ニュース

スマートテレビ標準化に向け「Hybridcast ver.1.0」公開

HTML5準拠/スマホ連携など。'13年末の実用化へ

IPTVフォーラム 技術委員会 主査の関祥行氏

 IPTVフォーラムは29日、放送/通信連携サービスの規格化に関する記者発表会を開催。新たなサービスを可能にするIPTVフォーラム技術仕様について、「放送通信連携システム仕様(ver.1.0)」と「HTML5ブラウザ仕様(ver.1.0)、「事業者間メタデータ運用規定(ver.1.0)」の3つを公開した。

 これらの技術仕様を公開することで、テレビやスマートフォン、タブレットなどの端末において、テレビ放送とWebが連携した多様なアプリケーションの実現や、放送/通信連携を活用した新たなコンテンツの広がりなどを見込んでいる。実用化の時期については「今年末ごろには第1弾のアプリケーションが出てくると期待している」(技術委員会主査を務めるフジテレビの関祥行氏)としている。

 また、今回公開する技術仕様の認知を拡大するため、対応機器であることを明示的に示す名称を「ハイブリッドキャスト(Hybridcast) 技術仕様 ver.1.0」と決定した。これは技術仕様の名称であり、放送サービスなどの名称は別途決められる。Hybridcastは、「Hybrid」に、放送の「Broadcast」と、一対一の通信を示す「Unicast」を組み合わせた造語。これまで、NHKなどの放送事業者も技術説明に使用してきた言葉だが、これが正式名称として使われることになった。

技術仕様の名称は「ハイブリッドキャスト(Hybridcast) 技術仕様 ver.1.0」に
この技術仕様に基づき、新たな放送通信連携サービスの実現を見込んでいる

HTML5準拠、放送信号と連動で動作。メタデータ運用の標準化で情報の充実も

HTML5WG主任を務めるNHKの藤沢寛氏が、放送通信連携システム仕様などを説明

 公開された技術仕様については、それぞれのワーキンググループ(WG)の代表者が説明した。

 「放送通信連携システム仕様(ver.1.0)」(IPTVFJ STD-0010 1.0版)は、テレビ受信機において、テレビ放送と通信ネットワーク上のサービスを連携させるシステムを実現する方式を記述した規定。システム全体のモデルとアプリケーションの動作/種別、受信機の機能などを規定している。標準化により、放送事業者以外の開発者もアプリケーションを制作できる環境を提供。一方で、HTMLアプリケーションの動作範囲を制御することなどで、緊急警報放送時の報道視聴の妨害を回避するなど、「安心・安全」が引き続き提供されることを前提としている。

 ver.1.0において対象となるアプリケーションは、HTML5で記述されたWebコンテンツ。仕様は、W3C(World Wide Web Consortium)による国際標準のHTML5に準拠しつつ、放送サービスに使う場合に足りない部分を拡張することで、放送と通信の連携を可能にするという。

 今回標準化されたのは、放送信号に含まれる起動/終了などの制御信号に基づいて動作する「放送マネージドアプリケーション」。このアプリケーションは、番組と連動した形で動作するが、これとは別に、放送信号に関わらず、署名などで認証され動作する「放送外マネージドアプリケーション」は、次期バージョンでの標準化が見込まれており、規格化時期のメドは約1年後としている。「放送外」の場合、放送局を横断して動作するアプリケーションが実現可能となる。

規格化の前提
仕様書の構成
技術仕様の概要図
アプリケーションの種類の定義
受信機のモデル
端末連携制御のモデル

 「HTML5ブラウザ仕様(ver.1.0)」(IPTVFJ STD-0011 1.0版)は、HTML5対応Webブラウザをテレビ受信機のブラウザとして適用し、放送通信連携の要件に基づいて、HTML5における放送動画の取り扱い方法やAPI拡張などについて記述したもの。スマホ/タブレットなどのセカンドスクリーン機器で、放送に連動したサービスを行なうためのAPIもこの規定に含まれる。

 なお、こうしたHTML5採用の次世代ブラウザは、各放送事業者らの判断により、将来的に現在のデータ放送のBMLブラウザから置き換わっていく可能性もあるが、HTML5WG主任の藤沢寛氏によれば「今はほとんどの受信機にBMLブラウザが入っているので、並行運用になっていくと思う。BMLは放送局にとって慣れていて、運用しやすい。HTML5の方がユーザーにとっては高機能で便利だが、しばらくはBMLの運用も続くだろう」とした。

HTML5ブラウザの主な拡張仕様
仕様書の目次
事業者間メタデータ運用規定などを説明した、プラットフォーム連携WG主任の木谷靖氏(NTTぷらら)

