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セパレートの異次元サウンドを凝縮、「マランツ史上最高の一体型AVアンプ」CINEMA 30を聴く

「マランツ史上最高の一体型AVアンプ」こと11.4chアンプ「CINEMA 30」

いきなり個人的な話で恐縮だが、2023年に体験したAV機器で最もインパクトがあったのがマランツのハイエンドAVセパレートアンプ「AV 10」と「AMP 10」の組み合わせだった。“AVアンプの音はこういうもの”というイメージを完全に破壊する、まさに“映画も鳴らせるピュアオーディオ16chアンプ”というサウンドで、「もうシアター用とか2ch用とか分けずに、このアンプだけでいいじゃん」という衝撃を受けた。

15.4ch AVプリアンプ「AV 10」
16chパワーアンプ「AMP 10」

当然欲しくなるわけだが、なにせハイエンドのセパレートAVアンプだ。15.4ch AVプリ「AV 10」、16chパワーアンプ「AMP 10」は各110万円で、2台揃えると220万円。当然だが筐体も大きく、2台設置する場所も必要になる。音を聴くと納得できる価格ではあるが、「おいそれとは買えないなぁ」と諦めた。きっと、私と同じように思っていた読者も多いだろう。

そんな我々の前に、「これだよ」という新製品が登場した。「マランツ史上最高の一体型AVアンプ」を掲げた、11.4chアンプ「CINEMA 30」だ。AV 10、AMP 10の技術をこれでもかと投入しながら、スローガンにあるようにセパレートではなく一体型。しかも価格は220万円の半額以下の77万円だ。

金銭感覚がバグっているので77万円が安く感じるが、一体型AVアンプとしてはかなり高価だ。しかし、その音を聴くと「AV 10とAMP 10で聴いたあの衝撃」がハッキリと蘇ってくる。さらに言えば「セパレートよりこっちの方がむしろ扱いやすいのでは?」と思えるポイントも見えてきた。

CINEMA 30

セパレートのサウンドを一体型に収納する

ラインナップの位置づけとしてCINEMA 30(11.4ch/77万円)は、「CINEMA 40」(9.4ch/506,000円)の上位モデルにあたる。ただ、CINEMA 30を理解する時は、「CINEMA 40から何がグレードアップしたか」ではなく、計220万円の「AV 10 + AMP 10」を、どうやって一体型筐体に詰め込んだか? という視点で見るとわかりやすい。というか、開発コンセプトがまさにその通りだからだ。

まずはAVプリ部、つまりAV 10の要素を、どのようにCINEMA 30に落とし込んだのか? を見ていこう。

独立しているCINEMA 30のDAC基板

AV 10最大の特徴は、Hi-Fiの高級機ではよくあるが、AVアンプとしては非常に珍しく、電流出力型のDACを採用している事だ。御存知の通り、一般的なDACには電圧出力型と電流出力型があり、最高峰の性能を追求したり、よりメーカーの求める音作りをする時は電流出力型が選ばれる事が多い。この電流出力型DACを、CINEMA 30はマランツの一体型AVアンプとしては初めて搭載している。

「電圧出力型のDACチップは、チップの内部で電圧の制限があり、その中でアナログ信号を作るとなると、どうしても無理があります。電流出力型を使い、後段で十分ヘッドルームがありキレイな電源を使って電流/電圧変換と差動合成を行うと、性能面でも音声面でも有利なアナログ信号が得られます」(グロ-バル プロダクト ディベロップメント プロダクト エンジニアリング シニアエンジニア 飯原弘樹氏)。

GPDプロダクト エンジニアリング シニアエンジニア 飯原弘樹氏

しかし、一体型筐体に搭載するという制限があるため、AV 10の基板をそのままCINEMA 30に入れられるわけではない。CINEMA 30に搭載できるよう回路規模を小さくするため、プリアンプのオーディオ基板の上に、DAC基板を配置するなど、立体的にスペースを活用したという。

HDMI入力を備えたAVアンプでは、ジッターの除去も重要になるため、クロックの“載せ方”にもこだわった。「CINEMA 30では、外から入ってきたクロックの周波数を見ながら、内蔵したクリスタルでキレイなクロックを作り、そのクロックにデータを載せ替えることでジッターを除去しています。今回こだわったのは、そのキレイなクロックを生成するジッターリデューサーの配置です」。

