プレイバック2018

カスタムIEM探しはゴールに!? FitEar EST Custom/UE LIVEを入手 by 野村ケンジ

1年間を振り返っていかに散財したかをあからさまにする!? 毎年恒例の記事だが、2018年もいろいろと出費した記録が預金通帳に刻まれているものの、今年は本業に立ち返って、ポータブルオーディオについて話をさせていただこうと思う。

2018年のポータブルオーディオは、とにもかくにもBluetoothが話題の中心だった。完全ワイヤレスイヤフォンが急激にシェアを伸ばし、とあるデータによるとイヤフォン&ヘッドフォン全体の10%に迫る台数まで販売台数を上げたようだし、aptX HDやLDACなどハイレゾ級コーデックに対応した製品がさらに増え、そこにTrue Wireless Stereoという新たな選択肢も登場。ますますの盛り上がりを見せている。数年後には、有線接続に代わりイヤフォン接続方式の主役に踊り出しそうな勢いだ。特にAVIOT「TE-D01b」やNUARL「NT01AX」などで採用が始まったQualcomm製最新チップ「QCC3026」は、接続の安定性や音質など、これまでの難点を大きく改善してきており、2019年にはBluetoothイヤフォン全体のクオリティアップに大いに貢献してくれそうだ。

そんな、Bluetoothの話題ばかりが目に付いた2018年だが、個人的に最も“手に入れて良かった”“印象に残った”と思えたのがカスタムIEM(インイヤモニター)だったりする。実は、筆者こと野村ケンジは、インナーイヤー型はもちろん、カナル型イヤフォンでさえも装着時にポロリとこぼれ落ちてしまうことがままあり、そういった煩わしさのないカスタムIEMがとても気に入っている。

カスタムIEM探しは目的地に辿りついた!?「EST Custom」

10年近く前にFitEar「MH334」を作って以降、全く落ちることのないフィット感と、高い密閉性が生み出すピュアサウンドに夢中となり、気がついたら30製品以上のカスタムIEMを手にしていた。近年は、FitEar「TITAN」やqdc「8CS」、Westone「ES80」などのお気に入りも見つけた。一方でユニバーサルタイプのカナル型イヤフォンの装着感が向上してきたこともあり、さすがに収集癖もひと段落していた。そんな矢先の2018年に、格別と思える製品が登場してきた。それがFitEar「EST Custom」とUltimate Ears「UE LIVE」の2つだ。

FitEar「EST Custom」

まず、FitEar「EST Custom」(実売税込172,800円前後)は、同ブランドの最新モデルでBA(バランスドアーマチュア)型と静電型、2種類のドライバーを搭載したハイブリッド構成を持つモデル。なかでも静電型ドライバーの搭載は希有で、「EST Custom」ではコンパクトな昇圧トランスを組み合わせることで、一般的なヘッドフォン端子での使用を可能にしたという(SHUREのKSE1500など静電型ドライバー採用のイヤフォンは専用アンプが必要だったりする)。

そういった特殊なドライバー構成のおかげか、「EST Custom」はいい意味でイヤフォンと思えない、とてもニュートラルなサウンドを楽しむことができる。まず、音色が自然。イヤフォンというより、良質なヘッドフォンのイメージに近いかもしれない。それなのに、イヤフォンならではの高い解像度感も両立できている。音の広がり感も自然で、定位もピシッと定まっている。リファレンスとしても活用できる、良質なサウンドだ。この音を初めて聴いたとき、ああ、長きにわたった理想のカスタムIEM探しはとうとう目的地に辿りついた、そう思った。そのくらい、筆者にとって理想的なサウンドを「EST Custom」は持ち合わせていた。

FitEar「EST Custom」

ひたすら楽しい音楽を聴かせてくれる「UE LIVE」

しかしながら、最新イヤフォンの進化はとどまるところを知らない。やっとのことで理想の製品に辿りついたと思ったのに、予想外のところに別の道があった!?

