トピック

マランツ渾身の最高峰「MODEL 10/SACD 10」でマジコM3を鳴らす。圧巻の“LR完全独立駆動”も体験

左からリファレンス・インテグレーテッドアンプ「MODEL 10」、リファレンス・SACDプレーヤー「SACD 10」

本年9月に書店に並んだ季刊ステレオサウンド誌。その表紙を飾ったのは、まだ誰も見たことがないマランツのフラグシップ機だった。ブラック仕上げのリファレンス・インテグレーテッドアンプ「MODEL 10」(242万円)と、リファレンス・SACDプレーヤーの「SACD 10」(198万円)である。すでにAV Watchにニュースが掲載された新製品になるけれども、ステレオサウンド誌で執筆している私も表紙を見て大いに驚いた次第。まさかと思われるかもしれないが、執筆者には表紙がなにかということを知らされることはない。

開発には5年以上の歳月を費やしているという。マランツが渾身のリファレンス=最高峰モデルを開発していたことを、私は全く知らなかった。噂として漏れ伝わってくることもなかったから、情報管理が隅々まで行き届いていたのだろう。

MODEL 10とSACD 10は、マランツのトップモデルに位置づけられる製品。かなりのロングランを意識してデザインされているのは想像に難くなく、開発に携わっていた関係者は無事にリリースできて安堵していることだろう。

マランツはHi-Fiのセパレートアンプとして、SC-11S1(プリアンプ)/SM-11S1(ステレオパワーアンプ)を最後に、ピュアオーディオのセパレート構成アンプを発売していない。両機は2007年10月に発売されたはずなので、ずいぶんと年月が経過している。

2007年発売のステレオパワーアンプ「SM-11S1」

前述のプリアンプSC-11S1とパワーアンプのSM-11S1の前には、プリアンプのSC-7S2(’’7’’)とパワーアンプMA-9S2(’’9’’)があった。パワーアンプMA-9S2は、英国B&Wが初めてダイアモンド振動板のツイーターを搭載した800Dのパフォーマンスを最大限に発揮するという目標があったと記憶している。

新登場のMODEL 10はインテグレーテッドアンプであるが、本格的なプリアンプと先進的なパワーアンプをひとつの筐体に納めたもの。接続のためのオーディオケーブルが不要なぶん、セパレート構成アンプを越えたパフォーマンスが得られるかも知れない。

MODEL 10。カラーはシャンパンゴールドとブラックがあり、こちらはシャンパンゴールド
SACD 10のブラック

まずはインテグレーテッドアンプMODEL 10とSACDプレーヤーSACD 10の外観から見ていこう。新世代マランツデザインといわれる立体的なフェイスは、AVアンプを含めた最近のマランツ製品に共通するもの。フロントパネルはヘアライン仕上げのアルミニウム製であり、MODEL 10の丸い窓は真空管パワーアンプ Model 9のオマージュといえる。

真空管パワーアンプ Model 9のオマージュでもある、MODEL 10の丸い窓

そのフロントパネルを支えるひとまわり大きなブロックには、柔らかな窪みが与えられている。他の製品ではここが樹脂製だったりするが、MODEL 10とSACD 10ではアルミニウム無垢ブロックからの精密な切削加工というハイコストな部材が奢られた。精密加工を行なう国内の工場で1日に完成するのは10個に満たないという。

サイドパネルは厚手のアルミニウム押し出し材で、これにも切削加工による後処理が施されている。

フロントパネル
サイドパネルも厚手のアルミニウム押し出し材で、切削加工が施されている

MODEL 10では放熱のため Waved Top Meshのステンレススチール製メッシュが、SACD 10では12ミリ厚というアルミニウム製のトップカバーが与えられた。シャーシには銅メッキ処理が施されていて、合計5.6ミリ厚の3層ボトムシャーシというのも凄い。脚部は銅とアルミニウムを組み合わせたハイブリッドフットである。

