レビュー

10万円を切るFiiOの中核DAP。DAC変更だけじゃない!「M11 Plus ESS」

M11 Plus ESS

音楽配信サービスが普及し、YouTubeでのライブなども増加した昨今、ポータブルオーディオプレーヤー(DAP)に求められる役割は変化した。“手持ちのハイレゾファイルを高音質で再生する役目”に加え、音楽や動画の配信もハイクオリティに再生できる必要がある。そうでなければ、スマホと別に“DAPを持ち歩く意義”が薄れてしまう。

そんな現状に、最もマッチしていると思われるプレーヤーが、FiiOの「M11 Plus ESS」だ。価格はオープンプライスで、実売97,900円前後。高級モデルではあるが、ウルトラハイエンドではないので手に取れないことはない。コスパに優れるFiiOらしいDAPと言えるだろう。

M11 Plus ESSが注目DAPである理由は、この“前に”登場したDAPを知るとわかりやすい。実は、昨年の夏頃に「M11 Plus LTD」というプレーヤーが発売されている。このDAPは筐体の違いで2種類あり、Aluminum Alloy筐体は実売99,000円前後、Stainless Steel筐体は125,950円前後だった。

M11 Plus LTD Aluminum Alloy

ロスレス音楽配信の最強プレーヤー!? FiiO「M11Plus LTD」を聴く

……だった、と書いたのは、この2機種がM11 Plus“LTD”という名の通り、台数限定モデルだったため。どちらも音質がバツグンで、AndroidベースのOSを採用して多機能であったため、またたくまに売り切れてしまった。

そもそも台数限定だったのは、枯渇していた旭化成エレクトロニクスのDAC「AK4497EQ」を搭載していたという事情もある。要するに“欲しくても買えないDAP”だったわけだ。

そして今回登場したのが「M11 Plus ESS」。もうおわかりだろう。旭化成DACの代わりに、ESSのDAC「ES9068AS」を搭載し、名前から“LTD”が外れて、限定ではない、継続的に販売される製品になった。そして実売は97,900円前後と、M11 Plus LTDよりも抑えられている。買えなかったDAPが、新たな仕様で、ちょっと手頃になって復活したというわけだ。

……ただ、多くの人は「なんだ、DACが旭化成からESSに代わったマイナーチェンジか」と思うだろう。ぶっちゃけ私もそう思った。いや、確かに立ち位置としてはマイナーチェンジモデルなのだが、決して“DACだけ載せ替えました”という製品ではない。内部までかなりガッツリと手が加えられ、聴くと「おわっ!! ぜんぜん違う」と驚くレベルで音も進化している。

それゆえ、M11Plus LTDが買えなかった人はもちろん、音楽配信サービスを良い音で楽しみたい人、映像配信も高音質で楽しみたい人にも、注目のDAPに仕上がっている。

左からM11 Plus LTD Aluminum Alloy、M11 Plus ESS

サクサク動作の多機能DAP

細かい話の前に、M11 Plus ESSの基本をおさらいしよう。OSとして、FiiOカスタム仕様のAndroid 10を搭載しており、スマホ感覚で操作ができる。Google Playにも対応しているので、ユーザーが好きなアプリをインストールすることも可能だ。

マルチに使える一方で、音楽再生以外のアプリの動作を止めてしまい、音楽の再生動作に特化させることで音質を極限まで高める「Pure Musicモード」も搭載している。ある意味、DAPならではの機能だ。

さらに、ワイヤレレスヘッドフォンなどに音楽を送信する“Bluetooth送信モード”に加え、“Bluetooth受信モード”も備えているので、例えばスマホから飛ばした音を、M11 Plus ESSで受信し、高音質で再生する……といったことも可能。

USB DACとしても動作するので、家ではパソコンとUSB接続し、パソコンのサウンドをM11 Plus ESSから楽しむ……という使い方もできる。ちなみに、USB DACとして長時間使うユーザーに向けて、内蔵バッテリーをデフォルトよりもさらに労わることを目的として、充電量を50%~100%の間で任意に設定できるモードまで搭載している。

AirPlayとDLNAにも対応しているので、例えばNASに保存した音楽ファイルをM11 Plus ESSから再生するといった、ネットワークプレーヤーとして使うことも可能。小さいのに、かなり使い出のある製品だ。

