トピック
平面磁界型×無垢ハウジングで驚きの5.5万円から、注目ブランドSENDY AUDIOを聴く
- 提供:
- アユート
2024年11月14日 08:00
ヘッドフォン市場のトレンドは“平面磁界型”だ。高解像度なサウンドが楽しめる一方で、開発には高い技術力が求められ、高価な製品も多い。「本格的な平面駆動型ヘッドフォンが欲しい」と思いながら、なかなか手が出ないという人も多いだろう。
そんなところに注目のブランドが登場した。アユートが取り扱いを開始した「SENDY AUDIO」(センディーオーディオ)だ。
11月に3機種を矢継ぎ早に展開。エントリーの「Apollo」(アポロ)が55,000円、20台限定の「Aiva」(アイヴァ)が69,300円、そして最上位の「Peacock」(ピーコック)でも220,000円と、手が届きやすい価格なのが最大のポイント。それでいて、写真でおわかりのように、一番低価格なApolloも含め、ハウジングに天然無垢材を使った高級感のある見た目になっている。
- 「Apollo」55,000円 (68mm平面磁界型/QUAD-FORMER/ローズウッド)
- 「Aiva」69,300円 (97×76mm平面磁界型/ゼブラウッド)※20台限定
- 「Peacock」220,000円 (88mm平面磁界型/QUAD-FORMER/ゼブラウッド)
これでサウンドも良ければ、コストパフォーマンスの面でも要注目のブランドになる。さっそく3機種を聴いてみよう。
平面磁界型とは何か
製品の前に“平面磁界型とは何か”をおさらいしよう。
一般的なヘッドフォンの中に入っているダイナミック型ユニットの構造は、スピーカーのユニットとほぼ同じだ。円形の振動板があり、その裏側の真ん中にボイスコイルと磁気回路がある。磁力の反発でボイスコイルが振幅し、それと連動して振動板も動いて音を出すという仕組みだ。
ただ、大きな振動板を中央から動かそうとするので、振動板の端っこまで同じように動かすことが難しい。中心と端っこで振動の仕方が変わり、それが歪となって音質を低下させる。よく言う「分割振動」の問題だ。
平面磁界型は、そもそも構造が異なる。非常に薄く、そして全体が平面な振動板に、コイルを模様のようにプリント。それを磁気回路でサンドイッチし、駆動させる。従来のダイナミック型ユニットと比べ、コイルを全体にプリントする事で、振動板全体が動くため、分割振動が発生しにくいというのが利点。振動板自体も薄いので、トランジェントの良い、繊細なサウンドになる傾向もある。
一方で、振動板の振幅が大きくなると、マグネットに振動板ぶつかってしまうので、あまり大きな振幅ができず、能率が低い、つまり“鳴らしにくい”などのデメリットもあるが、ザックリとした平面磁界型の利点は上記の通りだ。
天然無垢材にこだわるSENDY AUDIO
そんな平面磁界型にこだわってヘッドフォンを作っているのが中国のブランド、SENDY AUDIOだ。
「世界の工場」として知られる東莞(ドンガン)で、2016年に設立された。中国のブランドと聞くとデジタル技術のイメージが強いが、SENDY AUDIOは天然無垢材を伝統的な手作業で加工し、ヘッドフォンを作っている、かなりユニークなブランドだ。
ハウジングに使う木材の選択から、カッティング、CNCカービング、研磨を行ない、そこから塗装と空気乾燥を繰り返して完成させる。天然無垢材を使っているので、木目と質感は1台1台異なる。希少な素材を使っており、加工工程が多く、難度も高いため、自ずと製造時間も長くなる。そのため少量しか生産できず、コストもかかる。しかし、あえてそこにこだわり、また多くの人に使ってもらえるよう、できるだけ価格を抑えているのも特徴だ。
そんなSENDY AUDIOが、研究開発に3年半を費やし、イヤーカップからネジのような非常に小さな部品でさえ独自に設計して作り出した第1弾のオープン型ヘッドフォンが、「Aiva」だ。ただし生産完了につきアユートの直販で20台限定での販売となる。
Aivaは、97×76mmのプラナーマグネティック(平面磁界)ドライバーを搭載。振動板は3μm(0.003mm)と非常に薄く、複合膜にする事で強度と柔軟性を両立させ、レスポンスに優れるという。ハウジングに使っている天然無垢材は、ゼブラウッド(黒壇)だ。
ハイエンドモデル「Peacock」
Aivaに続いて作られたのが、ハイエンドモデル「Peacock」(220,000円)。平面磁界型ドライバーは88mmと大口径。それでいて振動板は超薄型。そして、振動板が同じ周波数に対して同じ振動ができるよう、精密なCNC加工を施した航空グレードアルミニウムをドライバーハウジングに使っている。