MODEL 10のトップカバーはWaved Top Meshのステンレススチール製メッシュ
SACD 10のトップカバーは12ミリ厚というアルミニウム製
銅とアルミニウムを組み合わせたインシュレーターを装備している

MODEL 10

リファレンス・インテグレーテッドアンプのMODEL 10は、内部が2層3ブロックの高剛性構造になっている。ボトム部分にはマランツオリジナルのクラスDパワーアンプと専用設計のスイッチング電源部(SMPS)がある。電源部とクラスDパワーアンプは独立構成で左右に同じ基板を使うことで同一性を獲得。

ボトム部分にマランツオリジナルのクラスDパワーアンプと専用設計のスイッチング電源部(SMPS)を配置している

マランツがクラスDのパワーアンプを採用するのは、2015年の小型USB DACアンプ「HD-AMP1」からで、フルサイズでは2017年の最上位機PM-10で採用した。同じ筐体サイズならAB級パワーアンプよりも遥かに高い出力が実現できることから採用を決断したと聞いている。

最初のクラスDパワーアンプのモジュールは、オランダのハイペックス(HYPEX)製だった。元々はオランダのフィリップス社で開発された技術がベースのようで、フィリップス社の傘下だった時代があるマランツが採用したのは自然な流れだったのかも知れない。

私はクラスDアンプをデジタルアンプと呼ぶのだが、それは電力を出力する素子(パワーMOS-FETなど)の動作が、オフ状態とマックス状態という2値だから。つまり、OFF/ON=0/1なのでデジタルと解釈しているわけだ。

クラスDアンプには入力から出力素子を動作させる信号(ほとんどがパルス幅変調=PWM)をデジタル領域で行なうフルデジタル方式と、アナログ信号からPWM信号をアナログ領域で生成するアナログ方式があり、ここで紹介するMODEL 10は後者のほう。ちなみに、話題を集めている超小型のマランツMODEL M1は、前者のフルデジタル方式である。

そして、MODEL 10のパワーアンプ回路はブリッジ動作になっている。スピーカーの両極から駆動するBTL=Bridged Tied Loadである。昔はBTL=Bridged Transformer Lessという言いかたをしていたが、最近は前者のほうが主流らしい。

MODEL 10のパワーアンプ回路はBTLを前提とした専用設計になっている

MODEL 10のマランツオリジナル・クラスDアンプは、デンマークにあるピューリファイ(PURIFI)社との共同開発で実現した。ピューリファイ社を主宰する人物のひとり、ブルーノ・プツィーズ (Bruno Putzeys)氏が中心に開発したクラスDアンプ回路をベースに、マランツ側が各部品の選定を行って完成させたもので、福島県白河市にあるD&Mの白河オーディオワークスで製造している。

ブルーノ・プツィーズ氏は元々フィリップスの技術者で、ハイペックス社でクラスDアンプを開発したのちに、ピューリファイ社を何人かで興している。

海外からのモジュールを購入するのではなくオリジナルのクラスDアンプを開発して国内製造としているのは、白河オーディオワークス基準のハイレベルな品質管理を実現する目的があったのではないだろうか。

写真で見るとパワーアンプの回路基板に大型のヒートシンクが与えられるなど、信頼性の高さが想像できる堅牢さが印象的だ。基板からスピーカー端子まで銅製のバスバーで接続している。MODEL 10のスピーカー出力は、250W+250W(8Ω負荷)/500W+500W(4Ω負荷)というじゅうぶんなハイパワーだ。

基板からスピーカー端子まで銅製のバスバーで接続している
バスバーでの接続は各所で採用されている

MODEL 10の上部は、銅色に輝くケースカバーが誇らしげな、トロイダル電源トランスの電源部が与えられているプリアンプのセクションである。電源部はもちろんリニア電源で、パワーアンプ部のようなスイッチング電源とは異なる。

