トピック

約12万円でAKM最上位セパレートDAC搭載、FIIO“新中核DAP M23”の実力が凄い

FIIO M23

デジタルオーディオ製品を選ぶ時に、DACチップの型番が気になる。DACだけで製品の音が決まるわけではないし、最近のDACはスペックの面でどれも高いレベルに到達しているが、それでも最新DACチップが搭載されていたり、ハイエンドDACチップが入っていたりすると「凄そうだな」とか「聴いてみたいな」と気になるのがオーディオファンの性というものだ。

個人的に一聴して「これは明らかに、それまでのDACチップとは次元が違うな」と感じたのが旭化成エレクトロニクスのフラッグシップ・セパレートシステム「AK4499EX + AK4191EQ」の組み合わせだ。詳細は後述するが、超簡単に言えば「デジタル信号処理とアナログ信号処理の分離をとにかく追求したらチップが2つになっていた」みたいなDACチップだ。

採用した製品はとにかくSNが良く、微細な音もクリアに聴こえて凄いのだが、いかんせんハイエンドなチップなので搭載DAPも数十万円する高価なものが多く、「ちょっと手が出ない」状態だった。だが、そこに現れたのが“ポータブル & デスクトップオーディオの風雲児”ことFIIOだ。

ご存知の通り、FIIOはユーザーの意見や市場のトレンドをスポンジのように吸収し、驚くようなスピードで新製品を開発。価格破壊的なコストパフォーマンスの良さも武器として、「凄いスペックとサウンドの製品をお得な価格でガンガン出してくる」というユーザーにとっては心強いメーカー。破竹の勢いでポータブルオーディオの人気ブランドに成長し、最近ではスピーカーも作るなどデスクトップオーディオにも進出している。

そんなFIIOが、同社DAPラインナップの“新たな中核”として開発したのが「M23」というモデルで、このDAPに前述のAK4499EX + AK4191EQが搭載されている。驚くべきは、このM23が、FIIOのハイエンドモデルではなく中核モデルであること。価格はオープンプライスだが、実売125,400円前後と、ちょっと頑張れば手が届く価格を実現しているのだ。

FIIO M23

10万円台のDAPなのに最大1,000mW出力

まずはM23の外観から見ていこう。デザインとしては、M11 Plus ESSから大きな違いはなく、筐体の両端が斜めにスパスパとカットされたような形状で、全体としては六角形になっている。角が尖っていないので、手にした時にどこかが当たって痛いということはない。

筐体素材はアルミニウムで剛性が高く、持ち上げた時の質感は良好。カラーは深みのある青。日が当たらないところでは紺色のようでシックな佇まいだが、光が当たるとキラッと青さが煌めき、表情の変化が楽しい。

M23の外観

なお、筐体の素材をアルミからステンレススチールに変更した台数限定生産の「M23 Stainless Steel」もラインナップされているので、こちらもあとで聴いてみよう。実売はM23が約125,400円なのに対し、M23 Stainless Steelは159,500円前後となる。

M23 Stainless Steel
筐体の素材をアルミからステンレススチールに変更している

操作面での特徴は、左側面にあるタッチパネル複合型のボリュームボタン。言葉で書くとむずかしいが、要するに縦に長いパーツのボタンで、シーソーのように上下をカチカチと押すと細かなステップで音量調整ができ、加えてタッチパネル機能もあり、下から上になぞるように指をスライドさせるとボリュームアップ、下にむかってなぞればボリュームダウンとなる。

これにより、「お、熱い曲が流れはじめたから音量上げよう」みたいな時はスライドで一気に音量アップ、「もうちょっとだけ音量下げたい」時は押し込んでカチカチと精密操作ができる。直感的に操作できるので、一度使うと病みつきになるボリューム機構だ。

シーソーのように端を押して細かく調整できるが、なぞるように指をスライドさせても一気に調整できる

SoCの処理能力も操作性では重要。M23は動作がサクサクで、曲選びやメニューの移動がほぼノーストレスだ。Qualcommの「Snapdragon 660」を搭載しているためで、ゲームもできるくらいの高性能なチップを音楽再生に使っている。ちなみに、音楽再生時は超低消費電力で動作させてバッテリーの持続時間を延ばす技術も入っているそうだ。メモリは4GB、ストレージは64GB。microSDカードスロットも備えている。

