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NHK、スマホ向け受信料制度は「大変難しい」。Netflix広告は「停止中」

日本放送協会(NHK)は25日、同社が展開するインターネットサービスに関する説明会を実施。その中で、テレビ受像機を持っていなくても「NHKプラス」を登録・視聴できるようなスマホ・パソコン向けの受信料制度を新しく立ち上げるのは「大変難しい状況」との見解を示した。

また、NetflixでNHKコンテンツにCMが流れていた問題については「CMが停止中」であること、そして特に新聞協会から指摘のあった“理解増進情報の拡大解釈”について、「そのような評価を我々自身はしておらず、(見直しは)考えていない」と説明した。

NHKのインターネット活用業務について

現在NHKは、電波を使ったテレビやラジオ番組の放送に加えて、「NHKプラス」での放送同時・見逃し配信、「NHKオンデマンド」によるアーカイブ配信、「NHK NEWSWEB」などのポータルサイト運営、「NHKニュース・防災」アプリの提供など、通信回線を使った様々なネットコンテンツ・サービスを展開している。

公共放送ワーキンググループ(第1回)配布資料。「公共放送の現状について」より

これら業務は“インターネット活用業務”と呼ばれている。従来NHKが行なってきた放送(必須業務または本来業務)を補完する“任意業務”として、放送法で認められているものだ。

ネット活用業務で扱えるコンテンツは、「(放送した、または放送する)番組」と「番組理解に役立つ情報(編集上必要な資料その他、番組の理解の増進に資する資料)」の2つに制限されており、前述した各種サービスも、これら条件の範囲内で行なわれている。

公共放送ワーキンググループ(第1回)配布資料。「公共放送の現状について」より

サービスの実施に当たっては、事前に総務大臣の認可が必要。条件として、以下の6項が認可要件として定められている。

  • 1:NHKの目的(放送法第15条)の達成に資するものであること
  • 2:業務の種類・内容・実施方法が適正かつ明確に定められていること
  • 3:業務の種類・内容・実施方法、第二号の業務(BtoC提供)に関する料金その他の提供条件に関する事項が、受信料制度の趣旨に照らして、不適切なものでないこと
  • 4:業務の実施に過大な費用を要するものでないこと
  • 5:第二号の業務(BtoC提供)にあっては、特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと
  • 6:第二号の業務(BtoC提供)にあっては、利用者の利益を不当に害するものでないこと

NHKプラスを利用する際に、受信契約を確認する認証の仕組みも、上の3項目目にある“受信料制度の趣旨に照らして、不適切でないもの”との要件に則って設けられている。

財源にも取り決めがある。NHKが直接視聴者に提供(BtoC)する「NHKプラス」や「NHKニュース・防災」、「NHK for School」、社会実証などは上限200億円。災害等の緊急時に提供する情報や「NHKワールド・プレミアム」など(BtoBtoC)は上限1億円で、いずれも受信料が財源として充てられている。一方、有料のアーカイブ配信である「NHKオンデマンド」(BtoC)や、Netflixなどの外部配信事業者への番組販売(BtoBtoC)は特別勘定(サービス収入の範囲内で実施)となっており、ここには受信料は使われていない。

公共放送ワーキンググループにおけるプレゼンについて

活用業務の概要と合わせ、24日に実施した総務省「公共放送ワーキンググループ(第3回)」におけるNHKのプレゼン内容についても、説明が行なわれた。

既報の通り、公共放送ワーキンググループは、放送の将来像や制度の在り方を話し合う「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」(デジ検)の下に、設置された有識者会議。

デジ検は今年7月、「インターネット空間では、フィルターバブルやエコーチェンバー、フェイクニュースといった社会問題も顕在化する中、情報空間全体におけるインフォメーション・ヘルスの確保の観点から、取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、『知る自由』の保障、『社会の基本情報』の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進といった放送コンテンツの価値をインターネット空間にも浸透させていくことがこれまで以上に重要になる」との取りまとめを発表。

これを受ける形で、“公共放送であるNHKが情報空間の中でどのような役割を果たすべきか?”等を議論する場として、ワーキンググループが設けられることになった。

現在は3回目の会議が終わったところで、来年5月頃までに意見交換を重ねたあと内容を集約。意見募集を行ない、その結果を親会に報告することになっている。

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公共放送ワーキンググループ(第1回)配布資料。「公共放送ワーキンググループについて」より

24日に開催されたワーキンググループの第3回会合では、NHK、民放連、新聞協会の3者が参加。

民放連と新聞協会は、NHKのネット活用業務の更なる拡大に懸念と規律の必要性を訴えた一方、NHKは視聴者・国民に寄与できること、すべきこととして、「情報空間の参照点の提供」(正確で公平・公正な、軸となるべき情報の提供)と「多元性の確保への貢献」(新聞、民放などが互いに切磋琢磨しながら情報の信頼性を高める、多様な論説を持ち民主主義の根幹を担保等)を挙げ、NHKの役割と意義を調査データと共に説明した。

