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ヤマハ新世代フラッグシップスピーカー「NS-5000」が完成。全国で試聴会

 ヤマハが、7月下旬の発売を予定しているフロア型スピーカーのハイエンドモデル「NS-5000」。その最終的な音を披露するイベントが3日、マスコミ向けに開催された。価格は1台75万円。ペアでの販売となる。スタンドの「SPS-5000」も1台75,000円で同日発売する。

NS-5000

 製品自体は昨年の9月に発表されていたが、その後「2015東京インターナショナルオーディオショウ」などのイベントや、全国のオーディオ専門店での試聴イベントに出展。ユーザーの意見も取り入れながらチューニングを行ない、完成度に磨きをかけており、発売を前に、そのブラッシュアップされたサウンドを披露するイベントとして開催された。

 ヤマハミュージックジャパン AV・流通営業本部の岡田豊本部長は、型番に“NS”がついた第1号モデルが50年近く前の1968年に誕生した事を紹介。「NSとは“ナチュラルサウンド”の略で、ヤマハオーディオの基本思想として承継してきた。NS-5000の開発がスタートしたのは2008年。従来の枠にとらわれない技術や素材を投入し、新しい時代のナチュラルサウンドとして、ヤマハの新しい“標準機”として開発した。開発期間の長さも異例だが、プロセスも異例だった」と語り、多くのユーザーに意見を直接聞き、それを反映させた経緯を振り返った。

AV・流通営業本部の岡田豊本部長

Zylonを全ユニットの振動板に

 NS-5000最大の特徴は、ベリリウムに匹敵する音速を持ち、現存する有機繊維の中で世界一の強度と理想的な弾性率を持つという素材「Zylon(ザイロン)」を振動板に採用している事。3ウェイ3スピーカー構成だが、ユニットの全てにZylonを使う事で、全帯域の音色、音速を統一している。

 Zylonは、東洋紡が開発した高い強度と難燃性を備えた繊維で、650度までの耐熱性能を備え、「直径1.5mmのZylonの糸で、900kgの軽自動車を吊り上げられるほど引張強度も強い。ケブラーの倍くらいの強度がある」(企画室 広報 安井信二氏)という。その特性から、消防服や耐熱服、卓球やテニスのラケット、スノーボード、ライダースーツ、レーシングカーなど様々な用途に活用されている。

Zylonの特徴を示す実験
各ユニットに与えられた型番

 この繊維を編んでスピーカーの振動板としている。Zylon自体は金色の繊維だが、ユニットが動くとカサカサと繊維同士が擦れる音が出るため、振動板の表面にはイオン化させたモネル合金を真空蒸着させて、薄膜を形成。シルバーに見えるのは、モネル合金の色となる。

 「Zylonは2種類あり、開発当初は硬いものを使っていたが、固有の付帯音が聴こえてしまった。そこでレギュラータイプの少しやわらかいものを使っている」(安井氏)という。ユニットサイズはツイータが3cm径のドーム型、ミッドレンジが8cm径、ウーファは30cm径。磁気回路はフェライト。再生周波数帯域は23Hz~40kHzで、クロスオーバー周波数は750Hz、4.5kHz。

 安井氏はユニットサイズについて、「自然な音というのは、音場感、臨場感がキチッと再生できること。バッフルの影響が少ないという面でも、ミッドレンジユニットはやはりコーン型よりドーム型が良いと考えた。ユニットを金型成型できる最大のサイズが8cmなので、ミッドが8cmに決まり、それを中心にツイータ、ウーファのサイズが決まっていった。市場にはダブルウーファの製品も多いが、取り付けた位置によって2つのユニットが同じような動きをしなくなる問題もある。やはり30cmのシングルでやろうと決まった」と振り返った。

ミッドレンジはドーム型

懐かしさも漂うエンクロージャ形状の秘密

 エンクロージャは懐かしさも感じる、非常にオーソドックスな箱型だ。150万円のハイエンドスピーカーと考えると、市場にはもっと個性的で、有機的な形状のスピーカーが沢山あり、NS-5000のデザインは逆に異質に見える。しかし、これには定在波への対策という大きな意味がある。

 安井氏によれば、「複雑な形状のエンクロージャは、内部の定在波も複雑になり、対処も難しくなる。逆にシンプルな形状であれば、定在波も特定の帯域に出るシンプルなものになり、対策もしやすい」という考え方がベースにあるという。

 デザイン的にはレトロだが、最新のコンピューター解析でエンクロージャ共通性認識を行ない、定在波に対応。“J”のような形の新型共鳴管「アコースティックアブソーバー」を内部の両サイドに内蔵。定在波を吸音させつつ、音の活き活きさを損なってしまう吸音材を最小限に抑えている。

