トピック

バーチャルヘッドフォンの革命!? Creative「SXFI」で映画やゲームを満喫する

バーチャルサラウンド技術は、サウンドバーのようなスピーカーのための製品と、ヘッドフォンのための製品の2種類があり、どちらも今ではかなり身近な存在となっている。実際に部屋の前後に複数のスピーカーやサブウーファーを置く本格的なサラウンドシステムと比べて、導入しやすいことが大きな魅力だ。

しかも最近では、Windows 10でDolby Atmos for Headphoneが採用されたり、DTS Headphone:Xなども登場したりと、ヘッドフォン向けのバーチャルサラウンド技術がさらに進化してきていると感じる。これは、人気が高まりつつあるVRコンテンツと相性が良いことも理由のひとつだろう。なにより、映画や音楽鑑賞で大音量による周囲への迷惑が問題になりがちな日本では、おおいに歓迎すべき技術と言える。周囲への影響を最小限とし、本格的なサラウンド再生を楽しめるためだ。

今回紹介する「SUPER X−Fi」シリーズは、クリエイティブメディアから発売されている新しいヘッドフォン用のバーチャルサラウンド技術だ。シリーズを構成する製品としては、スティック型のUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「SXFI AMP」(直販価格 1万6,800円)、PCとUSB接続して使用するヘッドセット「SXFI AIR C」(同1万3,800円)、SXFI AIR CにBluetoothと音楽プレーヤー機能を盛り込んだ上級モデル「SXFI AIR」(同1万7,800円)の3つがある。

ここでは、SUPER X-Fiの最新鋭のサラウンド技術を紹介するとともに、3つの製品を実際に使って、映画や音楽鑑賞すると、どんな音が楽しめるのかをレポートする。なお、いずれのモデルもクリエイティブメディアのオンラインストアのみで販売している。

両耳と顔の写真を撮るだけで、ユーザーの頭部形状を最適化

まずはバーチャルサラウンド技術について軽くおさらいする。人間の耳は右と左の2つだけで前後左右どころか、高さまで含めて音源の方向を認識できる。仮に右斜め前にある物体の音を聴くとき、人間は物体に近い右耳から入る音、少し遠回りして遅れて左耳に入る音を脳内で分析して音の方向を認識する。

簡単に言えば、右耳に入る音に比べて左耳に入る音は、時間がやや遅れるし、遠回りするぶん音量も減衰する。このように右耳と左耳に入ってくる音を比較することで、おおまかな音源の位置が判断できるのだ。実際はもう少し複雑で、遠回りして左耳に入ってくる音は頭の形や顔の形の影響を受けて反射・拡散するため、単純に到達時間の遅れ、音量の減衰が起こるだけでなく、頭部形状による反射で位相も変化するし、周波数的にも影響を受ける。こうした頭部形状による伝達特性の変化は、バーチャルサラウンド技術では欠かせない頭部伝達関数(HRTF)として数値化されている。

この頭部伝達関数を使って、仮想的に音の方向感などを再現するのがバーチャルサラウンド技術で、この点については、従来のバーチャルサラウンド技術も、SUPER X-Fi技術も基本的には同様だ。

話は変わって、バーチャルサラウンド技術を使ったサラウンドヘッドフォンでの再生は、それなりにサラウンド感や音の方向感、移動感は得られるが、残念ながらリアル5.1ch構成のサラウンドスピーカーでの再生には及ばない。これは、多くの人が実際に体験しているだろう。その理由は、バーチャルサラウンド技術の根幹であるHRTFが“標準的な人間の頭部を模したモデル”を基本としているからだ。人間の顔は基本的な構成は同じだが、人種や性別、年齢などで人の数だけ違いがある。この微妙な違いが、精密な音の方向を認識するために大きな影響があるのだ。

