ミニレビュー

オーテク60周年記念の超弩級ヘッドフォン/カートリッジを聴く

ヘッドフォン「ATH-W2022」

オーディオテクニカが、創業60周年記念モデルの第1弾として開発したMCカートリッジ「AT-MC2022」と、ヘッドフォン「ATH-W2022」を体験した。発売日はまだ未定だが、どちらも価格は132万円を予定。カートリッジは60周年を記念して世界で限定60台、ヘッドフォンも世界限定100台のみ生産される貴重なモデルだ。

なお、既報の通り11月4日~6日にかけて開催されるAnalog Marketにおいて、これらの製品の試聴が可能になっている。

また、イベントの中では事前予約制となるが、開発者が製品の特徴、スペック解説、製品に込めた想いなども交えてトークするスペシャルプログラムも予定されている。詳細は特設サイトを参照のこと。

オーテク60周年「Analog Market」開催。“贅を極めた”ヘッドフォン試聴も

Analog Market特設サイト

MCカートリッジ「AT-MC2022」を聴いてみる

MCカートリッジ「AT-MC2022」

同社は1962年にカートリッジの製造・販売から始まり今年で60周年の節目を迎える。そこで、これまで継承してきた伝統と培ってきたノウハウ、プロフェッショナルが認める高い技術力を結集したプロダクトを発売していく。その第1弾として発表されたのが、今回のMCカートリッジとヘッドフォンの2製品。

MCカートリッジのAT-MC2022は、60年に渡るアナログカートリッジ技術の研究開発において、同社のハイエンドに位置するカートリッジ。「アナログオーディオ愛好家の皆さまに、今まで体験したことのないサウンドパフォーマンスを提供する」という。

軽量で耐久性に優れたチタン製ハウジングを採用し、ダイヤモンドカンチレバーとスタイラスを一体化することで、レコード溝の動きをより正確に発電コイルに伝達する。ハウジングは肉厚を最小限とすることで、剛性に優れながら、軽量に仕上げている。表面はイオンプレーティング処理し、耐久性を高めている。

一般的にスタイラスチップはダイヤモンドで作られており、アルミニウムやボロンなどの材質で構成されるカンチレバーに接着して組み立てられている。AT-MC2022では、カンチレバーにもダイヤモンドを採用。さらに両社を接着ではなく、継ぎ目のないワンピース構造にすることで、お互いの境界面で生じていた歪を徹底的に抑制。レコードの溝の動きをより正確に発電コイルに伝えられ、「カートリッジにおける一つの音の方向性の極地に到達した」という。

ボディにはチタン、アルミ、エラストマーを使うことで、共振を分散。ハウジング側面にある三角形部分には黒色の七宝(しっぽう)風装飾が施される。職人の手作業による、光沢感まとう美しい仕上げと黒の配置が引き締まった印象を与えるデザインになっている。

気になるサウンドが、「圧巻」の一言に尽きる。

鉄心型MCカートリッジのフラッグシップモデル「AT-ART20」(330,000円)と聴き比べた。ART20も広大な音場と緻密な描写で非常にクオリティの高いカートリッジなのだが、AT-MC2022に切り替えると、音場がさらに拡大、音のコントラストがグッと深くなり、さらに低域の沈み込みの深さが数段アップする。

地を這うようなベースの低域が迫力満点に描写されつつ、弦の震える様子が目に見えるほど高解像度で描写される。まるでハイレゾファイルを聴いているような情報量の多さだ。

音の表情が豊かに描かれ、ドッシリとした低域にも安定感があるため、聴いている曲が非常に楽しく、魅力的に聴ける。「カートリッジにおける一つの音の方向性の極地に到達した」という説明に、説得力を感じるサウンドだ。

ヘッドフォン「ATH-W2022」を聴いてみる

ヘッドフォン「ATH-W2022」

ATH-W2022は同社のウッドモデル史上、最高の贅を極めたというヘッドフォン。1996年の初代ウッドモデル「ATH-W10VTG」から数えて14代目となるATH-W2022では、初代モデルで採用されていたミズメ桜が復活した。

そのハウジングには、越前漆塗りを採用。職人が一筆一筆に想いを込めて丁寧に描いた蒔絵が施される。ハウジング左側に日本の象徴ともいえる満開の桜、右側には日本文化において平和の象徴と尊ばれている鳳凰が描かれる。

この蒔絵は空気に触れることで色合いが変化するため、「時の経過とともに変わるハウジングの絵柄を目でもお楽しみいただける」とのこと。また杢目と同様に蒔絵も1台1台職人の手書きにより、味わいが異なるため、世界にひとつしか存在しないヘッドフォンになる。

バッフル一体型の新開発58mmドライバーを搭載し、豊かで没入感のあるアナログリスニング体験を提供するという。振動板には、芯のある中高域と、優れた高域特性を実現するための純チタン製のセンタードームを設けた。

ハイエンドモデルのコアマウントテクノロジーを最適化。イヤーパッドとヘッドパッドには、和鹿革を使用している。2種類のケーブルが付属するほか、木曽檜を使った収納ケースも用意する。

木曽檜を使った収納ケース
イヤーパッドとヘッドパッドには和鹿革を使用

カートリッジのサウンドにも驚かされたが、「ATH-W2022」もかなりヤバい。

構造としてはダイナミック型なのだが、そうとは思えないほど圧倒的にハイスピードなトランジェントに優れた音で、分解能も高く、コンデンサー型のヘッドフォンを聴いているような錯覚を覚える。それでいて、中低域の肉厚さはしっかり備えており、ダイナミック型の良さも味わえる。

また、ハウジングの響きもナチュラルで美しい。密閉型とは思えないほど、音場が広く、開放的なサウンドなのだが、高音の余韻に木製ハウジングらしいホッとする響きも感じさせる。その配分も絶妙で、ナチュラルさを維持したまま味わいを深めている印象だ。

手に取ると、伝統工芸品を見ているような美しい外観だが、サウンドもそれに負けないクオリティを実現している。

『Analog Market』第2弾出展ブースも発表

Analog Marketの出展ブース・コンテンツの第2弾も発表された。

ユニークな審美眼を持ち、幅広いジャンルでアーティスト・クリエイターとしても活躍する野性爆弾くっきー!の出展が決定。「くっきー!のRECORD LAND」ブースには、今回特別にくっきー!がセレクトしたレコード、描き下ろしイラストによるオリジナル限定グッズを販売する。さらに「アナログ」でレアな私物の展示や、5日にはくっきー!本人が来場し、YouTube収録も予定されている。

他にも、様々なアーティストがセレクトしたレコードの試聴・購入ができるブース「アーティストのレコード棚」、創業昭和55年の老舗魚屋2代目でもありYouTubeで魚の魅力を伝える「魚屋の森さん」による「サカナノバーガー」など、「Analog Market」でしか出会えない特別なブースが用意される。

山崎健太郎