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さようなら、PCのUHD BD再生!? 動作環境を改めて確認した
2022年1月28日 00:00
「Ultra HD Blu-ray」(UHD BD)は、解像度や色域、輝度など、BDのスペックを超える次世代の規格として、2015年に誕生した光ディスクだ。
今では、AmazonやNetflixなどの主要なネット動画サービスでもUHD BDと同じ4K解像度・HDR映像を楽しむことはできるが、UHD BDならではの大容量で、高データレートによるリッチな映像と音声品質は、コアなAVファンやコレクターらに支持されている。数は限られるが、新旧のハリウッド映画や国内のアニメ作品を収録したUHD BDソフトもコンスタントにリリースされるようになっている。
対応製品においても、レコーダーやプレーヤーといったAV機器だけでなく、PlayStation 5やXbox Series Xといったゲーム機でもUHD BD再生できる。Dolby Vision/HDR10+対応のUHD BDプレーヤーも2万円前後で購入でき(パナソニック「DP-UB45」)、再生環境を作るのはそれほど難しくない。
そんな中、UHD BDの再生ができなくなっているのが“PC”だ。
PCでのUHD BD再生は、OSやCPU、GPU、ドライブなど、幾つかの条件をクリアする必要があるため、もともと導入のハードルが高かったのだが、CPUを製造するインテルが再生に必要なセキュリティ技術を整理したことで、最新PCではUHD BD再生することができなくなった。
AV Watch読者の場合、AV機器での再生がほとんどだと思うが、中には高性能なHTPCを組んでUHD BDを再生している方もいるかも知れない。今回はPCにおけるUHD BD再生の現状と、再生条件をあらためて整理してみた。
インテル最新CPUでは再生できない
最新PCでUHD BD再生することができなくなった理由は、インテルが2021年からリリースしている第11世代Core iプロセッサシリーズから「Intel SGX」機能を削除したためだ(XeonプロセッサではIntel SGXを引き続きサポート継続している)。
Intel SGX(Software Guard Extensions)とは、インテルが開発したセキュリティ機能の1つ。ハードウェアを使ってメモリーを暗号化することで、さまざまな不正攻撃からデータを防御することができる。
PCでのUHD BD再生には、このセキュリティ機能が利用されていて、Intel SGX対応のCPUおよびマザーボードを使うことで初めて、強固にプロテクトされたUHD BDのデータを“セキュアな状態”で取り出すことができる。UHD BDの再生条件欄に「Intel SGX対応CPU」「Intel SGX対応マザーボード」と記載されているのはこのためで、逆に言えば、Intel SGX機能が働かない環境ではUHD BDを再生することができない。
Intel SGX機能が削除された理由は分からないが、しばらく前から同機能にセキュリティの脆弱性があると指摘されていたことと無関係ではなさそう。そして第11世代だけでなく、最新の第12世代CPUでもSGX機能がなくなっていることを考えると、今後のCPUで復活する可能性は低いのかもしれない。
再生ソフト「PowerDVD」シリーズを提供するCyberLinkも、サポートページにおいて「SGX機能が削除され、最新のWindows OSおよびドライバーとの互換性がなくなったことで、最新のCPUやWindowsプラットフォームを使ってUltra HD ブルーレイを再生することは、不可能であると判断いたしました」とコメントしており、UHD BDを再生する場合は、Intel SGX機能に対応していた第7世代~第10世代の旧世代CPU/マザーボードを使うようアナウンスしている。
なおWindows 11について、CyberLinkは「Intel SGX機能に対応するCPUおよびマザーボードを利用し、Intel SGX機能に対応したドライバーおよびユーティリティがインストールされている環境であれば、PowerDVDでのUHD BD再生に対応する」と回答。
しかし、「Intelの最新のCPUにおいてはIntel SGX機能が搭載されていないため、今後提供される新しいバージョンのドライバーやユーティリティにおいても、SGXへの対応が終了する可能性がある。また、Windowsのアップデートに伴ってドライバー等が更新される可能性もあるため、最新OS向けにSGX対応のドライバー等が提供されているかどうかを確認する必要がある」としている。
【更新】サイバーリンクのFAQ内容が一部修正されたため、引用文を更新しました。(3月4日11時)
現在店頭で販売されているPCは第11世代、または第12世代のCPUに切り替わり始めているため、これからUHD BDの再生環境を構築する場合は、型落ち、もしくは中古で旧世代のPCを確保するしかないだろう。
UHD BD再生できるPCの条件とシステム
では、PCでUHD BDを再生するにはどうすればよいのだろう。要求されるPCのスペックと必要なシステムを整理してみた。
まずPCに求められるスペックは、以下の通りだ。
再生できるPC(PowerDVD使用時)
- OS:Microsoft Windows 10
- CPU:インテル第7~10世代(Kaby Lake~Comet Lake)のCore iプロセッサーで、Intel SGX機能に対応するもの
- マザーボード:Intel SGX機能に対応したマザーボード
- GPU:Intel HD Graphics 630、Intel Iris Graphics 640統合型
- メモリ:6GB(推奨)
- その他:インターネット接続
