小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1118回
ながら聴きイヤフォン頂上決戦?! ボーズ「Open Earbuds Ultra」、HUAWEI「FreeClip」
2024年3月27日 08:00
ニューカマーの参入
耳を塞がない“ながら聴き系イヤフォン”……耳には入れないのでイヤフォンと呼ぶのが妥当なのかは微妙なところだが、他に呼びようがないので未だにこうして呼び続けている。この系列に多くのメーカーが参入してきたのは2022年の事だった。この年だけで、Shokz「OpenRun Pro」、aiwa 「Butterfly Audio」、ソニー「LinkBuds」、PEACE「SS-1」、ビクター「HA-NP35T」、Oladance「ウエアラブルステレオ」、オーディオテクニカ「ATH-CC500BT」、NTTソノリティ「nwm」、Cheero「CHE-643」などが製品化されている。
昨年はJBLとAnkerが参入し、もうだいたい主な顔ぶれは揃ったかなと思っていたのだが、今年に入ってもまだ参入メーカーが相次いでいる。今回はその中でも、ボーズとHUAWEIの製品を取り上げる。
ボーズは言わずと知れたノイズキャンセリングの老舗であり、外音がそのまま聞こえながら聴き系とは逆方向ではあるが、「Open Earbuds Ultra」という名称で参入してきた。価格は39,600円。
一方HUAWEIは通信系の総合メーカーで、スマートフォンやタブレットのほか、ウエアラブル製品も多い。オーディオ系はイヤフォンのほかメガネ型スピーカーなど先鋭的な製品を作ってきたが、今回「FreeClip」で参入した。価格は27,800円。
両社とも耳たぶに挟み込むイヤーカフ型で設計してきた。さっそく聴き比べてみよう。
クールなデザインの「FreeClip」
HUAWEI FreeClipは、光沢のあるボディが特徴のシンプルなデザインが特徴だ。カラーはブラックとパープルの2色で、今回はブラックをお借りしている。ブラックとはいっても真っ黒ではなく、ダークグレーといったほうが正しいだろう。
本体はスピーカー部とバッテリー/回路部がパイプで繋がったような形状になっている。間のパイプは柔らかい樹脂製のように見えるが、内部にはニッケルチタンの形状記憶合金と配線が入っている。開発に3年かかったと言われる通り、これだけ形状をシンプルかつ小型化しながら、万人にフィットする構造に至るまでかなり時間がかかったことだろう。
ドライバは10.8mm径のデュアルマグネットダイナミックドライバで、耳穴方向の丸い穴から音が出てくる。背面両サイドに開いた細いスリットは、逆相を背面に放出することで音漏れを軽減している。
BluetoothコーデックはSBC、AAC、L2HCの3つ。L2HCはHUAWEIが開発したLDAC相当のコーデックだが、利用するにはHUAWEIのスマートフォンが必要になる。
元々通信系の会社なので、音声通話機能も凝っている。ドライバユニット側に通常のマイクがあるほか、骨伝導VPUセンサーも内蔵しており、両方を使って音声をピックアップする。また耳の裏側になるバッテリー/回路部には、風切り音低減用のマイクもある。
さらに独自開発のマルチチャネルDNN(ディープ・ニューラル・ネットワーク)通話ノイズリダクションアルゴリズムを搭載しており、ノイズとユーザーの声を分離するという。
重量は片側5.6gで、IP54の防塵防滴性能を備えている。形状は左右とも全く同じで、どちらに付けても自動的にLRを認識するようになっている。従ってイヤフォン部にも、LRの文字はない。
本体でのコントロールは、振動センサーを使ってほぼ本体全域で反応するように作られているようだ。左右のタブルタップとトリプルタップにそれぞれ別のアクションを設定できる。
バッテリーは、本体のみで最大8時間、充電ケースも合わせると最大36時間再生可能。また約10分充電で最大3時間再生可能な急速充電機能もある。
充電ケースは、本体と違って艶消しのダークグレーになっており、USB-C端子まわりの作り込みも丁寧に仕上げてある。イヤフォンは特殊な形状だが、ケース自体は一般的なイヤフォンケースとサイズ的には変わらない。
コントロール用アプリは「HUAWEI AI Life」が対応するが、HUAWEIは2020年頃から安全保障の問題で米国から排除されている関係で、Google Playからアプリをダウンロードできない。マニュアル記載のQRコードを読み取って、HUAWEIのサイトから直接アプリをインストールすることになる。
ロール構造の「Open Earbuds Ultra」