「実はジッターリデューサーは制御が非常に難しいデバイスで、例えば過大なジッターが入ってきたらクロックの生成が止まり、音も途切れてしまいます。そこで、ジッターリデューサーとクリスタルをデジタル基板に配置して、マイコンで細かく制御したり、DSPとやりとりしながらクロックを作ってDACに送る……という手法を従来モデルでは採用していました。しかし、理想としては“クリスタルで作ったクロックを短い距離でDACに送る”のが音質的には有利です。そこで、CINEMA 30は制御が難しくなっても、ジッターリデューサーをDAC基板に配置しました」(飯原氏)。

HDMIのTx(送信機)、Rx(受信機)、DSP、マイコン、ネットワークモジュールなどを搭載したデジタル基板にも、AV 10で培った技術が投入されている。AV 10の開発で培ったチップや配線のレイアウトのノウハウを活用。「デジタル基板から出るノイズの抑え込み、信号ラインだけでなく、デバイスの直近にレギュレーターを置いてノイズが抑えるなどの工夫もしています」(飯原氏)。

上がCINEMA 30のデジタル基板、下がAV 10のデジタル基板。AV 10の開発で培ったノウハウを活用しているため、よく似ている
写真では手前、筐体としては後方にデジタル基板が配置されているのに注目

マランツを代表する高速アンプモジュール「HDAM SA2」も搭載。フォノアンプやプリアンプ部分で活用。電子ボリュームとHDAMを組み合わせることで、より強力なバッファを構成できるという。CINEMA 30のパワーアンプは11chだが、13.4chのプロセッシングが可能であるため、HDAM SA2を17チャンネル分搭載。回路規模としても大きくなるため、HDAM専用基板を採用している。

「実は、HDAM SA2の中でも世代がありまして、CINEMA 30では、CINEMA 30に一番最適化し、ブラッシュアップしたHDAM SA2を使っています」。

HDAM-SA2を使った13.4ch分の電流帰還型プリアンプ

電源とパワートランジスタの進化でAMP 10のサウンドに迫る

パワーアンプ部分を手掛けたのは、GPDプロダクト エンジニアリングの渡邉敬太シニアエンジニア。渡邉氏が追求したのは「AMP 10に近いサウンドを、一体型のCINEMA 30で実現する事」だ。

GPDプロダクト エンジニアリングの渡邉敬太シニアエンジニア

セパレートのAMP 10は、1つの筐体の中に定格出力200W(8Ω)/400W(4Ω)のパワーアンプ回路を16ch分搭載するというモンスターAVパワーアンプだ。それを実現するために、アナログアンプではなく、Class D方式のパワーアンプを採用した事が大きな話題となった。

このClass Dアンプモジュールは、ICEpowerが開発したものがベースになっているが、マランツが試作・試聴を繰り返し、使っているパーツのほとんどをより高品位な別のものに変更し、ほとんど“別物”になっている。

右がAMP 10に搭載されているClass Dアンプモジュール。左はベースとなるICEpowerのもの。全体のレイアウトは同じだが、採用しているパーツなどがまったく違う

一方でこのアンプモジュール、音質は素晴らしいが、音質重視で作り込まれた結果、発熱やサイズがそれなりにある。一般的に「Class Dアンプは小さくて発熱が少ない」とされているが、AMP 10に使っているモジュールはそうではないわけだ。

こうした背景もあり、渡邉氏は「AMP 10に使っているモジュールを使いたい気持ちはありましたが、CINEMA 30では一体型という制約もあったため、このモジュールは使わず、従来の一体型AVアンプで採用していたアナログアンプを進化させるという判断をしました」。

進化の肝となるのが、電源とパワートランジスタだ。

電源部分には、AMP 10よりもかなり大きなトロイダルコアトランスと、大容量カスタムブロックコンデンサを搭載した。これにより、電流を引っ張っても、電源の変動が非常に少ない、理想的な電源を実現したという。