他のアプリの動作を止めてしまい、音楽再生動作に特化させることで音質を極限まで高めるPure Musicモードも搭載
Bluetooth受信モード

ディスプレイは1,440×720ドットで、サイズは5.5型。外形寸法は136.6×75.7×17.6mm(縦×横×厚さ)で、重量は295g。メモリは4GBで、ストレージメモリは64GB。2TBまでのカードが使えるmicroSDカードスロットも備えている。

SIMスロットなどは無いので、外出先でインターネットに繋ぐにはWi-Fiを使うしかない。ただ、ストレージ容量も大きいDAPなので、Amazon Music HDのような音楽配信サービスを楽しむ時は、事前に聴きたい楽曲をストレージに沢山ダウンロードしておき、オフラインで再生する……といった使い方をすれば、そのあたりの不便はカバーできる。

右側面の操作ボタン

SoCとして、Qualcommの「Snapdragon 660」を搭載しているので、動作はかなりサクサク。音楽再生はもちろんだが、YouTubeアプリをインストールしての動画再生もキビキビだ。DAPでの動画再生というと、昔は“オマケ”扱いだったが、この使い勝手と大画面であれば、“高音質な動画プレーヤー”として活用するのもアリだろう。

ヘッドフォン出力は、3.5mmシングルエンドと、2.5mm/4.4mmのバランス出力を装備する。また、3.5㎜ライン出力機能に加え、4.4mmバランスライン出力(4.4mmバランス・ヘッドホン出力端子兼用)も搭載する。据え置きコンポなどと接続したり、アクティブスピーカーしてコンパクトなオーディオシステムを作るというのもアリだろう。

ライン出力時には、キチンとヘッドフォンアンプ部を自動的にバイパス。より高純度な信号出力を可能にしている。

バッテリーは6,000mAhと大容量で、再生時間は約14時間とスタミナもある。

DACを変えただけ……じゃない!

DAC部分の特徴は、前述の通り、旭化成エレクトロニクスの「AK4497EQ」から、ESSの「ES9068AS」へ置き換えた事。

ESSの「ES9068AS」

ESSのDACというと、8ch DACのハイエンド「ES9038PRO」を思い浮かべる人も多いだろう。あのDACチップはもともと据え置きのオーディオ機器向けに開発されたもので、スペック&音質に優れているが、電力の消費も激しい。それゆえ、採用したDAPもいくつか存在はするが、ポータブル機器で使うにはかなりの工夫が必要で、要するに“無理して搭載する”カタチとなる。

一方で、M11 Plus ESSに採用しているES9068ASは、ポータブル機器での使用も想定した2ch用のDACとして作られたもので、“ES9038PROの2ch出力特化版”ともいうべきものだ。高いスペック&音質を実現しながら、消費電力も抑えているので、DAPで重要バッテリー持続時間ものばせる。現にM11 Plus LTDとM11Plus ESSは、同じ6,000mAhのバッテリーを搭載しているが、連続再生時間はM11 Plus LTDが約11.5時間だったのに対し、M11Plus ESSは約14時間とロングバッテリーになっている。

また、ES9068ASは2ch用のDACではあるが、実はES9038PRO同様に、1つのチャンネルに4基のDACセクションを内蔵している。さらに、M11 Plus ESSはこのES9068ASを2基使っている。要するに、無理して据え置き用の8ch DACを使わずに、2ch用の低消費電力DACを豪華に2つ使い、音質を追求しつつ、DAPとしてのロングバッテリーも両立させた、賢いDAC”がM11 Plus ESS……というわけだ。

ちなみに、ES9068ASはDAC IC自体にMQAレンダラー機能も内蔵しているので、M11 Plus ESSはMQA音源の8xデコードも可能だ。このあたりも、DAPと親和性が高いDACらしいポイントだ。

DAC自体の話が長くなったが、実は、チップをAK4497EQからES9068ASに載せ替えただけ……ではない。D/A変換セクション自体もブラッシュアップされ、スペックアップ。これも、音の違いに大きく影響している。

具体的には、DACチップの特性に合わせて、ローパスフィルターに使用されるオペアンプを「OPA1662」から「OPA927」へと変更。さらに、従来はボリューム調整用のICで行なっていた音量調整機能を、M11 Plus ESSではDACチップに担当させる事で、ボリュームIC回路自体を廃止した。

もう少し細かく説明しよう。昨今の高級なDACチップには、DAC自体に32bitで動作するデジタルボリュームを搭載しているものが多く、わざわざ別のボリュームICを用意する必要がなく、DACチップで音量調整してしまう製品が少なくない。

