小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第711回:コンパクトミラーレスは4Kの夢を見るか? ニコン初の4K動画「Nikon1 J5」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第711回:コンパクトミラーレスは4Kの夢を見るか? ニコン初の4K動画「Nikon1 J5」

あのNikon1が4K対応

 2011年にV1とJ1という2ラインナップでスタートした「Nikon1」は、独自路線の小型ミラーレスである。センサーサイズは1インチサイズで13.2mm×8.8mm、マウントももちろん独自のCXフォーマットだ。サイズ感としてはコンパクトデジカメと変わらないが、レンズ交換ができるというところがポイントである。

Nikon1シリーズの新モデル、Nikon1 J5

 Vシリーズはビューファインダ撮影ができるというところがポイントで、2012年にV2、2014にV3と続いており、今年はまだV4の声は聞こえてこない。一方Jシリーズはコンパクトデジカメのような親しみやすさを前面に打ち出し、エントリー向けとして毎年新モデルが登場。今年の新モデルが、今回ご紹介する「J5」というわけだ。そのほか派生モデルとしては、女性層を意識したSシリーズ、防水・耐衝撃のAWシリーズもある。

 ニコンのカメラはこれまで動画撮影機能を前面に打ち出していなかったこともあり、動画を中心とする本連載ではあまり扱ってこなかった。特にNikon1は、個人的には興味はあったものの、動画機として評価するというタイプのカメラでもなかったため、扱わないまま今日まで来てしまったわけだ。

 だが4月から発売が開始された「Nikon1 J5」(以下J5)では、4Kの動画撮影に対応した。15fpsなのが残念なところではあるが、これまでコンシューマ市場向けの4Kデジカメといえばパナソニック1強が続いており、他社がほとんど追従してこない。そんな中、コンパクト機で4Kに対応してきたのがニコンというところが面白い。

 オープンプライスで、実売はボディ単体が5万1,000円前後。標準パワーズームレンズキット(1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM付き)は、5万6,000円前後。ダブルレンズキット(1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM、1 NIKKOR 18.5mm f/1.8付き)は6万8,000円前後、ダブルズームレンズキット(1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM、1 NIKKOR VR 30-110mm f/3.8-5.6付き)は7万4,000円前後だ。今回は標準パワーズームレンズキットをお借りしている。

 コンパクトミラーレスで4K撮影を実現するJ5を、さっそくテストしてみよう。

手のひら一眼

 まずボディサイズだが、筆者手持ちのコンパクトデジカメ、SONY RX100 M3とほぼ同じだ。レンズによっては出っ張りが大きいが、ボディ部分はほぼ同じである。ミラーレスでも重くて大きいのはイヤだという方には有効だろう。

指先でつまめるコンパクトミラーレス、Nikon1 J5

 元々Jシリーズはエントリーモデルということで、外観などは非常にすっきりしていたのだが、J5は印象を大きく変えて、モードダイヤルやリングコントローラなどメカニカルな部分を強調し、一眼らしさを前面に打ち出している。カラーはシルバーとブラックがあるが、特にシルバーの方はオールドカメラっぽいイメージとなっており、ファッションアイテムとしてもアクセントになるだろう。

 センサーはNikon1としては初搭載となる裏面照射型。有効画素数は2,081万画素で、静止画の最大記録画素数は5,568×3,712ピクセルとなっている。RAW撮影や、JPEGとRAWの同時記録も可能。

Nikon 1としては初となる裏面照射CMOSを採用
アドバンスト動画として複数の撮影モードを持つ

 さらに、ISO感度を6400(NR)、12800(NR)に設定して撮影すると、高速で連写した画像を合成してノイズを低減する。この辺は、ソニーなどが以前から力を入れている機能だが、ニコンもそうした流れを取り込んだという事である。画像処理エンジンも新開発の「EXPEED 5A」となり、静止画の高速連写と4K動画にも対応できた。

 動画撮影は、4KほかHD、スローモーション、タイムラプスなど複数のモードを備えている。コーデックはH.264で、ファイル形式はMOV。

撮影モード解像度フレームレート連続録画時間
4K3,840×2,16014.99約10分
HD1,920×1,08059.94約17分
29.97
1,280×72059.94
29.97
スローモーション1,280×720120
(1/4倍)
約3秒
800×296400
(1/13倍)
400×1441,200
(1/40倍)
タイムラプス動画1,920×1,08029.97約10秒
早送り動画1,920×1,080(4倍)約17分
ジャンプカット動画
4秒動画約4秒

 軍艦部は、オーソドックスなカメラスタイルになっている。モードダイヤルが大きくフィーチャーされ、シャッターボタン脇のレバーが電源ボタンだ。右肩には動画の録画ボタンが大きくフィーチャーされた。録画ボタン周囲はリングコントローラになっており、メニュー操作やマニュアル露出時のシャッタースピードのコントローラとなる。

動画ボタンやマニュアルリングが大きくフィーチャーされた軍艦部

 背面のボタン類は、ダイヤルの機能は変わっていないが、新たにWi-Fi用のボタンが付けられている。これはスマートフォンと連携してリモート撮影したり、画像を転送するための機能だ。またボタンの配置も、オーソドックスな4方配置になっており、他社のカメラユーザーも違和感なく操作できるだろう。