ではきちんと測定して、ユーザーそれぞれの頭部形状のデータをHRTFに当てはめ、バーチャルサラウンド再生すれば、リアルな5.1chサラウンドと同等の効果が得られるのか? 当然、答えはYES。しかし、精密な頭部形状のデータを測定するのは大変だ。頭部形状を測定する手間と時間がかかるし、測定するための高価な装置も必要になるので、結果的に製品の価格が高くなる。逆に、マネキン人形の頭部のような、だいたい人間の形をしているデータを使うことで測定の必要をなくせば、価格を安く提供できる。そのぶん、得られる効果も半減するというわけだ。

SUPER X-Fiが画期的なのは、難関である頭部形状データの測定が驚くほど簡単に、しかも安価に測定できる手法を開発したことだ。結論から言えば、両耳と正面からの顔の写真をスマホで撮影するだけで、ユーザーに最適化された頭部形状データの生成(パーソナライズ)が完了する。

この秘密は、画像認識技術とAIを使ったデータマッチングによるもの。スマホで撮影した両耳と顔の画像は、専用のクラウドにアップロードされる。クラウドには、精密に測定された何パターンかの頭部形状データがあり、高精度な画像認識を行なって、AIが基本的な頭部形状データを元に個人に最適化した頭部形状データを生成するというわけだ。詳細は明らかになっていないので、おおざっぱな説明で申し訳ないが、ともあれ、従来は難しかった精密な頭部形状データの測定を写真を撮るだけで可能にしてしまったというわけだ。

実際、クリエイティブメディアは20年以上前からこの研究を進めており、この技術が1年前に完成し、昨年1月のCESで技術発表していた。その後、1年間をかけて数多くの人の頭部形状データを収集してきた。多くの人のデータ生成を行なうことで、AIによるデータマッチングの精度を高めてきたというわけだ。そして、1年後、ユーザーへのデモで99%の満足度が得られたため、今年のCESで製品として発表。CESでのいくつものアワードを受賞することになった。

パーソナライズ用の測定は簡単

小難しい説明よりも、実際に試してみるのが一番だ。必要なのは、スマホ用アプリの「SXFI App」の入手だけ。当初はAndroid用だけだったが、現在ではiOS用も登場している。ただし、後で説明するが、iOS版は基本的にはBluetooth接続ができるSXFI AIR用で、SXFI AMPやSXFI AIR Cを使う場合は、Andoroid端末またはWindows PCが必要になる。今回は、iOS版を使って試してみた。

アプリを起動するとメインメニューに「パーソナライズする」という項目があるので、それを選ぶ。「ヘッドマッピングを開始する」を選ぶと、カメラ撮影画面に切り替わるので、画面の指示通りに右耳→顔→左耳の順番で撮影。丸いワクの中に耳や顔が収まるようにすると自動的に撮影される。一人で自撮りするのはちょっと難しいので、2人で行なうといいだろう。

SXFI Appのトップメニュー。ここから「パーソナライズする」を選ぶ。
右耳の撮影画面。中央のガイドに耳が合うようにすると、撮影される
同様に正面からの顔を撮影
最後に左耳の写真を撮影すれば作業は完了だ。
パーソナライズしたデータの履歴。データ自体はクラウドに保存されている。家族や友人など、複数のデータを保存することも可能

3枚の撮影が終われば、作業はほぼおしまい。撮影した画像データは専用のクラウドにアップロードされ、画面にはパーソナライズ完了のメッセージが表示される。データはクラウドに保存されており、この後でSXFI対応製品と接続すると、データを製品にダウンロードでき、音がパーソナライズされるというわけだ。なお、プロファイル作成は「ヘッドマッピングを開始する」を選べばいつでもやり直せる。

SXFI AIRの場合はそのままiOS端末とBluetooth接続をすれば、パーソナライズしたデータがダウンロードされる。しかし、SXFI AMPやSXFI AIR Cは、基本的にWindows PCとUSB接続して使う機器なので、ここから先の作業は、PC(またはAndroid端末)を使って行なう。