さらにPeacockには、独自のQUAD-FORMERテクノロジーを投入している。
これは、振動板の両面にコイルを配置するだけでなく、片面に2つのコイルを配置。両面で合計4つのコイルを配置するというもの。こうすることで、振動板が同じ周波数で同じ振動をするようになり、より効率的な電気音響エネルギー変換が可能になるという。
また、振動板に使うベース素材にも工夫がある。内部損失の高い基材と、高剛性なベース素材を組み合わせることで、ソリッドな低域や、ナチュラルなサウンド、さらに再生周波数を40kHzまで拡張できたという。
ハイエンドモデルだけあり、ヘッドバンド部に柔らかいゴートレザーを採用。イヤーパッドにもゴートレザーとメモリーフォームを使い、形状も人間工学に基づいたデザインにする事で、圧迫感を軽減し、フィット感を高めている。
ハウジングのゴールドパーツは全て24K金メッキ。ハウジングの素材は、美しいだけでなく、音響特性にも優れるといういゼブラウッド。そこにスチールグリルが嵌め込まれているが、モデル名の由来となる孔雀が尾を広げたようなデザインになっている。単なるデザインではなく、穴の特別な配置によって音響特性を調整する効果もあるそうだ。
ケーブルは約2mで、6N OCC 8芯リッツ線を使っている。入力は4.4mmバランスで、ヘッドフォン側はmini XLR 4pinを採用しており、このあたりの豪華な仕様もハイエンド機らしい。4.4mm to 6.35mm変換プラグ、4.4mm to XLR 4pinの変換プラグも付属しているので、DAPだけでなく、据え置きのヘッドフォンアンプとも接続できる。
リーズナブルな「Apollo」
ハイエンド機Peacockで培った技術を投入しつつ、より価格を抑えているのが「Apollo」(55,000円)だ。
平面磁界ドライバの振動板は68mm径で、Peacockよりも小さいが十分に大口径。素材も複合膜で、高域は40kHzまで再生できる。さらに、Peacockと同じQUAD-FORMERテクノロジーまで投入している。
ハウジングに使っているのは天然無垢材のローズウッドで、光沢のある仕上げなのが特徴。ハウジングカバーはスチールのメッシュで、日光をイメージしたデザイン。このメッシュも、穴の配置によって音響特性を調整している。
ヘッドバンド部には柔らかいゴートレザーを採用。イヤーパッドはハイプロテインレザーとメモリーフォームを使っている。ケーブルは約2mの6N OCC 4芯リッツ線で、4.4mmバランスプラグを採用。ヘッドフォン側は2.5mmモノラルミニ。4.4mm to 3.5mm変換プラグが付属する。
音に関係する主要な部分で、かなりPeacockと同じ技術を投入しつつ、価格を4分の1程度に抑えているのがApolloの特徴と言える。音にどのように違いが出るのか、聴いてみよう。
音を聴いてみる
では音を聴いてみよう。再生機として、DAPながら据え置き機に引けを取らない駆動力が特徴のAstell&Kernの「KANN ULTRA」を用意。4.4mmのバランス接続でハイレゾファイルを再生した。ヘッドフォンは、3機種で能率は異なるが、KANN ULTRAのゲインは「Mid」(出力レベルはバランスで8Vrms/無負荷)に固定した。
- Apollo インピーダンス16Ω/感度95dB
- Peacock インピーダンス50Ω/感度103dB
- Aiva インピーダンス32Ω/感度98dB
実際に聴いてみると、KANN ULTRAのボリューム値(0〜150)において、Apolloの場合80~90、PeacockとAivaは90~100の値で、十分と感じられる音量が得られた。昨今のDAPは駆動力のあるモデルも増えているし、3機種とも、据え置きのヘッドフォンアンプが必須というほど鳴らしにくいヘッドフォンとは言えないだろう。
まず、エントリーモデルのApolloから聴いていく。
装着しようとApolloを持ち上げると、見た目よりも軽いことに驚く。そのため、装着してもあまり頭に重さは感じない。側圧も強くないので長時間の使用でもストレスは少ないだろう。
イヤーパッドは肉厚で柔らかく、耳の周りにピッタリフィットしてくれる。特に耳の下側、耳たぶ近くまでしっかり覆ってくれて安心感がある。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。冒頭はピアノソロからスタートするが、オープン型らしく、広大な音場にピアノの余韻がスーッと広がる様子が気持ちいい。
