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超コスパスピーカー「SB-C600」、“計22万円で揃う”Technicsの音に驚く

左からブックシェルフスピーカー「SB-C600」、一体型オーディオシステム「SA-C600」

テクニクスから発売された一体型のオーディオシステム「SA-C600」(11万円)は、薄型かつコンパクトなシャーシに、定格出力60W/4Ωのデジタルパワーアンプを搭載したネットワーク対応のプレーヤーだ。CDからハイレゾ、ストリーミングなど新旧様々な音楽ソースに対応するだけでなく、設置したリビングや書斎のカッコよさがグッとアップするような洗練されたデザインも魅力。さらにいろいろ入って11万円と“ピュアオーディオ機器としてはそこまで高価ではない”と、注目の1台だ。

前回のレビューでは、このSA-C600を自宅で使用しているJBLの大型スピーカー「L100 Classic 75」と組み合わせてレビューしたわけだが、CDからストリーミングまでなんでも聴けるし、アンプの駆動力も高いしで、とにかく信じられないくらいコスパが高かった。僕は仕事であることを忘れて、音楽を浴びるように楽しんでしまった。

小型かつ11万円で本格オーディオ! Technics「SA-C600」の実力は

で、普通ならここで話は終わりなのだが、なんとテクニクスから、SA-C600の相棒とも言える小型ブックシェルフスピーカー「SB-C600」も同時発売されているではないか。しかも価格はペア11万円で、SA-C600と同じ。両方買ったら22万円でテクニクスのピュアオーディオシステムが完成する。これを試さない手はない。

ブックシェルフスピーカー「SB-C600」

見た目は小さいが、中身はヤバい

前の記事でも書いたが、テクニクスのオーディオ製品は上位シリーズから順に「Reference Class」「Grand Class」「Premium Class」という3つのラインで展開されている。中でも、SB-C600は最も手に入れやすい価格帯の「Premium Class」に属している。

いきなり結論から言うと、このSB-C600、エントリーラインとは思えない圧倒的な技術投入がされた、とんでもないスピーカーだった。僕は昨年から今年にかけて、かなりの数のエントリークラスのスピーカーをレビューしているが、その音に心を奪われた度合いで言うとSB-C600はトップクラスだった。

まずはSB-C600のアウトラインから解説しよう。本スピーカーは、テクニクススピーカーの伝統である点音源とリニアフェーズ思想を受け継ぐ、同軸型の2ウェイ・ブックシェルフ型だ。エンクロージャーの外寸(幅×高さ×奥行)は173×293×283mm、重量は6.3kgで、一般的なブックシェルフスピーカーのサイズ感と同じ。つまりHi-Fiスピーカー激戦区へテクニクスが投入した意欲作だ。

再生周波数帯域は40Hz~100kHzと実にワイドレンジで、特に高域の伸びが印象的。比較的小型のモデルでありながら、ハイレゾのメリットの1つ高域の限界周波数に対応しているところは頼もしい。

SB-C600は「動と静」というコンセプトを掲げている。これは、同軸型のスピーカーユニットで明瞭な音像定位と、透明感のある音色を作り出し、さらにレスポンスの優れたフロントバスレフポートと合わせ、正確な「動」を表現するというもの。そして不要振動を大きく抑える“重心マウント構造”で「静」を追求しているのだ。

新開発の「Advanced Phase Precision Driver」。中央の銀色の部分がLinear Phase Plugだ

もう少し詳しくご説明しよう。スピーカーユニットは新開発の「Advanced Phase Precision Driver」が採用される。一般的な2ウェイスピーカーは、高域を担当するツイーターと中低域を担当するウーファーが上下に別れて搭載される。要するに、見た目としては2つのユニットが搭載される。一般的には上部のユニットが高域、下部のユニットが中低域を担当する。

しかし、SB-C600のような同軸型ユニットは外観上はユニットが1つだ。ユニット内に高域と中低域をそれぞれ担当する2つの振動板が存在し、中央部が高域、その周りの振動板が中低域を受け持つ。これにより、音が文字通り“同軸上から出て”点音源を実現。ステレオ再生の醍醐味である、2本のスピーカー中央に現れる音像表現や立体的なサウンドステージを表現する。

