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ドラマ制作が4Kで変わること。BSテレ東の放送設備公開、4Kのメリット&課題

12月1日からの新4K8K衛星放送の開始まで約20日となり、4Kチャンネルの放送局における放送システムや運用の準備も佳境を迎えている。そうした中、A-PAB(放送サービス高度化推進協会)は報道関係者を対象に、放送開始間近の各社の状況などを紹介する見学会を開催。BSテレビ東京(BSテレ東)などの4K制作設備を公開し、担当者が4K制作ならではの取り組みや課題などを語った。

テレビ東京/BSテレ東

4K制作環境が進むBSテレ東。HDから4K移行への課題とは?

テレビ東京/BSテレ東は、2016年に現在の六本木社屋へ移転した時に、カメラやスイッチャーなどが4K対応の“4K Ready”スタジオを整備。2018年8月に、4K収録もできる4K対応スタジオに改修した。

4K対応のサブコントロールルーム

BSテレ東(チャンネル番号7)では、12月1日に4K制作ドラマの浅田次郎「プリズンホテル」(田中直樹、柄本明ほか出演/1日11時30分~)一挙放送や、日経ドラマスペシャル「琥珀の夢」(内野聖陽主演/1日19時~)、「いい旅・夢気分スペシャル~4K映像でめぐる感動の大絶景~」(2日18時~)などの4K制作番組を予定。1日26時からは、4K独自で通販番組も放送する。

12月の基本編成としては、22時~の「日経プラス10」や、土曜ドラマ9「サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻」(栗山千明主演)などの4K制作番組を放送。23時からの「ワールドビジネスサテライト」(WBS)などのHD制作番組は、基本的に全て4KのHDRにアップコンバートされ、HLG(ハイブリッドログガンマ)方式によりHDR対応テレビではHDR、HDR非対応テレビではSDR画質となる。

新たに公開された2019年1月の基本編成案では、朝5時25分~の「早起き日経+FT」や、7時5分~の「日経モーニングプラス」、特選火曜ドラマ「池波正太郎時代劇 光と影」(火曜20時~)なども4K制作番組。

一方、1月編成表によればアニメについては基本的にHD制作で、「アイカツフレンズ!」(月曜15時~)や、「BORUTO-ボルト-NARUTO NEXT GENERATIONS」(火曜24時30分~)なども、4K制作ではなくHDからのアップコンバートになる。

4K対応スタジオのうち、地上波で朝の「おはスタ」や夕方の「青春高校3年C組」などの撮影に使われている六本木第2スタジオには、ソニー製4KカメラのHDC-4300などを6式、レンズはHDレンズを使用している。照明はLEDで省エネ化している。第2スタジオよりも広いスペースの第1スタジオも4K対応。現状はカメラからHD出力しているが、今後4K出力となる予定。

第1スタジオ

テロップ素材は、CGセンターで一括で作られたHD信号を使用。4K制作時にアップコンバートして使用する。4Kスーパーは8chまで対応する。

4K/HDのサイマル製作にも対応し、BS4Kマスターにはピュア4K信号を、地上/BSマスターにはダウンコンバートしたHD信号を送出できる。4K HLG制作の場合、HD/SDR素材は4K HLGにアップコンバートして混在運用できる。SDR/HLGの変換は、ARIB規格のTR-B43に準じる。BS4KはHLG、地上/BS2KはHD SDRといった運用が行なえる。

サブコントロールルームのモニターで、4K HDR(右)と2K SDR(左)を並べて表示

BS4K開始にあたり、4K/2Kの多重化や、2K→4Kアップコンバート、SDR→HDR変換など行なう4Kマスター設備も新たに用意。BS4KマスターはNEC製で、ベースバンド系は完全2重化した一気通貫システム(現在の地上波は3重化)。

4Kマスターの設備

ベースバンドは12G-SDI。多重系はMMT/TLV方式。音声は7.1chに対応する。映像ダイナミックレンジ/色域は、必要に応じてシステム内で変換が可能。4Kモニターも設置予定。

なお、在京5社のBS局では、短期間で設備を整えることと、初期投資を抑えるために、4Kマスターは共通仕様をベースとして、各社個別の仕様を追加しているという。担当者によれば、4K制作にあたり課題とされるのは、用意される素材が、SDR/HDRや、BT.709/2020色域のものが混在となっていることだという。

