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日本初のDolby Vision/Atmos対応スタジオ開設。IMAX 12ch作業も初
2025年12月18日 00:00
Dolby VisionとDolby Atmosに対応した日本初のポストプロダクションスタジオが、東京・世田谷にあるTOHOスタジオ内に誕生した。これまで国内では、Dolby VisionのカラーグレーディングやDolby Atmosのミックスなどは、異なるスタジオで作業しなければならなかったが、今後は1つのスタジオで完結(映像・音の仕上げから試写室でのクオリティチェック)できるようになる。
Dolbyの最新システムを導入したのは、2010年より稼働しているTOHOスタジオ ポストプロダクションセンターの「ダビングステージ1」と「試写室」。
ダビングステージ1は、ポストプロダクションセンターの開設に合わせ、ハリウッドメジャー「ワーナー・ブラザーズ(WB)」の協力と、音響コンサル「チャールズ・M・ソルター・アソシエイツ」の設計を得て完成した施設。“米国カリフォルニア州バーバンクにあるWBのスタジオを模した、世界最高レベルのダビングステージ”というビジョンはそのままに、新たにDolby Atmosミックスに対応した。
具体的には、天井に2列18本、左右の壁に各9本、後ろの壁に6本の大型スピーカーを新たに設置。さらに、サラウンドの低域成分を補強するためのサラウンド用サブウーファーを、左右に2本ずつ壁面に埋め込んだ。スクリーン背面にあるメイン(L/C/R/SW×3)と合わせ、計52本ものスピーカーシステムでイマーシブサウンドのミックスが行なえる。
もう一つのラージフォーマット規格「IMAX」のサウンド編集にも対応。これまでもIMAX 5chの作業は可能だったが、今回のイマーシブ改装により、IMAX 12chのリバランス作業が可能になった。IMAX 12chのリバランス作業が行なえるのは「国内初」という。
デュアルヘッド72フェーダー「Avid ProTools / S6」と「AMS Neve DFC GeMiNi」のハイブリッドコンソール仕様もダビングステージの特徴。
「ハリウッドでは一般的だが、国内のスタジオで作業卓のハイブリッド仕様は珍しい。業界標準のProToolsデータをすぐに展開できる利便性と、サウンドに定評あるGeMiNiを通した高音質なマスターファイル作成が行なえる」(関係者)と話す。また、立体音響が体感できるエリア「CMA」(クリティカルミキシングエリア)を広めに確保しているのも、他のスタジオとの優位点だという。
試写室は、Dolby Vision/Atmosの編集・チェックに対応した。
後方の映写室(残念ながら内部は非公開)には、既存4Kシネマプロジェクターに加え、Dolby Vision対応の4Kシネマレーザープロジェクターを完備。座席後方にグレーディング用の作業卓を設置し、業界標準のDavinci Resolveと専用ミニパネルを設置した。
スピーカーは、天井に2列16本、左右の壁に各8本、後ろの壁に6本設置。ダビングステージと同様、左右の壁に各2本のサブウーファーを埋め込んでいるという。
TOHOスタジオの代表取締役社長の島田充氏は、「東宝スタジオのイマーシブ対応は後発ですが『CMAの最大化』『ハイブリッドコンソール仕様』『Dolby Atmosだけでなく、Visionもマスタリング・グレーディングできる』などの利点があります。これまでは、映像のグレーディング、音のダビング、最終チェックの検定試写がバラバラでした。今後は成城に来ていただければ、画も音もすべて完結できます」とコメント。
また「我々はポストプロダクションだけでなく、日本最大の撮影スタジオも備えており、まさにプリプロから撮影、オフライン編集、そして通常版のダビング・グレーディング、ラージフォーマット版のイマーシブ、最後のパッケージ化まで、一気通貫で作業を行なうことができます。忙しいトップクリエイターの方々の利便性向上にも繋がるものだと思っています」と、新スタジオの意義をアピールした。
スタジオ内覧会には、Dolby Laboratories日本法人社長の大沢幸弘氏も登壇。