大きなトロイダルコアトランス

配置にもこだわりがある。内部写真を見ると、下位モデルのCINEMA 40は電源トランスの横にパワーアンプが並んでいる。トランスはノイズ源でもあるため、どうしてもトランスに近いチャンネルにノイズが飛び込んでしまう。CINEMA 40ではそれを防ぐためにシールドなどの処理を工夫している。

一方でAMP 10では、筐体のフロント寄りの中央に電源を配置。真ん中にはセンターシャーシを設置し、ノイズを遮断。そして筐体の後ろの方、つまりスピーカーターミナルのできるだけ近くにパワーアンプを配置している。つまり、“自由に使えるスペースが広い”というセパレートアンプの利点を活かし、物理的にノイズ源から距離をとっているわけだ。

CINEMA 30では、このAMP 10の思想を踏襲。パワーアンプを筐体の両端に配置する事で、電源トランスから距離をとり、その間にヒートシンクを設置する事でノイズの影響を抑えている。

上がCINEMA 30のレイアウト、下がCINEMA 40。CINEMA 30では電源部とパワーアンプを物理的に離している
CINEMA 30の内部。電源トランスの両側にパワーアンプが離れて配置されている

さらに、電源トランスを前方中央に配置し、例えばフロントL、サラウンドバックLといったL系のチャンネルをトランスの左に、R系を右にと、分けて配置している。これで、L/Rの電気的なクロストークやノイズを低減。振動や発熱による干渉も減らしているそうだ。

写真では上部がフロント。電源トランスが前方寄りに配置されているのがわかる。さらに、その左右に、L系、R系とチャンネルを分けて回路が配置されている

電源自体もノイズを抑えたものを採用している。「ノイズ源であるトランスですが、トロイダルトランスはトランスの中でもノイズが少ないものです。一体型AVアンプで、トロイダルトランスを使っている製品は他にほとんどないと思いますが、その大きな理由は、作るのに手間とコストがかかること。一体型AVアンプでは、それ以外の部分にかけるコストも大きいため、トランスにお金をかけるのは難しいのですが、CINEMA 30は“一体型最高峰”として、惜しみなく贅沢な部品選定をしました」(渡邉氏)。

もう1つの重要なパーツがパワートランジスタだ。

「いかに高品質な信号が入ってきても、スピーカーへ電流を供給するパワートランジスタで情報やエネルギーが失われると取り返しがつきません。それくらい重要な部品です。CINEMA 30ではAMP 10のクオリティに近づけるため、パーツメーカーさんと共同で、新しいパワートランジスタを開発しました」(渡邉氏)。

新開発のパワートランジスタ

開発にあたっては、パーツメーカーさんが試作したものを、我々が聴いて改善点を出し、作り直してもらい……という試行錯誤を何度も繰り返しました。具体的には、パワートランジスタ内部のリードフレーム、ハンダ、メッキなど、様々な素材を聴き比べ、ベストなものを選定しています。パワートランジスタのパッケージサイズも通常より大きくなっていますが、大きさが変わると音も全然違うものになります。我々が求める音を実現するために、大きな電流が流れた時でも安定した動作ができるよう、このサイズにしています。

このパワートランジスタも、単に搭載するだけではない。大事なのはそのポテンシャルを引き出す事だ。「コンピューターでのシミュレーションを繰り返し、大電流が流れた時でも、特性が良くなるように、アンプ内の抵抗の値やコンデンサの容量などを最適なものにしています。基板上のパターンも時間をかけて見直し、いかにノイズの影響を受けないか、ノイズを出さないかを念頭に最適化しています」。

このパワートランジスタに電流が流れると発熱するが、トランジスタは急激な温度の変動があると回路の動作点が変わり、音や性能に悪影響が出てしまう。“いかに温度の変動を抑えるか”も重要となる。

「従来製品ではアルミ押し出しのヒートシンクにパワートランジスタを取り付けていましたが、CINEMA 30ではヒートシンクとパワートランジスタの間に銅板を追加して放熱性能を高めています。さらに、銅板とパワートランジスタのあいだに使う絶縁シートも、従来の雲母を使ったものから、Hi-Fiでも使っているセラミックが含まれているシリコン樹脂のシートに変えて、放熱性を高めています」。