 「事業者間連携メタデータ運用規定(ver.1.0)」(IPTVFJ STD-0012 1.0版)は、放送事業者などのコンテンツ提供者(CP)と、VODなどの映像配信サービス事業者の間で番組コンテンツを円滑に利用できるようにするため、番組関連情報(メタデータ)の運用方法などを定めたもの。メタデータは、タイトル、内容、出演者、映像/音声などの「コンテンツに関する情報」と、VOD/ダウンロードなどの利用形態やPPV/パック販売/セレクト販売/サブスクリプションなどの販売方法や価格、視聴制限情報といった「サービスに関する情報」を規定している。

 プラットフォーム連携WG主任の木谷靖氏によれば、現状のコンテンツ提供者とサービス事業者の間のメタデータ運用は複雑化が進んでいるという。表記やフォーマットなどにはバラつきがあり、一部ではオンラインでのやり取りも行なわれているが、Excelファイルをメールでやりとりしたり、手書きの情報をテープと共に渡すといった運用も残っているという。また、ジャンル分けや検索方法の多様化に伴い、メタデータの情報量が増大。1つのコンテンツやメタデータを出す際に、テレビ以外のスマホ/タブレット、PCのどこまで出せる情報かという“出し分け”についても、共通の仕組みが求められているという。

 同WGでは、放送局がそれぞれ行なっているVOD配信サービスなどを担当する現場の要望を踏まえてガイドラインを策定。メタデータの項目や、文字の長さ/文字列フォーマット、フリガナの運用方法などを定めており、この中には、どこまでを運用想定するかの明確化も行なわれる。例えば、アニメのコンテンツでは通常の番組データだけでなく、キャラクターの名前や、出演する声優の名前などもメタデータに加えることで、キーワード検索の対象になり、活用されやすくなることなどが見込まれる。

 そのほか、PCや携帯端末向けなどの配信サービスや、4K/8Kコンテンツを出す場合といった、将来的な拡張への配慮も含まれている。

メタデータ運用の現状
ver.1.0の仕様や運用ガイドライン
事業者間連携メタデータ運用規定の目次

4K8Kとのジョイントに期待

総務省大臣官房審議官の南俊行氏

 現在、総務大臣主宰の「ICT成長戦略会議」において、放送サービスの高度化に関する新たな産業創出戦略が検討中。また、総務省「放送サービスの高度化に関する検討会」では、スマートテレビを「日本を元気にする成長戦略の重要分野の一つ」と位置付け、作業グループで議論されている。

 こうした中、IPTVフォーラムではテレビ放送とWebの連携による新たなサービスの実現を目指し、国内外の関係者と議論を進めており、コンテンツや広告などの産業への波及効果も見込まれることから、今回の技術仕様を一般公開することになったとしている。

 登壇した総務省大臣官房審議官の南俊行氏は、「『通信と放送の連携』、『双方向テレビ』などと言われてから久しいが、それを目に見えて実感できるサービスは、紆余曲折あってまだ生まれていないと思う。テレビを高度化するために、4K/8Kという高画質化を進めようという“お家芸”があるが、きれいになるだけでは物足りないという視聴者もいる。“テレビを面白くする”観点からも、放送リソースを活用した新しい技術仕様が必要。テレビとスマホがシームレスに連携することで、想像していなかったアプリケーション、サービスが誕生し、国民のライフスタイルを変えていくポテンシャルを秘めている。規格化は1年以上に渡る関係者の努力で実現したが、これが技術規格だけに留まると残念。今回が一つの大きな弾みとなって、我々としては一日も早く実用化していただきたい。4K8Kの実用化の流れとうまくジョイントしていくことを、これからもお願いしたい」と述べた。

IPTVフォーラム理事長の村井純氏

 IPTVフォーラムの理事長を務める慶應義塾大学の村井純教授からのビデオメッセージも寄せられた。村井氏はビデオの中で「放送がデジタル化されたことと、充実したインターネット環境があることの2つが一緒になって何ができるかに取り組む必要がある。今回の規格は、こういったことをどう実現するかという具体的な答え」と説明。また、「放送は、我々の生活する時間と共に流れていく。インターネットは、それとは独立したデータや映像などのやり取りが自由に世界中でできる。役割が違う2つが一緒になり、1つの力になることは楽しみ。放送は一日の生活と共にあり、それがいろんな意味や価値を持っている。(標準化をきっかけに)自由なプラットフォームを作っていくことが、この規格の魅力」と語った。

サービス事例として、2012年のNHK技研公開でも展示されたアプリケーションの一部を紹介。番組関連情報をテレビ画面上に表示できるものや、スマホ/タブレットを使って番組のクイズに答え、成績を確認したり、SNSの友人と一緒にスポーツ中継を楽しむといった例を挙げている

(中林暁)