背面ボタン配置もオーソドックスなスタイルに

 モニタは3型/104万ドットのTFT液晶で、タッチパネル式。ダブルヒンジによる縦方向のチルトが可能で、最大では自分撮り用に180度回転できる。左側面にはHDMIとUSBポート、底部にはバッテリとmicroSDカードスロットがある。HDMI出力は4Kをサポートしておらず、HDサイズにダウンコンバートして出力される。

モニタは2ヒンジ設計
自分撮りも可能
側面にHDMIとUSB端子
メモリーカードはmicroSDサイズを採用
フラッシュも内蔵している

 ダブルレンズキットに付属のレンズは、1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOMと、1 NIKKOR 18.5mm f/1.8。それぞれ35mm換算で27~81mmズームと、50mm単焦点だ。ズームレンズは昨年4月に発売と比較的新しいが、オートレンズカバーも搭載した沈胴式のため、装着するとなんだかコンパクトデジカメみたいに見えてしまう。一眼らしいデザインになったJ5とはアンマッチなのが残念だ。

本体とキットレンズ。左が10~30mmズーム、右が18.5mm単焦点

確かに4Kだが……

 これまで多くの4Kカメラをテストしてきたが、ほとんどが30fpsで、15fpsというと唯一「GoPro HERO3+Black Edition」があるぐらいだった。そんなGoProもHERO4になって30fpsになり、スマートフォンながら4Kが撮影できるソニー「Xperia Z2」も30fpsで撮影できる。それと比べると、15fpsというのは微妙ではあるが、このサイズ感とレンズが選べるのは魅力である。

 では早速撮影してみよう。今回の動画はすべて4Kで撮影してみた。動きが速いもの、例えば水面や風に揺れる木の葉のようなショットでは、やはりコマが少ない感じはある。一方あまり動きがない花や空、建物といった風景では、コマが少ない感じは薄い。ただトータルでは、やはり15fpsで十分とは言えない。もう少し頑張って24fpsが欲しかったところで、やはり15fpsでは静止画主体カメラのオマケ機能という印象だ。

解像感は高いが、カットによってコマの少なさがが目立つ
sample-4K.mov(183MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ニコンのレンズはフィルム時代から高解像度でパリッとした絵が特徴だったが、撮影した動画を見る限りではそういった傾向はなく、多少ソフトな印象を受ける。静止画ではそこそこパリッとしてるので、動画はこういう絵づくりという事なのかもしれない。

発色はナチュラルで、解像感はややソフトな印象

 10~30mmズームは広角から中望遠領域まであり、画角的には使いやすい。ただワイド端でもF3.5、テレ端だとF5.6まで落ちるので、それほどのボケは期待できない。またワイド端では周辺の甘さも気になるところだ。ズーム動作は鏡筒部のリングを回す方式で、電動ズームはないため、動画撮影をしながらズームするのは難しい。

ワイド端逆光では、周辺の甘さが気になる

 一方18.5mmの単焦点はF1.8で、絵のキレもいい。一眼らしいボケ味を楽しむのであれば、こちらのレンズを使うべきだろう。

キレのいい表現が楽しめる18.5mm/F1.8
ボケ味も悪くない

 一方で光学手ぶれ補正は、VR 10-30mmズームレンズのみで動作する。ボディには電子手ぶれ補正もあるが、4K撮影モード時には強制的にOFFになる。HD撮影では電子補正も使えるが、4Kで手持ち撮影の場合は、VRレンズがないと困るだろう。

 実際に4Kで光学手ぶれ補正をテストしてみた。今回のレンズはそこそこワイドなので、ブレの影響も少ないはずだが、歩きの衝撃が全て吸収できるような効き方ではない。静止画を撮るときに多少ブレを抑えるという程度で、動画で満足できるレベルとは言えない。

前半は光学手ぶれ補正が効くVR 10-30mmズームレンズ、後半は光学手ぶれ補正がない18.5mm/F1.8
stab-4K.mov(69MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 4K動画でも、ピクチャーコントロールは使える。スタンダード、ニュートラル、ビビッド、モノクローム、ポートレート、風景の6モードから選んで撮影できる。さらにそれぞれのモードで輪郭強調やコントラストといったパラメータも変更可能だ。

ピクチャーコントロールは4K動画でも使用できる
さらに細かいパラメータも変更できる

特殊撮影とスマホ連携

 では動画のほかのモードも試してみよう。まずタイムラプスだが、モードを選んでシャッターを押すだけというシンプルな作りだ。撮影間隔は5秒、10秒、30秒という設定があるだけで、何時間撮影して何分の動画になるといった計算はしてくれない。一応タイムラプス撮影ができますよ、といった感じだ。最長記録時間は約10秒だ。撮影したところ、レンズに起因するのかわからないが、強烈なフレアが出てしまった。かなり気を使って撮影しないといけないようだ。