「パワートランジスタの配列も工夫しました。一列に並べると、他のチャンネルからの影響をどうしても受けてしまったり、真ん中のラインが熱くなるなどの問題があるため、CINEMA 30では千鳥配列に配置しました。これにより、まわりのチャンネルからの影響を低減しています」。

ヒートシンクとパワートランジスタの間に、新たに銅板を追加している
パワートランジスタは千鳥配列に

プリ部、パワー部それぞれ、音と性能を追求したことはわかった。しかし、飯原氏はCINEMA 30のような一体型機では、それを組み合わせるレイアウトも需要だと語る。

「私がプリ部、渡邉がパワー部、それぞれ良いものを作って、それを合体させて完成……ではありません。例えば、組み合わせてみたら、ノイズが出るパワーアンプや大きなトランスの近くに、ノイズの影響を受けやすいDAC基板が来てしまった……という事も起きます。そうならないように、筐体内部の立体的な構造を意識して、どこにどの基板やパーツを配置すると、最も影響を受けにくいのかを、機構の設計者を含んだチームでコミュニケーションをとりながら、立体的にレイアウトしていく必要があります」。

「例えば、オーディオ基板では電子ボリュームの手前にセレクターを配置しているのですが、そのすぐ上にDAC基板が来るようにレイアウトしています。これは、D/A変換されたアナログ信号を、最短で電子ボリュームに入力し、そこから最短経路でパワーアンプに入るようにするためです」。

Hi-FiアンプのつもりでAVアンプを作る

こうして開発された試作機のサウンドを確かめ、改善点を指摘してブラッシュアップし、音を仕上げていくのがマランツサウンドマスターの尾形好宣氏だ。

マランツサウンドマスターの尾形好宣氏

「私はマランツのHi-Fi、AVアンプどちらも手掛けていますが、AVアンプもHi-Fiアンプも、やっている事は変わりません。AVアンプであっても、まずはCDをソースとして、Hi-Fiアンプと同様に2chで再生し、音楽を鳴らし、追い込んでいきます。そこが土台になる部分で、そこが完成してはじめて、HDMIなどのデジタル入力やネットワークなど、他の入力を聴いて、それらをCDのアナログ入力のクオリティと遜色ないレベルに引き上げていきます」。

「AVアンプですので、映画を再生するという課題はあるのですが、マランツとしては映画はプラスアルファととらえていて、あえてそこを優先しないという考え方です。まず音楽をきちんと鳴らせるアンプを作ってから、最後に映画を確認する……という形です。そこで仮に、『映画でもうちょっと……』という部分があった場合、修正できる範囲ではもちろん修正しますが、それが音楽再生に影響を与えるものであれば、音楽の方にプライオリティを置く、というのがマランツの姿勢です」。

尾形氏は、CINEMA 30の筐体で最も注目すべきポイントは「銅メッキシャーシを使っている事」だという。「銅メッキシャーシは、マランツの過去のハイグレード製品で伝統的に使っているものですが、聴感上のSN比が良くなるという効果があります。この銅メッキシャーシを、一体型の最上位モデルとして採用したのがCINEMA 30とCINEMA 40の最大の違いと言えます」。

銅メッキシャーシを使っている

「先程放熱の話がありましたが、筐体の剛性と放熱には難しい関係があります。例えばCINEMA 30のトップカバーにはたくさん穴が空いていますが、冷却効果を上げて安定動作させるためです。しかし、剛性は高めなければならないという相反する事が求められます」。

「シャーシも同様で、剛性を高めるために、上に重量物がある部分を2層にしています。さらに、重いトランスの下は3層目のトリプルレイヤー構成で補強。さらに、トランスの周囲をリブ形状にする事で剛性上げるなどの工夫もしています」。

「細かいところでは、サイドパネルを固定しているビスまでこだわっています。開発の初期では、CINEMA 40と同じ黒い普通のビスを使っていたのですが、音質検討の段階で銅メッキビスを使ってみると、効果があり、最終的には銅メッキビスを採用しました」。