ただ同軸型は、2つのユニットの干渉を抑えなくてはいけないなど、技術的な難易度も低くない。それに対しテクニクスでは、ツイーター部が担当する高域の位相特性を補正する「Linear Phase Plug」を配置して、「振動板のドームの高さの違いに起因した位相差を低減」、「視聴者まで到達時間の速い振動板中心部の波面と振動板周辺部の波面を揃える」、「球面波を整え、崩さずにそのまま前方へ導く」という3つの機能を持たせている。

さらに、ツイーターとウーファーはどちらもアルマイト処理されたアルミニウム振動板素材を採用することで、音色を統一している。つまりSB-C600は、音像定位と音色の両面で2つの異なるユニット統一化しているわけだ。ツイーターとウーファーのクロスオーバー周波数は2kHzとなっている。

バスレフダクトはフロントに装備

また、フロントに備わるバスレフダクトにも工夫が施されている。航空機の翼断面形状に着目して流体解析技術を用いたポート形状は、新開発の「Smooth Flow Port」を採用したことで、出口付近の流速を均一化することに成功。さらに、ポート表面には突起形状のフィンがあり、それがボルテックスジェネレーターのように機能する(まるでF1マシンの空力のようだ)。これによりバスレフ式のスピーカーで時折指摘される、バスレフポートからの風切音などのノイズを低減し、レスポンスの良い低域を狙っている。

と、この部分がいわゆる「動」の部分。続いて「静」を担保する、キャビネット周りの話をしたい。

SB-C600はおおよそエントリーモデルとは思えない、凝ったキャビネット構造を持つことが大きな特徴だ。強固なキャビネット「High-rigidity Cabinet」を採用し、さらに重心マウント構造「Balanced Driver Mounting Architecture」を同社のブックシェルフスピーカーとして初めて採用した。

一般的なスピーカーユニットはフロント側に軽量な振動板、リア側には重量のあるマグネットやコイルが装着される。通常、スピーカーでは、そのスピーカーユニットをフロントバッフルにビスなどで固定するが、必然的に重量のあるリア側がフロントバッフル後方にぶら下がってしまい、重量バランスが悪くなる。

それに対し重心マウント構造を採用したSB-C600は、エンクロージャー内部に21mmの厚みを持つMDF製のマウントバッフルを設けており、そこにユニットを固定する。

左が一般的なスピーカーのユニット固定方法、右が重心マウント構造のイメージ

これにより、振動板が振幅したときの重心バランスが改善され、ユニットの上下左右の揺れが減少、正確な振動板ストロークを実現した。さらにキャビネット自体の振動が大きく減少するので、スピーカースタンドに設置した場合と、家具上に設置した両方の環境で、外部に伝わる振動も低減される。

さらにこのマウントバッフルは、エンクロージャー内部の空気の流れも損なわないように最適化し、ユニット背面から出る音の流通性にも配慮するとともに、エンクロージャー全体の剛性を高める効果も持つ。実にクレバーな手法なのだ。

実際の製品内部。分厚いMDF製のマウントバッフルが内部にあり、そこにユニットが固定されているのがわかる

しかし、生産工程ではユニットの取り付けに長尺のドライバーが必要となるなど生産効率は下がってしまう。そう考えると、よくこの価格帯のモデルにこの技術を入れたなと感心した。

他にも、メタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサーや積層鋼板コア型コイルを採用したネットワーク回路や、金メッキ加工された真鍮製スピーカーターミナルの搭載など、とても10万円とは思えない先鋭的な技術アプローチと高品位パーツが搭載されている。

ただ、スペックを確認していくと1つだけ心配な点も見つけた。それは本スピーカーの出力音圧レベル、いわゆる能率で、83dB/2.83V(m)、80dB/W(m)とけっこう低いのである。

背面のスピーカーターミナル

近年のブックシェルフタイプは低域の表現力(簡単に言えば迫力)を上げるために、振動板のピストンモーションの振幅が大きいことを始め、能率が低いモデルが多い。しかしその中でも本スピーカーの能率は低めで、カタログスペックを真に受けるなら、「かなり程度駆動力のあるアンプでないと低域の迫力不足やキレが悪くなりそうだな」と心配性の僕は感じてしまった。このあたりについても、実際の試聴でチェックしていこう。

SA-C600×SB-C600のサウンドを体験する

というわけで、ここからは試聴に入る。自宅1FのオーディオルームでSA-C600とSB-C600を組み合わせ、NASに保存されたハイレゾファイルから、ボーカル曲のアデル「Easy on me」(44.1kHz/24bit FLAC)と、サイトウ・キネン・オーケストラの「2021セイジ・オザワ 松本フェスティバル」(96kHz/24bit FLAC)を再生する。