このプリアンプ基板は2階建ての構造になっており、上層の基板は音量調整を行なう可変ゲイン型ボリュームアンプと電流帰還型の電圧増幅回路。下層の基板はバランス/アンバランス変換回路とトーンコントロール回路、そしてプリアウトのバッファー回路で構成されているようだ。いずれも最短距離のシグナルパスと接続ケーブル(ハーネス)の最小化を追求していることも注目すべきポイント。

上部に配置されているのがプリアンプ用トロイダル電源トランス。ここがプリアンプのセクションだ
プリアンプ部は2階建て構造かつ、4層基板を使っている

マランツは「ハイパー・ダイナミック・アンプリファイア・モジュール」を略したHDAMを開発しているが、MODEL 10では入力JFETにカスコード素子を追加して低歪を追求した新型HDAMを開発。2素子をワンパッケージにしたトランジスターも採用するなど、モジュールの小型化と動作安定性の高さを追求した。

また、進化型であるHDAM-SA3も投入している。トランジスターや抵抗器を音質面と性能面から再選定しているのだ。

2素子をワンパッケージにしたトランジスターも採用し、モジュールの小型化と動作安定性の高さを追求した新型HDAMも投入
進化型HDAM-SA3も採用

音量調整には、バランス構成の可変ゲイン型ボリュームアンプを採用している。使われているボリュームICは日清紡マイクロデバイス製MUSES72323なので一般的な「アッテネーター+増幅回路」と思っていたら、そんなに単純ではなかった。

アッテネーターの出力はHDAM~HDAM-SA3を経由しており、HDAM-SA3の出力から電圧信号のフィードバックと直流サーボを経由した信号をMUSES72323に戻して、結果的に0dB~+13dBの可変ゲインを得ているのだ。

バランス構成の可変ゲイン型ボリュームアンプを採用

最後に、本格的なMM型/MC型フォノカートリッジに対応したフォノイコライザー回路を紹介しておこう。出力電圧が低いMC型では20dBのヘッドアンプが加わり、+40dBの無帰還型フォノイコライザーアンプとの2段構成になっている。

左右対称の素子レイアウトにした1枚基板のフォノイコライザー回路は、アルマイト仕上げアルミニウム製トップカバーと銅メッキの鋼板ケースでシールドされている。MC型は3つのポジションが選択できる。

フォノイコライザー回路はアルマイト仕上げのアルミニウム製トップカバーと銅メッキの鋼板ケースでシールドされている

SACD 10

SACD 10

リファレンス・SACDプレーヤーのSACD 10は、CD=コンパクトディスクとSACD=スーパー・オーディオ・コンパクト・ディスクを手掛けてきたオリジネーターの誇りが感じられる、堂々とした一体型ステレオプレーヤーである。

オリジナルのドライブメカニズムSACDM-3の搭載と、PCM信号を11.289MHz(44.1kHz系列)または12.288MHz(48kHz系列)のDSD(1ビットΔΣ変調)信号に変換してD/A変換を行なうオリジナルのディスクリートDAC「MMM=マランツ・ミュージカル・マスタリング」の採用が大きなトピックの、マランツ史上で最高のSACDプレーヤーだ。

重厚なフロントパネル

筐体構造は同じリファレンス・グレードのMODEL 10と共通している。フロントパネルのディスプレイはOLEDになって視認性を高め、ディスクを出し入れするドローワー(トレイ)の動作もスムーズ。

インテグレーテッドアンプのMODEL 10はWaved Top Meshのステンレススチール製トップカバーが特徴であるが、SACD 10では12ミリ厚のアルミニウム製トップカバーが与えられて密閉構造になっている。

ドローワーの動作もスムーズ

ドライブメカニズムのSACDM-3は、光学ディスクを回すフィジカルな機構と光学ピックアップから得られた信号を処理する復調回路で構成されている。SACD 10では高音質化を推進するために復調回路に実装されている部品を再選定するという、初めての対策が講じられた。

ドライブメカニズムのSACDM-3

メカニズム自体はアルミニウム無垢材のメカベースに強固に固定されている。USB-DAC回路を使うときには、ドライブメカニズムの電源をシャットダウンして低ノイズ化を追求するという徹底ぶり。