ボーズ「Open Earbuds Ultra」も2色展開で、ブラックとホワイトスモークがある。今回はブラックをお借りしている。
同じく耳たぶに挟み込む方式だが、構造が面白い。ドライバ部とバッテリー/回路部との間は平たい帯状のシリコンで接続されており、この帯が丸まってバッテリー部を巻き込むような構造になっている。装着時はこの丸まった部分を伸ばして、耳に挟み込む。
ドライバの口径は情報がないが、外寸から推測すると10mmあるかどうかといったところ。耳に対して平行に配置はされるが、音の放出口が上部にあるため、ドライバの横方向から音を取り出すスタイルとなっている。また表面にも放出口があるが、特に逆相云々という情報もないので、シンプルにエンクロージャ内の圧力を調整するものだろう。
バッテリー/回路部の上部には物理ボタンがあり、再生、一時停止、曲送り、音量調整に対応する。防水・防汗性能としてはIPX4。再生時間は本体が最大7.5時間で、バッテリーケース併用で最大19.5時間。10分充電で2時間使用可能な急速充電機能も備えている。
BluetoothとしてはSnapdragon Soundテクノロジーの採用で、これに対応するAndroidスマートフォンとはaptX Adaptive接続となる。そのほかSBCとAACにも対応する。音声通話に関してはあまり積極的に情報が公開されていないが、片方につき2つのマイク搭載、合計4マイクとある。
本機のポイントは、独自のBoseイマーシブオーディオ機能を搭載しているところだ。これをONにすると音像が広がり、ヘッドトラッキングにも対応する。アプリは「Bose Music」が対応する。
ケースはマットなブラックで、やや上部が平たい形状。背面にはペアリングボタンがある。
普段使いに十分な音質
では実際に音を聴いてみよう。今回試聴するのは、3月12日に惜しくも亡くなったシンガーソングライター、エリック・カルメンの3枚目のソロアルバム「Change of Heart」だ。オリジナルは1978年と古いが、Amazon Musicでは24bit/96kHzでリマスターされたものが配信されている。当時L.A.の名だたるAOR系スタジオミュージシャンを集めてレコーディングされており、故ジェフ・ポーカロもドラムスで参加している名盤だ。再生機はPixel 8である。
まずHUAWEI FreeClipだが、70年代のアナログレコーディング特有の、低音から中域にかけての密度感が十分に再現されており、とても耳穴から離れたところで鳴っている音とは思えない。周囲からの音も問題なく聞こえてくる一方で、音楽的にはクリア感のある明るい音で、満足度の高いサウンドだ。
装着感としては、耳の形によって上手くはまるポイントが人それぞれあると思うが、耳介が一番細い部分に無理なく落ち着く。装着位置で低音の量感が調整できるので、ベストな位置を探すといいだろう。
また装着しながら横になっても、耳穴にめり込むこともなくきちんと両方聞こえるので、いわゆる「寝ホン」としても使えそうだ。耳穴に入れないぶん、安全でもある。
コントロールソフトの「HUAWEI AI Life」では、サウンド効果としてデフォルト、高揚、高音強調、音声の4モードが使用できる。「高揚」は中体音域を充実させたやや厚ぼったい音、「高音強調」は名前の通り、高域の抜けを重視したサウンドだ。「音声」はボーカル帯域に寄せた音で、音楽全体は多少痩せるが、ボーカルのディテールはよくわかる。マニュアルのEQはなく、音の変更はこの4つのプリセットのみである。
続いてボーズのOpen Earbuds Ultraは、ボーズらしく低音がよく出るボリューミーなサウンドで、方式は違ってもちゃんとボーズの音がするあたりは、さすがである。演奏の細かいニュアンス、ハスキーなボーカルのザラツキもきちんと伝えており、音の奥行きを感じさせるチューニングだ。
装着感はFreeClipに比べると耳への挟み込みが強く、若干耳への辺りが堅いように思える。その反面固定力は強いので、装着位置からズレにくいというのがメリットとなる。
「Bose Music」を使えばイコライザも利用できる。プリセットが4つあるが、どれかを選択すれば低音、中音、高音の3バンドでマニュアルでの調整も可能だ。
とはいえやはり特徴的な「イマーション」モードはぜひ試していただいたいところだ。このモードに切り替えると、低域がグッと底上げされ、サウンドの広がりが強調される。
またイマーションモードでは、3タイプの移動感が選択できる。いわゆるヘッドトラッキングの追従性を調整するわけだ。オフではヘッドトラッキングなし、「静止」は従来型のヘッドトラッキングで、頭の方向を変えると、音の定位はそれまで向いていた方向に残る。5~6秒で新しい位置にリセットされるといった動きだ。