PCでは、SXFIシリーズのさまざまな設定を行なう「SXFI Control」というソフトが提供されており、これを起動して、スマホと同じアカウントでログインすると、作成してあるプロファイルデータが入手でき、USB接続したSXFIシリーズに転送する。接続すると、機器に合わせてメニューが表示されるので、必要に応じて設定する。

SXFI Controlの画面。SXFIシリーズの機器をUSB接続すると、自動的にパーソナライズしたデータのダウンロードが行なわれる
SXFI AMPと接続した場合、使用するヘッドフォンを選択する画面がある。ここでは、筆者が所有するゼンハイザーのHD800を選択している

USB DAC内蔵アンプのSXFI AMPを使う場合は、USB Type-CでPCやAndorid端末と接続する。製品には付属しないので、必要に応じてUSB Type-C→USB Aケーブルなどを使用しよう。

接続し、パーソナライズが完了したら、次はヘッドフォンの選択だ。SXFIの効果を最大限に活かすためには、ヘッドフォン側の周波数特性などの最適化が必要になる。製品のブランドは、ゼンハイザーやSHURE、オーディオテクニカやソニーなどの有名メーカーがあり、製品もいくつかリスト表示される。ここから、使用する機器を選ぶわけだ。

リストに使用したいヘッドフォンがない場合、「Unknown」を選ぶのだが、効果を最大限に得るならば、リストにある製品を使うことが理想だそうだ。次善の策としては、同じメーカーを選択し、製品名では同じシリーズのモデルなど、音質傾向が近いと思われるものを選ぶとよいそうだ。リストの製品はクリエイティブメディア側でデータの測定が行なわれ、毎月補正データが更新される予定だが、現状ではその数は決して多くはない。新旧の人気の高いモデルを優先して測定しているので、いわゆる定番モデルはリストに加わりやすいだろう。SXFI AMPを使う場合は、自分の所有するヘッドフォンやイヤフォンがリストにあるかどうかを事前に確認するといいだろう。

選択できるヘッドフォンメーカーのリスト。有名どころのヘッドフォンメーカーが幅広くリストアップされている。
ゼンハイザーを選択後、モデル名を表示したところ。製品数は決して多くはないが、人気の高いモデルが揃っている。モデルの拡充にも期待したいところだ

当然ながら、SXFI AIR/AIR Cを接続した場合は、ヘッドフォン選択の項目はない。ヘッドフォン自体の特性は測定済みですでに最適化が完了しているためだ。

後は、PCで再生するコンテンツに合わせて、再生チャンネル数を選ぶ。最大7.1chのサラウンド音声に対応するので、基本的には「7.1」を選ぶ。このほか、音質を好みに調整できるイコライザー機能もあるので、好みで使用しよう。Windowsの7.1ch設定は、後述するコントロールソフト「SXFI Control」からも行なえる。

セットアップの画面にあるヘッドフォンの構成の選択。基本的には「7.1」を選ぶ
イコライザー機能。クラシックなどのプリセットメニューのほか、自由にカスタム調整も可能。イコライザー自体をオン/オフも可能だ
SXFI AIR/AIR Cを接続した場合、ハウジング部分のLEDの色を調整することも可能。好みのカラーを選べばいい。LEDオフも選択できる

続いてはPC側の設定だ。ドライバーのインストールは不要だが、コントロールソフト「SXFI Control」のインストールは必要。インストール後に「サウンド」のコントロールパネルを開いて、「SXFI AMP」を選択。「構成」で「7.1サラウンド」を選択すれば準備完了。このあたりは、USB DACなどを接続する場合と同じだ。これを済ませれば、Windowsの動画ソフトやBD/DVD再生ソフト、音楽再生ソフトなどでパーソナライズ化された音を楽しめるようになる。

「サウンド」のコントロールパネルの再生タブから、SXFIシリーズを選択する
「サウンド」のコントロールパネルで。SXFIシリーズの「構成」の画面を開く。7.1chサラウンドを選択すれば完了だ