筐体は2層4ブロック構造になっており、下層は銅メッキのケースカバーがある2基のトロイダル型電源トランスによる電源部と、前述したSACDM-3ドライブメカニズムがある。左右に配置された本格的なリニア電源部は、デジタル回路用とアナログ回路用に分別されている。

下層には2基のトロイダル型電源トランスによる電源部と、SACDM-3ドライブメカニズムを配置

上層部分はマランツ独自のディスクリートDACである、MMM=マランツ・ミュージカル・マスタリング回路とディスクリート構成のアナログ出力回路で構成されている。MMMはPCMのデジタルデータを11.2MHz/12.3MHzのDSD信号にするMMMストリーム回路と、そのDSD信号をアナログ信号に変換するMMMコンバージョン回路に大別できる。

後者のMMMコンバージョンで変換されたアナログ電圧信号は、最短距離でアナログ出力回路と直結している。前段階のMMMストリームの基板にはUSB(B)端子を含むデジタル入出力回路も含まれている。

PCM信号はすべて11.2MHz/12.3MHzのDSD信号に変換されるけれども、SACDの2.8MHzのDSD信号やUSB(B)からの2.8MHz/5.6MHz/11.2MHzのDSD信号は、そこで変換処理されることなくMMM コンバージョン回路に送られる。

上層は独自のディスクリートDAC、MMM回路とディスクリート構成のアナログ出力回路で構成

SACD 10における画期的な音質向上策は、MMMコンバージョン回路の出力部分。具体的には左チャンネルのホット側/コールド側と右チャンネルのホット側/コールド側という4回路があり、それぞれに「バッファー回路→固定抵抗器(10kΩ)」という出力系統が8回路あって、それらが合成される仕組みになっている。

これがDSD信号の超高域減衰回路=アナログフィルター(ローパスフィルター=低い周波数だけを通過させるフィルター)なのだ。8回路の出力合成がフィルターになるとは不思議に思われるかもしれないが、実は8回路のうち7回路にはクロックに基づく時間差=遅延が与えられており、それらを合成することで特別な回路を必要とせずに、超高域に分布しているシェイピングノイズを減らせる。これは「移動平均フィルター」といわれる手法。時間差=遅延が大きいほど高い減衰効果が得られるが、その詳細は公表されていない。

画期的な音質向上策というのは、SACD 10では前述のアナログフィルター回路をディスクリート構成に改めて大幅な音質改善を獲得したのである。

これまでのMMM搭載プレーヤーではそこにIC(8chロジックIC)を使っていたらしく、更なるディスクリート化と回路定数の見直し等によって対ノイズ&ディストーション比で4.5dBの改善が、S/N比では8.1dBも改善されたというから凄い。

デジタル回路基板も4層から8層基板に進化しており、それもノイズの減少と低インピーダンス化に少なからず貢献しているようだ。

アナログ出力回路は、新型HDAMとHDAM-SA3を組み合わせたユニティ・ゲインのバッファー回路と次段のローパスフィルター回路を通り、回路をたすき掛けにした新型HDAM→HDAM-SA3を経由してバランスのXLR端子に導かれる。RCA端子のシングルエンド出力は、バランス出力のホット側を使っているようだ。

アナログフィルター回路をディスクリート構成とし、新型HDAMとHDAM-SA3も活用している

そうそう伝えるのを忘れるところだった。リファレンス・インテグレーテッドアンプのMODEL 10とリファレンス・SACDプレーヤーのSACD 10には、専用設計のヘッドフォンアンプが搭載されている。

出力のインピーダンスを下げる目的で電流帰還型の回路になっており、HDAM-SA3とダイアモンドバッファー回路が使われたディスクリート構成のヘッドフォンアンプである。SACD 10では3段階のゲイン設定が選択できる。