OSはWindows 10。CPUは前述したとおり、最新世代はNGで、第7から第10世代のCPUでなければならない。インテルCPUの世代は、製品に貼られたエンブレムシールや型番(Core i7-8600Kなら“第8世代”、Core i7-10700Kなら“第10世代”)などからも判別できるが、確実なのはPCのデバイスマネージャからプロセッサを確認し、CPUの製造元・インテルのホームページでプロセッサの仕様を確認することだろう。仕様ページにたどり着けば、後段にSGX機能の有無が記載されている。
マザーボードもIntel SGX対応が必須。さらに外部ディスプレイにUHD BDの映像を出力する場合は、ボード直付けのHDMI/DisplayPort出力がHDCP2.2をサポートしている必要がある。
CyberLinkのサポートページでは、実際にテストを行なったモデルとして、Asus Z270-WS、ASRock Fatal1ty Z270 Gaming-ITX/ac、ASRock Fatal1ty Z370 Gaming-ITX/ac、Gigabyte GA-Z270X-Gaming 8、Gigabyte GA-Z270X-Gaming 9、Gigabyte Z370 Aorus Gaming 7、Gigabyte Z370N WIFIなどを挙げている。
グラフィックプロセッサは、Intel HD Graphics 630およびIntel Iris Graphics 640統合型のみ。オンボード型に限られているのは、UHD BDは著作権保護の都合上、外付けのグラフィックボードから出力できない仕様になっているためだ。
この他、6GB以上のメモリーやアクティベーションに必要なインターネット環境も求められる。
このように、再生できるPCの条件が複雑であるため、再生ソフトを展開するCyberLinkとCorelから、UHD BDが再生できるか否かを判定してくれるツールが提供されている。PC環境を数秒をスキャンして○×判定してくれる便利なものなので、この判定を参考に各項目を見直していくといいだろう。
CyberLink「Ultra HD Blu-ray Advisor」
https://jp.cyberlink.com/stat/bd-support/jpn/index.jsp
Corel「Ultra HD Blu-Ray チェックツール」
https://support.corel.com/hc/ja/articles/360008468793-Ultra-HD-Blu-Ray-%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%84%E3%83%BC%E3%83%AB
次に、PC以外に必要なシステムを見ていこう。
必要なシステム
- UHD BD対応のBDドライブ
- UHD BD対応の再生ソフト
- ディスプレイ
- UHD BDソフト
- HDMI/DisplayPortケーブル
UHD BD対応のBDドライブは、パイオニアやバッファロー、I-O DATA、ロジテックなどから発売されている。
サイトの商品情報やパッケージに“Ultra HD Blu-ray”のロゴが記載されているので、それを目安に選ぶといいだろう。ドライブ単体であれば1万円前後、再生ソフト同梱であれば1.5万円前後から購入できる。なお、UHD BDの著作権保護技術AACS 2.0をサポートする必要があるため、「BD/BDXLドライブならどれでもOK」というわけではないので注意。
再生ソフトとしては、CyberLink「PowerDVD」と、Corel「WinDVD UHD BD」などがある。ただし、後者はI-O DATAの光学ドライブや富士通パソコンのFMV等に一部バンドルしているソフトだ。
現在発売されているのは、バージョン21。サブスクリプション版「PowerDVD 365」(5,940円/年)と、最上位「PowerDVD 21 Ultra」(11,800円)でUHD BDが再生できる。
ノートPCの画面で表示する以外は、別途ディスプレイが必要になる。ディスプレイの必須条件は、HDMI(2.0a以上)もしくはDisplayPort(1.3以上)を備え、HDCP2.2に対応していること。もちろん、4K/HDR対応のディスプレイを接続することを推奨するが、HDCP2.2対応という条件さえ満たしていれば、2K/SDRディスプレイでも表示することはできる(この場合はダウンコン&HDR→SDR変換表示)。
この他には、UHD BDソフト、そしてPCとディスプレイを接続するHDMI/DisplayPortケーブルが必要になる。UHD BDは、BDやブルーレイ3Dと違ってレンタル版が存在しないので、自身で購入する必要がある。一般のBDソフトよりも高額だが、Amazonなどのセール期間を利用すればお得に入手できるはず。なおHDMIケーブルを使う場合は、4K60pまでの伝送が行なえる「Premium HDMI cable」規格認証済みのモデルを用意するといいだろう。
PCでのUHD BD再生はハードル高し。AV機器を使うのが無難
以上、UHD BDの再生に求められるPCスペックとシステムを整理してみたが、やはりハードルが高いと言わざるを得ない。
たとえPCが必要なスペックを満たしていても、BIOSやドライバのバージョンが違うだけで再生できなかったり、手順を間違えると再生時のアクティベーションができないなど、PCにおけるUHD BD再生はかなり複雑だ。
筆者の場合、ソフト同梱ドライブを購入したもののアクティベーションのところでエラーが発生。関連ドライバの更新や再インストールなどを行なっても症状が改善しなかったが、再生ソフトを最新バージョン(PowerDVD 21)にアップデートしたら、すんなり再生。しかし4K/HDRディスプレイを接続してもHDR出力が機能しないなど、いまだ完全な状態での再生に成功できないでいる。
現状では、何が何でもPCで再生したい! という方以外は、UHD BD再生に関しては、対応のAV機器やゲーム機に任せるのが無難と言えるだろう。しかし、1ユーザーとしては、何らかの形で”最新PCでのUHD BD再生”も復活してほしいところだ。