いよいよ SXFI AMPでサラウンド再生を試してみる

準備が整ったので、いよいよサラウンド再生を試してみよう。まずは、USB DAC内蔵ヘッドフォンアンプタイプのSXFI AMPだ。ヘッドフォンはゼンハイザー「HD800」を使用している。SXFI AMPはスティックタイプのコンパクトなヘッドフォンアンプで、ノートPCやAndroid端末と組み合わせて持ち運んで使用できる。接続端子はUSB Type-Cで、ヘッドフォンとの接続はステレオミニ端子となる。

SXFI AMPは、SXFIのための専用DSP「SUPER X-Fi ULTRA DSP」を内蔵する。最大8チャンネルで96kHz/24bitのハイレゾ音源に対応し、その信号の処理を高速に行なえる。高速化を果たしながら、低消費電力も実現しているそうだ。このコンパクトさながら、DACチップは旭化成の32bitタイプとし、ヘッドフォンアンプも600Ωのハイインピーダンスに対応するものを使っている。SN比120dB、THDは0.0003%を実現しており、音質にもこだわった作りだ。また、ボディはアルミ製で強度も高く、見た目もなかなか高級感がある。

SXFI AMPの外観。機能を考えると驚くほど小さい。一番上にあるのがSXFI効果のオン/オフ、「+」、「ー」は音量調整調整ボタンで、間にあるボタンは再生/一時停止ボタン
下側にあるヘッドフォン出力端子。ステレオミニ端子だ。
上側にある接続端子。USB Type-Cとなっている
Android端末とUSB Type-Cケーブルで接続したところ。バスパワー駆動なので、電源は不要だ

まずは、さんざん視聴している「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」を見てみた。再生ソフトは「PowerDVD」を使用しているが、BD/DVD再生が可能なソフトならばなんでも使用可能だ。このほか、動画配信サービスの専用アプリケーションでも利用できる。注意したいのは、音声出力の設定をリニアPCM 5.1/7.1chに切り換えること。SXFI AMPにはドルビーデジタルやdtsのデコーダは入っていないので、再生ソフト側でデコードしてPCMで伝送するわけだ。

ゼンハイザーHD800の解放感のある音場ということもあるが、再現されるサラウンド音場も極めて広い。登場人物の声もきちんと前方から聴こえる感じがある。“1mちょっと先にあるテレビ画面から音が出ている”というほどの距離感はないが、おでこの先の数10cmほどのところにスピーカーがあるイメージだ。それでも、センターチャンネルの音が頭内定位になりやすい従来のヘッドフォンサラウンドと比べればかなり音場は広い。

サラウンドチャンネルの音はきちんと真横から斜め後ろに聴こえる。これは1mかそれ以上離れた場所にあるスピーカーから出ているイメージで、横方向の音場はかなり広い。そして、一番感心したのが、真後ろの音もきちんと真後ろに定位すること。センターチャンネルと同様に、距離感は数10cmくらいとややスピーカーが近くにあるイメージにはなるが、「頭内定位でなんとなく後ろにあるような感じ」ではなく、しっかりと“後頭部の後ろから音が出ている”と感じられる。これだけで、従来のバーチャルサラウンド再生とは空間の再現力が格段に高いことがわかる。試しに、SXFIボタンをオフにしてみると、途端に音が頭の中で響く感じになり、空間感も音の広がりも感じにくくなる。この差は歴然だ。

「ガルパン最終章 第1話」はサラウンド再生のチェックなどでもよく使うし、第2話の上映も迫ってきているので、改めてさんざん見ているが、そこに収録された細かな音までしっかりと再現する。決して高解像度というわけではなく、どちらかというと聴き心地の良いバランス重視の音だが、サラウンド空間が広く、各チャンネルの音がきちんと分離して再生されるので、細かな音まで実に粒立ちよく再現できるのだ。このため、クライマックスの橋の上での大ピンチでは、砲撃を受けて飛び散る木材が目の前に迫ってくるような迫力もしっかりと出るし、砲撃の音の迫力はもちろん、木や鉄が軋む感じの音まで、実に鮮明。これは見事なものだ。

