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「NHKのネット活用業務」めぐり懸念示す。民放連、新聞協会
2022年11月25日 00:00
総務省は24日、NHKのインターネット活用業務を検討する「公共放送ワーキンググループ」を開催し、関係者から意見をヒアリングした。日本民間連盟と日本新聞協会は、公正競争を阻害する恐れがあるとし、業務の更なる拡大や、ネット活用業務の「必須(本来)業務化ありき」の議論に対し懸念を表明。ネット業務には、ある程度の規律が必要と訴えた。
公共放送ワーキンググループは今年9月、放送の将来像や制度の在り方を話し合う「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の下に、設置された有識者会議。
総務省、公共放送ワーキンググループ設置。NHK“ネット受信料”も議論
24日に開催された第3回会合では、NHK、民放連、新聞協会の3者が参加。放送法第20条第2項で“任意業務”として定められている、NHKのインターネット活用業務に関し、3者から意見の聴取を行なった。
NHK:伝統メディアはネットでの品質確保に貢献することが期待されている
NHKは、現在進めている“三位一体改革”の取り組みや、ネットサービスの利用実態や評価を説明。NHKオンラインは2021年度に3,300万UBを超えるなど順調に推移しており、公共放送としての価値評価に加え、“いつでもどこでも見られる”との評価が高いなど、利用者の受け止め等を話した。
また、パーソナライズ機能による情報取得の過度な偏りや基本的情報の不足など、ネット社会特有の課題についても言及。
NHKや民放、新聞といった伝統メディアはネットにおける品質確保に貢献することが期待されており、ネットの課題も含めて対応するためにもNHK単体の議論ではなく、デジタルプラットフォーム事業者も含めて、情報空間全体での在り方を考えていくことが求められているのではないか、と意見を述べた。
今年実施した“テレビ非保有者を対象とした社会実証”のアンケートにおいても、情報空間におけるNHKの意義や存在価値に対し7割程度の有用性を確認したと説明。テレビ非保有者と想定される方から、「NHKプラスを登録/利用したいがテレビを持っていないため受信契約ができない」等の問い合わせがあったことや、SNSでの書き込み等が少なくないとし、「テレビ非保有者の要望が観察できる」と分析した。
会議で議論に上がっていた“ネット活用時の規律”については、様々な論点があるとしながら、「独立性」等を担保したうえで検討すべきで、「公共放送のネット活用で先行する欧州の事例を参照にすることを考えてもよいのではないか」との考えを示した。
民放連:公正競争を阻害しないための取り組みが必要
民放連は、「NHKの業務範囲は原則法律で規定すべき」「具体的なサービスの可否を客観的に判断する仕組みが必要」「NHKがネットに進出することで、他のメディアの存在が脅かされることになれば、情報空間全体としてプラスにならず本末転倒」などと話した構成員の意見に賛同。
公正競争を阻害しないために、例えば「放送番組の『理解増進情報』を拡大解釈しない」「ネットオリジナルコンテンツの制作・配信はしない」「広告収入を得ない」「予算に厳格な歯止めを設ける」などの取り組みが最低限必要である、との見解を述べた。
加えて、ネット活用業務の“必須(本来)業務化”を牽制。「検討しているのであれば、その趣旨や業務内容を具体的に説明していただきたい。そのうえで、関係する民間事業者や視聴者・国民の意見を広く聴取し、丁寧な議論を行っていただきたい」とした。
またネット活用業務の財源と受信料制度にも触れ、「必須(本来)業務化について検討するのであれば、財源および受信料徴収の問題をしっかりと議論し、結論を得ていく必要がある」「PCやスマートフォンを保有するだけでは受信料を課さないことをもって、テレビ受信機に紐づく従来の受信料制度との整合性や、負担の公平性などの議論を先送りしてはならない」と話した。
新聞協会:公共放送の役割についての国民的な議論を
新聞協会は、NHKのネット活用業務に割り当てられている予算200億円が多いことを指摘。
「NHKの受信料はそもそも公共放送を維持・運営するために独占的に徴収権を与えられている『特殊な負担金』であり、年間収入は約6,800億円('21年度)。インターネット業務はあくまで『放送の補完』との位置付けでありながら、予算上限は200億円にのぼっている」
「新聞・通信社は広告収入や課金型モデルなど収支を勘案し、経営努力を積み重ねながら、ネット空間でも取材に裏打ちされた質の高い報道とサービスを早くから提供してきた。200億円というNHKのネット予算の上限は、すでに、新聞・通信社単独のデジタル事業の予算を大きく上回っている。ネット事業が本来業務に格上げされた場合、予算の歯止めすらなくなる可能性があり、事業が継続できなくなるメディアも出てきかねない」と意見した。
また、NHKが提供できるコンテンツの範囲として放送法で定められている「理解増進情報」の解釈についても考えを表明。
「NHKは放送番組の『理解の増進に資する情報』との名目でネットコンテンツを展開しており、なし崩し的な業務拡大の一因となっている。『NHK NEWS WEB』や『NHKニュース防災』アプリはコンテンツの内容や訪問者数を見る限りその存在感は大きく、デジタルサービスでの有料会員や広告収入獲得を目指す新聞・通信社と競合している」
「NHKが配信した記事が検索サービス上で上位に表示されるなど、ウェブ上にニュースを配信する以上、本質的には民間報道機関への影響は避けられないのではないか。ニュースを深掘りして解説するようなインターネットでのオリジナルコンテンツを展開している事例も散見される。民間ならば有料にしなければ採算が合わないものばかりだ。すでに外部のプラットフォームを通じてテキスト記事を配信する事例も多くあるが、今後、さらにプラットフォーム事業者と結びつきを強め、配信を拡大することになれば、民間報道機関のデジタル事業が影響を受けるのは明らかだ」
「インターネット業務は『放送の補完』であるにもかかわらず、すでに動画やテキストコンテンツ、アプリなどさまざまな形態で広がっている。今後、法的な位置付けを変えて、際限なく拡大することを危惧する」などと見解を述べた。
さらに、「『本来業務化』ありきではなく、まず公共放送の役割についての国民的な議論を尽くす必要がある。本業としての公共にふさわしい放送番組や事業はどのようなもので、そこから公共放送としてふさわしい業務範囲や付随する予算を導き出し、業務範囲に応じた受信料制度をつくり、国民や視聴者が納得する料金水準を定める、というプロセスをたどるべきだと考える」と提案。
「本業の放送番組では視聴者ニーズにかかわらず、公共放送としてふさわしいジャンルに集中すべきではないか。収支を勘案する民間では取り組みにくい報道・防災・教育・福祉・伝統芸能などが公共放送にふさわしい分野といえないか。NHKがこれまで、こうした分野で良質な番組を制作してきたことは評価しており、視聴率を意識せざるを得ない民放とは異なる観点から番組制作に集中する必要があるのではないか。近年拡大傾向にある『番宣』についても、放送時間を使ってまでやるべきものか再検討すべきだ」とコメントした。
なお、公共放送ワーキンググループの第4回会合は、12月22日に開催される予定。