正しく変換されたかどうかなど自動チェックするシステムはできているが、アップコンバートやHDR変換などでミスなどがあった場合は目視で判断するのが難しく、最終的な放送の段階で、白飛びや色が強く出すぎるといった問題につながる恐れがあるため、SDRやHDなどの素材が混在する現状では特に配慮が必要とのことだ。

なお、六本木の社屋だけでなく、天王洲と神谷町のスタジオも4K化が進められている。天王洲は4K化の準備が整っており、後は収録設備が整えば対応可能だという。神谷町は第1スタジオが今年度中に4K化への改修を予定しているという。

ドラマ作りは4Kでどう変わる? 制作担当者の苦労とメリット

番組制作現場の声として、BSテレ東で多くの4Kドラマ制作を手掛ける制作局プロデューサーの森田昇氏が、4Kならではのメリットや、課題などを説明した。

BSテレビ東京の制作局 制作部 チーフ・プロデューサー森田昇氏

テレビ東京の制作局で情報番組などを担当した後、ドラマ担当のディレクターとなり、深夜ドラマの先駆けとなった「ドラマ24」を立ち上げ、BSテレ東では深夜0時の連ドラ枠の立ち上げを担当。前述の「浅田次郎 プリズンホテル」や「サイレント・ヴォイス」など、BSで担当したドラマは全て4K制作となっており、SDからHD、HDから4Kへの移り変わりにおけるドラマ制作の違いなどを説明した。

土曜ドラマ9「サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻」

4Kによる画質向上のポイントとして、森田氏は解像度だけでなく「撮影する方法、収録の仕方が変わること」を挙げており、そのメリットが大きいのが現時点ではドラマ制作だという。

具体的には、カメラのレンズを映画と同様にシネレンズを使うことで、被写界深度の浅い映像で奥行き感を表現し、映画のようなボケ感を表せるなど、「昔のテレビでは表現できなかったことが可能になった」という。

また、収録方法がLOGに変わったことも大きいという。撮影現場で色などを決めてしまうのではなく、撮影では多くのデータを撮っておいて、後から「どの色をどう出すか」などを変えられるようになっていることが、表現の幅を広げているとのこと。

撮影の変化

結果として「ドラマは映画的になった。それは単に絵がカッコいいということではなく、被写体をちゃんと細かく映そう、ヌケのある映像もきれいに映したり、逆に映さない部分をつくるなど、メリハリ、奥行き、空気感が出せる」という。

食べ物についていえば、「今まではカタマリだった飯粒が、艶も見えるしおいしそうになる。白い湯気は、1本1本の筋が見えるようになった。おいしいものはおいしく映る」としている。一方で、細かい質感なども重要になるため、例えば銃を撮る場合に、ある小道具を使ったところ鉄ではなく樹脂製なことが4Kのクローズアップ映像で分かってしまい“凶器である”質感が出なかったという。

食べ物の表現なども向上

カメラ以外については「照明も大変だが、機材も良く、小さくなって、暗いところでも撮れる技術が革新されている。大所帯で撮っていた映画と同じようなクオリティで、コンパクトなスタッフと最新機材で撮れる」とした。

「HDに比べて編集時間がかかる」という課題については、作品などによって違いはあるものの、現状では1話あたりHDの2倍以上はかかっているという。

また、4Kでは“女優の肌が細かい部分までよく見える”ことの良し悪しがよく語られるが、演者の汗もピントが合うとよく見えることから、森田氏は今まで以上に撮影現場の温度なども気にするようになったとのこと。そうした細かい気づかいで“汗がジワリと出る”など表現の幅が広がったことも、作品のクオリティ向上につながっているという。

4K制作のメリットとデメリット

12月から放送されるドラマ「サイレント・ヴォイス」にもクローズアップ撮影を多用しており、「微妙な顔の動きで顔で心を読むのが上手な、栗山千明さんの魅力がさく裂している」(森田氏)。

奥行き感の表現が変わったことで、ストーリーや演出にも大きな変化があり、例えば「セリフが無くたたずんでいる2人だけでストーリーをどう立てるか」を演出するなど、表現が大きく変わったとのことだ。

「サイレント・ヴォイス」出演の栗山千明
津田寛治の汗の細かさまで4Kで分かるという