ディスクリート構成のヘッドフォンアンプも搭載している

MODEL 10とSACD 10で自宅のマジコ「M3」を鳴らす

MODEL 10とSACD 10を組み合わせた音を聴いてみよう。両機が発表されてから私は川崎にあるD&Mホールディングスのマランツ試聴室で音を聴いており、そこでの感触はいずれも上々だった。しかしながら、あくまでもメーカー試聴室という理想的なリスニング環境で、しかも限られた時間での試聴である。マランツの技術陣が持てるすべての英知を注いで完成させたリファレンス機であるから、音を深掘りして理解しておきたい。

そこで、私は無理を承知で自宅試聴させてもらえないかと交渉してみた。幸いなことに、土曜日と日曜日を含んだ4日間という短い期間ではあったが借用することができた。到着予定日の前日には愛用している米国パス・ラボラトリーズのX160.8モノーラル・パワーアンプを移動して、新たにTAOC製オーディオラックを組みあげてMODEL 10とSACD 10のセッティングに備えておいた。

自宅になんとか設置したMODEL 10とSACD 10

午前中に到着したMODEL 10とSACD 10だったが、これがとっても重い!! MODEL 10は33.7kgあり、SACD 10は33kgなのだ。なんとか玄関で開梱して運んだけれども、1人での作業は絶対に禁物!! しかしながら、TAOC製ラックに乗せたMODEL 10とSACD 10は絵になるような美しさで、私はしばし腰痛を忘れてしまったほど。

借用できたのはブラック仕上げだったけれども、これがシャンパンゴールドなら華やかさが視覚的なコントラストになって格段にフォトジェニックだったに違いない。とはいえ、私はオーディオ機器に関してはブラック仕上げが好きなのだが。セッティングしてからはCDをリピート状態にして再生を続けて、音量を低めにしてマジコのM3を鳴らしておくことに。SACD 10とMODEL 10はバランスのラインケーブルで接続しておいた。

マジコ「M3」

自宅試聴は土曜日と日曜日に行なった。初日はCDとSACD再生を行い、次の日はデジタルファイルの音を聴いている。SACD 10はUSB(B)端子を装備しているので、ミュージックサーバーのアイ・オー・データ機器「Soundgenic Plus」をUSB接続したというわけだ。

SACD 10のUSB-DAC入力ではPCMが384kHz/32bit、DSDが11.2MHzまで再生できる。このハイスペックに不満を抱く人はほとんどいないだろう。

最初に聴いた楽曲はCD「フェイマス・ブルー・レインコート/ジェニファー・ウォーンズ」だ。全部で20枚ほどのCDから楽曲を選んで聴いてみたが、私の普段聴きの音量ではボリュームの表示が-35dBになり、大きめの音量では-30dBくらいの表示である。マイナスdB(デシベル)の音量表示はオーディオファイルにはまあ一般的と言えるが、音楽ファンにはわかりにくいかも知れない。なお、設定メニューから0~100表示に変更する事も可能だそうだ。

おそらくは発売から間もないSACD 10とMODEL 10の組み合わせでマジコM3を鳴らすというのは世界的にも初めてのケースではないだろうか。

ジェニファー・ウォーンズの楽曲は繰り返して何度も聴いたわけだが、キックドラムやスネアドラムによるドラムスとエレクトリックベースで構成されるリズム隊の切れの鋭さと押しの強さは、なかなかの衝撃だった。なるほど、マランツがクラスDアンプをブリッジ構成にしたかったのは、このような素早い低音域を得るためだったのかと納得できた。

私が使っているモノーラル・パワーアンプはスピーカーの両極から駆動するブリッジ構成ではなく、プラス側から駆動してマイナス側はグラウンドになっている一般的なシングルエンド構成だ。マジコM3が締まった低域で積極的に鳴っていくポップス/ロックの名曲は好ましくメリハリのあるダイナミックな演奏で、私はすぐに音楽に引き込まれていった。

