ミニレビュー

AirPods Proとどう違う? Androidや空間オーディオにも対応「Beats Studio Buds」

Beats Studio Buds。価格は17,800円。今回入手したのはホワイトだが、このほかにブラックとレッドがある

アップル/Beatsが8月11日に発売した「Beats Studio Buds」(17,800円)のレビューをお届けする。

今のヘッドフォン市場はアップルがリードしているのは疑いない。一方、その前に「ワイヤレスヘッドフォン全盛」の流れを作ったのはBeatsだった。

Beatsはいまや、「アップルのヘッドフォンのサブブランド」という位置付けに近い。発売されたばかりのBeats Studio Budsは、アップル製品とAndroid両方に対応し、しかもApple Musicの「空間オーディオ」対応も謳っている。

どんな使い勝手になったのか、製品版でチェックしてみたい。

「Beats Studio Buds」。左からホワイト、Beatsレッド、ブラック

コンパクトさが一番の特徴

Beats Studio Budsはいわゆる「完全ワイヤレス型イヤフォン」。アクティブノイズキャンセル機能を持ち、コンパクトな外観になっている。パッケージもケースも比較的小柄で、「今どきの完全ワイヤレス型イヤフォン」らしい商品性だ。

本体パッケージ。完全ワイヤレス型のヘッドフォンとしても小型でシンプルだ
内容物。本体の他には3サイズのイヤーピースと、電源用のUSB Type-Cケーブルが付属。Apple Musicの紹介も入っている
充電用ケースに入った本体。楕円形でAirPods Proのケースより1回り大きい
AirPods Pro、ソニー「WF-1000XM4」の充電用ケースと比較。おおむね似たようなサイズ感になっている

イヤフォン本体は競合製品よりさらにコンパクトだ。耳から飛び出る部分は「b」マークのついた細いボタン状の突起だけ。AirPods Proやソニーの「WF-1000XM4」と比較するとよくわかる。

イヤフォン本体。片方だけだと5gとかなり軽く、小さい
左から、Beats Studio Buds・AirPods Pro・WF-1000XM4。サイズ感の違いがお分かりいただけるだろうか

片方のイヤフォンの重量は5gとされており、確かに軽い。だが、イヤーピースをしっかり耳の穴に入れる構造を採用しているせいか、耳への収まり・安定度は良く、簡単に落ちそうにはない。

上から、Beats Studio Buds、AirPods Pro、WF-1000XM4の順番で実際に耳に入れてみた。“耳からなにかが出ている感じ”は、Beats Studio Proが一番小さい

この種のヘッドフォンではタッチセンサーが使われることが多いが、Beats Studio Budsはボタンだ。触ってみるとしっかり「押した」感覚がある。押すことによって再生・停止などが行なえる。

ボタンによる操作の説明。一度押して停止・再生、ダブルクリックで曲送り、トリプルクリックで曲戻りだ

設定は簡単、iOSでも認識するがAirPodsとは「似て非なる」挙動

Beats Studio BudsがAirPodsなどと違うのは、ちゃんと「Android対応」がアピールされていることだ。AirPodsなどももちろんAndroidやWindowsでも使えるが、製品としてアピールされているのはあくまで「アップル製品との連携」である。Beats Studio Budsの場合、Androidをメインデバイスとして使うことも想定しているあたりが大きく違う。充電に使う付属のケーブルもUSB Type-Cの短いものだ。

箱の側面にはアップル関連のロゴと一緒に「Google Play」の文字が
付属の簡易説明書にはAndroidでの設定に関する解説も
付属のケーブルは非常に短いUSB Type-Cのものだ

蓋を開けてペアリングすると、iPhoneの上ではAirPodsでお馴染みの「いつもの動作」で簡単にペアリングできる。

AirPodsの設定でお馴染みの画面。Beats Studio Budsでも設定方法は同じだ

実はAndroidでも同様で、接続を簡易化する「Fast Pair」に対応しているので、メニューの奥に潜ることなく1タップで設定が終わる。

「Fast Pair」対応のAndroidスマホなら簡単に設定可能

どちらの場合にも、最後に使った位置を検索する機能に対応する。

iOSの「探す」機能でBeats Studio Budsを最後に使った場所もわかる。Androidでは、Googleが提供する「デバイスを探す」アプリに対応している

iOS/iPadOSの場合にはOS側が各種設定を担当する。機器側で「どのヘッドフォンとペアリングしているのか」を判断し、アイコンの種別まで変更するくらいだ。

上がBeats Studio Buds、下がAirPods Proをペアリングしたとき。アイコンのデザインが変わっているのに注目

Androidの場合には、ペアリングこそOS側が簡単にやってくれるが、設定は別途「Beats」アプリを使って行なう。といっても設定できる項目は非常に少なく、本体のボタン長押しを「ノイズキャンセル設定切り替え」と「音声アシスタント呼び出し」のどちらに使うか、を選ぶくらいである。

Androidの「Beats」アプリ。設定はここで切り替えられるが、ボタン長押し時の挙動くらいしか設定項目はない

AirPodsの美点である「設定のシンプルさ」「使った位置の検出」などについては、Beats Studio Budsも同じように使える、と思っていい。

だが、違う点も多々ある。

AirPods ProやMaxを使う場合、現在のアップル製品同士だと、「音を再生し始めた機器に自動的に接続している機器を切り替える」機能がある。例えばiPhoneで音楽を聴いた後にMacでビデオ会議を始めたとすると、同じAirPods Proをつけたままで、Bluetoothの接続が自動的にiPhoneからMacへと切り替わるようになっている。