まずはSB-C600の全体的な音質傾向だが、一言でいうなら“現代的な描写力を持つHi-Fiなサウンド”だ。高域から低域まで聴感上のレンジが広く、低域の立体感や押し出しも強い……と、この段階で先ほど感じた能率の低さからくる心配は完全に杞憂に終わった。SA-C600はしっかりとこのスピーカーを駆動している。

音色や音調については、同一の振動板素材を使用した効果が出ており、高域から低域まで全帯域の音を1つの振動板から放出する、フルレンジスピーカーのようなつながりの良い音がする。つまり、音のつながりの良さと透明感のある高域、そして迫力のある低域という相反する要素をこの同軸ユニットは持っている。まさに理想的な音がする。

特筆したいのは、音像表現やステージング表現が実に見事だということ。アデルは2本のスピーカーセンターに、「ポン」とコンパクトな口元が立体的に浮かび、音像のフォーカスがとにかくシャープ、ここも同軸ユニットの大きなアドバンテージである。

また、キャビネットや振動板からの固有の付帯音が少なく、ディテール表現がシャープかつアキュレイトなので、サイトウ・キネン・オーケストラは1つ1つの楽器が立体的、そしてその楽器が織りなすサウンドステージに骨格がある。ブックシェルフスピーカーとしてはかなり低域がしっかりしているから、グランカッサなどの迫力もしっかりと感じ取れる。バスレフポートの設計やキャビネット内部での低域の振る舞いがよく解析できているせいだろう。SB-C600の低域表現はクラスを超えている。

同社のエントリークラスのアナログプレーヤー「SL-1500C」を使い、レコード再生も試した。手嶌葵の「Highlights from Simple is best」(VIJL60248 180g 2枚組)に針を乗せる。都度書いているように、SL-1500Cはレコードプレーヤーとしてコストパフォーマンスが高い。暖かい音という一般的なアナログ再生の印象を超えた、オーディオ的な再生能力の高さを感じる音で、クリアでヌケのよいサウンドでありながらしっかりとした厚みもある。ボーカルの実体感や音楽的な楽しさもあり、システム全体における作り手の感性の高さを実感させる。

左から一体型オーディオシステム「SA-C600」、アナログプレーヤー「SL-1500C」
アナログプレーヤー「SL-1500C」

それにしても、アンプ内蔵のSA-C600とスピーカー、そしてレコードプレーヤーという、3つのコンポでここまで良質なアナログ再生が実現できる。このセットはかなり買いだと思う。

上位クラスのアンプと組み合わせ、SB-C600のポテンシャルを引き出してみる

と、大満足の試聴となったが、組み合わせるアンプを上位機にすると、SB-C600のサウンドはどう変わるだろうか。先だって発売されたミドルクラスのプリメインアンプ「SU-G700M2」(298,000円)を用意し、SB-C600を駆動。その潜在能力を解き放ってみた。

スピーカーケーブルをSU-G700M2につなぎ変え、SL-1500Cから手嶌葵のアナログ盤を改めて再生したのだが、絶対的な情報量が向上し、低域の下方向の伸びとダンピングが大変良質になる。先ほどの組み合わせでも、その出音は価格以上だと思ったが、ボーカルとバックミュージックの両方がさらに聴き手に猛烈に訴えかけてくるようになった。つまり、このスピーカーはかなり伸び代があるということだ。

ミドルクラスのプリメインアンプ「SU-G700M2」

テレビのサウンドも大幅にグレードアップ

ここまではピュアオーディオとして使ってきたが、実はSA-C600×SB-C600の組み合わせはテレビの音質グレードアップにも使える。SA-C600は光デジタル入力を備えるので、別売の光ケーブルを使ってテレビのデジタル音声出力と接続できるのだ。さらに、テレビの電源ON/OFFとSA-C600の電源を連動させることも可能なので、実際に使い勝手も良い。

また、SB-C600はコンパクトなスピーカーなので、テレビのあるリビングに設置しても、それほど圧迫感が無いというのもポイントだろう。

今回はソース機器にApple TV 4K端末を使用して、Apple TVから音楽のライブ番組や、映画「フォードvsフェラーリ」「アリータ:バトル・エンジェル」など、様々なコンテンツを再生したが、流石にテレビ純正スピーカーとは別次元のサウンドになる。