続いてアコースティックベースが入ってくると、平面磁界型とは思えない、しっかりと“重い”低音がズズンと頭に響いて驚く。ベースの筐体で増幅された音が肉厚に出てくるのだが、それだけでなく、弦をはじいた時の「ブルン」、「ベチン」といった鋭い音も、シャープでパワフルに描写してくれる。
平面磁界型ヘッドフォンの中には、「中高域はシャープだけど、低域は全然出ない」みたいな製品もあるが、Apolloには当てはまらない。前述の複合振動板やQUAD-FORMERテクノロジーの効果なのだろう。良い意味で平面磁界型とは思えない、低域のパワフルさ、重さが感じられる。
「この低音なら激しい曲もイケるのでは」と「米津玄師/KICK BACK」を再生してみたが、ドンピシャ。うねるようなドラムンベースがヘッドフォンから吹き出してくるのだが、パワフルなだけでなく、平面磁界型らしい描写の細かさも兼ね備えているので、非常に細かな音の粒を、凄い勢いで浴びているような快感がある。これは一度聴くとヤミツキになる気持ちよさだ。
Apolloだけ聴いていると「55,000円のApolloでいいのでは?」という気がしてくるが、ハイエンドモデルのPeacockに交換してみると、「すいませんでした」と謝りたくなる。
簡単に言えば、Apolloで魅力的に感じた“音場の広さ”“低域のパワフルさ、重さ”といった部分が、Peacockではさらに進化。「月とてもなく」のピアノが広がる空間はより広く、ベースの低域はより深く沈み込み、地を這うような低音の「怖さ」まで感じられる。
コントラストも深くなり、ボーカルの声の表情もより聴き取りやすくなる。スピーカーで例えるなら、Peacockの方が、より大型のフロア型スピーカーで聴いているような気分だ。雄大な音場にうっとりしつつ、細かで繊細な音まで聞き漏らさない。音楽の全てを吸収できているような気分になるのは、さすがハイエンドモデルと言えるだろう。
このくらいスケールの大きな再生ができると、クラシックも気持ちが良い。「グスターボ・ドゥダメル指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニック/チャイコフスキー:バレエ《くるみ割り人形》」から行進曲を再生したが、ホールの広さと、そこに充満する空気感、オーケストラの広がりがヘッドフォンで無理なく聴き取れた。
最後に、20台限定のAivaも聴いてみたが、上記2モデルと傾向が違い、これも面白い。
ApolloとPeacockでは、平面磁界型とは思えないパワフルな低域に驚かされたが、Aivaはそこまで低音がパワフルに張り出さない。そのため、中高域のシャープさ、描写の細かさが印象に残る。逆に言えば「平面磁界型ヘッドフォンの一般的なイメージ」に近いのがAivaのサウンドだ。
傾向としては、モニターヘッドフォンのようなバランスがAivaだ。低域の膨らみを抑える事で、ベースのラインやドラムの鋭さなど、細かな音がより聴き取りやすい。分析的に音楽を聴きたいというニーズには、Aivaの方がマッチするだろう。
クオリティとコスパの両面で注目のブランド
Aivaは20台限定で終売となるため、その後のSENDY AUDIOのラインナップは上位機のPeacock、エントリーのApolloの2機種展開となる。
価格帯が大きく異なるのでこの2機種で迷う人はいないと思うが、それぞれに魅力のあるヘッドフォンだ。
Apolloは55,000円という手に取りやすい価格で、平面磁界型の魅力がたっぷり味わえる。低域再生能力も高いので、ロックやポップスなど、音楽のジャンルを問わずに楽しめるのも魅力だ。
また、エントリーだからといって安っぽい見た目ではなく、ローズウッドのハウジングは高級感があるし、軽量かつ装着感も良いので、長時間使っても疲れにくい。家で普段使いするヘッドフォンとして、これらは大事なポイントだ。
Peacockは、高級ヘッドフォンとして低域の再生能力や、音場の広さ、質感描写の豊かさといった面で、ハイエンド機として確かな実力を備えている。220,000円という価格も、Apolloと比べると高価だが、他社の平面磁界型ハイエンド機では50万円オーバーも珍しくない事を考えると、Peacockは「お買い得な平面磁界型のハイエンド機」と言って良い。
つまり、PeacockとApolloのどちらも、「天然無垢材ハウジングと平面磁界型の魅力を多くの人に」というSENDY AUDIOのこだわりを体現したモデルと言える。この2機種だけでなく、今後のモデルにも注目したいブランドの登場だ。