従来のバーチャルサラウンド再生は、特に後方の音が定位が甘くぼやけた印象になりやすいので、なんとなく後ろから聴こえる感じだが、SXFI AMPを使うと前後左右の定位がしっかりとしているので、サラウンドを満喫できる。しかも、残響感でごまかすようなことがないので、音の移動感もじつにシャープだ。バーチャル再生でありながら、本格的なサラウンド再生に限りなく近い再現と言っていい。

ちょっと意地悪をして、「ミッション:インポッシブル フォールアウト」(BD版)も見てみた。音声はDolby Atmosだ。リニアPCM 7.1ch出力にしているせいもあり、残念ながら高さの再現については「なんとなく上の方から音が出ている」という感じになる。とはいえ、7.1chとしての再生はなかなかのレベルで、前方に広がるBGM、その前に立つダイアローグ、自在に移動する効果音という、映画の音の立体的な配置はしっかりとしていて、サラウンド再生の醍醐味は十分に感じられる。

自宅で使っているWindows PCとSXFI AMPをUSB接続したところ。HD800の接続は標準→ステレオミニ変換プラグを使っている。

さらにWindows PC再生であるので、「Dolby Atmos for Headphone」での再生とも比較してみた。こちらは、純正のAtmos再生となるため、高さ感の再現はなかなかのもの。ヘリコプターでの追撃シーンではヘリのローターの回転音がしっかりと頭上から聴こえてくるのがわかる。逆に前後左右の広がりはかなり狭い。ダイアローグは頭内定位となるし、真後ろの音も頭内定位に近いので、「なんとなく後ろ」という感じになってしまう。これが従来のヘッドフォンサラウンドでもあるため、SXFIは、高さ感こそやや物足りないがサラウンド感や空間の広がりは見事なものだ。

ちなみに音質そのものも、音の粒立ちの良さや情報量の豊かさだけでなく、低音域のパワー感や立ち上がりの良さなど、なかなか優秀。1万6,800円のUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプとしても十分な実力だ。

ヘッドフォン内蔵型「SXFI AIR C」でもテスト

今度はヘッドフォンタイプ「SXFI AIR C」を試してみた。SXFI Contorolでパーソナライズを行ない、Windows上でオーディオデバイスの設定をするのは同様。ボイスチャット用のマイクも備えるので、オーディオデバイスの設定では、「再生」だけではなくマイクのための設定も行なっておこう。ゲームなどでは、最大7.1chのサラウンド再生ができるだけでなく、ボイスチャットにも使えるわけだ。

使用しているドライバーは50mm口径でネオジウムマグネットを採用。なかなか大口径のドライバーだし、ハウジングも樹脂製ながらしっかりと剛性感のある作りになっている。約1万6,000色が選べるハウジングのLEDもなかなかカッコイイ。

SXFIのための専用DSP「SUPER X-Fi ULTRA DSP」を内蔵するのも同様。このDSP自体にもDACチップを内蔵しており、SXFI AIR CではDACチップはDSP内蔵のものを使っているようだ。

さっそく「ガルパン最終章 第1話」を見てみたが、ヘッドフォン自体の音質差を別にすれば、サラウンド再生の空間の広がりや後方の音まで明瞭な定位で再現するといった特徴は同様。低音の力強い再現と立ち上がりの良さも共通している。SXFIオフでの“素の音”は、聴きやすくまとまったバランスの良い音だが、映画(しかも爆音映画)を見ていると、低音は量感が多めで、音の立ち上がりやキレが鈍いと感じる。SXFIをオンにすると、これが改善される。ヘッドフォンとしての諸特性を補正しているのが効いているのだろう。低音域の伸びもよくなるし、膨らみ気味の弛んだ感じも収まる。SXFIオンで聴くと、優秀なサラウンド再生の実力も合わせて、とても1万3,800円のヘッドフォンとは思えない音だ。

SXFI AIR Cの外観。シンプルなデザインのオーバーヘッド型だ。側圧はほどほどで、イヤーパッドには厚みがあり、装着感も良好だ
左側にある操作ボタン。上からSXFIボタン、音量調整ダイヤル、マイクオフボタンがある
付属のマイクを付けた装着イメージ。着脱式のマイクはフレキシブルに位置を微調整可能。右側ハウジングには電源ボタンもある

PS4と繋いでゲームのサラウンドもチェック!

