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聴かない方が良かったかも。6万円台でR2R DAC搭載、SHANLING「EH2」の実力に頭を抱えた
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2025年2月7日 08:00
つい先日、SHANLINGの据え置きUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「EH1」(34,650円)を体験し、その性能と使い勝手を「こういうのでいいんだよ」と評価した。
筆者の使用環境においては大満足のハイコスパモデルだと思ったし、それは誓って嘘偽りのない感想だ。しかし、現在、その気持ちを揺さぶる事態が起きている。
明らかにスペックがアップした上級機、「EH2」(63,360円)が発表されたのだ。当然、EH1よりは高価だ。だが、資料を眺めていると、「価格差はあるけど、どうせならこっちを選んだ方がいいのでは」という思いが頭を過ぎる。実際、どのくらい音に違いがあるのだろうか。
これは聴かないわけにはいかない。EH2をお借りすると共に、EH1との比較試聴もしてみた。
R2R DAC搭載+アンプと電源強化でパフォーマンスを向上
EH2の大きな特徴は、自社開発の24bit R2R DACを搭載したことだ。
R2R DACというのは、半導体メーカーが作ったDAC ICではなく、抵抗を組み合わせて作るDAC回路のこと。汎用のICを使うより、自社で開発できるため、汎用DACでは到達できない、ブランドとしての目指す音質をより追求できるのが特徴だ。EH2のR2R DACは、0.1%精度を持つ計192個の高精度抵抗で構成されている。
R2R DACはマルチビット方式であるPCMフォーマットを、原理的に変換処理なくデコードできるという特徴を持つ。
こだわりの回路である反面、汎用のDACのチップを採用するよりも、コストがかかる。エントリーモデルのEH1には搭載できないため、EH1はシーラスロジック「CS43198」を搭載していた。
そのため、通常はコストを投入できる、数十万円するようなハイエンドオーディオ機器に使われる事が多い。それと比較すると、63,360円というEH2の価格は、かなりリーズナブルだ。これには、「SHANLINGのR2Rアーキテクチャのコンセプト製品を、より多くのユーザーに聴いてもらいたい」という考えがあったそうだ。
このR2R DACの搭載に伴い、オーバーサンプリングモードも新たに搭載された。オーバーサンプリング処理を行なわない「NOS(Non Over Sampling)」モードと、352.8kHzにオーバーサンプリングする「OS(Over Sampling)」モードを切り替えられる。両モードは好みが分かれることが多いので、その違いについても後で確かめたい。
ヘッドフォンアンプとプリ/ラインアウト回路が個別チューニングされていることにも注目だ。ヘッドフォンアンプ回路はオペアンプ「OPA1612」とトランジスタアンプ「BD139」および「BD140」を組み合わせており、高出力と低歪みの両立を謳っている。
実際、EH1のヘッドフォン出力が4.4mmバランスで1,015mW/32Ω(ハイゲイン・DC給電時)、6.35mmシングルエンドで399mW/32Ω(DC給電時)だったのに比べ、EH2は4.4mmバランスが4,350mW/32Ω(ハイゲイン)、6.35mmシングルエンドが1,280mW/32Ω(ハイゲイン)を確保した。
一方のプリ/ラインアウト回路は、R2R DAC回路ダイレクトアウトとOP1612×2基によるローパスフィルタリング技術と、パナソニック製コンデンサー×4基を採用した回路設計となっており、R2R DACの“旨味”をそのまま出力するとのことだ。アナログ出力としてはRCAおよび4.4mm出力を備え、オーディオアンプやアクティブスピーカーなどと接続できる。
さらに、EH2では電源部にもこだわっている。EH1はUSBバスパワー駆動に対応し、ポテンシャルをフルに発揮するならDC5V電源から給電することを推奨していた。それに対してEH2は、DC12V電源でのみ動作するようになっている。これは、R2R DAC回路のために、十分な電源を確保するためだ。
EH2の電源部は、アナログ回路電源分離設計になっており、アンプ用の電源と、DAC用の電源がセパレート設計として、相互干渉を抑えている。また、DAC用電源部には220μF/25Vコンデンサー・チューニング仕様のSilmic IIを2基使い、音質を高めたそうだ。
付属の電源アダプターにもこだわっている。品質テストとサウンドチューニングテストを通過したものを使うなど、音質を重視した仕様となっている。なお、EH1の付属電源アダプターはL字型でちょっと不便だったのだが、今回はその点も変更されている。
個人的には、新たにBluetoothレシーバー機能を搭載したことも大きい。クアルコム「QCC5125」チップを内蔵し、コーデックはLDACとaptX HDをサポートしている。有線接続ではどうしても近くで操作する必要が生じるが、このBluetooth対応によって音楽再生に“手軽さ”が加わった。
USB DACとしては、XMOSの第三世代USBレシーバーチップ「XU316」を搭載しており、PCM 768kHz/32bit、DSD 512までのハイレゾ音源をサポートする。USB AUDIO 1.0で動作することで、PlayStation 5やNintendo Switchなどコンソール機と接続してゲームを楽しめる「ゲーミングDACモード」も引き続き搭載。背面にUSB-C端子を備えるほか、新たに同軸/光デジタル入力を各1系統装備し、対応力を高めている。
