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NHK、稲葉次期会長が会見。「国民の信頼なくして生き延びること困難」

NHKの次期会長に任命された稲葉延雄氏

日本放送協会(NHK)は6日、経営委員会で次期会長に任命された稲葉延雄氏(現:リコー リコー経済社会研究所参与)の会見を開催。稲葉氏は「国民の信頼無くしては、NHKがこの先、生き延びていくという事が難しい」とし、良質なコンテンツを作る組織作りと財務の健全性の確保を目指すと、就任の抱負を述べた。

稲葉氏は、現在NHK会長を務める前田晃伸氏の後任。1979年に日本銀行に入行後、2008年まで在籍。その後民間企業のリコーに移り、特別顧問や取締役などを歴任した。NHKの会長任期は3年で、2023年1月25日付で次期会長に就任する。なお、前田現会長は、任期満了により退任となる。

稲葉氏は会見の冒頭で、日銀法改正の際に調べ、感銘を覚えたという「放送法」にまつわる思い出を吐露。

「放送法 第一章 総則の第一条には、放送の重要性が記載されており、“国民にあまねく供給され、日本の民主主義の健全な発展に資する”との言葉に感銘を覚えたことを記憶している。立法当初の関係者の意気込み、高い理念や考え方がそのまま伝わってくるような感じがした。(会長の話が来た時に)頭をよぎったのが、この第一条だった。大事な仕事をしているNHKであり、お引き受けしようと考えた」と、会長職を引き受けた理由を語った。

また“デジタル化の大きなうねり”を民間企業の経営で痛感したとし、「(デジタル化が)あらゆるといっても言い過ぎでない多くの企業の経営を翻弄している。メディアや放送各社、その中にあるNHKも全く例外でなく、ある意味で生き残りをかけた努力を問われている状況」と分析。

「NHKは放送受信料で成り立っている組織であり、その受信料を支払いいただいている視聴者・国民の皆様から信頼をかっちりいただくこと、信頼していただくことが大変大事なこと。多くの情報の中で、人々がNHKを拠り所にするのは、NHKが発している公正で、公平で、誤りのない確かな情報を間断なく国民の皆さんへ提供していること。それが判断の拠り所となるはずで、それなくしては国民の皆さんの信頼を勝ち得ない。信頼の源が崩れるとなると、NHKがこの先、生き延びていくという事、引き続き事業を展開していく事が難しいのではないかと思っている」と、今後のNHKの危機感を示した。

そして、“2つの大事なこと”として、「質の高いコンテンツを作り続ける環境・組織作り」と「財務の健全性の確保」を列挙。

「NHKが公共放送として、国民の信頼を得るには、質の高い報道、ドキュメンタリー、エンターテインメントを制作・発信していくわけだが、一番大事なのはそれを制作している人が公共的な使命感に基づいて、制作に専念、まい進できる環境を作る、組織を作っていくことがまずもって大事。そのうえで、NHKの職員が質の高いコンテンツを制作し続けるということを可能にするような“強靭な財務体質の形成”が必要。現会長のリーダーシップの下、受信料引き下げや巡回訪問の廃止などが示された。収入面で見れば減収要因だが、その状況下でも、財務の健全性がしっかり確保され、良質なコンテンツを作り続ける組織を下からしっかり支えることができるようにすることが大事だ」とコメント。

「NHKが一丸となって、今言ったことを求め、努力していく。そうすれば、この先、公共放送として、NHKが生き延びていくことができるのではないか。そのために、私は先頭に立って頑張っていきたいと思っている」と語った

記者から、「放送は必須業務、インターネット活用は任意業務」とする現状の位置付けの考えを問われると、稲葉氏は「大事な論点」と回答。

「総務省の検討会や作業部会等で様々な議論が行なわれている。大きく環境が変化するなかで公共メディアとしてどう役割を果たしていけばよいかを考えていく、そういう状況にあるのではないか。答えが今出ているという訳ではない」との考えを話した。

その一方で、「ニーズを踏まえたうえで踏み出す必要はあるか?」との質問に対しては、「どのようなやり方が良いのか、それはまた別途、議論の余地があるとは思う。ただ、明らかに方向としては、ニーズがあるという認識は十分していく必要があるのではと思う」と述べた。

受信料の引き下げについては、「大胆に打ち出された改革案だと認識している」と、現会長の改革を評価。

引き下げによる、財務状況の懸念については「(引き下げは)来年の10月から実施されるわけだが、スムーズに実施できるか、きちっとやっていかなきゃならない。そういう下で、受信料の値下げの下で今後の財務がどうなるか。シミュレーションどおりの財務で運ぶかどうか、きちんとフォロー、分析しなければいけない。その動向によっても、さらに工夫を加える余地があるかないのかといった論点もある」

「デジタル化の動きが大きく向いているので、これはいろんな影響を与える。その中にも効率的な経営に資するようなイノベーションなどが含まれているかもしれない。新しいテクノロジーの変化を見ながら、それを経営に取り込むことで、単にダウンサイジングという事だけではなくもっとメニューをもって財務の安定化、強靭な財政の構築というところに持っていけるのではないかと。そういう意味では楽観的ではある」、との考えを示した。