ソニー、「進化するテレビ」やネットサービスなど新戦略
-「サイロは倒れた」。'10年TV黒字化でPS3は3D対応へ
重要施策 |
ソニーは19日、4月に発足した新経営体制により策定した新経営方針の説明会を開催。テレビ、ゲームなどの中核事業の収益力改善や、ハードウェア/ソフトウェア統合による新たな顧客体験提供などの取り組みを語った。
重点施策として掲げているのは以下の4点で、これらの施策を通じて2012年度までに営業利益率5%、株主資本利益率(ROE)10%の達成を目指す。
- 中核事業(テレビ・ゲーム・デジタルイメージング)の安定的な収益力確保
- 革新的なハードウェア、ソフトウェアおよびサービスの統合による新たな顧客体験の提供
- 新規顧客および新規市場の開拓
- 環境に配慮した商品および事業活動への重点的取り組み
また、2009年度はグループ全体で、前年度比3,300億円の費用削減を計画しているが、上半期で既に8割の削減を達成。年末から2010年に向けて強力な商品群を投入する体制が整ったとする。
ハワード・ストリンガーCEO |
ソニーの会長兼社長兼CEOのハワード・ストリンガー氏は、新しい経営体制について、特にエレクトロニクス事業において大きな変更を行なったと説明した。
構造改革により、従来の縦割りの事業部から、テレビなどの中核製品を扱う「CPDG」、ネットワークサービスやモバイル機器を扱う「NPSG」、ビジネス/業務向けの「B2B」の3つの事業セグメントに分けたほか、「生産/物流/調達」、「研究開発/共通ソフトウェア」、「グローバルセールス&マーケティング」の3つの横断的なプラットフォームを構築。より筋肉質な事業構造を構築できたという。
ストリンガーCEOは、「構造改革のカギは3つの横断的プラットフォーム。もはや孤立した製品グループが独自に判断を下すことはない」と言及し、半導体におけるアセットライト戦略や共通プラットフォームの成果などを紹介。具体的な成果としては、CPDG、NPSG、ソニーエリクソンでの共同購買を開始し、資材調達コストを削減したという。2010年度にはさらに部品調達コストを20%削減することを計画している。
吉岡副社長 |
続いて、eBookリーダーの「Reader」や、サイバーショット、VAIO X、PSPgoなどの新製品を紹介。さらに「より革新的な製品を1月のCESで発表する」と宣言した。また、米国における4Kデジタルシネマの伸長などBtoBビジネスの取り組みなども紹介し、4つの重点施策にかける意気込みをアピールした。
CPDG(コンスーマー プロダクツ&デバイスグループ)プレジデントの吉岡浩副社長は、構造改革の目標について説明。新しい組織プラットフォームにより、ソフトウェア設計において、ソニーグループ内で統一されたユーザーインターフェイス提供や、機器連携を可能にするほか、ソフトウェアの共通化により設計スピードの向上を図るという。すでに約6カ月設計から製品投入までの期間を短縮できた事例もあるという。
3つの横断的プラットフォームを構築 | 新事業体制でマーケットニーズに即応できる体制づくり | 革新的なハードウェア/ソフトウェア サービス連携を図る |
■ 2010年度テレビ黒字化。「進化するテレビ」も投入
石田佳久 CPDGホームエンターテインメント事業本部長 |
エレクトロニクス事業においては、テレビ、ゲーム、デジタルイメージングなどの中核事業は、収益の確保を重視する。
液晶テレビについては、「『リーディングポジション復権』を掲げ、2010年度の黒字化と2012年度世界シェア20%目指す(石田佳久 CPDGホームエンターテインメント事業本部長)」という。
さらに、「既存のテレビビジネスから脱皮した新しい収益モデルも探る」とし、ネットワーク経由で新たなアプリケーションを提供する「進化するテレビ」や独自デバイスの次世代ディスプレイの開発にも取り組んでいくという。
薄型テレビ2010年度の黒字化に向けた施策 |
2010年度のテレビ事業黒字化については、「商品力強化による数量拡大」、「モデル採算性の改善」、「構造改革推進による損益分岐点改善」の3つの取り組みを説明。
商品力向上の施策については、6月以降テレビとホームAVの組織統合を図ったことで、デザインと使い勝手の融合を図れることが強化点とする。これまでは各事業本部の判断で、商品企画から発売のタイミングまでを決定していたが、組織を融合したことで、「同じ時期に同じテイストのデザインで商品投入が可能になる」とする。また、商品企画段階から、相互接続性にも配慮しており、こうした体制からユーザーの使い勝手の改良も図れるという。
具体的な強化商品としては「LEDバックライト採用テレビ」を挙げる。「ソニーは世界最薄のZX1を2008年に発売するなど先行していたが、ラインナップ展開が不十分だったと反省している。2010年度に向けて大幅にラインナップや数量を拡大していく」とする。IPTVもサービスや地域の拡大を図る。3Dも会社の全体戦略として、2010年に順次製品投入する方針。
採算性の改善においてはパネル調達先の複数化やシャーシ数の削減などを図り、2011年には単一シャーシで全世界設計が可能なプラットフォームを構築する予定。
