“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第570回:Hulu対応でApple TV対抗? 「WD TV Live」

~TVをスマート化。約11,000円。実はDTCP対応?~


■スマートテレビは誰が担う?

 スマートテレビは、3Dブーム創出に失敗したテレビ事業をなんとかするという文脈で語られることが多いが、スマート化という流れの本質は、ソフトウェア化であり、ハードウェア的な低コスト化と表裏一体となっている。高級テレビがスマート化することで付加価値が付けられるか、というところの真の答えは、「それアップグレーダブルなんですよね?」という問いに対する答えとイコールになる。

 買ったあともソフトウェアのアップデートで進化し続けることが求められるわけだ。それは「ネット側で勝手に使えるサービスが増えていきます」ということに留まらず、OSもアップデートして少なくとも5年は最新のサービスが使えることを消費者は望むだろう。

 一方これまでのテレビマーケットは、高額商品売り切りのビジネスでやってきた。5年前どころか、2年前のモデルも面倒見られるかどうか。事業部がそういう体制にないので、スマートテレビをウリにしたいのであれば、事業部の構造改革が必要になる。

 それが難しいとするならば、ユーザー側では安いテレビ拡張端末を買って、2年ごとに買い換えるほうがリーズナブル、という考え方も出てくる。

 日本では、2003年にバーテックスリンクが「MediaWiz」という製品を出して以降、ネットワークプレイヤーというジャンルが確立した。アイ・オー・データ機器やバッファローがシリーズを立ち上げたことで、家庭内のコンテンツを扱うことに関しては、比較的早くからソリューションはあった事になる。

 一方でスマートテレビというソリューションは、ホームネットワークの外にコンテンツを求めるという点で異なると考えていいだろう。すでにタブレットがそういうものになり始めているが、テレビという家庭内最大のディスプレイを使って同じ事をやるとどうなるか、そこが一つのポイントになり得る。

 これを簡単に実現する装置として、HDDメーカーとして知られるWestern Digitalから「WD TV Live」がリリースされた。すでに6月1日から販売が開始されており、店頭予想価格は11,800円前後。ネットで見ると、amazonでは10,726円(6月5日時点)で販売されていた。

 同じようなことを実現する「Apple TV」の8,800円というインパクトには負けるが、Apple縛りがない端末として、一つの対抗となり得る。テレビはこれでスマート化するのか、早速試してみよう。




■STBとしてはかなり小型

 まず本体だが、AppleTVが手のひらで握れそうなサイズなのに比べると、若干大きい程度。ただ従来のネットワークプレーヤーやVOD用STBからすれば十分に小さく、設置場所には苦労しなくて済みそうだ。外形寸法は125×100×30mm(幅×奥行き×高さ)、重量は190g。

やや横長でコンパクトなボディ小さいのでどこにでも置ける
前面にはUSBポートが一つ

 前面にはUSB端子があり、ここにローカルストレージとしてHDDやUSBメモリなどが装着できるほか、キーボードも接続できる。前面左側のアクリル部分が赤外線リモコンの受光部となっている。また電源が入っているときは、白色LEDが点灯する。

 端子類は背面に集中している。電源は直結ではなく、ACアダプタを使用する。映像・音声出力はHDMIとアナログAVを備えており、光デジタルのオーディオ出力もある。USB端子は背面にもあり、Ethernet端子がある。なおネットワークは有線だけでなく、無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)にも対応する。従って最低限必要な配線は、電源とHDMIのみということになる。


端子類は背面に集中ACアダプタとアナログAVケーブルが付属

 付属のリモコンも見ておこう。よくあるカード型ではなく、ちゃんとしたサイズで、握りやすい。ただ背面が異様にツルツルしているので、滑って落としそうな怖さがある。

 4色ボタンがあるところから、タイプとしては汎用テレビリモコンに近い構成だが、本体側にはテレビ放送を見る機能は一切なく、カラーボタンはオプション機能の操作に使用する。10キーは数字入力だけでなく、文字入力にも使用する。

 初回起動後の設定はほとんどなく、有線接続すれば、あとは言語選択ぐらいだ。無線LANを使用する際にはパスワード設定が必要になるが、WPSにも対応している。

本体よりも長いリモコン最初にやるのは言語設定程度ですぐ使える
ホーム画面。気象情報やRSSをティッカーする機能もある

 ホーム画面では、画面下に閲覧できるメディアの種別が並び、OKボタンを押すとそれぞれのモードに入っていくという作りだ。メディア種別としては、写真、音楽、ビデオ、このあたりまではまだローカルネットワーク内を参照する機能だが、サービス、ゲーム、RSSなどはWEB側のサービスだ。「ファイル」という項目は、USBにストレージを繋げてNASとして利用する時に使用する。




