ミニレビュー

スピーカー4本でサラウンド、ソニー新感覚オーディオ「HT-A9」を聴く

「HT-A9」使用イメージ

ソニーから、面白いサウンドバー「HT-A9」が登場した。サウンドバーと言っても、よくある“黒い横長の棒”ではない。白い4本のブックシェルフスピーカーとコントロールボックスがセットになっており、これをテレビやソファの周囲に設置すると、壁や天井での音の反射を活用し、12個のファントムスピーカーを生成し、サラウンド再生してくれるというシロモノ。短時間ではあるが、試聴した印象をファーストインプレッションとしてお届けする。

詳細は、本日掲載したニュース記事を参照して欲しい。ざっくりHT-A9の特徴を抜粋すると、以下のような感じだ。

  • 4本のスピーカーとコントロールボックスで構成
  • テレビの左右に2本、ソファの背後に2本といった感じで設置
  • 左右のスピーカーで高さが揃ってない設置でもOK
  • リアスピーカーは、横の位置が揃っていなくてもOK
  • スピーカーの正面に2ウェイユニット搭載
  • スピーカーの天井に、上向きにイネーブルドスピーカーも搭載
  • 4本スピーカーとコントロールボックスはワイヤレス接続
  • バッテリー内蔵ではないので電源ケーブル接続は必要
  • 別売ワイヤレスサブウーファーの追加も可能

簡単に言えば「ある程度自由な場所に4本のスピーカーを設置するだけで、本格的なサラウンド環境が作れる」、「ワイヤレスなのでスピーカーケーブルが部屋中を這い回らなくて済む」、「でもアンプ内蔵スピーカーを駆動するために4スピーカーに電源ケーブルは接続しなければダメ」というわけだ。

ただ、「サウンドバーみたいな何かをテレビの前に置きたくない」とか「ホームシアターやってみたかったけどスピーカーケーブルが部屋を横断するのは嫌だった」とか「フロント/リアスピーカーをキチッと揃えて設置する場所が無かった」という人には気になる製品だろう。

スピーカーケーブルは不要だが、電源ケーブルは必要
実機を前にすると、思っていたよりデカイ

実機を目にして最初に感じるのは、「思ったよりもデカイ」という事。写真だけ見ると、白くて円柱形なので「Bluetoothスピーカーよりちょっと大きいくらいかな?」と思われるかもしれないが、実物を見ると「いや、けっこうデカイなこれ」というのが正直な感想。それもそのはず、価格はオープンプライスだが、店頭予想価格は22万円前後と、結構“いいお値段”がする。“お手軽設置”で楽しめる製品だが、逆に言えば“新しいサラウンド機器”として音質面もガチで作られたモデルというわけだ。外形寸歩は160×147×313mm(幅×奥行き×高さ)だ。

なお、スピーカーの背面には化粧板で隠されているが、壁掛け用のマウントも備えている。思ったより大きいとはいえ、奥行きは147mmしかないので、ピュアオーディオ用のブックシェルフスピーカーと比べると、ちょっとしたスペースに起きやすいだろう。底面に、そのスピーカーを部屋のどこに設置するかの指示が書かれている。

ちなみに、床置きは推奨されていない。また、設置の自由度は高いが、スピーカー間の距離の最大と最小は、推奨値が設けられている。詳しくはニュース記事をご覧いただきたい。

左右の高さが揃っていなくてもOK。リアの左右は、横に位置が揃っていなくてもOKと、設置の自由度は高い

音を聴いてみる

「HT-A9」には、AVアンプのように自動で音場を最適に補正してくれる機能が備わっている。これで最適化したあとに、Dolby Atmosデモディスクの「Leaf」や、映画の「ボヘミアン・ラプソディ」などを試聴した。

サラウンドの最適化機能も備えている

音が出た瞬間に感じるのは、“一般的なサウンドバーとまったく違う音”だ。リアルなリアスピーカーが設置されているので当たり前ではあるのだが、サウンドバーが「テレビの下の方から音がする」のに対し、HT-A9は「部屋の空間自体が屋外のライブ・コンサート会場になったように音に包み込まれる」。反射を活用して12個のファントムスピーカーを生成し、サラウンドを再現する技術は「360 Spatial Sound Mapping」と名付けられている。

横長サウンドバーでも、様々な技術を使って音場を広げ、音に包み込まれるような感覚を味あわせてくれる製品は存在するが、最初から4本のスピーカーで包み込んで再生するHT-A9の場合、その音場はさらに広大。特にリア方向の空間の広がりは、横長サウンドバーではなかなか到達できない、リアルさがある。また壁や天井への反射を使っているので、音自体を過度にいじったような不自然さも少ない。

面白いのは、聴いていると、どこから音がしているのかわからなくなってくる事。目立つ、白い4本のスピーカーから音が出ているのは間違いないのだが、壁や天井への反射も積極的に使っているためか、「ここから音が出ている」とピンポイントで指差す事が難しく、スピーカーが存在している方向からも、存在していない方向からも、存在していない天井からも音がする。いろんな方向からの音に包まれるので「ホントにこの4本のスピーカーが鳴っているのか?」逆にわからなくなってくる。

天井に、上向きにイネーブルドスピーカーも搭載

これは、AVアンプ+マルチチャンネルスピーカーを設置した一般的なホームシアターの音場とも、ちょっと違う。音像の定位を明瞭に追求しつつ、広がりも出すのがAVアンプ+マルチチャンネルスピーカーのシアターだとすると、HT-A9は4本のスピーカーだけで、本格的なマルチチャンネルスピーカーが再生する“音場の広さ”を実現しようとしているように聴こえる。しかもできるだけ自然な音でだ。

横長サウンドバーでも、音の反射を利用して天井からの音や、ユーザーの背後に回り込む音などを再現する製品は存在するが、HT-A9は実スピーカーをリアに設置してしまう事で、そうした製品よりも背後からの音が明瞭になり、より“全方向から音に包み込まれる”感覚が味わえる。

その空間の広さは、AVアンプと大型スピーカーを使った本格的なシアターの世界に近いもので、あの感覚を、巨大なAVアンプ無しで、手軽に設置できるシステムで楽しめるのは魅力的だ。従来のサウンドバーではなく、大掛かりなホームシアターとも違う、新たなサラウンドシステムとして非常に面白い製品だ。

山崎健太郎