小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1185回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

DJI初の360度カメラ「Osmo 360」を試す。ライバルを研究、DJIの強みを活かす

レンズをセンターに持って来たOsmo 360

日本のビデオカメラの中心企業に

全国の量販店や大手ECサイトのPOSデータでランキングを掲載するBCNによれば、7月のデジタルビデオカメラにおいてDJI Osmo Pocket 3の一強状態が続いていることがわかった。1位から4位までも独占、20位以内にDJI製品が7つも入るという状況で、もはや日本人の動画撮影にはDJIは欠かせない存在となりつつある。

そんなDJIが次に繰り出す新製品は、なんと360度カメラだった。7月末に発表となった「Osmo 360」は、業界初の正方形HDRイメージセンサーを搭載、最大8K/50fpsを実現する。価格は公式サイトで、スタンダードコンボが67,100円。最も高いのがVlogコンボで、こちらは99,000円。

360度カメラといえば、一時期GoProや日本メーカーも参入したが、結局はブームを掴めずに失速した経緯がある。現在はInsta360が気を吐いているが、DJIの参入はそこに商機ありと睨んでいるのだろうか。

今回はこのOsmo 360をお借りすることができたので、実際に試してみた。

シンプルかつ王道

Osmo 360は、レンズを上に、ディスプレイを下に配置した、長方形スタイルとして登場した。Insta360がバー型で展開しているのに対し、GoProMaxに近い作りとは言える。ただしレンズをセンターに備え、全体的に小型化に成功したのが一つのポイントと言えそうだ。

実寸は横61mm、高さ81mm、厚み36.3mm、重量183g。ボディはIP68防塵防水仕様となっており、本体のみで水深10mまで耐えるとしている。

レンズが出っ張るので厚みは36.3mmだが、ボディ部のみでは約25mm

小型化が実現できたポイントの一つが、センサーの新規開発だ。360度カメラは表と裏を広角レンズで円形に撮影し、それをステッチングして球体イメージを作り上げる。

円形に撮るということは、センサーはその円に接する正方形であればよい。しかしこれまでの360度カメラは、センサーは4:3などの汎用品であったため、横方向には使用しないエリアがあった。一方今回の新開発センサーは、最初から無駄のない正方形で設計されているため、省スペースに貢献するというわけだ。

そのセンサーは、1/1.1インチのCMOSセンサーを裏表2枚使用している。1枚あたりのセンサー画素数はあきらかになっていないが、静止画の最大解像度が2:1、15,520×7,760ピクセルとなっていることから、少なくとも7,760×7,760ピクセル以上はあるものと考えられる。

動画撮影能力としては、パノラマ動画として最大8K(7,680×3,840)50fpsとなっている。もっともこの解像度の球体イメージをそのまま表示するディスプレイは一般には存在しないので、実際にはそこからある程度の範囲を切り取って動画として使用する事になる。

また前後両面ではなく、片側ずつとしても撮影可能。その場合の最大解像度は5K(5,120×3,840)60fpsとなる。

背面ディスプレイは314×556解像度の2.0インチタッチパネル。ディスプレイ下のボタンは、○が録画、□がカメラの前後切り替えとなっている。サイドの電源ボタンは、ショートカットボタンを兼用する。

背面にディスプレイがある

マイクはボディスペックが明らかになっていないので現物でテストした結果、上部の2つと、正面下部に1つ、背面ディスプレイ下に1つのようだ。どのマイクを使用するかは、360度撮影か片面撮影かで決まる。正面レンズ下の穴は、マイクではないらしい。

上部にマイク穴が2つ

電源ボタン下のカバー内には、USBポートがある。反対側はバッテリーとmicroSDカードスロットだ。ただし内部メモリーも105GBあるので、ほとんどのケースではmicroSDカードは不要だろう。底部には三脚穴と、マグネット式クイックリリースシューがある。

右側にUSB-C端子
左側にバッテリーとMicroSDカードスロット
底部に三脚穴とクイックリリースシュー

今回はアクセサリー類も何点かお借りしている。「Osmo クイックリリース式調整型アダプターマウント」は、本体底部のクイックリリースシューに取り付ける、首振り角度が決められる三脚ネジ穴マウントだ。底部に三脚穴があり、多くのアクセサリとワンタッチで着脱できるようになる。

「Osmo 1m 高強度カーボンファイバー製 インビジブル セルフィー スティック」は、Osmo 360と組み合わせることでスティックが見えないようにステッチングしてくれるセルフィー棒だ。

クイックリリース式調整型アダプターマウントとインビジブル セルフィー スティック

「Osmo Action ミニ ハンドルバー マウント」は、クイックリリースシュー対応のハンドルマウント。バイク用にはまた別のマウントがあるので、自転車などに取り付けるマウントだ。

ミニ ハンドルバー マウント

「Osmo Action 多機能バッテリーケース 2」は、Osmo Action 3以降に採用のバッテリーが3つ同時充電できるケース。フタの裏側にmicroSDカードが2枚収納できる。

Osmo Action 多機能バッテリーケース 2

「Osmo 2.5m エクステンデッド カーボンファイバー セルフィー スティック」は、軽量ながら2.5mの長さを持つセルフィー棒。これだけ長いものはなかなか珍しい。

2.5m エクステンデッド カーボンファイバー セルフィー スティック

組み合わせの多い撮影モード

まず撮影モードについてまとめておく。大きく分けて360度撮影とシングルカメラ撮影に分かれるが、その先がかなり枝分かれしている。

360度撮影には、パノラマ写真、パノラマ動画、SuperNight、セルフィーモード、ボルテックス、ハイパーラプスの6つのモードがある。メインはパノラマ動画だが、レンズ処理として標準(歪み補正)、広角、超広角がある。どのみち360度撮影するにしても、広角や超広角といったモードを備えるのはアクションカメラ的だ。