ヘッドトラッキング対応イヤフォンを付けて街を歩いたことがある人にはお分かりだろうが、街を歩けば人間あちこち頭を動かすし、移動ルートによって方向も変わる。そのたびにサウンドの定位が取り残されるので、音楽の鑑賞には非常に具合が悪い。
「移動」はそれに対応した新しいモードで、頭の向きを変えると、0.5秒ぐらいで再追従してくる。OFFと違い、音の立体感を感じさせつつも、移動の邪魔にならないバランスだ。これはなかなか新しい。従来モードはもう動画を見るといった用途限定で、通常は「移動」モードで十分なように思える。
印象の異なる音声通話
続いて音声通話もテストしてみよう。テストは非常に風の強い日に建物の影で撮影しているが、風の回り込みもあるので、そこそこ風があるといったコンディションである。
まずOpen Earbuds Ultraのほうだが、風切り音はそこそこ低減されており、車のノイズもあまり聞こえない。ただ音声はかなり堅めで、周囲の状況に合わせてチューニングがどんどん変わるのか、音質が不安定である。また音量も小さいので、通話にはちょっと苦労するかもしれない。
一方FreeClipは、さすが音声通話に片側3マイクも搭載しているだけあって、非常に良好だ。骨伝導マイクもあるので、声の低域もよく拾えている。風切り音もほとんど感じられず、周囲のロードノイズからも綺麗に分離されている。ノイズリダクションにありがちなシュワシュワ感もなく、まさかこんなコンディションの中で通話しているとは思えない音質だ。
続いてオープン型として気になるのは、音漏れである。そこで、音楽を再生してそれがどれぐらい音漏れするかをテストしてみた。再生音量は両者とも同じで、ボリューム的には6ぐらい。大きすぎないが、ガッツリ音楽を聴くといったボリュームだ。聴感上も同じぐらいの音量であることは確認している。
カメラマイクで集音しているが、マイクまでの位置は45cmで、これは一般的なパーソナルスペースと言われる固体距離45~120cmの最小値である。マイクレベルは、同じく45cmの距離から普通の声でしゃべって、-12dB程度振れるあたりで固定した。使用した音源は、フリー音源提供サイト「DAVA-SYNDROME」で公開中の、「Flehmann」氏による「[With You]」である。
FreeClipでは逆相を使って音を打ち消すということだが、ハイハットのリズムとボーカルの高域部分がかすかに漏れ聞こえてくる。特にハイハットのシャカシャカが目立っているが、装着すればかなりの音量であり、さらに耳の外にスピーカーがあることを考えれば、かなり音漏れは抑えられている。
Open Earbuds Ultraのほうは、音漏れに関しては特に逆相云々という情報はないが、ほどんど音漏れは確認できない。同じ音量で鳴っているはずだが、相当音漏れに関しては技術的にカバーされているようだ。
総論
耳を塞がない系としては後発となる2メーカーだが、音質的にはかなり高レベルで、どちらもかなり時間をかけて研究開発した成果が出ている。ある意味頂上決戦とも言えるほどの出来と言っていいだろう。
FreeClipは洗練されたシンプルなデザインでありながら多くの機能を埋め込み、音質の良さだけでなく通話能力も優秀で、インプット・アウトプット共に非常に高いレベルでまとめ上げた製品という印象を持った。常時装着イヤフォンとして、突然の音声通話にも対応できる点は、評価していいだろう。ボーズに比べると1万円以上安いというのも魅力だ。
Open Earbuds Ultraは、イマーションモードが特徴的で、オープンな構造と相まって非常に効果が高い。密閉型にはない開放感を上手く使って製品をまとめてきた印象だ。またヘッドトラッキングにも、新たに移動モードを設け、従来製品のデメリットをカバーしてきている。このモードは従来機種にも欲しいところだ。一方音声通話の能力は、ノイズキャンセリング力はそこそこ高いが集音性能はそれほどでもなく、やはりリスニングに注力した作りと言えるだろう。
BCNランキング完全ワイヤレスホン部門の3月17日までの集計データによれば、Open Earbuds Ultraが2週連続でトップ10入りしており、さらにはブラックとホワイトスモーク両モデルがランクインするなど、4万円弱の高級機ながら上々の滑り出しのようだ。
一方FreeClipは、今年2月1日までクラウドファンディングで販売しており、5,860万円以上の支援を集めた期待のモデルが一般販売となったものだ。購入者の満足度は高いが、イヤフォンメーカーとしての知名度の低さからか、アンテナの高い人にしか存在が知られていないのが勿体ない。
両モデルとも、音質に関しては一聴に値するモデルだ。機会を見つけてぜひその実力を体験してみて欲しい。