デザインはEH1から踏襲。筐体サイズは横幅(15.6cm)と高さ(3.65cm)はそのままだが、奥行きが6cmほど長くなった。とはいえコンパクトであることに変わりはないので、デスクトップユースにおいても設置に苦労することはなさそうだ。
深みを増したサウンドに驚愕
さて、どれだけ数字が良く見えても、結局のところ重要なのは音質だ。MacBookとSHANLINGのフルサイズヘッドフォン「HW600」を組み合わせて、まずはUSB接続で確認していきたい。
おさらいとして、EH1のサウンドは極めて自然かつ滑らかな「ナチュラル&スムーズ」というもの。ボーカル曲との相性が良く、歌声と楽器隊の描き分けが白眉。どっぷりと楽曲の世界観にのめり込めるチューニングだ。
それを踏まえてEH2を、まずはNOSモードで聴いてみる。こちらをひと言で表現すると、「ナチュラル&ダイナミック」だろう。
まず、S/Nや解像感など、基礎的な音質がパッと聴いたらわかるレベルで向上している。高出力の恩恵か、低域から高域、弱音から強音まで無理を感じさせる部分がまったくない。そして、一音一音に本来付帯しているであろう細やかな余韻が聴こえてくる。これによって、楽曲に奥行きが生まれているのだ。
EH2になって滑らかさが失われたというわけではないが、それよりもこの余裕綽々な鳴らしっぷりが印象に残る。生き生きとした有機的なサウンドが、何度も聴いた音楽の新たな側面に出会わせてくれる。好きな曲を初めて聴いたときに感じた、「この曲めっちゃ良いな」という気分の高揚がまた味わえた。
Mrs.GREEN APPLE「ライラック」では、イントロのリフに厚みが加わり、ベースが振動を伴って響くかのように迫力を増す。爽やかなメロディラインには軽やかなサウンドがマッチしそうなものだが、ダイナミックなサウンドがこれほど魅力を高めてくれるとは。ついイントロを何度もループして胸いっぱいになったが、ここに歌声が乗ると、今度は再生を止めることができなくなった。情報量が増しているのに、ボーカルを引き立てる楽器隊、というボーカル曲の“王道バランス”が保たれている。これはとんでもない気持ち良さだ。
細かな余韻の描写によって豊かな響きが得られているが、そこにわざとらしさは皆無であることも記しておきたい。tuki.「晩餐歌(弾き語りver)」はボーカルとギターだけのアコースティックな楽曲だが、表現力ある歌声に引き込まれるとともに、ふとした瞬間の静けさが耳に残る。無理やり音を響かせるのではなく、音源のありのままをどこまでも自然に再現することで空間性にリアリティを生んでいる印象だ。
ここでオーバーサンプリングモードをNOSモードからOSモードに変更してみる。オーバーサンプリングによるさらなるS/Nの良さと滑らかさを得た代わりに、生々しさともいうべき成分が若干失われる。これはどちらが良い悪いというものではないし、もちろん好みもあるだろうが、EH2をより個性的に感じさせるのはNOSモードのように思う。
アクティブスピーカーとのミニマルシステムも良い感じ
またNOSモードに戻して、今度はクリプトンのアクティブスピーカー「KS-11」との組み合わせでスピーカーリスニングをチェック。接続はRCAアナログ端子から、出力はラインアウトモードで行なった。
あくまでナチュラルサウンドの範囲内ではあるが、ヘッドフォンリスニングよりも骨太さが顔を出す。米津玄師「Plazma」でのハイテンポなエレクトロサウンドが心地よく、ビートを刻む低音は厚みがあるがファットではない。例えるならブルース・リーのように引き締まった肉体に秘められた力強さとでもいうべき、パワフルともまた違ったエネルギッシュなサウンドだ。
その一方で、やはり細やかな余韻が感じられるので、スピーカーらしい伸びやかさも際立つ。劇場アニメ『ルックバック』主題歌のharuka nakamura「Light song」は、柔らかなピアノの音色が透明感ある歌声と混ざって溶けていく様が美しい。そして早速、前言を翻すようだが、この曲はOSモードがマッチすると感じた。普段こういった機能はどちらかに決めてしまうことが多いのだが、音の違いがしっかり出るだけに、有効に活用すべきと痛感した次第だ。
そして新たに搭載されたBluetoothレシーバー機能は、スピーカーリスニングと極めて相性が良い。デスクトップオーディオとしてだけでなく、スマホ再生をメインとしたコンパクトなシステムを組んで、聴きたいときにサッと上質な音楽で部屋を満たすという使い方もオススメだ。
ゲーム機との連携を想定して、テレビ付近の設置も検討の余地がある。スピーカー構成では迫力あるゲーミング体験が可能だし、EH2本体を手元に引っ張ってきてヘッドフォン構成にすればよりクリアにゲーム内のサウンドを聴き分けることができる。
上級機らしく確かに実力がアップしている
今回、EH2を試聴することで、USB DAC/ヘッドフォンアンプという分野においても、オーディオにおけるベーシックなパーツが重要な役割を担っていると再確認できた。堂々たる“格”を感じさせるサウンドが、EH2の上位機としての実力を疑いようのないものにしている。
とはいえ、EH2の登場によってEH1の価値が下がったかというと、もちろんそんなわけはない。EH1のコストパフォーマンスは揺るぎないものがある。EH2は63,360円、EH1が34,650円という値付けで、その差はおよそ3万円。予算が潤沢であればEH2を選べば良さそうだが、そうではない場合は、コスパに優れたEH1を選択肢から外すのは難しい。
EH1でも満足は満足だし、お財布的にもありがたいのだが、EH2は正直かなり良い。これは思い切るべきだろうか。こんなことなら聴かない方が良かったのかもしれない……そう思うほどに贅沢な悩みが生まれた。