今度は、SXFI AIR CをPS4に接続してみた。USB Type-C→USB Aの変換ケーブルが必要になるが、実はPS4でも使えるのだ。ただし、Android端末、またはiOS端末とWindows PCとの併用でパーソナライズを済ませておく必要がある。パーソナライズさえ済ませてしまえば、USB接続できるオーディオ機器で使えるというわけだ。

SXFI AIR CとPS4をUSBで接続し、ゲームのサラウンド音声を再生してみた

ただし書きが多くて申し訳ないが、PS4を使った場合、USB接続では音声はステレオ出力となる。これはPS4の仕様だ。PS4のゲームの多くは5.1/7.1chに対応しているが、これをそのままサラウンド再生はできない。

だが、心配することはあまりない。実際に「バイオハザード RE:2」で試してみたが、オーディオ設定の画面で、「スピーカータイプ」でヘッドフォンを選び、「リアルタイムバイノーラル」をオンとしてプレイしてみると、かなり良好なレベルでサラウンド感が再現される。「リアルタイムバイノーラル」で方向感が強まることもあり、USB出力のステレオ音声でもSXFIを使えば案外サラウンド感が得られることがわかった。

実際、部屋の奥でうめいているゾンビの声は視点を切り替えると前方から横へ、そして後ろへと移動している感じがあるし、正体不明の追跡者Tさんの足音は、部屋の外の壁越しの足音がきちんと距離感を持って響いているのがわかる。

わかりやすく言うと、ドルビーデジタル5.1chの前の、ドルビーサラウンドの音場に近い。前方3チャンネルで後方1チャンネルの3-1方式と呼ばれるサラウンドだ。もともと前後の音の定位が明瞭で空間感も十分にあるので、3-1方式とはいえ、十分な包囲感や空間感が得られた。強いていうならば、横〜斜め後ろの音はどうしてもあいまいな再現になりがちというくらいだ。前方から横の再現はかなりよく出来ていて、しかも真後ろの音の定位もしっかりとしているので、普通のユーザーであれば大きな不満は感じないと思われる。

USB接続で使用するヘッドセットなので、基本的にはPCまたはAndroid端末で使うことが中心ではあるが、パーソナライズさえ済ませてしまえば、MacやiOS端末でも使えるし、対応機種は思ったよりも多い。サラウンド再生についても、PS4のようにゲーム側でヘッドフォンサラウンドの機能があれば、これを使うことで思った以上のサラウンド感が得られるのはありがたい。さらに、ステレオミニ端子での有線接続もできるので、ステレオ音声のみとはいえ、さまざまな機器と接続して使える。サラウンドヘッドフォンとしてかなり安価なことに加え、幅広く使えるのは大きな魅力だ。

Bluetooth接続のSXFI AIRで、ステレオ再生の音もチェック

最後は、最新モデル「SXFI AIR」だ。これは、SXFI AIR CにmicroSDカードを使った音楽プレーヤー機能と、Bluetooth接続機能を盛り込んだ上級機。内蔵バッテリーの寿命は最大10時間となっている。ヘッドフォン自体は、SXFI AIR Cと同様のようで、デザインもカラーの違いと操作ボタン類を除けばほぼ同じだ。

SXFI AIRとiPhoneを組み合わせ、Blutoothでのステレオ再生を試してみた

右側のハウジング部分にmicroSDカードのスロットがあり、ここに楽曲を保存したmicroSDカードをセットすれば、単体で音楽再生が可能だ。Bluetooth接続もできるので、数多くの機器とワイヤレス接続できる。Bluetooth接続時は音声はステレオ出力となり、マルチチャンネル音声には非対応だ。これはBluetoothの仕様。