DACの前に、DAPで重要なヘッドフォンアンプ部分を見ていこう。

M23には、FIIOとTHXが共同開発した「THX AAA-78+」というアンプ回路を2基搭載している。THXは、映画でよく知られているあのTHXで、彼らは映画だけでなく、音に関して様々な技術も開発しており、特許技術の1つであるフィードフォワード補正技術を投入したアンプをTHX AAA Frontierシリーズとして展開している。そのTHXとFIIOが一緒に開発したのが、THX AAA-78+というわけだ。

THX AAA回路は、フィードフォワード補正技術を使うことで歪やノイズを抑えられるのが特徴。さらに、同じ電源部を使った場合、他の方式よりもTHXアンプの方が高い出力が得られるという利点もある。

M23に搭載しているTHX AAA-78+は、M11 plusやM11 Proで採用されているTHX AAA-78を改良して第二世代に進化させたもので、フィードフォワード補正技術だけでなく、ニュートラルな音質を追求した設計手法を採用しているという。このヘッドフォンアンプを2基搭載することで、パワフルな駆動が可能になっている。

出力としては3.5mmのシングルエンドと、4.4mmバランスを用意。そのままでもハイパワーだが、底面に備えた給電専用のUSB-C端子に電力を供給し、「DESKTOP MODE」に移行。スーパーハイゲインモードをONにすると、バランス出力で最大1,000mW(32Ω/THD+N<1%)という、ほとんど据え置きのヘッドフォンアンプレベルの出力が可能になっている。

出力は3.5mmのシングルエンドと4.4mmバランス

上記は外部からの給電が必要なため、自宅などでの使用がメインになると思うが、新たな機能としてバッテリーモードでもより高い出力が得られる「HiFiブーストモード」も追加。喫茶店や職場など、自宅以外でも能率の低いヘッドフォンなどをパワフルに駆動したいというニーズを満たせるようになっている。

バッテリーモードでもより高い出力が得られる「HiFiブーストモード」も追加

セパレートDAC「AK4191EQ + AK4499EX」とは何か

冒頭でも書いたAKMのAK4191EQ + AK4499EXについて、詳しく見ていこう。

まず一般的なDACチップの役割は、入力された音楽のデジタルデータを、デジタルフィルターに通し、⊿Σモジュレーターを経由し、D/A変換してアナログ音声として出力する……という作業を1つのチップで行なっている。

そのため、当然ではあるが1つのDACチップの中で“デジタル信号とアナログ信号が共存している状態がある”。そしてこの状態の時に、シリコンウエハーを通してアナログ信号に悪影響を及ぼしてしまうという。

旭化成エレクトロニクスは、これを回避するため、DACチップの中で一部を壁で囲うような工夫をして、デジタルとアナログ信号が相互に干渉しないように試みたものの、なかなかうまくいかない。

そこで「ええい、もう2つのチップに分けてしまえ」として生まれたのが、AK4191EQ + AK4499EXだ。

つまり、前述の工程から、その前半にあたる「入力されたデジタル信号にデジタルフィルターと⊿Σモジュレーターを通す」という部分をAK4191EQが担当。その後にあるAK4499EXは、マルチビットデータのインターフェイスとDAコンバーターだけが内蔵するという構成。要するに、“デジタル信号処理”と“デジタル音声のアナログ変換だけ”という役割分担を、チップのレベルで分離してしまったわけだ。

さらに、LSI間の伝送はI2Sではなく、デルタシグマの出力を伝送するという徹底具合。このレベルでのデジタル信号処理とアナログ信号処理の完全分離構造は、ポータブルオーディオとしては世界初となる。

なお、対応するデータはPCMが384kHz/32bit、DSD 256。USB送出時にはPCM 768kHz/32bit、DSD 512に対応する。

また、AK4191EQ + AK4499EXのDAC部分は電流出力になっているため、採用したオーディオメーカーが、自分達の音に仕上げやすいのも注目点の1つ。M23では、I/V部とLPF部に、それぞれ低ノイズで高精度なオペアンプ「OPA1612」を2基採用。電圧増幅部には低ノイズ・高帯域のオペアンプ「OPA1662」を2基使っている。