■メディア何でも再生機

 では順に機能を見ていこう。ホームネットワーク内のメディア参照に関しては、これまでもメディアプレーヤーで散々ご紹介してきたので、軽く触れるだけにしておく。

まずはホームネットワーク内のファイルを探す

 メディア種別を選択すると、まずローカルストレージ、メディアサーバー、ネットワーク共有、オンラインサービスの4つの選択肢がある。音楽だけはオンラインサービスの項目が出てこない。どれかを選ぶと、次回以降はダイレクトにその選択した方式の中味が表示されるようになる。

 メディアサーバーとネットワーク共有は、どっちのプロトコルでアクセスするかを選択するという意味だが、筆者宅ではネットワーク共有がいつまでも繋がらず、使えなかった。ホームネットワーク側の細かいところは、まだ対応が不十分なところもあるようだ。


NEX7で撮影した60p動画も再生できた

 動画の再生に関しては、対応フォーマットも豊富で、殆どのファイルは再生できるだろう。AVCHDフォーマットで60p撮影した動画も再生できた。ただファイルを選んで再生が始まるまで20秒ぐらいかかるので、ホームネットワーク側のコンテンツを視聴するならば、国内メーカー製のネットワークプレーヤーのほうが全然速いだろう。またサムネイルも表示されず、ファイル長の時間データもうまく取れないので、再生してみるまでどういう絵かわからない。


対応フォーマット
ビデオAVI (Xvid、AVC、MPEG1/2/4)、MPG/MPEG、VOB、MKV (h.264、x.264、AVC、MPEG1/2/4、VC-1)、TS/TP/M2T (MPEG1/2/4、AVC、VC-1)、MP4/MOV (MPEG4、H.264)、M2TS、WMV9、FLV (H.264)
オーディオMP3、WAV/PCM/LPCM、WMA、AAC、FLAC、MKA、AIF/AIFF、OGG、Dolby Digital、DTS
画像JPEG、GIF、TIF/TIFF、BMP、PNG

 なおINTERNET Watch 清水氏の検証によれば、DTCP-IPに対応しているらしい。レコーダでは一時期録画ファイルに対して独自に暗号化をかける時期もあったが、DTCPサーバー機能を持った、比較的最近のテレビやレコーダの録画機能であれば、ネットワーク経由で録画番組が見られるようだ。これはApple TVと比べると魅力的である。

 本器で一番使い出があるのは「サービス」だ。ここには映画などの有料ストリーミングサービスからWeb動画、インターネットラジオ、写真共有サービスなどへアクセスできる。ここが“本来の機能”と言っていい部分だ。

オンデマンドサービスは3つが対応
 「映画・テレビドラマ」では、Flixster、Hulu、SnagFilmsの3つが表示される。おそらくネット接続情報から国を識別して、自動的にサービス可能なものを表示しているのだろう。これまではこの手のオンデマンドサービスはどうせ日本では使えないし、「ふーん」という感想しか持たれなかったが、今は日本でもHuluがサービスインして、事情が変わってきた。

 Flixsterは現在中味が一部日本語化しており、動画そのものは見られないが、予告編やレビューなどは読めるようになっている。SnagFilmsはインディーズ系の動画配信サービスで、これは日本からでも視聴することができる。ただ字幕などはないので、今のところ英語力がある人のみ楽しめるサービスだ。

 「ウェブ動画」では、日本で馴染みがあるのはVimeo、YouTubeぐらいだろうか。YouTubeが2つあるが、YouTube Videosのほうは、Western Digitalによるカスタマイズで、トップ再生動画など独自のジャンル分けから動画を選ぶことができる。ノーマルのYouTubeは、カテゴリ別のチャンネルから選ぶという方式だ。


「ウェブ動画」では7つのサービスが現われるYouTube Videosは人気ランキングなどを表示

 「音楽」は複数のインターネットラジオサービスが楽しめる。対応している局であれば、本物のラジオ放送が聴けるTuneinがあるのは今風だ。「スポーツ」は3つのサービスがあるが、まだどれも日本でサービスインしていないため、デモビデオが流れるのみだ。ほかにも、Flickr、Picasaなどのオンラインフォトサービス、FacebookなどのSNSにも対応している。


インターネットラジオを中心とした「音楽」地方のラジオも楽しめるTunein


■放送より楽しい

世界中のコンテンツが字幕付きで楽しめるHulu

 筆者は個人的にHuluに加入しているので、さっそく試してみた。HuluはスマートフォンやPC、タブレットなど複数の端末で視聴できるが、本器もそれらの端末の一つと見なされ、IDとパスワード入力だけで視聴できる。

 これまでは大画面といってもせいぜいPCで見るぐらいで、一番多いスタイルは布団の中で寝る前にiPadでドラマを1本見て寝る、というのが日課になっている。ストリーミングの解像度は720pだが、第3世代iPadではハードウェアによるアップコンバートが行なわれるため、見苦しくない十分な解像度が得られる。近くで見てもドットが見えないので、疑似大画面感覚が味わえる。

 普段見ているテレビシリーズをテレビで見たところ、まさにリッチな映像体験を得ることができた。これまでテレビで利用できるVODと言えば、アクトビラかひかりTVしか利用してこなかったが、コンテンツ対価や月額利用料から見ると、Huluの980円には敵わない。