人気のタイムラプスモードも備える
撮影間隔を決めるだけなのは残念
タイムラプス撮影したもの。左側の派手なフレアが気になる
DSC_0303.mov(21MB)
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 ジャンプカット動画は、1秒ごとにカットした動画を自動的に作ってくれるモードだ。ダイジェスト風動画を簡単に作ることができるという点では、面白い機能である。ただこの機能を撮影時に思いついて使えるかなという疑問もある。こういうのは、撮ったあとの動画に適用して面白いかどうかが学べるわけで、面白くなるかどうかわからないのに撮影本番でいきなりみんな使うのかな、と思う。筆者には1回しかチャンスがない撮影時に、そんなことをやってみる度胸はない。

ジャンプカットは1秒ごとに映像がジャンプする
jump-HD 1080p.mov(25MB)
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 スローモーション撮影は、すでに多くのカメラでお馴染みの機能だ。これもテストしてみたが、スロー撮影は実時間にしておよそ3秒間しか撮影できない。他社カメラでは、これまで時間制限があるのかもしれないが、とりあえず撮影には不自由しない秒数が撮影できた。さすがに3秒では、録画スタートして何かイベントが起こる前で録画が終了してしまう。

 一応それでもトライしてみたが、120fpsでの撮影ではS/Nもそれほど悪くない。だが400fps、1200fpsになると、S/Nの劣化を嫌ってか、ものすごく感度が下がるため、室内撮影では液晶モニターにどこが写っているのかよく見えない。これではサンプルの撮影もできないので、これ以上の検証は断念した。今回は室内灯だけでなくLEDの撮影用照明を2灯点けており、かなり明るくしているのだが、それでも無理だった。

3秒しか撮れないのでは、スローアクションのチャンスを掴むのは難しい
DSC_0324.mov(15MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 さて、昨今は写真の使い道として、自分の家で記録を残すというより、SNSでシェアしていいね! もらって終わりというサイクルが定着してきている。その点でスマホのカメラが重宝されているわけだが、一眼で撮った写真をすぐにSNSに投げたいというニーズは根強い。

シンプル機能のWirelessMobleUtility

 ニコンのスマホ連携アプリ「WirelessMobleUtility」は、シンプルながら機能的には十分だ。アプリを起動して、カメラのFNCのアンテナ部分にくっつけると、スマホとカメラがWi-Fi接続され、コントロールが可能になる。

 「写真を撮る」はいわゆるリモートシャッターだが、写真を撮るとカメラ内にも保存されるほか、自動的にスマホ側にも転送される。その場でちょっと撮ってすぐ上げたいといった時には便利だ。難点といえば、カメラ側のモニターは「Wi-Fi接続動作中」というSSIDが記された画面になってるだけなので、特に「今この瞬間が撮れました」的なリアクションもなく、いきなり写真が転送されてくるところだろうか。送られてきた写真を確認するまで、どんな絵が撮れたかわからないのでは、急いであげたい場合に困る。

 「写真を見る」機能では、カメラ内の画像を確認し、必要なものだけをスマホ側に取り込むことができる。すべて読み込んでからでないとサムネイルも出ないので、撮影枚数が多いと画像にアクセスするまで時間がかかる。読み込んだ順でサムネイルを出して欲しいところだ。

リモート撮影するとすぐに写真がスマホに転送されてくる
4K動画もスマホに転送可能

 この機能では4Kファイルもサムネイルで確認でき、動画も転送できるのだが、WirelessMobleUtility自体に動画の再生機能がないので、別アプリで転送されたファイルを探して再生することになる。一応手持ちのソニー Xperia Z Ultraで再生できることは確認できた。

 4K動画のスマホでの編集に関しては、色々条件はありつつも、少しずつ対応アプリが出始めているようだ。YouTubeなど4K対応サービスとのアップロードも含めて、いずれまとめて検証する必要があるだろう。

総論

 このコンパクトさ、そして一眼で4K撮影ということで期待も高まったが、15fpsで動画として魅力的かと言われると、そこまでは到達していないと言わざるを得ない。絵的には上品な仕上がりだと思うが、その点が残念である。

 タイムラプスは今や人気の機能だが、仕上がりが最大10秒の動画にしかならないというのは短すぎだ。スローモーションも、録画時間が3秒ではどうにもならない。ジャンプカット、4秒動画など、昨今のトレンドも取り入れつつ、面白く使わせたいという努力は認めるところだが、全体的に連続撮影時間が短く、どうも実際のユースケースと噛み合っていないようにも思える。

 もちろん、静止画の撮影機能としては十分で、そちらの評価としてはおそらく満足度の高い点数が付けられることだろう。ただ、今どのカメラメーカーも、動画はオマケですからといったスタンスはとうの昔に終わり、本気でビデオカメラ産業潰しに行ってるとしか思えない充実度で迫ってきていることを思えば、ニコンは動画に関しての経験不足がちょっとした機能の隅々に、響いてきているように思える。

 個人的には、複数のレンズを用意して、フラッと町歩きでもしながら写真を撮りたいカメラだと思う。ボディもレンズも小さいので、荷物も少なくて済むだろう。デザイン的にもJ5の路線は歓迎したい。この流れを受けて、ビューファインダ付きのVシリーズがどう進化するのかも、今後の注目ポイントだろう。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。