一方シングルカメラ撮影には、写真、動画、Boost動画の3モードがある。動画モードでは同じく標準(歪み補正)、広角、超広角がある。一方Boost動画は、動画モードの超広角よりもさらに広角で撮影できるモードで、こちらにはレンズ処理モードがなく、画角は決め打ちである。

手ブレ補正は、同社アクションカメラ同様、RockSteady、Horizontal Steadyといったモードがあるが、これらが使えるのはシングル撮影時で、360度撮影時には選択できない。またシングル撮影でも、Horizontal Steadyが使えるのは4K解像度以下の16:9モードのみで、4K 4:3以上の解像度では選択できない。

超広角
広角
標準(歪み補正)
標準+Rock Steady
標準+Horizontal Steady
Boost動画
Boost動画+Rock Steady
Boost動画+Horizontal Steady

まずはシングルカメラモードの手ブレ補正を試してみよう。標準(歪み補正)で手ブレ補正なし、Rock Steady、Horizontal Steadyと順に試してみたが、機能的にはOsmo Actionと同じようにみえる。シングルモードではほぼ同社アクションカムと同等に使えると考えて良さそうだ。

シングルカメラの手ブレ補正の違い

続いて360度撮影を試してみよう。こちらはアングルなどはないので、撮影時は本当にただRECボタンを押すだけである。そこから画角を決めて書き出しを行なうわけだが、アプリはいつもの「DJI MIMO」が対応する。

画角を決めての書き出しに便利なのが、「クイックフレーミング」だ。これはスマホのジャイロセンサーを使って、スマホを向けた方向の画像を切り出していくという機能だ。したがって、スマホで今撮影しているかのようにフレームを決める事ができる。前後を見渡すような動きのあるフレーミングをしたい場合は、回転出来る椅子などに座ってこのモードを使うと、なめらかにフレーミングできる。

360度動画からの切り出しはクイックフレーミングが便利
クイックフレーミングで切り出した360度動画

360度撮影では画面のピンチイン・ピンチアウトでズームもできるので、好きな画角にトリミングもできる。エクスポート時に解像度やビットレート、ノイズ低減などが選択できる。

エクスポート時の設定

一方シングルカメラモードで撮影した動画は、ピンチイン・アウトでのズームができない。Boostモードではかなり広角に撮れるので、ここからちょっと拡大して画角を整えたいというニーズもあると思うが、DJI MIMOには機能が無いので、動画をエクスポートして別の編集ツールで拡大するしかない。

Boostモードで撮影した動画

音声収録もテストしてみた。360度でもシングルでも、プロモードにすることで音声収録のセッティング変更が可能になる。風ノイズ低減モードとしては、現在の環境に最適化する「スマート」、一般用途の「標準」、スポーツ用途の「高」の3段階がある。Bluetoothイヤフォンをペアリングして、それをマイク代わりに使用することもできる。

マイク集音テスト

DJI Mic Miniトランスミッターがあれば、本体内にレシーバが内蔵されているので、ワイヤレスマイク集音にも対応する。マイク位置が違うものの、集音機能に関してはOsmo Action系とほぼ同じ機能を持っているようだ。

幅広く使える特殊撮影モード

では特殊撮影についても試してみよう。360度のセルフィーモードは、いわゆる自撮り棒の部分を自動で消してくれるモードだ。自撮り棒はすでに撮影の段階から消えているので、後処理ではなくカメラ内でリアルタイム処理しているようだ。

セルフィーモードで撮影

ボルテックスは、カメラをグルグル振り回してハイスピード撮影する、いわゆるバレットタイム的なモードだが、今回はボルテックス撮影用のハンドルをお借りしていないので、テストは断念した。

Super Nightモードは、夜間撮影専用モードだ。光量が乏しい場所でも明るく撮れるのが特徴だが、花火大会を撮影したら周囲もかなり明るく撮影できている。ただ、花火がメインだと考えれば、あまり明るく撮れすぎるのも良くないようである。シングルカメラでD-Log M 10bit撮影した方が、花火としては良好だった。D-Log Mはスマホアプリ内で元の色に復元できるので、気軽にLog撮影に挑戦できるだろう。

360度Super Nightとシングル D-Log M 10ビットの比較

最後に2.5m エクステンデッド カーボンファイバー セルフィー スティックを試してみた。全長は長いがかなり丈夫で、あまりしなりがなく安定して高所撮影ができる。沿岸部のワシントニアパームを撮影してみたが、この高さでこの木を見た人はあまりいないだろう。

2.5mの高さで撮影

総論

DJIとしては初となる360度カメラだが、ハード的にもソフト的にも既存製品をよく研究して投入したことがわかる。360度からの書き出しでは、被写体認識させてオートトラッキングさせたりと、同社の強みをよく活かしている。

一方シングルカメラ撮影では、Osmo Actionと同じようにも使える。ただしアクションカメラとしてはかなり画角がワイドなので、標準アプリでクロップできるようにしたほうが良かったのではないだろうか。それはまた別のアプリでやればいいという話ではあるのだが、SNS等に上げるならアプリ内で完結した方が使いやすいだろう。

DJI公式ECサイトでは、すでにロードバイクやモーターサイクル用のコンボが売り切れはじめているようだ。車載カメラとして期待している人がそれなりにいるという事だろう。ブランドとしての期待値も高い。

360度カメラシーンは、今それほど熱いというわけではなく、やる人はやるが、わからない人には全く伝わらないという、ニッチな世界になりつつある。それがDJIの参入で変わっていくだろうか。売上データ等の推移も睨みながら、今後DJIが360度シーンをリードできるのか、注目しておきたい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。