これについて、経営企画局長の吉野氏は「“ひとりNHKの話ではない”というのが、我々が考える大前提。情報空間全体におけるNHKという、相対的な視点が必要なのではないか。NHK単独でこうあるべきだ、という考え方ではなく、情報空間にすでに出ている様々なプレーヤーの存在を含めて、情報空間全体の状況を見渡して、その中で公共放送であるNHKがどのように振る舞うべきか? そして、NHKが何を役割として担うべきか? ということを議論するのが、ワーキンググループの今後の論点に必要なのではないか、という我々の考えを調査結果を基に説明させて頂いた」と話す。

公共放送ワーキンググループ(第3回)配布資料。「日本放送協会提出資料」より

スマホ・PC向けの受信料制度を新しく立ち上げるのは大変難しい状況

説明会での、主な質問と回答(文書回答含む)は以下の通り。

――NHKプラスについて伺いたい。現状サービスを受けるには、テレビ受像機と受信契約が必要。例えば今後「スマホやパソコンだけ持っていてテレビを持っていないがサービスを受けたい」というような事例が出てくることは想定しているか。また、いわゆるネット受信料は考えていないとのことだが、改めて考えを聞きたい。

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NHK:実はすでに「テレビはないけど、スマホでNHKプラスを利用したい」という声があることは、我々も認識している。ただ、残念ながら今の受信料制度では、それに応える術がない。公共放送ワーキンググループの初回においても、「スマホを持っている方から、即受信料が取れるかどうかは考えるべきでない」との指摘もあり、現時点でそういった方々へのサービスを提供できるような受信料制度を新しく立ち上げるのは大変難しい状況にある。

我々としては、できるだけ多くの方々にNHKのサービスを提供したいと考えているが、それが視聴者や国民の納得・理解を得られるカタチでできるかどうか、ワーキンググループでの議論を見据えながらNHKとして検討を重ねていきたいと考えている。

公共放送ワーキンググループ(第3回)配布資料。「日本放送協会提出資料」より

――NHKのインターネット活用業務の幅が拡がってきた経緯について尋ねたい。これまで何度かの放送法改正が行なわれてきたが、サービス拡大のそもそものきっかけは、総務省の会議や大臣等の要請によるものなのか? それともNHK側からの働きかけによるものなのか?

NHK:直近で言えば、NHKプラスにおける常時配信サービスなどは、NHK側からはっきりと要望を伝え実現した例になる。我々の希望がそのまま法改正になる訳ではなく、あくまで社会の要請に基づき、総務省の有識者会議のような場で要望を説明し、会議で議論していただき、その結論を踏まえて改正されるか否かというプロセスだ。一概には申し上げ難いが、大きな改正に関してはNHK側からの提案や要望が発端にあり、会議で議論され動いたものが多い、という認識をしてもらえればと思う。

――Netflixの広告付きプランにおいて、NHK提供番組にCMがついている件について。一部報道では、コンテンツの配信停止を要求した、とあったが、現状はどうなっているのか。

NHK:11月16日の水曜日に、Netflixから「番組から一時的に広告表示を外す」旨の連絡を受けた。現在Netflixにおいて、NHKの番組は引き続き提供中だが、広告は表示されない形になっている。実施基準にきちんと沿うような形にしてほしいという我々の要請を踏まえ、協議を継続している段階だ。

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――放送以上にインターネットの影響力が大きくなる一方、放送法の規制であったり、民業圧迫やスリム化といった世論の厳しい声もある。NHKとして、今後インターネット活用業務をどのようにしていきたいのか。

NHK:先日のワーキンググループで話したスタンスと重なるが、このインターネット活用業務に関しては、基本的にNHKがこうしたいとか、NHKがこうでありたいとか、ということではなく、NHKに対する社会の要請がどうか? ということが大前提になる話だろうと考えている。我々がやりたいことを国民に勝手に押し付けるということではなく、NHKに求められる役割、期待されることにしっかり応えていくことが我々のスタンスだ。

NHKとしては、様々な調査や視聴者の方々の声に耳をかたむけながらすくい上げ、それが世の中、社会的に理解をいただけるという範囲において、インターネット活用業務を進めていきたい。