こうしたことはBeats Studio Budsではできない。複数のアップル製品同士で使う場合も、手動で切り替えが必要になる。

ただ、切り替えと言っても「前に使っていた機器を操作して接続を切ってから、使う機器側を操作して接続する」というわけではなく、「使う機器側でBluetooth接続をすると、前の機器側との接続は自動的に切れる」仕様なので、そこまで面倒ではない。この仕様は、ソニーなどいくつかのメーカーのヘッドフォンでも採用されているものだ。

アップルのヘッドフォンでは「H1」などのアップル独自のプロセッサーが使われており、それと自社OSの組み合わせで自動切り替えなどが実現されている。それに対してBeats Studio Budsは、今回はアップルのプロセッサーではなくBeatsブランド独自のものを採用したようで、「AirPods Proと同じ仕様」にはなっていないのである。

「Androidも含めた他機種で使いやすい」機器ではあるが、決して「AirPods Proの別ブランド」という製品ではない。

「空間オーディオの再生」はApple Musicのみ、ヘッドトラッキングは未対応

そうなると気になるのは「空間オーディオ」の対応だ。

アップル製品での空間オーディオ対応は、OS側が「対応しているヘッドフォンか」を自動判別して動作する仕組みになっている。アップル製品ならばどのヘッドフォンかがソフト的に判断できるので、より最適化した音を届けられるから……とアップルは説明している。

Beats Studio Budsが空間オーディオ対応だ、というのは、この「OSが判別できる対応ヘッドフォンである」という意味を指す。

AirPods Proには内部にモーションセンサーがあり、それを使ってヘッドトラッキングを行ない、音場を体感できるように工夫している。映画でも音楽でも同様だ。

だがBeats Studio Budsの場合、モーションセンサーは組み込まれていないので、頭の動きを使った音場向上は行なわれない。OS側の挙動を見ても映像でのDolby Atmos対応は行なわれておらず、Apple Musicのみに限られる。また、空間オーディオを使うかどうかの切り替えも、「設定」まで潜らないとできないようになっている。

AirPods Proでは空間オーディオの設定切り替えなどもできるのだが、Beats Studio Budsではノイズキャンセルの設定のみ変更できる

要はまさに「OSが認識してApple Musicの空間オーディオを再生する」というレベルなのである。AirPods ProやAirPods Maxでの対応とはやはり差がある。

上位製品には届かないが価格帯から見れば十分な音質、だが「NCのホワイトノイズ」が気になる

音質はどうか?

Dolby Atmos楽曲はちゃんと再生され、音場の広がりも感じる。AirPods Proに比べると広がりが小さいが、これはこれで悪くない。

ステレオ音源を聴くと、少しパンチが弱い音かな、と感じた。AirPods ProやWF-1000XM4に比べると音の解像感は乏しい。だが、1万円台後半で買える製品であり、AirPods ProやWF-1000XM4より1万円以上安い。それを考えるとコスパとしては悪くない。

利用するコーデックはAndroidでもアップル製品でもAACであり、この辺はAirPodsなどに準ずる印象だ。Androidで視聴した場合も、音の傾向はiOSとそこまで変わらない。

ただ、Apple Musicの空間オーディオについては少し違う。

Androidの場合、Apple Musicアプリ側でヘッドフォンの種別を見分けることをしておらず、「空間オーディオで必ず再生する」か「ステレオで再生する」かの二択になっている。Beats Studio Budsも例外ではなく、自動的に空間オーディオ再生にはならない。空間オーディオ再生をオンにして聴いた場合でも、結局はヘッドフォンの再生品質がどうかに依存するのだ。

AndroidでApple Musicを使って空間オーディオを聴いた場合、音の解像感などで勝るWF-1000XM4で聴いた方が、Beats Studio Budsで聴くよりも立体感があるように思えた。

「コスパの良いステレオイヤフォン」としてBeats Studio Budsは良いものだし、アップル製品で「安価に空間オーディオを楽しむデバイス」としても悪くはないが、「映画で使えない」「Androidでは効果が落ちる」ことを頭に入れておいてほしい。

そして、「これはちょっと……」と感じたのがノイズキャンセルと外音取り込みだ。

ノイズそのものは消える。上位製品ほど効果が強いわけではないが、周囲の騒音は消え、音楽が自然に聴こえてくる。

だが、音楽を止めて無音にした際のホワイトノイズがかなり強く聞こえる。ノイズキャンセルだけをオンにして耳栓がわりに使うような場合には、ホワイトノイズが耳障りに感じるだろう。

ノイズを消す代わりに外部の音を取り込んで音楽と一緒に流す「外音取り込み」機能もあり、安全に街を歩くにはいいのだが、AirPods Proに比べると、いかにもマイクで拾って増幅しました……という感じの不自然さのある音になっている。

これらの点を考えると、プラス1万数千円払えるのならば、個人的にはAirPods ProやWF-1000XM4を買った方が、音に関する満足感は高いと思う。ただ、価格差は小さなものではないし、ヘッドフォン自体の小ささも一つの魅力だ。ヘッドフォンの評価軸は音質だけではないのも事実である。

そうした点を視野に入れ、購入を検討していただきたい。

【お詫びと訂正】記事初出時、製品名を一部誤って「Beats Studio Pro」と記載しておりました、正しくは「Beats Studio Buds」です。お詫びして訂正します。(8月12日13時)

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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