ボーカルの声質を聴こうと選んだ「月のぬくもり/手嶌葵」も、印象深かった。ジェニファー・ウォーンズのときも同じように感じたのだが、MODEL 10とSACD 10の組み合わせは、きわめてニュートラルな音調、すなわち整ったエネルギーバランスを感じさせる素直な音を聴かせるのだ。

ディスクリートDAC回路であるMMMは1ビット変換で、それが僅かに細身の音像描写をもたらしているかなと思わせながらも、繊細で滑らかなボーカルの声質をもたらしているようだ。自己主張が控えめという傾向の音では決してなく、音源に刻まれている歌声をストレートに堂々と提示しているという強さも滲ませている。

ブリッジ構成クラスDアンプの威力を見せつけるような豪快な音は、アントニオ・パッパーノがイタリア・ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団を指揮した「シェヘラザード/はげ山の一夜」のハイブリッドSACD盤で特に実感できた。

ここではSACD層で「はげ山の一夜」を聴いたのだが、コントラバスを筆頭にする厚みのある低音域とティンパニーの連打の明瞭さなど、クラシック音楽のなかでもかなり躍動的なパートを引き締まった力強い音で鳴らしてくる。どちらかといえば雄大さを感じさせるゆったりとした鳴りのアンプのほうが多いと思うが、ここではドライブ能力の高さを印象付ける若々しさが心地よかった。

このアルバムの「はげ山の一夜」は、オーケストラ演奏のみのトラックの次に声楽が加わった演奏があり、朗々と響き渡るバス・バリトンの男声が実に見事だった。

ジャズでは昔のアナログプロダクションズ盤ゴールドCDから「ワルツ・フォー・デビー/ビル・エヴァンス・トリオ」を聴いてみた。聴衆によるグラスの音やざわついた演奏会場の臨場感を余すことなく伝えて、右チャンネルのピアノと左チャンネルのウッドベースとドラムスによる演奏が密度の高さと共に視覚的に描かれていく。

CDだから16ビットの分解能が限界なわけだが、1ビット変換であるMMMは微小領域の再現性にも優れていることを暗示させる細密な音を聴かせるのだ。アコースティック楽器の音色を実直に感じさせるのは、ボーカル楽曲の声色の表現とよく似ている。

翌日はデジタルファイルを聴いている。Soundgenic PlusとのUSB接続で、SACD 10ではUSB-DACのポジションにするとドライブメカニズムに供給される電源がオフになる。最初は井筒香奈江の新作「窓の向こうに~Beyond the Window~」から、彼女自身の作詞作曲による「どこか~窓の向こうに~」の、192kHz/24bitと11.2MHzのDSD(DSD256)を聴き比べてみた。

両方ともナチュラルな質感で彼女のボーカルにも訴求力が宿り、しかもピアノやエレクトリックベースのレンジ感もじゅうぶんに広い。しかしながら音質的にはDSDが明らかに優れており、これはPCMとDSDというフォーマットの違いではなく、そもそものマスタリングのプロセスの違いなのだろう。DSDの音源では独特の澄んだ空気感が漂い、音場空間も奥に深く広がっているという雰囲気が得られるのは確かなのだが。

初日にハイブリッド盤SACDで聴いた「はげ山の一夜」は、ハイレゾ音源では48kHz/24bitである。この楽曲はハイレゾ音源のほうが音の華やかさを手控えた力感の漲る展開に感じられ、SACDのほうは少し派手な音だったようだ。

ハイレゾ音源のエネルギーバランスはハイブリッド盤のCD層の音に近いけれども、解像感や強弱のコントラストの表現はハイレゾ音源のほうが巧みで、臨場感あふれる演奏に私は酔いしれた。やはり締まっていながら力強い低音域は聴きごたえがあり、総じてハイグレードな音というイメージだった。

オランダのSound Liaisonは自社録音のハイレゾ専門ダウンロード販売サイト。ここからのティム・ランゲディック(ギター)とポール・ベーナー(ベース)のデュオ演奏アルバム「Down to the Down Town」から「ランブリング・ローズ」を聴いてみた。