デジタル信号処理用としてFPGAを活用した完全新規設計のDigital Audio Purification System(DAPS)がポイント。SoCから送られたデジタルデータを、FIIO独自のPLL技術を搭載した第4世代FPGAを経由し、FPGA内でデジタルオーディオ信号としてDACが最も真価を発揮しやすいよう処理する。DAPSに組み込まれた超低ジッターを実現する2基の特注仕様のNDK製フェムト・クロック水晶発振器で、低ジッターなマスタークロックを提供することで、高精度なD/A変換を実現したそうだ。

筐体内部でもデジタルとアナログの相互干渉を低減。デジタルコアモジュール、DAC、ヘッドフォンアンプといった核となる回路ブロックを分離独立させており、シールドも施し、クロストークや外部からのノイズを遮断している。

音を聴いてみる

まずはイヤフォンで聴いてみよう。人気のエントリーイヤフォンqdc「SUPERIOR」(スーペリア/14,300円)をベースにしつつ、FitEarもチューニングに協力してアルミニウム筐体になった「SUPERIOR EX」(33,000円)を接続する。接続は4.4mmのバランスだ。

「SUPERIOR EX」を接続

SUPERIOR EXは入力感度100dB SPL/mW、インピーダンス16Ωのイヤフォンだが、M23にとっては“楽勝”という感じで、出力のゲインは最も低いLowで、ボリューム値40ちょっと(最大値120)で十分な音量が得られる。

音楽が流れてまず、低音がどうとか、高音がどうとかよりも「静か」で「音場が広い」事に驚かされる。いつもの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生したのだが、冒頭のピアノだけの段階で、そのピアノの音が広がっていく空間がキチンと“静か”だ。ノイズが無い無音の空間に、ピアノの響きがスーッと広がっていく感覚が気持ち良い。

広がる方向も左右だけでなく、奥行きがしっかり感じられるため、ボーカルやピアノ、ベースの音像が存在し、その背後に空間がある事も音から見える。そのことで、音像にリアリティが生まれている。

こうした描写は、AK4191EQ + AK4499EXの実力と、それを活かした設計のM23ならではの魅力だろう。空間だけでなく、分解能も細かく、ベースの弦が震える様子や、ボーカルの生々しさもしっかりと描写してくれる。

空間が広く、ワイドレンジで質感描写も豊かなのでクラシックも楽しめる。ヒラリー・ハーンのヴァイオリンとロサンゼルス室内管弦楽団 による「J.S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲集 BWV 1041, 1042, 1060」から「I. Allegro」を聴いたが、バイオリンの美しい響きの中にも、力を込めた時の鋭い音や、穏やかな音といった表情の変化が含まれているのがしっかりと聴き取れる。

「WHITE TIGER」を接続

同じくqdcの高級機で6BA + 2ESTの「WHITE TIGER」(198,000円)でも聴いたが、こちらもM23は余裕でドライブ。ESTによる高精細な高域や、BAの解像度の高い低域といった持ち味をしっかり聴かせてくれる。M23自体にキャラクターが少ないため、組み合わせるイヤフォンの特徴を最大限に引き出してくれる印象だ。

ではもっと高級で、鳴らしにくいヘッドフォンを接続したらどうなるのか?

ゼンハイザーの「HD 820」

価格はアンバランスだが、ゼンハイザーの「HD 820」(276,300円)を用意。56mmのリングラジエーターダイナミック型ドライバーを搭載したヘッドフォンで、感度は103dB (1V)、インピーダンスは300Ω。正直言って、DAPには荷が重いヘッドフォンだ。

「ちゃんと鳴るかな?」と心配しながらHD 820とM23をアンバランスで接続。ゲイン設定を「High」にしてみたが、ボリューム値80あたり(MAX 120)で十分な音量が得られて驚く。電源供給時のSuper Highや、バッテリーモードでもより高い出力が得られる「HiFiブーストモード」が必要かと思っていたが、それら無しでもHD 820を鳴らせている。

HD 820でダイアナ・クラールを聴くと、冒頭のピアノの部分で、SN比の良さがイヤフォンの時よりもさらにわかる。無音部分から、スッと音が立ち上がる時のキレが抜群だ。ピアノの打鍵が鋭かった瞬間に、鍵盤が底に当たる「カツッ」という音すら聴き取れる。

ボーカルの描写も凄い。口の開閉する様子が目に見えるほどリアルに聞き取れるのだが、それを越えて、口の中で舌が動いている様子すら音で聞き取れる。舌自体が音を発しているわけではないので、正確には舌が動いた事で、口の中の音響空間が変化したのを聞き取ったのだと思うが、それでも「あ、舌がいまちょっと動いた」と感じられるほどの描写力だ。