「一か所でDolby VisionもDolby Atmosも作ることができる大変な施設が完成しました。まさに国の宝、国宝級の、日本初の施設だと思います。今後はこのスタジオを通じて、映画でも配信でも放送でもライブでも、最も販路が広がるような技術で作品を作っていただいたら、コンテンツ業界もいずれ、日本を代表する自動車業界のように、肩を並べて流々とやってくださる時代がくると思います」と語った。
TOHOスタジオ発のVision/Atmos作品は「決まっているが、まだ話せない」
内覧会終了後、TOHOスタジオの島田社長とDolbyの大沢社長の囲み取材が開かれた。主なやり取りは以下の通り。
――今回開設したTOHOスタジオ発の「Dolby Vison/Atmos作品」は、いつ見ることができるのか? 制作が決まっているタイトルがあれば教えて欲しい。
島田社長(以下敬称略):パッケージや配信を想定したホームエディション(Dolby Atmos Home)は2021年からミックス対応していますが、今回ようやくシネマエディションに対応できるようになりました。イマーシブの引き合いは実写だけでなく、近年はアニメも増えています。スタジオ発の「Dolby Vison/Atmos作品」については、もちろん決まっているタイトルは複数ありますが、残念ながらまだどれもお話しできる段階にはありません。今後に期待してください。
――年間でどれくらいの数のDolby対応作品を作っていく計画なのか。
島田:年間で12~13本程度を手掛けたいと考えています。
――Dolby Vision / Atmosの対応設備を導入することになった訳は。
島田:弊社がイマーシブ対応に早期に踏み出せなかった理由としては、限られた上映館数であったり興収であったり、複雑な状況がありました。またコロナ禍やハリウッドでのストライキといった要因も重なりました。
ただ、近年はそういった状況が改善したと受け止めています。メガヒットの作品も出てくるようになり、さらにその興収の中核をラージフォーマットが支えている側面もあります。プロデュ―サーやクリエイターから上がっていた「東宝スタジオでDolby Vision/Atmosできないの?」という声に応えなければ、という考えに至りました。
それから我々は2023年に、東京現像所からDI・編集事業を継承しました。「映像よりも音がメインのポスプロ」という従来の考えから、「映像にも力を入れていく」という流れに変わったことも要因の一つと思います。
――今から3年前、新宿バルト9でDolby Cinemaが開業した際、大沢社長は「Dolby Cinemaが8館のままではまずい。もっと増やしていきたい」と仰った。その後、門真、すすきので劇場がオープンし、来年3月には11館目となる「TOHOシネマズ 大井町」が開業する。今の受け止めは?
大沢:もちろん、大きな数のサイトがあった方がいいと思っています。11館にとどまらず、20も、30も、あるいはそれ以上できて欲しいと思っています。
いま、観るところと作るところは順々に上がっている状況です。Dolby Visionのシネマ用の制作設備はココ(TOHOスタジオ)で2つ目、Dolby Atmosのシネマ用の制作設備は4つ目で、その両方ができるスタジオがようやく初めて誕生しました。
その初めてのスタジオが、映画制作数の多い東宝さんというのは非常に大きなことです。今後さらにDolby Cinema作品が増えていくことが期待されますし、それに合わせてDolby Cinemaのサイトも増えていくのではないかと思っています。
実は近年、映画だけでなく、音楽ライブをDolby Cinemaで楽しむ視聴スタイルも注目を集めています。そのきっかけが嵐のライブフィルム「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」で、約3週間の上映期間、朝から晩まで、座席が満席の状態が続きました。プラチナチケットで買えなかった、抽選に当たらなかったという沢山のファンに楽しんで頂きました。新しい市場が生まれ始めているのです。
海外では、オリンピック競技やFIFAワールドカップ、アメリカンフットボールといったスポーツの試合もDolby Vision/Atmosで中継されるようになっています。オリンピックで例えれば、その数は世界20カ国にも及びます。我々は技術立国のつもりですが、その他180カ国と同じようなスポーツ中継をしているのです。
今後はこうしたサービスが増え、東宝スタジオさんに来なかった仕事が来るようになり、そして一般の方がもっといろいろな場で楽しんでくれるようになることを期待しています。

















