小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1170回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

平面磁界型の完全ワイヤレスでハイコスパ!?「Edifier NeoBuds Planar」は「STAX SPIRIT S10」と何が違うのか

現在クラウドファンディング中の「Edifier NeoBuds Planar」

平面磁界を手軽に

ハイエンドで人気のドライバ駆動方式として、磁力を使った平面磁界型ドライバが注目を集めている。本連載でも2023年にEdifier「STAX SPIRIT S3」、2024年には「STAX SPIRIT S5」および「STAX SPIRIT S10」、今年に入ってFIIO「FT1Pro」をご紹介した。

昨今のポイントは、2つある。1つは低価格化だ。これまで数十万円クラスのヘッドフォンが多かった中で、5万円を切るモデルでも十分聴きごたえのある製品が登場している。もう1つはドライバの小型化だ。これによりイヤフォンモデルもラインナップが充実してきている。

イヤフォンモデルではワイヤードが主流ではあるが、昨年登場した「STAX SPIRIT S10」は完全ワイヤレス型で登場した。今後は各社ともこの方向性で製品化が進むだろうと思っていたが、今年早くもEdifierが第2弾として、NeoBudsブランドからも平面磁界型ドライバを搭載したワイヤレスイヤフォン「Edifier NeoBuds Planar」をリリースする。

昨今は平面磁界ドライバのことを「Planner」と呼ぶようになったようで、他のメーカーでもこの呼び方を見かけるようになった。「平面」という意味なのだろうが、静電型平面駆動方式は採用メーカーが限られるため、Plannerといえばもう平面磁界型、ということになるようだ。

現在GREEN Foundingでクラファン中で、プロジェクト終了は5月31日。執筆時点では20% OFFの23,984円のプランが残っている。ということは定価は29,980円ということだろう。STAX SPIRIT S10が39,880円なので、定価でも1万円安いということになる。

仕様もかなり近いこの2つのモデルは何が違うのか、実際に聴き比べてみた。

NeoBuds Planarのクラウドファンディングページ

デザインもかなり近い

EdifierのNeoBudsシリーズは、 2021年にLDAC/LHDC対応ながら15,000円を切る「NeoBuds Pro」で日本デビューを飾り、その後「NeoBuds Pro 2」、「NeoBuds Plus」とラインナップを拡充してきた。Edifierイヤフォンの中でもハイエンドコーデック対応を売りにしたシリーズである。NeoBuds Planarもそのシリーズの一つということになる。

一方S10の立ち位置は少し特殊で、ヘッドフォンの平面磁界ドライバ採用モデル「STAX SPIRIT」シリーズ中、唯一のイヤフォンモデルとして昨年登場している。

S10(左)とNeoBuds Planar
ケースのロゴが違うほか、NeoBuds Planarのほうが若干厚みがある

したがってケースに刻印されているブランドロゴは違うものの、イヤフォン本体としてはかなり似た作りとなっており、 姉妹機と言っても違和感はない。S10が光沢感のあるデザインなのに対し、NeoBuds Planarはつや消しという違いはあるものの、エンクロージャのサイズ、ノイズキャンセリングマイクの位置、操作ボタン形状などは、ほとんど同じである。

NeoBuds Planarのイヤフォン部
S10(左)とイヤフォンの作りはほぼ同じ

公開されているスペックで見ても、NeoBuds Planarの振動板技術は第2世代EqualMass、2μmの基材厚と総厚10μm未満の超薄型振動板とある。一方S10の方も、第2世代のEqualMassで2μmのポリマー基板と厚さ10μmの超薄型振動板とある。なおS10のドライバ径は12mmとある一方、NeoBuds Planarの径は資料が見当たらなかった。

NeoBuds Planarのドライバー

振動板厚が10μm未満と10μmという表記の違いがあり、もしかしたらNeoBuds Planarの方がちょっとだけ薄いのかもしれないが、そこは実際の数値が出ていないのでよくわからない。ちなみに昨今の平面磁界ドライバのトレンドでは、振動版厚1μmというのが最新技術になっており、FIIOのFT1Proで採用されている。

対応コーデックは、双方ともaptX、aptX Adaptive、aptX Lossless、Snapdragon Sound、LDAC、LHDC 5.0、AAC、SBCとなっている。S10の方はaptX Voiceにも対応するが、これは音声通話用コーデックなので、音楽再生時には関係ない。

ノイズキャンセリング機能も搭載しており、周囲のノイズ量に合わせてリダクションレベルを変える、アダプティブ・ノイズキャンセリングを搭載する点も同じだ。

バッテリー持続時間は、NeoBuds PlanarがANC ONで本体約5時間、ケース合わせて20時間なのに対し、S10は本体約3時間、ケース込みで18時間となっている。

SoCはS10がQualcomm QCC5181だったが、NeoBuds Planarは情報が公開されていない。

同梱物としては、S10のイヤーピースはXLとXSが1セット、L、M、Sサイズが2セットずつ付属していたが、NeoBuds PlanarはXL、M、S、L、XSサイズが1セットずつとなっている。なおLサイズが最初から本体に付いている。S10用のイヤピースは楕円径で、サイズごとに色分けされるなど、若干グレードの違いは見受けられる。

左がS10付属、右がNeoBuds Planar付属イヤーピース

音質はどう違う?