もちろん、我々のサービスを一人でも多くの方々に届くようにという気持ちはあるし、それがテレビだけでは伝わっていかない時代だという認識もある。インターネットを通じて我々の価値を届けていきたいという考えに変わりはないが、あくまで国民・視聴者の方々が求めることであれば、というのが大前提。こうしたスタンスでインターネット活用業務に向き合っていきたいと思っているし、逆にそうでなければ、先日民放連や新聞協会から指摘されたような、民業圧迫であったり公正競争が阻害されるというようなご批判にも応えていけないと思っている。

――先日行なわれたワーキンググループのヒアリングにおいて、民放連や新聞協会から「理解増進情報」に関して、拡大解釈することがないように等の指摘があった。解釈の見直し等など、どのように考えているか。

NHK:我々が行なっているインターネット活用業務は、放送の補完する任意業務であり、放送の理解の増進に資するものという建付けで情報を提供している。

指摘のあった“いたずらに拡大解釈されることがあってはならない”という考えについては我々も異論はない。理解増進の目的を外れているという指摘があれば、その都度検討していきたいとも思っている。しかし、現時点で我々が行なっているインターネット活用業務が理解増進情報を逸脱している、というような評価は我々自身はしておらず、見直す可能性があるかということでいえば、現時点では考えていない。

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――NHKプラスの仕様を改めて教えて欲しい。

NHK:NHKプラスは、PC・スマホとテレビアプリの2種類がある。PC・スマホは、映像が最大960×540(1.5Mbps)、プログレッシブ、29.97fps、BT709(SDR)、H.264。音声が2ch、48kHz/16bit、AACとなっており、同時配信と見逃し番組配信を実施している。

テレビアプリは、映像が最大1,920×1,080(6Mbps)、プログレッシブ、29.97fps、BT709(SDR)、H.264。音声が2ch、48kHz/16bit、AACで、見逃し番組配信のみ実施している。

――NHKプラスでのBS番組の取り扱い、地方番組の拡大や同時配信、4KやHDRでの配信等については、どのように考えているか。

NHK:地方向け放送番組の見逃し番組配信「ご当地プラス」では、10月3日から、関東甲信越の6つの放送局と、関西の5つの放送局について、午後6時台のニュースの配信を開始した。以前から配信している札幌・仙台・首都圏・大阪・名古屋・広島・松山・福岡の各局のニュースとあわせ19局となっており、来春以降、さらに拡大する予定だ。

また、上記以外の局を含めて、各地域局が金曜午後7時台などに放送している番組についても、適宜、見逃し番組配信を行なっている。

なお、地方向け放送番組の「同時配信」や、衛星放送番組の配信、それに4K画質・HDRでの配信には様々な課題がある。

地方向け放送番組の配信は放送法が定める努力義務であることや、NHKプラスの拡充については利用者の方々から様々なご意見・ご要望をいただいていることを踏まえ、技術の進展、費用・運用の負担などを見極めながら、今後の課題として検討していきたい。

NHKプラス登録数が300万突破。サービス開始から2年半

――テレビ向けアプリでの「同時配信」については、どのように考えているか。

NHK:テレビ受信機では一般的に放送の視聴が可能であることから、現時点でテレビ向けアプリでの同時配信は考えていない。

また、同時配信は放送に比べ遅延が避けられないほか、権利が確保できない、いわゆる「フタ」かぶせが行なわれる番組もある。放送では遅延なく、すべての番組が視聴可能なので、ぜひ放送で視聴していただきたいと考えている。

――NHKプラスは認証の上、サービスを開放しているが、利用者からどのようなデータを取っているか? またそのデータは、サービスの改善や運用等にどのように生かしているのか?

NHK:NHKプラスでは、放送受信契約の確認や、利用の際の手続きの確認等の目的で、契約者の氏名や住所、メールアドレスなどを入力して頂いている。その際には「NHKプラス利用申込みに関するプライバシーノーティス」という文書を表示し、取り扱うパーソナルデータの種類や利用目的について確認して頂いている。

また、番組の視聴のされ方等の把握・分析やサービス改善等を目的に、特定の個人を識別しない形で、視聴者非特定視聴履歴視聴された放送番組やその日時)や、利用環境などの情報を機械的に取得することがある。それぞれの利用目的は、「NHKプラス プライバシーノーティス」を表示し、確認していただいている。

機械的に取得したパーソナルデータに関しては、ツールを用いて統計的に分析し、例えば目当ての番組に直感的に到達できる導線になっているか、あまり使われていないボタンはないか、といったサイト・アプリのUIの課題を日々洗い出した上で、アップデートでの改善に役立てている。

なお、機械的に取得するパーソナルデータの全部または一部について、その取得の停止や削除をアプリやウェブサイトの「設定」ボタン内にある「パーソナルデータの送信設定(オプトアウト)」にて行なうことができる。また受信契約者情報は、サービス改善等の目的では利用していない。