SXFI AMPやSXFI AIR Cでは、iOS端末でパーソナライズはできても、直接接続ができないので、パーソナライズしたデータの転送にはAndroid端末やPCが必要だった。しかし、SXFI AIRはBluetooth接続ができるので、Bluetooth経由でパーソナライズデータの転送が可能。ワイヤレスで使えることも魅力だが、iOS端末のユーザーはSXFI AIRの方が使い勝手がいいだろう。

また、音楽再生のコントロールはハウジング部分のタッチセンサーによる操作を採用している。着脱可能なマイクはコンパクトなナノブームマイクとなっており、屋外でも使いやすいモデルだ。価格は1万7,800円とSXFI AIR Cに比べて少々高いが、盛り込まれた機能を考えれば、十分にお買い得だ。

SXFI AIRの外観。白のハウジングとヘッドバンドを採用。デザインは同じだが印象はずいぶん違う。LEDランプはBluetooth接続時に青く光るなど、動作状態を示す
イヤーパッド部分を見ると、ドライバーのカバーにRとLの表示があり、左右の確認ができるようになっている
左側ハウジングにあるUSB Type-C端子とヘッドフォン端子
ハウジングにあるmicroSDカードスロット。SXFIボタンやBluetooth接続/入力切替ボタンもある
ハウジングに装着するナノブームマイク。屋外で使っても邪魔にならない形状になっている
ハウジングにナノブームマイクを装着した状態

USB接続をしての映画などの再生は、SXFI AIR Cのときとほぼ同様だ。ここでは、Bluetooth接続時のステレオ音声について紹介しよう。バーチャルサラウンドヘッドフォンでステレオ再生というと、変な感じがする人もいるかもしれない。勘違いしないでほしいのは、ステレオ音声を擬似的にサラウンド化するような小細工はしていないということだ。ではどういうことかというと、“スピーカー再生に近い鳴り方”になる。ちなみにこれは、SXFI AMPやSXFI AIR Cでステレオ音声を再生したときもまったく同様だ。

SXFIオフは、まったく普通のヘッドフォン再生で、頭内定位となる。聴きやすい音色は好ましいが、密閉型でもあるし、ことさらに音場感が広いというわけでもない。ところがSXFIをオンにすると、ステレオ音声のステージが目の前に現れる。擬似的なサラウンド化のように「なんとなく左右の音がヘッドフォンの外側まで広がる」のではなく、音のステージが広がりながら目の前に移動してくる感じだ。もちろん、本物のスピーカー再生のような1~2mほどの距離を持ってステージが現れるのではなく、おでこの前の数10cmくらいのところに音場が現れるイメージだ。目の前ではなく、おでこの前のやや斜め上から音が聴こえる感じになる。

ヘッドフォン再生では頭内再生という以前に、右の音は右耳から、左の音は左耳から聞こえてくるダイレクトな感じがあるが、そんな感じはまったくなくなる。ヘッドフォンをしているのに、ヘッドフォンの外側の音を聴いているようだ。

他社には、購入時にメーカーが用意したスタジオや試聴室に出向いて精密な測定を行なう製品も存在するが、手間はかかるし、価格もかなり高価になる。それにかなり近い感触の自然なステレオ感を得られる再生が、1万数千円のヘッドフォンで得られる事には驚いた。共通するのは、頭部形状を個人に合わせて最適化すること。手法は違えど、ユーザーのパーソナライズがヘッドフォンのバーチャルサラウンド再生には欠かせないということがわかる。

SXFI AIRの装着イメージ。ワイヤレス型なので、このまま軽快に音楽再生などが楽しめる

SXFIの話に戻るが、スピーカー再生を完全に再現するというものではなく、“スピーカー再生に近い自然な感覚での音楽再生ができる”というのが的確な説明だ。頭内定位は解消されるが、音源が遠ざかった音像がぼやけることもないし、音楽信号以外の残響特性が追加されるわけでもない。スピーカー再生とヘッドフォン再生の中間的な再生であり、これがなかなか面白い。ヘッドフォン再生ならではの、音源が近いことに起因する情報量の豊かさ、細かな音、小さな音まできちんと聴こえる再現性の高さはそのままに、音が頭の中から飛びだして前方に現れるのだ。