最も違うのは低域の迫力と絶対的な情報量。爆発シーンでの圧倒的な没入感や、同軸ユニットの長所を生かした明瞭なセリフの表現など、グレードの高いテレビ視聴環境を構築できた。

音も良いのだが、SA-C600とSB-C600とも現代的なデザインを持つので、テレビ環境とのデザインマッチングが良いことも記しておきたい。

実際、試聴しながらSB-C600を見るたび、デザインについてはとても関心した。外装のコストがかけづらいエントリーモデルだが、素材を上手に生かしたマットブラックの仕上げのキャビネットは、SA-C600やSL-1500Cとのデザインマッチングも良好で、インテリアに溶け込んでくれる。スピーカーユニットを保護する円形のネットが付属するなど細部のパーツにも手抜きがなく、インテリアとの融合もしっかりと考えられているのが嬉しい。

「もしかしたら生活空間においてもカッコ良いのでは?」と考えた僕は、普段は取材であまり使わない寝室にまで本機を持ち込んでいた(完全に予定外)。そして写真の通り、カッコ良い風景を作り出すことに成功。テストということを忘れて、家族と沢山の音楽を聴いた。

あまりにカッコいいので寝室にまで持ち込んでしまった

22万円で“テクニクスが考える理想のサウンド”を楽しめる

テクニクスは国内のオーディオメーカーの中でも長年スピーカー開発に力を入れていたブランドだ。現在はパナソニックと名乗る同社がまだナショナルだった時代の1965年には、テクニクスブランド第一号となる密閉2ウェイ型のスピーカー「Technics 1」を発売。さらに数々の技術的チャレンジを行ない、エポックメイキングなスピーカーを多数輩出してきた。

例えば本スピーカーのコンセプトの1つである点音源とリニアフェーズ思想は、1977年に発売された「Technics SB-7000(通称:Technics7)」が採用しており、同社のベテラン開発陣はその技術的なアドバンテージをよく理解していたはず。近年のテクニクスは、そのベテランエンジニアの知見と若手技術者の融合がうまくいっている。筆者は昨年、大阪などのオーディオショーで何人かの若手エンジニアと一緒にテクニクス製品のデモイベントを行なったが、一生懸命製品の良さを説明しようとする若手と、それを微笑ましく見ているベテランエンジニアという構図に、少し羨ましくなってしまった。

今、振り返る「Technics」誕生秘話。創設者の一人、石井伸一郎氏に聞く

テクニクスの若手エンジニアの音に対するセンスと、良いオーディオ製品を開発するための努力にも敬意を表したい。とあるエンジニアは、自社のある大阪から自腹で東京のインターナショナルオーディオショーへ行き、様々なスピーカーの知見と音を真剣に取り入れるべく、見れる限り全てのスピーカーを聞いて回ったそうだ。そんな彼らのモチベーションの高さは、パナソニックの公式YouTubeチャンネル「テクニクス・ミュージック・ジャーナル」にて紹介されている。

スピーカーは投入されるコストがリニアに音に反映されるオーディオ機器だ。だからこそ安価なスピーカーで完成度の高い音を出すのは本当に難しい。しかし、意欲のある技術者がテクニクスのプライドを背負い、仕上げた結果、SB-C600は抜群の完成度とコストパフォーマンスを持つスピーカーになっている。

スピーカーラインナップとしては、Reference Classのフラッグシップ「SB-R1」が1本1,482,800円、評論家界隈でも音の良さが話題となったミドルクラス「SB-G90M2」も1本298,000円すると考えると、2本で11万円のSB-C600の“凄さ”を改めて感じる。SA-C600とSB-C600合計しても、22万円で“テクニクスが考える理想のサウンド”を楽しめるというのは、大変なバーゲンプライスである。

無尽蔵にコストをかけられないからこそ、エントリーのスピーカーは、“開発時に掲げたコンセプトがいかに達成されるか”が成功のキモになる。その点、素晴らしい低域表現と同軸ユニットの仕上がりの良さはSB-C600の大きなストロングポイントだ。よくぞここまで仕上げたと、同社の開発陣に最大限の賛辞を贈りたい。SA-C600とSB-C600、セットで揃えても、個別で使っても、素晴らしい音楽ライフを送れるはずだ。