音質検討の結果、銅メッキビスを採用した

音を聴いてみる

まずはアンプとしての“素の能力”を知るために、2chのCDをアナログ入力で聴いてみよう。佐藤俊介指揮のクラシック、ヴィヴァルディの「四季」から第3楽章「夏」、「宇多田ヒカル/残り香」を聴いてみた。

「夏」のストリングスの描写を聴いた瞬間に、「ああー、AV 10 + AMP 10で聴いた音っぽい」と感じる。描写が非常に繊細かつシャープで、弦が細かく震える様子が目に見えるようだ。AVアンプによくある「ちょっと解像感は甘めですが、低音パワフルにしたので気持ち良いでしょ」みたいなサウンドとは次元が違う。目隠しして「2chハイエンドアンプの試聴です」と言われていたら、AVアンプの音だとまったく思わず「良いHi-Fiアンプだなぁ」とうっとり信じていたことだろう。

「宇多田ヒカル/残り香」冒頭のオルガンが、2chの音とは思えないほど広大な空間に一気に広がる。そこから打ち込みのビートが始まるが、オルガンの音がスッと消え、鋭いビートが一気に立ち上がる様子が鮮烈だ。スピーカーをしっかりと駆動できていないと、このトランジェントの良さ、キレ味は出ない。CINEMA 30の駆動力の高さがよくわかる。

「CINEMA 40」

下位モデルのCINEMA 40(9.4ch/506,000円)とも聴き比べたが、差は歴然だ。確かに20万円以上差があるのでCINEMA 30の方が良いのは当たり前だが、繊細さや空間の広さに圧倒的な違いがある。

下からCINEMA 40、CINEMA 30、AV 10 + AMP 10という並びで考えた場合、77万円のCINEMA 30の音は、計220万円のAV 10 + AMP 10の音にかなり近いので、CINEMA 30のコストパフォーマンスはかなり高いと感じる。

さすがにAV 10 + AMP 10の圧倒的なSN比の良さや、透明感には一歩及ばないが、AV 10 + AMP 10が見せてくれたAVアンプの新しい世界を、CINEMA 30も十分に体験させてくれるからだ。

マルチチャンネルも聴いてみよう。これだけ音楽性豊かなAVアンプなので、“音楽もの”の映画がハマる。

「ウエスト・サイド・ストーリー(2022年)」の「ロケットマン」のUHD BDを鑑賞したが、どちらも最高だ。

ウエスト・サイド・ストーリーは、体育館でのダンスシーン。体育館の広さが、展開する音場の広大さでしっかり描写され、その空間に、多くの人の話し声、踊る時の足音といった細かい音が散らばりつつ、明瞭に定位する。本当に大人数が踊っている体育館の中央に、自分が立っているかのような臨場感だ。

シーンはその喧騒から少し離れて、舞台裏へと移動していくのだが、音場の移り変わりも自然で、無数の音が無くなっていくかわりに、画面の中の2人が両手を広げて向かい合う時の服の衣擦れ、足元で床がきしむかすかな音など、本当に細かな音までリアルに聴き取れる。

エルトン・ジョンの自伝的な映画「ロケットマン」から、アメリカでの初ライブシーンを鑑賞。ざわつく会場にエルトンが登場する時の足音から静かにスタートし、歌い出すと同時に白熱するライブの熱気が炸裂する。低域の誇張も一切なく、音楽的に聴きやすいサウンドと、マルチチャンネルならではの空間表現の豊かさが見事にマッチ。気持ちが良すぎて、もっと音楽系の映画を買い集めたくなるAVアンプだ。

CINEMA 30を聴いていると、良い意味で「AV 10 + AMP 10よりも使いこなしやすそう」と感じる。というのも、AV 10 + AMP 10のサウンドは非常に繊細で、セッティグの変更など、何かをした時に、それがモロに音に反映される印象がある。それを使いこなす事がAV 10 + AMP 10の醍醐味とも言えるわけだが、人を選ぶアンプと言い換える事もできる。

その点、CINEMA 30は、「AV 10 + AMP 10よりも神経質になりすぎずに、使いこなせそう」な予感がする。そういった面でも、セパレートアンプにはちょっと手が出ないな……と感じていた人は、一度CINEMA 30を聴いてみて欲しい。

CINEMA 30
山崎健太郎