強いてヘッドフォン再生との違いを挙げるならば、左右の耳に直接音が入力されるようなダイレクト感がないこと。ヘッドフォン再生に慣れてしまっていると、音源の遠ざかったような感じがするかもしれないが、ほとんど人はSXFIの方が自然な聴こえ方だと感じるはずだ。

この感じは、スピーカー再生に馴染んでいて、ヘッドフォン再生の頭内定位がどうにも不自然で好ましくないという人にはうってつけだと思う。Bluetooth接続での再生では、圧縮データに変換して転送するBluetoothゆえの音質的な劣化は多少感じるものの、自然な音場の広がりという点では、音場感の優秀さをアピールするどんなハイエンドヘッドフォンにも負けないものがある。また、そういう自然な聴こえ方だからこそ、Bluetoothの音質劣化や、ヘッドフォン自体の音質差が余計にわかりやすい。このあたりは痛し痒しではある。とことん音質にこだわる人は、ヘッドフォンの選択肢が広がるSXFI AMPを選び、リストにある製品から音質的にも好ましいモデルを組み合わせるといいだろう。

Bluetoothに限らず、ステレオ再生中心で良いならば、SXFI AIR/AIR Cはかなり多くの機器と接続して楽しめる(繰り返すが、最初にパーソナライズ化する作業は必要)。筆者は映画好きの人間ではあるが、音楽メインでヘッドフォンを使う人でも、SXFIシリーズを存分に楽しめると思っている。バーチャルサラウンドをあまり試したことがない人には新鮮だと思う。1万数千円という価格どう感じるかは人それぞれだが、新技術を比較的試しやすい価格であることは間違いない。興味のある人はぜひとも一度試してみてほしい。なかなか楽しいアイテムだと感じてもらえるはずだ。

Sound Blasterで知られるクリエイティブメディアの実力恐るべし

クリエイティブメディアというと、オーディオに詳しい人はあまり知らないメーカーかもしれないが、PC用のオーディオ機器のメーカーとしてはかなり有名だ。PCのサウンドボードをいろいろと吟味した経験のある人ならば、Sound Blasterというブランドはよくご存じのはずだ。

ピュアオーディオメーカーではないが、独自の音響DSPを開発するなど、音声信号処理の高い技術を持っている。バーチャルサラウンド技術には不可欠と言いたくなる個人の最適化という問題に真っ正面から取り組み、いち早く実用化したのは、逆にピュアオーディオメーカーではないからこそできたことかもしれない。

物量を投入して、一般の人では登ることが出来ないエベレストの山頂を目指すような究極のオーディオ体験を追求することも、オーディオメーカーの役目ではある。しかし、それに近い体験を、より安価でより容易に得られるようにすることも重要なことではないかと筆者は考える。

日本だけでなく、世界中で大きな人気となっているヘッドフォン再生において、クリエイティブメディアが果たしたSXFIという技術は、革命的な技術であり、大きな実績だと思う。同社は今後、SXFIラインナップの拡充を考えているそうで、まだ検討段階で具体的な発売予定はないが、HDMI入力を持ったSXFIシリーズなども考えているようだ。HDMI入力を持ち、Dolby AtmosやDTS:Xデコーダーを内蔵すれば、最新の立体音響への対応も不可能ではない。BDプレーヤーなどのAV機器との接続もしやすいので、活躍の幅はさらに広がるはずだ。そんな将来にも期待しつつ、まずはSXFI AMPやSXFI AIR/AIR Cで、広々とした音場のサラウンド再生や、自然で心地良いステレオ再生を体験してみて欲しい。きっと驚くに違いない。