しかし、AK4497EQを搭載したM11 Plus LTDは、あえてボリュームICを搭載していた。その理由は、サンプリングレートの異なる楽曲を再生する時、曲間の切り替えに発生する「プチッ」というポップノイズを抑えるためだ。

FiiOによれば、AK4497EQではこのポップノイズが大きめであったため、ボリュームICを使ってそれを抑制していたという。一方で、ES9068ASのポップノイズはもともと小さい。ボリュームICを介すると、どうしても音に影響が出てしまうため、ES9068ASを搭載したM11 Plus LTDでは、ボリュームICを省き、DACチップで音量調整する事にした……というわけだ。

さらに、2.5mmバランス出力時のSN比は120.5dBから126dBへと最大5.5dB向上、歪み率を表すTHD+Nは0.00146%未満から0.00085%以下(1kHz/32Ω時)へとアップ。なお、2.5mmバランスは、最大出力も588mWから660mW(32Ω/THD+N<1%)へ強化されている。

詳細は後述するが、実際にM11 Plus LTDとM11 Plus ESSを聴き比べると、SNの良さは体感でき、音場の静けさだけでなく、細かな音のディテールも豊富になっている。それだけでなく、能率の高いイヤーモニターを使っている人は、M11 Plus ESSの方が無音時のバックグラウンドノイズは少なくなるため、M11 Plus ESSの方が魅力的に感じる人も多いだろう。

駆動力の高い「THX AAA-78アンプ」を採用

ヘッドフォンアンプ部分は、M11 Plus LTDとM11 Plus ESSで共通している。しかし、大きな特徴なので、おさらいしておこう。

THX AAA-78アンプ

ヘッドフォンアンプの回路はTHX AAA Frontierシリーズの「THX AAA-78アンプ」というものだ。THXは、映画などでお馴染みの、あのTHX。彼らは映画向けの技術だけでなく、音に関しての様々な技術も開発しており、特許技術の1つであるフィードフォワード補正技術を投入したアンプをTHX AAA Frontierシリーズとして展開。それを、FiiOが採用した……というわけだ。

THX AAA回路の特徴としては、フィードフォワード補正技術を使った歪やノイズが少なく、クリアなサウンドが得られる。また、同じ電源部を使った場合でも、THXアンプの方が高い出力が得られるそうだ。

M11 Plus ESSに使われている「AAA-78回路」は、M11Plus LTDと同じ第二世代のもので、低域のスケールの豊かさ、シャープなフォーカスを実現するために駆動力も強化されている。

もう1つ、注目したいのはヘッドフォン出力において低/中/高のゲイン切り替えができる事。鳴らしにくい大型ヘッドフォンでも音量が得られる。音楽配信の普及で、スマホをソースとして使う人が増えるなか、“それでもDAPを使う理由”として、駆動力の高さは大きなアドバンテージと言えるだろう。

ヘッドフォン出力において低/中/高のゲイン切り替えができる

低/中/高の各ゲインで、120ステップもの細かな音量調節ができるのもDAPならでは。自分の理想音量を細かく追求できるのは、快適な音楽リスニングに欠かせない要素だ。

ボリューム部分

内部も非常に“ガチ”な作りで、例えば、各回路モジュールをシールドカバーで覆い、デジタル部分とアナログ部分は完全に分離させている。こうする事で、各セクション間で相互干渉が起きず、音が劣化しないというわけだ。

電源部も抜かりがない。前段ローパスフィルター部、小信号増幅部、増幅拡張回路にそれぞれ独立した電源を与えているほか、様々な部品に専用シールドカバーを施すなど、ノイズ対策も徹底。熱の吸収・放出を性能に優れたニッケルシルバー製ヒートシンクなどを採用する事で、温度管理も徹底。製品の耐久性も高めたという。

圧巻の空間表現。M11 Plus LTDとも聴き比べる

多機能なDAPだが、まずはオーソドックスにアプリ「FiiO Music」で、ハイレゾファイルの「YOASOBI/夜に駆ける」やDSDの「マイケル・ジャクソン/Beat It」などを再生する。イヤフォンはAcoustune「HS1300SS」や、フォステクスのRPヘッドフォン「RPKIT50」などを使い、2.5mmバランスで接続している。

音が出た瞬間に、M11Plus ESSがただものではない事がわかる。音場が唖然とするほど広く、そこに非常に音像がシャープで分解能が高いサウンドがブワーっと広がっていく。あらゆる音が細かく聴き取れるので、自分の耳の性能がアップしたように感じる。YOASOBIボーカルのブレスが生々しく、Beat Itの低域は切れ込むように鋭く、良い音を通り越してもはや聴いているだけで快感だ。