ではさっそく音を聞いてみよう。今回試聴するのは、AppleMusicで提供中のビル・ブラッフォードのアルバム「If Summer Had Its Ghosts」から、タイトル曲を聴いていく。

設定はどちらも「原音」で、Google Pixel 8を再生機に、LDAC 960kbpsで再生している。

設定アプリは共通
イコライザの選択画面

スチール弦を張った生ギターの音が特徴的なジャズサウンドだが、NeoBuds Planarでは平面磁界ドライバの特徴である高域の涼やかな抜けで、ギターの細かなニュアンスまで再現できる。

丸みを帯びたウッドベースは広がりが大きく、低域をしっかり支える。ダイナミック型に比べればドーンと前面に出てくる感じはなく、タイトな印象だ。ミュートなしのバスドラも、耳に心地よい。

懐かしの音源がどんな風に聞こえるのか、NeoBuds Planarで1985年発表のTears For Fearsのヒット曲「Rule The World」を聴いてみる。聴きどころはベース音である。実はこれまでずっとエレキベースの音だと思っていたのだが、実はシンセベースであることに気がついた。柔らかい音であまり特徴がないので、気がつかなったが、ちょっとしたレゾナンスの部分がはっきり聞こえ、全く別のミックスのように聴こえる。

低音がドーンと出る一方で分離感もあり、他の音にかぶる感じもない。このあたりの特性が、平面磁界ドライバの真骨頂であろう。

同じ音源をS10で聴いてみると、その印象はほとんど変わらない。若干NeoBuds Planarの方が低音の張り出しが良く、S10はバランスとしておとなしい印象だ。これはS10がSTAXの音に寄せたチューニングだからかもしれない。スマートフォン側のボリュームレベルは同じにしているが、S10の方が多少小さく聞こえる。

ダイナミック型ドライバに比べれば、どちらも平面磁界特有のサウンドとなっていることは間違いない。じゃあ両者に明確な違いがあるかというと、特筆すべきような違いは感じられない。

付属アクセサリは多少違うが、ほぼ同じ音で1万円もお買い得なのがNeoBuds Planar、という立ち位置になるのではないだろうか。

ノイキャンと音声通話特性

続いてノイズキャンセリングの性能を比べてみる。S10は非常にキャンセル力が強く、筆者は飛行機に乗るときはいつもS10を愛用している。あまりノイキャン性能には言及されていないモデルだが、実はそれぐらいガッツリキャンセルしてくれるのである。

ノイズキャンセリングの選択項目

交通量の多い交差点で、アダプティブ・ノイズキャンセリングの効果を比較してみた。S10もNeoBuds Planarも、聴感上のキャンセル力はあまり変わらないように思える。交差点からスタートした車が2速で加速する際の、低く唸るようなエンジン音も、シュー、シューといった高域を残すのみで、かなりキャンセルされる。

本来はダミーヘッドを使ってどのように変わるのかお聞かせしたかったところだが、本機はイヤーチップの密閉度でかなりキャンセル力を稼いでいるので、耳穴が浅いダミーヘッドではうまく効果が測定できなかった。

次にいつものショッピングモールにて、通話性能をテストしてみた。昨今はリモート会議などの需要もあり、イヤフォンもノイズキャンセリング付き音声通話性能が要求されるようになっている。

いつものショッピングモールで通話テスト

NeoBuds Planarは、かなり周囲の音をカットして通話音を通しているのがわかる。若干キャンセリングが効き過ぎて音声がクリップしてしまっている箇所もある。音声は高域部分もカットされ、ややこもりがちな音声となっている。

一方S10は、周囲のバックグラウンドノイズは完全には取り切れていないもの、通話には支障のないレベルになっている。音声品質についてはオリジナルにかなり近い印象だ。S10はaptX Voiceに対応しているが、スマホ側が対応していないため、今回のテストではその影響はないと考えられる。

総論

2022年ごろまでは高止まりの傾向があった平面磁界ドライバだが、ヘッドフォンでも年々価格が下がっており、ハイエンドながらもリーズナブルな新方式として受け入れられ始めている。

イヤフォンでもワイヤードで平面磁界ドライバ採用製品が登場し、ポータブルアンプと組み合わせて駆動するといったハイエンド仕様となっていたが、誰でも気軽に接続できる完全ワイヤレス機が登場したということになる。

その先陣がEdifierだったのは少々意外ではあるが、昨今同社の積極的な商品展開からすれば、新方式でも今のうちにスタンダードなポジションを作っておきたいという戦略も見えるところだ。

NeoBuds Planarのポイントは、STAX SPIRIT S10と遜色ない音質を、1年足らずで1万円安く提供してきたことだろう。イヤピースには多少のコストダウンも見られるが、バッテリーの持続時間を伸ばしたことで相殺される。

イヤフォンの世界も、ダイナミックドライバだけでなく2000年代に音楽再生用バランスド・アーマチュアが登場したことで飛躍的に小型化が進み、同時にマルチドライバやダイナミックとBAのハイブリッド型などが登場して、多くのバリエーションが生み出された。

そんな流れの中で登場した超小型平面磁界ドライバは、また新しい潮流を生み出しそうな気配だ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。