赤い側面の部分がアコースティックアブソーバー
効果の比較

 エンクロージャの振動や動きもレーザーで細かく測定。フロントバッフルの裏の隅に2本の隅木を配置。7本の補強桟も配置し、箱から発生する共振ノイズも排除している。

 ユニットの背後には、特許を出願しているR.S.チャンバー(R.S.=レゾナンス・サプレッション)を搭載。2本の特殊形状管で構成されており、共鳴を抑制。通常のチャンバーは内部に吸音材を充填するが、このチャンバーには最小限の吸音材しか入っておらず、暗くこもった音になるのを防いでいる。

R.S.チャンバーの形状と、効果の比較

 なお、箱型のエンクロージャでは、バッフルなどに音が反射する回折現象が問題となるが、NS-5000はユニット周囲のリングパーツや、ツイータの取り付け位置を僅かに奥まった位置にするといった工夫でこれに対応。3個のユニット配置もコンピューターシミュレーションで導き出されている。

 素材には、北海道産の白樺材積層合板を採用。バッフル面は19層で29.5mm、他5面は13層で20mm。これを三方留めで固定。接合部の強度をアップさせている。

 表面は、ヤマハのグランドピアノと同じピアノ専用塗料と下地材、研磨工程による黒鏡面ピアノフィニッシュを施し、表面強度を向上させた。「突板ではなく、塗装の方が塗膜が厚くなるので、箱鳴きが少なくなる」(安井氏)という。

 ネットワークは基板の両面に銅箔パターンを配置し、配線を最短化。銅箔の厚みも通常の4倍として、電流を流れやすくしている。内部配線材は、PC-Triple C導体を使用した。

ネットワーク部分

 リアバスレフで、ポートは背面の上方に配置。風切り音を低減させる、ツイステッド・フレア形状のポートを採用している。スピーカーターミナルは真鍮切削タイプ。前述のように、同じ素材で全ユニットを統一し、音色、音速を統一しているため、あえてバイワイヤリングには対応せず、シングルワイヤリングとなっている。インピーダンスは6Ω。外形寸法は395×381×690mm(幅×奥行き×高さ)、重量は35kg。

音を聴いてみる

 昨年の製品発表時に、試聴した印象をレポートした。だが、この際のスピーカーは、様々なイベントや試聴会に出展し、ブラッシュアップされる前の段階。今回のイベントでは、最終的な音を聴く事ができた。

 非常にハイスピードで、色付けが無く、クリアで気持ちの良い音だ。音の立ち上がりの良いスピーカーは他にも存在するが、ズバッと出た音が、同じようなスピードでスッとここまで綺麗に消えるスピーカーは聴いたことがない。

 ビッグバンド・ジャズのマンハッタン・ジャズ・オーケストラが、吹き付けてくるような音圧豊かなサウンドを奏でても、個々の楽器の音の輪郭が非常にシャープ。トランペットやサックス、ホーンなどのズバッと出た音が、スッと消え、余韻が溶けていく様子が克明に見える。強い音が次々と繰り出されている中でも、そうした細かな描写がボヤけず、細かく描写されるのは驚異的だ。

 アデルのアルバム「25」の5曲目「REMEDY」や、シャンティの「ララバイ」など、女性ヴォーカルでは、口の開閉や、声帯とお腹の位置関係なども感じられるほどのリアリティがある。昨年聴いた際は、ちょっと音が硬めで、女性ヴォーカルからもっと艶やかさや、体温を感じさせて欲しいと思ったが、今回の最終版ではその“硬さ”が無くなり、極めて自然な音になった。

 安井氏によれば、ネットワークの調整や、内部配線材をPC-Triple C導体に変えた事に加え、ネットワークや、ユニットのエッジの固定に使っている接着剤の量を必要最低限に少なくした事などで、こうした変化があったという。

 ハイエンドスピーカーというと、各メーカーの個性が持ち味、その好き嫌いで選ぶという面もあるが、色付けや固有のキャラクターを排したNS-5000は、そうした“個性が無いのが個性”という印象を持つ。ハイスピードで描写が細かく、ソースのサウンドを色付けなく再生するので、録音の良し悪しが克明にわかる。組み合わせるアンプなど、コンポの素性も良くわかるスピーカーと言えそうだ。だからこそ、使いこなした時には、今までにない世界を体験させてくれるモデルになるだろう。

安井氏とNS-5000

試聴イベントも続々

 今後は4月から10月にかけ、全国20カ所でNS-5000の試聴会を開催予定。6月4~5日は仙台の仙台のだや、6月11日には大阪のシマムセンといったスケジュールで、詳細はNS-5000スペシャルサイトのイベントページに記載されている。

全国で試聴イベントを開催

 また、発売記念キャンペーンとして、購入・成約者にサエクのスピーカーケーブル「SPC-850」(3.5m×2本)がプレゼントされる(約6万円相当)。NS-5000の内部線材と同じPC-Triple Cを使っている。

サエクのスピーカーケーブル「SPC-850」