「UE LIVE」

それが、Ultimate Ears「UE LIVE」(税込279,800円)だ。こちら、Ultimate Earsの新しいフラッグシップモデルで、ツアーミュージシャンがアリーナやスタジアム、フェスティバルなど大規模会場で使用することを想定して設計されたステージモニターとなっている。また、同ブランドとしてはほぼ初めてとなる、ハイブリッドドライバー構成を採用しているのも特徴だ。

搭載ドライバーは6mm口径のネオジウムダイナミック型が1基、BAが6基、そしてUE独自の技術を用いた「True Tone Plus」ドライバーが1基という、合計8基ものユニットが搭載されている。

同時に、4ウェイのクロスオーバーも採用されており、各ドライバーは高域/中高域/中低域/低域に振り分けられている。

ちなみに、Ultimate Earsは近年着脱式ケーブルのコネクタを刷新。「UE IPXコネクションシステム」と呼ぶ、小型のMMCXのようなコネクタとなった。ケーブルは、estronと共同開発した「UE SuperBax」が採用されている。

「UE IPXコネクションシステム」

「UE LIVE」を一聴して驚いたのが、自然な音色と広がり感を持つにもかかわらず、抑揚に富んだ、とてもドラマティックなサウンド表現をしてくれることだ。特に男性ヴォーカルが、活き活きと、のびのびとした歌声を披露してくれるので、聴いていてとても気持ちが良い。バスドラなどのキレの良さも素晴らしい。もともとステージモニター、プロ用に作られたものだが(やや中域メインの帯域バランスにそういった意図が感じられる)、リスニング用としても楽しい。

どちらかというとスタジオモニターに近いイメージの「EST Custom」とは全く方向性の異なるサウンドキャラクターだが、ひたすら楽しい音楽を聴かせてくれる「UE LIVE」もいい。ということで、2製品ともにかなりのお気に入りとして、仕事にプライベートにと日々活用している。

ポタフェスで出会ったFAudio「SCALE」

というわけで、この2製品のおかげですっかりカスタムIEM熱が復活してしまった筆者は、新たなる地平を求めて!? 先日開催された「ポータブルオーディオフェスティバル2018 WINTER TOKYO AKIHABARA」、通称“ポタフェス”の会場でカスタムIEMの試聴サンプルをいくつか聴いてみた。そのなかで、これは、と思った製品があったので紹介しよう。それは、FAudioの「SCALE(スケール)」だ。

FAudioの「SCALE」

FAudioは、2014年に設立したという新しいオーディオブランドで、2016年からは自社製カスタムIEMを展開している。近年はユニバーサルタイプのカナル型イヤフォンも手がけ始めており、先日発売された「Major」が高級イヤフォン好きの間で大いに話題となった。

そんなFAudioの、エントリークラスの製品がこの「SCALE」だ。BA型と8mm口径のダイナミック型を1基ずつ搭載するハイブリッド・ドライバー構成を持つモデルで、ネットワークを持たずそれぞれのユニットをフルレンジで活用するなど、個性的なコンセプトを持つモデルだ。

FAudio「SCALE」

実際、解像感などは上位モデルや高級モデルに敵わないものの、のびのびとした音色の、それでいて良好な帯域バランスを併せ持つ、素性の良いサウンドを持ち合わせている。BA型とダイナミック型、2つのドライバーの音色的な交わりも良好で、ハイブリッド構成の製品で時々見られる音質的違和感もない。

しかもこちらの製品、エントリーモデルなので金額も7万円ほど(カスタムIEMは耳型を採取する必要があるので実際はもう数千円かかる)。コストパフォーマンス重視の人も納得できるだろう。大いにオススメしたい製品だ。ちなみに筆者は、「ギャラクシー」というカラーが気に入り、こちらで製作をオーダーした。いまから到着が楽しみだ。

「ギャラクシー」カラー

ということで、2019年は、FAudio「SCALE」の到着からスタートすることになった。引き続き、衝動的な散財を最大限抑制しつつ(はたしてできるのか?)、皆さんとともにポータブルオーディオライフを楽しませていただこうと思う。

野村ケンジ

ヘッドフォンからホームシアター、カーオーディオまで、幅広いジャンルをフォローするAVライター。オーディオ専門誌からモノ誌、Web情報サイトまで、様々なメディアで執筆を行なっている。ビンテージオーディオから最近、力を入れているジャンルはポータブルオーディオ系。毎年300機種以上のヘッドフォンを試聴し続けているほか、常に20~30製品を個人所有している。一方で、仕事場には、100インチスクリーンと4Kプロジェクタによる6畳間「ミニマムシアター」を構築。スピーカーもステレオ用のプロフェッショナル向けTADと、マルチチャンネル用のELACを無理矢理同居させている。また、近年はアニソン関連にも力を入れており、ランティスのハイレゾ配信に関してはスーパーバイザーを務めている。