時のみの対応で、USBでは使えないのも惜しかった。昨年12月発売でもう販売終了なのは珍しいが、後継モデルの発売も予定されているそうなので、気になる方は今後AV Watchの新製品ニュースを注目しておくといいだろう。
総論
LDACといえばソニー製品のみ、というイメージだったが、有象無象のワイヤレスイヤフォン・ヘッドフォンの中で差別化要因として、LDAC対応というのは実は一つのポイントになってきそうである。その一方で、昨今はaptX非対応の製品も珍しくなくなってきており、採用SoCのQualcomm離れが進行しているようだ。
スマートフォン側はすでにLDAC対応モデルが多く、Xperiaはもちろんのこと、Samsung、Google Pixel、OPPO、Xiaomi、SHARP、ASUS、Motorola等から、続々とLDAC対応スマホが登場している。Androidに限るのが難点ではあるが、ミドルレンジ以上のスマートフォンの差別化要因としても機能し始めているということなのかもしれない。
今回調べてみて分かったのだが、ソニー以外のLDAC対応製品はそれほど高くない。どれも1万円ちょっとで買える製品ばかりで、価格のこなれ感も一つの注目要因と言えるだろう。
今後Qualcommでも、aptX Adaptiveを拡張してLDAC相当の96kHz/24bit伝送が可能になる予定だが、対応スマホ・対応イヤフォンが出て来るまでにはまだ時間がかかりそうだ。その隙にLDACが陣営としてどれだけ引き離せるか、ここが勝負どころであることは間違いない。