一番驚いたのは「うまぴょい伝説」で、音楽がはじまる前の、冒頭の大歓声+拍手の微細さが尋常ではない。「ウワー!! パチパチ!!」という大歓声が押し寄せるのだが、その背後の空間が物凄く広い事もしっかり描写されており、「ああ、ここは競馬場なんだな」というのが音だけで伝わってくる。

このサウンドは、明らかにM11 Plus LTDと異なる。例えば、「手嶌葵/明日への手紙」で聴き比べると、ヴォーカルの声のアナログっぽさ、質感のなめらかさ、温かみなどの面ではM11 Plus LTDの方が魅力的に聴こえる。

だが、そもそもボーカル+ピアノの音が展開している音場がM11 Plus ESSの方が明らかに広大だ。M11 Plus LTDでも、気持ちよく声の余韻が広がるのだが、M11 Plus ESSでは、サビの「今、夢の中へ~♪」の響きが、スーッと、本当にどこまでも広がっていく様子が聴き取れる。夜の自室で聴いていると、歌声が闇に溶けて宇宙まで広がるような気持ちよさで、ちょっとトリップしてしまう。

歌い始めの「スッ」と息を吸う生々しさや、声にならないかすかな音で感じる口の開閉動作、伴奏のピアノの鍵盤が押し込まれる「クン」というかすかな音など、M11Plus ESSは本当に微細な音まで聴き取れるので、リアルさが凄い。もともとESSのDACは、ものすごい細かな音まで繊細に描写し“情報量の多さ勝負してくる”タイプの音だが、周辺回路の刷新やボリュームICの省略により、DACの強みを、さらにダイレクトかつストレートに叩きつけられたような感覚だ。

この“広大な音場”+“膨大な情報量”は、聴いていると魔力を感じるほど気持ちが良い。聴き慣れた曲に埋もれていた描写に気付く、オーディオ的な魅力に満ちたサウンドだ。

こうした魅力は、音楽配信サービスでも味わえる。アプリをインストールし、Amazon Music HDで「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生したが、M11 Plus ESSは音圧豊かなベースの低音の中にある弦の動きまで、克明に描写してくれる。

声の温かみ、音楽の熱気みたいなものはM11 Plus LTDの方が味わい深く、聴いていてホッとする魅力が確かにある。だが、声や楽器の音が広がる空間はやはりM11 Plus ESSの方が広く、それゆえ音像にも立体感があり、個人的にはM11 Plus ESSの方がリアルなサウンドだと感じる。モニターライクな音の方が好きという人は、M11 Plus ESSの方を気に入るだろう。

動画も見てみる

一昔前は、「YouTubeって圧縮キツイしそんなに音良くないな」と思っていたのだが、ここ数年で状況は大きく変化。音質もグッと良くなり、例えば「THE FIRST TAKE」のように、YouTubeでしか楽しめない音楽コンテンツ、ライブ配信など大量に存在する。これを良い音で楽しまない手はない。

前述の通り、M11 Plus ESSは強力なSoCを搭載しているので、YouTubeアプリもサクサク。動画も大画面のディスプレイで綺麗に表示できる。「これは、YouTubeの音楽を味わうには最高のDAPなのでは?」と、試しにTHE FIRST TAKEの中から、「鈴木雅之 - DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」を再生したところ、これが大当たり。

鈴木雅之 - DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理 / THE FIRST TAKE

コーラスの緻密な描写、音圧豊かな低域など、ビックリするほど音が良い。いつも、スマホ+ワイヤレスイヤフォンでなんとなく聴いていた動画が、まるで違って見えてくる。あまりにも素晴らしいので、アップロードされている動画を再度片っ端から再生してしまった。

Sting And Shaggy: NPR Music Tiny Desk Concert

アメリカの非営利ラジオ・NPRのYouTubeチャンネルに「Tiny Desk Concert」というコンテンツがある。オフィスの片隅に、大御所から新人まで、様々なアーティストが登場し、コンサートを行なうものなのだが、これもM11 Plus ESSで再生すると最高に音が良い。

録音エンジニアの腕が良いのか、特に低域が非常に深く、クリアに収録されており、音楽全体に安定感がある。M11 Plus ESSで再生するとそれがキッチリ出ていて、まさかYouTubeでこんな重厚なサウンドが楽しめるなんてと感動してしまった。