SACD 10では再生できない768kHz/32bit音源もあるのだが、元々の録音は352.8kHz/24bitなのでこちらを聴いている。口ずさみながら弾いているウッドベースの質感がリアルさをもたらし、アコースティックギターは金属弦の倍音成分を感じさせながら胴の響きが自然に伝わってくるリラックスした演奏である。

MODEL 10とSACD 10の組み合わせは、音のシャープさを際立たせながらも冷たすぎず暖かすぎずという温度感で、心に染み入るような音を聴かせてくれた。ハイレゾ音源はほかにも10曲ほど聴いているけれども、いずれもクオリティの高さを印象付ける音だった。自宅試聴による音のインプレッションは以上である。

圧巻の“コンプリート・バイアンプ・ドライブ”サウンド

MODEL 10を2台使うコンプリート・バイアンプ・ドライブ

マランツの試聴室では、MODEL 10を2台使うという、とても贅沢なモノーラル駆動「コンプリート・バイアンプ・ドライブ」の音も聴かせてもらった。この場合はプリアンプ回路はL/Rの回路を両方使用(バイアンプモードではLchに入力した信号はRchにも同じ信号が入力されて、中高域用の信号、低域用の信号になる)。パワーアンプ部はLチャンネルとRチャンネルを使ったバイアンプ駆動になる。

B&Wの801 D4を相手にバイワイアリング(バイアンプ)接続すると、片側のアンプがウーファーをブリッジ接続でドライブして、もう片側のパワーアンプがミッドレンジ+ツイーターをブリッジ駆動にできるわけだ。1台のMODEL 10のボリュームで連動できる独自のF.C.B.S.機能によるものだが、最大で4台(8チャンネル)まで接続できる仕組みはSACDのマルチチャンネル再生のときに誕生している。

プリアンプのセクションでは片側のチャンネルを使い、パワーアンプ部はLチャンネルとRチャンネルを使ったバイアンプ駆動となる

2台のMODEL 10によるコンプリート・バイアンプ・ドライブの音は圧巻というしかない。

これは音楽ファンではなく音を徹底的に追求するオーディオファイルのために用意された特別な機能であり、音場空間の拡がりや奥行きの深さはモノブロック駆動ならではの恩恵である。もちろん、あとからMODEL 10を追加してこの構成が可能になるので、個人的にはまず1台のMODEL 10からスタートしたほうがベターだと思う。

ひとつ注意しておきたいのは、レコードプレーヤーからのフォノケーブル。左右(もしくは縦横)に距離ができることになるので、グラウンド結線にも気を使いたい。

限られた時間だったが、私は自宅でMODEL 10とSACD 10の音を聴くことができた。これは音とは関係ないけれども、オーディオシステムで音楽を楽しむというシチュエーションをゴージャスに演出するのもMODEL 10とSACD 10の画期的なところだ。

電源を投入すると、MODEL 10とSACD 10はフロントパネルを引き立たせるようにイルミネーションが灯り、加えてMODEL 10ではプリアンプの電源部を見せるようにイルミネーションが灯る。

このようにエクステリアまで配慮したオーディオ製品は類例がきわめて少ない。これらは設定で消灯させることもできるのだが、たとえば深夜のリスニングなら部屋の照明を消して、MODEL 10とSACD 10のイルミネーションだけで音楽を楽しむというのもありだろう。

最近は大掛かりなセパレート構成のオーディオから比較的コンパクトなオーディオシステムにシュリンクさせるというケースが増えてきたと聞く。

音質的な水準をハイレベルに高めながらオーディオシステム構成を再考するなら、マランツのリファレンス・インテグレーテッドアンプMODEL 10とリファレンス・SACDプレーヤーSACD 10の組み合わせは理想的な候補になるだろう。

三浦 孝仁

中学時分からオーディオに目覚めて以来のピュアオーディオマニア。1980年代から季刊ステレオサウンド誌を中心にオーディオ評論を行なっている。