低域も凄い。「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」冒頭のベースが、肉厚で描写されつつ、低い音が「ズシン」「ズゴン」と深く沈み込む。HD 820は、かなり駆動力の高いアンプを使わないと、重い低音が出ないヘッドフォンだが、M23ではそれが出せてしまう。もっと巨大で高価なヘッドフォンアンプを使わなければ楽しめなかった音が、10万円台の小さなDAPで出せるというのは正直驚きだ。

USB給電を行ない、ゲインを「Super High」に切り替えると、よりパワフルに。先ほどはボリューム値「80」くらいだったちょうど良い音量が、「55」くらいで得られてしまう。

「マイケル・ジャクソン/スリラー」冒頭の、扉が開く「ギギギーッ」という軋み音とも、いまだかつて聴いたことがないほど細かく、その後で続くビートには、切り込むような鋭さが備わっている。

「米津玄師/KICK BACK」も最高だ。ベースに重い量感がありつつ、超タイトで、ハイスピードで地面を切り裂いていく。「野太いのに鋭い」という、2つの要素が両立できているサウンドはなかなかお目にかかれない。あまりの気持ちよさに、聴いていてついニヤニヤしてしまう。これはリスニングという名の新たな快楽だ。

デスクトップオーディオでも聴いてみる

ここまではイヤフォン/ヘッドフォンで楽しんでいたが、ここまで音場が広く、ワイドレンジなサウンドだと「スピーカーで聴いても凄そうだな」と思う。そこで、アクティブスピーカーのクリプトン「KS-11」と組み合わせて、デスクトップオーディオ環境でも楽しんでみた。

予想は的中、M23のイヤフォン出力とKS-11の3.5mmアナログ入力を接続してみたが、「ヨルシカ/若者のすべて」が、広大な音場とともに目の前に出現。温かなボーカルが肉厚に迫ってくるだけでなく、その背後に広がる空間の奥行きもしっかり感じられる。気分は完全にピュアオーディオ。DAPとアクティブスピーカーさえあれば、どの部屋に移動してもこのクオリティで音楽が楽しめるというのは楽しい。

PCとUSB接続し、USB DACとして動作させても良い。

Amazon Musicのアプリから音楽を再生し、DACとして認識しているM23に排他モードで出力すると、音楽配信の楽曲でも、非常にクリアかつ肉厚なサウンドで楽しめる。

実は、KS-11はUSB DDCを搭載しており、USB接続のPCスピーカーとしても動作する。そこで、PCをKS-11とUSB接続した時の音と、M23をUSB DACとして使い、M23からステレオミニで出力し、KS-11で鳴らした音も聴き比べてみた。

結果は歴然だ。M23をUSB DACとして使った時の方が、「ヨルシカ/若者のすべて」の音場がさらに広くなり、奥行きの深さも一段と深くなる。その立体的な空間に、ボーカルが浮かび上がるのだが、ボーカルの位置もM23を使った時の方がより前へと出てくる。そして、ボーカルの口の開閉など、細かな描写もM23をUSB DACとして使った時の方が情報量が多くて鮮明だ。

あまりに音が良いので、欲が出てきて「もう少しスピーカーを内振りにセッティングしたほうがいいかな」とか「机の上にそのまま置いているM23の下にインシュレーターを置いたらもっと良くなるかな?」と、さらにいじりはじめてしまう。小さな机の上とはいえ、これはもう完全にピュアオーディオの世界だ。

このように、デスクトップでM23をUSB DACとして使う場合、当然ながら通勤・通学でM23を使うより長時間使い続ける事になる。USB経由で充電はされているので、バッテリーが空になる事はないが、電子機器に詳しい人は「長時間バッテリーに負荷をかけ続けると、バッテリーがすぐダメになっちゃうのでは?」と心配するだろう。

だが、そこはFIIO、抜かりはない。底部を見ると、USB端子が2つある。1つはUSB 3.0で、PCやスマホなどを接続してデータを伝送したり給電するものだが、もう1つは給電専用のUSB端子になっている。さらに右側面を見ると「D.MODE」というスライドスイッチがある。