収録現場の響きはデッドな方だと思うが、会場にいる少数の観客の歓声や拍手でおおよその広さが想像できる。前述の通り、M11 Plus ESSは空間描写に優れているので、観客が手前にいて、その奥にアーティスト達がいる……という位置関係も、音だけで把握できる。
聴き慣れた楽曲も、ライブの映像として聴くと、また違った魅力がある。以前のDAPでは、動画が再生できても“オマケ機能”扱いだったが、M11 Plus ESSでは“音楽ライブの再生機”としてしっかり活用できる。DAPの新たな魅力に気付かされた。

新ウォークマンとの比較では出力に注目

DAPとしてのライバルは誰かと考えると、ソニーから3月25日に発売される「NW-WM1ZM2」と「NW-WM1AM2」が思い浮かぶ。実売40万円前後のNW-WM1ZM2は価格的にライバルと呼べないが、ベーシックなNW-WM1AM2は16万円前後なので、ギリギリM11 Plus ESSと同価格帯と言える。AndroidベースのOSを採用し、音楽配信なども高音質で楽しめるところも似ている。

ソニーの新ウォークマン「NW-WM1ZM2」と「NW-WM1AM2」

音の違いもそうだが、個人的に大きな違いと感じているのは、イヤフォン/ヘッドフォンの最大出力だ。前述の通り、M11 Plus ESSはアンバランスで210mW、バランスで660mW(いずれも32Ω)と、ドライブ力が非常に強力なのだ。対するウォークマンNW-WM1AM2の出力はそこまで強くはない。

試しに、鳴らしにくいフォステクスの平面駆動型振動板(RP)ヘッドフォン「RPKIT50」(インピーダンス50Ω/感度89~92dB/mW)で比べてみると、NW-WM1AM2はハイゲイン設定にしても、ボリュームを最大値まで持っていかないと満足な音が出ないが、M11 Plus ESSはミドル~ハイゲイン設定で、余裕をもってドライブできる。

低能率なヘッドフォンを使わなければいいという話ではあるのだが、個人的には“スマホとの差別化”として、これからのDAPには音が良いだけでなく、強力なドライブ能力も求められると考えている。お家時間の増加で、DAPを室内のヘッドフォンリスニングに使う機会が増えている事も考えると、個人的にはM11 Plus ESSの設計思想の方に共感する。

使い勝手の面では、どちらもAndroid OSでアプリもユーザーが追加でき、音楽再生アプリはもとより、YouTubeの動画視聴もサクサクこなせる印象だ。

気になる音の違いだが、NW-WM1AM2とM11 Plus ESSを聴き比べると、これが非常に面白い。音場がとにかく広大で、そこに色付けが少なく、クリアなサウンドが広がっていくという傾向は、両者非常に良く似ている。

細かな部分を聴き比べると、NW-WM1AM2の方が音像のメリハリが強く、より輪郭がクッキリ聴こえる。M11 Plus ESSの方がややフォーカスがソフトで平坦だ。SN感も、すこしNW-WM1AM2の方が上手だ。

だが、ウォークマンは約16万円、FiiOは約97,900円と、6万円以上の差がある。逆に言うと、「この価格差がありながら、肉薄するサウンドを出しているM11 Plus ESSは凄い」と関心。ドライブ能力の高さなど、ウォークマンを凌駕している部分もあり、甲乙つけがたいものがある。

10万円以下の本命DAP

M11 Plus ESSの魅力をまとめると、ESSのES9068ASを豪華に2基使い、広大な音場と高音質を獲得。ヘッドフォンアンプ部分もTHX AAA-78回路でパワフル。さらに、強力SoCで、動画プレーヤーとしても使えるサクサク動作……と、DAPとして不満点が少ない“高い完成度”に尽きる。

それでいて、価格も10万円を切っており、FiiOらしいコストパフォーマンスの良さも、大きな魅力と言えるだろう。

Bluetoothレシーバーとしても使えたり、家ではPCと接続してUSB DACとして使うなど、活用シーンが多いのもコストパフォーマンスの良さに繋がっている。「10万円以下で、音が良くて、使いやすいDAPは無いかな?」と考えた時に、真っ先に思い浮かぶ定番DAPとなりそうだ。

アプリの追加で、音楽配信や動画サービスもハイクオリティで楽しめる。“次世代DAPの姿”を体現した製品とも言えるだろう。スマホを中心としたサウンド環境に不満を感じたら、M11 Plus ESSのようなDAPを追加すると、幸せになれるはずだ。

(協力:エミライ)

山崎健太郎