こうした収益改善策の一方、新しいテレビへの取り組みとして成長の柱に位置付けるのが「進化するテレビ」で、石田事業本部長は、「放送、パッケージ、インターネット、UGC(User Generated Content)、Webアプリケーションを一元的に管理し、誰にでも簡単に楽しんでもらうテレビ」と位置付ける。
スライドでは、「概念を覆す新しい視聴スタイル」、「アプリダウンロードによる拡張性」、「QWERTYキー付きインプットデバイス」、「快適な操作性」、「マルチタスク」などのキーワードを挙げてコンセプトを紹介。特に新オンラインサービスのSony Online Service(仮称)と連携し、「アプリケーションやコンテンツなどの販売など、テレビを売った後から始まるビジネスをこの仕組みの中で実現したい」とする。
Sony Online Serviceは、「PlayStation Network」の基盤を活かしたソニー製品向けのネットサービスとして計画しており、NPSGが主に開発を担当する。テレビやモバイル機器などさまざまにデバイスの接続、連携を可能とする方針。なお、現時点では、進化するテレビやソニーオンラインサービスの提供時期については明らかにしていない。
進化するテレビのコンセプト | ソニーオンラインサービス(仮称) | 将来の家庭内のネットワークコンテンツ利用イメージ |
独自のデバイスを使った新しいディスプレイも開発中 |
さらに、「独自のディスプレイデバイスを採用した新しいディスプレイの開発を継続する」と宣言。具体的なデバイスの種類や製品化の時期については、明らかにしていないが「有機ELもこのなかに含まれているが、ほかにもある。エキサイティングなデバイスを社内で開発中である(石田氏)」とする。
デジタルイメージングにおいては、世界No1ブランドのポジション堅持のほか、イメージセンサーや画像処理エンジンなどキーデバイスによる性能差異化を図っていく。
吉岡副社長は、イメージセンサーについて「事業を支える源泉の1つ」とし、高感度撮影可能なCMOS「Exmor R」などの魅力をアピール。デジタル一眼のαについては、「商品ラインナップを拡充し、商品力を強化。αのビジネスを強化していきたい。レンズの資産と、ソニーのデバイス、デジタル技術を融合し、商品力を高める。α550は、市場で高い評価を得た。開発拠点も東京に集約し、一体となって取り組んでいく」と語った。
新興国などの成長市場においては、「エントリーセグメントに注力し、市場シェアを高めていく」とする。また吉岡副社長は「クラウドコンピューティング的な動き」にも言及。Sony Online Serviceに全てのデジタルイメージング製品を対応させ、さまざまなソニー製品でネットワーク経由でコンテンツ共有を可能にするという。
パーティショットやパノラマ撮影など新製品の特徴をアピール | デジタルイメージングにおけるNO1戦略 | 全デジタルカメラをネットワーク対応に |
■ PS3は既存機種も含めて3D対応。PSNベースのソニー製品向けサービスも
Motion Controllerを披露する平井一夫NPSGプレジデント |
ゲーム事業は2010年の黒字化を目指すほか、PlayStation Network(PSN)の拡大を図る。
ゲーム事業を含むソニーのNPSG(ネットワークプロダクツ&サービスグループ)プレジデントで、ソニー・コンピュータエンタテインメントCEOを務める平井一夫氏は、「ゲーム事業の目標はなんといっても2010年度のビジネス黒字転換。そして、中期的にはPS2と同様にソニーの収益貢献していくビジネスにする必要がある」とし、PS3のコストダウンなどに継続的に取り組むという。
PS3のコストダウンについては、「半導体(Cell)のシュリンク(微細化)とそれによる低消費電力化、それに伴う部品点数削減を核に、設計の見直しやソニーとの連携などで、2010年度中にこれまでよりさらに15%削減を目指す」という。NPSGだけでなくソニーグループ全体での調達などグループリソースを活用し、収益性を改善するという。
さらに、オンラインゲームにおいては、既存の無料サービスに加え、プレミアムコンテンツ/サービスの提供も計画。月額課金制の「サブスクリプションモデルも検討している」とする。
また新型PS3の販売が3週間で100万台を超えたこと、PSPgoやPSP-3000が好評な点について説明し、タイトル数も拡大していることをアピール。PSNでもタイトルが順調に拡大していることを報告し、FF13などのビッグタイトルが控えていることなどから、ビジネス拡大が図れるとアピールした。
平井氏は、「PS3は10年のライフサイクルを考え、最新の技術を投入して開発した。それらを活かした商品展開をしていきたい」と語り、PS3のアドバンテージとして、「Motion Controller」、「Blu-ray Disc」、「PlayStation Network」、「PSP連携」、「3Dゲーム」の5点を解説。
Motion Controllerは、カメラのPlayStation Eyeと組み合わせ、画像認識やジャイロ、加速度センサーなどを使って、ユーザー操作を認識する新コントローラで、平井氏は「DualShockに続く、PS3の第2のデファクトコントローラです」と説明した。