底部に2つのUSBポートがある。右が給電専用のUSBポートだ
右側面を見ると「D.MODE」というスイッチがある

このスイッチを「ON」にすると、ディスプレイに「デスクトップモードが起動した」というメッセージが出る。このモードになると、M23は外部からの給電で動作し、内蔵バッテリーは充電も放電もされない。つまり、バッテリーの寿命を延ばせるわけだ。

「デスクトップモードが起動した」というメッセージ

また、給電専用ポートにモバイルバッテリーなどの外部電源を接続すると、音声信号用のUSBポートからの電力消費をカットできる。つまり、M23と接続したスマホやノートパソコン側の電力消費も抑えられる。

USB DACを搭載し、デスクトップでも使えるDAPは他社にも存在するが、実際にデスクトップで毎日使った時に「こんな機能があればいいのに」という機能をしっかり搭載してくる。マニアックな機能だが、そこに手を抜かないのがユーザーと近いFIIOブランドらしいところだ。

なお、バッテリーの寿命を延ばす使い方ができることもあり、FIIO製品を扱っているエミライ独自の「延長保証」サービスが8月21日に拡充され、FIIOのデスクトップモードを搭載した製品の内蔵バッテリーについて、従来の延長保証期間をさらに6カ月延長し、メーカー保証期間と合わせて合計18カ月間とするサービスもスタートしている。M23(Stainless Steel含む)も対象製品だ。

通常のM23と、台数限定「M23 Stainless Steel」どう違う?

前述の通り、M23の通常モデル(約125,400円)は筐体がアルミだが、これをステンレススチールに変更した台数限定の「M23 Stainless Steel」(159,500円前後)もあるので、2機種を聴き比べてみよう。

左からM23 Stainless Steel、M23

ぶっちゃけ「筐体の素材が違うだけだから、そんなに変わらないんじゃない? 安い通常モデルでいいじゃん」と思っていたのだが、バランス接続したWHITE TIGERでダイアナ・クラールを聴き比べた瞬間、頭を抱えてしまうほど“違う”。

明らかにM23 Stainless Steelの方が、音場がより広く、音像と音像の間の空間が良く見える。個々のサウンドは少し大人しめで、傾向としてはクールなサウンドになる。

M23 Stainless Steelをしばらく聴いたあとで、通常のM23に戻ると、音の響きが広がる空間が少しだけ狭くなり、その変わりにボーカルやベースなどがグッと前に出る。傾向はパワフルで躍動感アップという印象。これは非常に悩ましい。

個人的にはジャズやクラシックが好きとか、アクティブスピーカーと組み合わせてデスクトップオーディオでも使いたいという人は、M23 Stainless Steelの方がマッチしそう。ロックやポップスをメインで、低音の力強さも欲しいという人は通常のM23が良いかもしれない。

いずれにせよ違いはハッキリと感じられ、価格差もうなずけるレベルだ。

大きな進化を実感できる新時代の“中核”DAP

M23を聴いて最も印象に残るのは「コストパフォーマンスの高さ」だろう。

音場の広さ、分解能、ワイドレンジ、色付けの少なさ、ヘッドフォンの駆動力といった「DAPとして基本的な能力」はとても10万円台のモデルとは思えず、少し前であれば、50万円近い値段を払わねばならなかった世界を、10万円台で実現しているのは「さすがFIIO」という印象。色付けも少なく、独特の味わいみたいなものは無いが、それが逆にFIIOらしい。

ヘッドフォンやスピーカーで聴いた時の音の広がりにも圧倒的なものがあるので、屋外でイヤフォンを追加ってM23を楽しんで、帰宅した後でもM23を使いたいという気持ちになる。デスクトップでPCと接続したり、リビングや寝室のオーディオシステムとしてM23 + アクティブスピーカーを用意すれば、家の中の様々な場所で満足度の高い音楽が楽しめそうだ。

「しばらくDAPを買っていなかった」という人や、「ちょっと前の高級DAPのスペックや動作の遅さがストレスになってきた」という人に、M23は間違いなくオススメ。この価格でも、大きな進化を実感できるだろう。

また、完全ワイヤレスからポータブルオーディオに興味を持ち、有線イヤフォン/ヘッドフォンを買ったという人にも、M23は聴いてみて欲しい。「駆動するDAPが良くなると、同じイヤフォン/ヘッドフォンとは思えないほど音が変わる」という驚きの経験ができるはずだ。

山崎健太郎