 これまで、“テレビでフルHDの映像が見られる”というメリットがあると納得して使ってきたわけだが、こうして1万円程度の機器を繋げば、結構綺麗に動画が見られる事がわかってしまうと、コンテンツの品揃えさえ納得できれば、「もうHuluでいいか」という判断もあり得るだろう。

 さて最後になったが、本器はリモコン以外にも多彩なコントロールに対応する。まずUSBキーボードだ。ワイヤードのキーボードはもちろん、USBのレシーバを取り付けるタイプのワイヤレスキーボードも動く。今回はマイクロソフトのArcキーボードで試してみたが、問題なく動作した。

 十字キーで上下左右のメニュー移動、EnterがOKボタンの代わり、Escキーが戻るボタン代わりとなる。ワイヤレスなので、赤外線リモコンのようにわざわざ本器の方向に向ける必要もないのがメリットだ。


日本語でのキーワード検索もできる

 またキーワード検索など、文字入力が簡単なのもメリットである。例えばYouTubeでの検索では、漢字変換機能がないので、画面表示ではひらがなのままで漢字変換はされないが、検索結果は表示される。

 もう一つのコントロールは、スマートフォンだ。iOS用、Android用にコントロール用のアプリが無償ダウンロードできる。これもペアリング設定などの操作はなく、単に同じLAN内にあるWD TV Liveを勝手に見つけてコントロールできるようになるという、お手軽設計である。

 コントローラは、ほとんどリモコンをそのまま画面上に再現したものだ。手触りで位置がわからないのに十字キーをタッチスクリーン上で再現してどうする、という意見もあるだろう。そういう声があったのかどうか分からないが、設定でジェスチャーモードに変更できる。これは画面上のスワイプやタッチで、十字キー操作ができるというものだ。


iPhone用リモコンアプリジェスチャーモードもある

 これなら手元を見ずにある程度の操作ができるが、残念なことにこのモードには「Back」や「Home」ボタンがない。トップ画面に戻るにはいちいち従来のコントロール画面にいったん戻ってBackボタンを押さなければならず、これはイケてない。ただスマートフォンの文字入力がそのまま使えるので、こちらもその点ではメリットがある。


探した映像をWD TV Liveに再生させる「WD TV Live Media HD」

 iPad用としては、こちらはサードパーティ製のアプリで「WD TV Live Media HD」というのがある。ZappoTV製のアプリで、これはYouTubeやネットラジオなど、メディアのブラウジングは全部iPadのアプリ上でやってしまって、映像やオーディオの再生時だけ、AirPlayやDLNAを使って機器に飛ばす……つまり、レンダラーとしてWD TV Liveを使うといアプリだ。

 元々はZappo.TVというメディアセンター的なサービスで使うもののようで、殆ど同じ機能の「Zappo TV HD」というアプリもある。ローカルファイルの再生からWEBサービスまでいろいろ対応しているが、Huluなどの有料コンテンツ配信サービスには対応していないようだ。




■総論

 WD TV Liveはローカルファイルの扱いのほうにやや難があるが、スマートTV化の本質はネットワークサービスが使えることだと思うので、その目的は十分に果たせるだろう。

 HDMI付きのテレビはもちろんだが、寝室などにちょこっと置きたいという場合は、廉価なPCモニターを買ってくるという手もある。最近はHDCP対応でHDMI端子付き、23インチぐらいなら1万円ちょっとであるので、あとはそこらへんのスピーカーを繋げば、合計3万円程度の出資で各種ネットサービスが楽しめる環境が整うわけだ。

 ただこういう海外メーカーの製品からみると、ネットワークサービスに対してほとんど鎖国状態の日本では、コンテンツの選択肢がえらくショボイことになってしまう。米国で使用する場合に比べると、魅力が半分ぐらいしか伝わらないのが難点だ。

 日本で強いサービス、まあniconicoは別としても、米国発のUstreamやTwitterというサービスが乗ってないという点でも、“日米で流行ってるものの違い”がだんだん大きくなってきているのがわかる。そういう点では、WD TV Liveはユーザーがアプリをインストールしてカバーできる製品ではないので、「本体自体はスマート化されてないじゃん」という見方もできる。

 一方でこの手のハードウェアは、本体でサービスをサポートしないといけないのか、という疑問も出てくる。奇しくもZappo.TVがその方向性を示したように、タブレットアプリ側でサービスをサポートし、この手の端末は単なるレンダラーとして機能すればいいのだ、という割り切りも考えられるだろう。

 まだネットワークサービス専用STBなるものが市民権を得ていない今だからこそ、STB本体で全部やるのか、それとも機能をタブレット側に投げていくのか、いろいろなトライアルがアリな状況にある。

 今年から来年にかけては、このタイプの製品が色々出てくるのかもしれない。

Amazonで購入
Western Digital
WD TV Live

(2012年 6月 6日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]