PSNについてはゲームコンテンツの充実だけでなく、ビデオやコミックなどの「ノンゲーム」の拡充も発表。19日付で欧州でもPSNにおけるビデオ配信を開始するなど、順次対応地域の拡大を図るほか、2010年の第2四半期にはノンゲーム用の開発ツールも配布予定とする。ノンゲームの拡大により、「毎日電源を入れてもらえるプラットフォームを目指す」とする。
3D対応については、「これもBDを搭載したからこそできること。来年のソニーの3D対応BRAVIA発売にあわせて、3Dゲームを発売する」と言及。さらに平井氏は、「本日ここで、2006年以来発売してきた全てのPS3において、ファームウェアアップデートで全数が3D対応することを発表します。これから発売される3DゲームをPS3を買い替えることなく楽しんでいただけます」と、PS3の3D対応を宣言した。
ゲーム事業は2010年度黒字化を最大の目標に掲げる | 全PS3が3D対応に |
ハードウェア+ネットワークで新しいUXの実現を目指す |
ゲーム事業に続けて、平井氏はNPSGが手掛けるネットワークサービス戦略を説明。「ネットワークjは新しい『UX(User Exprience)』を実現するカギ。ソニーならではのネットワークプラットフォームを展開する」と位置付ける。
PSNの現状については、PS1ゲームが610タイトルに、映画は2,400本、TV番組は15,000タイトルになるなど堅調に推移している旨を説明。登録アカウントは3,300万で「加速度的な普及」と言及し、PSNの2009年度売上については、「昨年の3倍の500億円を目指している。ゲームのダウンロードだけでなく、追加アイテムのダウンロードも伸びている」とする。
こうして実績を挙げているPSNをベースにソニーのハードウェア商品群との連携を強化するのが「Sony Online Service(仮称:以下SOS)」となる。SOSではPSNのプラットフォームを効果的に活用し、顧客管理や課金、コンテンツ配信などはPSNと共有し、初期投資を抑える。一方でSOS独自のものとして1つのIDで複数デバイスに対応したり、異なる商品でも共通のUXを実現できる機能を実装。ソニーの様々な機器で共通の顧客体験やコンテンツ共有を可能にすることでハードウェア価値の向上を図るという。
テレビやBDプレーヤーだけでなく、「ネットワークに親和性の高い新たなモバイルデバイスも投入する。これが我々のネットワークのアクセスポントになることで、他の機器における利便性も向上する」と語り、製品の相互接続性とネットワークサービスを活かし、ソニー製品の魅力を高めていく方針を説明した。さらにサードパーティのサービスへの参入にも対応していく。
PSNとSOSの関係 | ネットワークサービスでハードウェアの価値も向上させる |
米国で発売開始したワイヤレス対応の「Reader」を披露 |
ネットワークモバイル事業の強化については、電子ブックリーダー「Reader」への取り組みを挙げる。平井氏は「電子書籍市場は全世界で急速に拡大し、今年度は300~400万台の市場になる。ここに注力し、2012年度にはReaderで全世界シェア40%を目指す」と目標を設定した。なお、Readerの日本での展開については、特に言及されなかった。
今後のモバイルデバイス展開としては、ソニーエリクソンとの連携を強化するほか、VAIOやReader、ウォークマンなども強化していく。こうした施策により、NPDGの事業規模を約3,000億円規模に拡大。さらに、ゲームのネットワークサービスは2010年度の黒字化、ネットワークサービス全体では2011年度の黒字化を目指す。
モバイル機器で積極的にネットワーク対応 | NPSGの目標 |
■ 「サイロは倒れた。3DでもPSNでも成功する」
3Dについては、2010年度に事業を立ち上げて、ディスプレイ、ゲームなどのハードウェアやコンテンツ提供で市場創造を牽引。BRAVIA、Blu-rayに加え、PS3での3Dゲーム導入などを2010年度内に実現するほか、映像制作、配信、上映のソリューション提供で、放送業務機器事業でも3Dを牽引し、2012年度には1兆円を超える3D関連商品の売上を目指すという。
2010年3D導入に向けての準備 | CEATECでも出展した3Dカメラも登壇者の脇に展示 |
左から石田CPDGホームエンタテインメント事業本部長、吉岡CPDGプレジデント、ストリンガーCEO、平井NPSGプレジデント、大根田CFO |
また新規事業としては、バッテリの強化に取り組み、リチウムイオンバッテリの既存領域での高収益を確保していくほか、蓄電、自動車用電池などへの参入も検討していく。
ストリンガーCEOは、「多彩なデジタルデバイスだけでなく、デジタルコンテンツを直接顧客に配信できるということが、ソニーのユニークなポジション。コンテンツとの連携の強さが、BDにおけるフォーマット戦争の勝利にもつながった。ネットワークで顧客に直接コンテンツ配信できるということは、顧客と一対一の関係を築けるということ。ソニーを覆っていたサイロ(農産物などを収納する倉庫で、『旧来のしがらみ』の意)は倒れた。Blu-rayで勝利したように、3DでもPSNでも成功するだろう。これがソニーのトランスフォーメーションだ」と語り、事業構造改善を続ける方針をアピールした。
(2009年 11月 19日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]