ミニレビュー

オーテク「前人未踏ヘッドフォン」をAnalog Marketで聴いてみた

「前人未踏のハイエンドデジタル接続ヘッドフォン」こと「ATH-WB2022」

創業60周年を迎えたオーディオテクニカが、その技術の粋を集めた“尖った”記念モデルを相次いで発表。先日、各132万円のMCカートリッジ「AT-MC2022」と、有線ヘッドフォン「ATH-W2022」の試聴体験記を掲載したが、今回は、DAC/アンプ/バッテリを左右独立搭載した「前人未踏のハイエンドデジタル接続ヘッドフォン」こと「ATH-WB2022」を、11月4日に開幕したAnalog Marketの会場で聴いてみた。

Analog Marketの会場の1つである、表参道駅近くのイベントスペース「BA-TSU ART GALLERY」

オーテク60周年記念の超弩級ヘッドフォン/カートリッジを聴く

世界初、完全バランス音声出力システム採用ワイヤレスヘッドフォン

ATH-WB2022の仕様については、以前ニュース記事を掲載しているが。簡単に振り返ろう。2023年1月20日発売で、価格は396,000円。世界で600台の限定生産で、11月7日10時から直販サイトで予約受付がスタートする。

オーテク、木製ハウジングでDAC/アンプ/バッテリ左右独立「前人未踏ヘッドフォン」

ワイヤレスヘッドフォンとしては高価だが、中身を知ると「そりゃこの価格も無理ないな」というこだわりのモデルだ。

ATH-WB2022

最大の特徴はヘッドフォンで世界初という「完全バランス音声出力システム」を採用している事。ワイヤレスヘッドフォンには、DACやアンプが搭載されているが、一般的には左右どちらかのハウジングにそれらを搭載。搭載していない側のユニットを、反対側に搭載したアンプでドライブする構成になっている。

しかし、ATH-WB2022は、DACチップであるESS製「ES9038Q2M」と、MUSESシリーズのフラッグシップチップ「MUSES05」、そしてバッテリーまでも2個用意し、それを左右独立で搭載。文字通り“完全バランス音声出力システム”を構築した。「左右間のクロストーク・ノイズ干渉を発生させない、チャンネルセパレーションに優れたサウンドを提供する」という。

Bluetoothのコーデックは、最大96kHz/24bitまで対応するLDACをサポート。AAC/SBCコーデックも使用できる。音と映像のずれを抑える低遅延モード(Low Latency Mode)も備えている。

また、デジタル信号のまま音楽データをヘッドフォンの回路に伝送できるUSB接続にも対応する。

USB接続で、USBヘッドフォンとしても動作する

ハウジングにもこだわっており、高級な弦楽器で用いられる無垢のフレイムメイプル材、ウォルナット材、マホガニー材を組み合わせた3層構造。異なる木材を組み合わせる事で、音響特性と制振性能を高めている。なお、ハウジングの加工から塗装までの工程は、日本を代表するギターメーカー・フジゲンが担当している。

音質以外の面では、通話用マイクとして自社製の大口径10mm径コンデンサーマイクを搭載しているのもポイント。ワイヤレスヘッドフォンによく使われるMEMSマイクと比較して、SN比に優れたフラットな周波数特性となっている。

小さな丸いメッシュの部分が、通話用マイクとして搭載しているオーテク製の大口径10mm径コンデンサーマイク

音を聴いてみる

DAPとATH-WB2022を、LDACコーデックでワイヤレス接続。ハイレゾの「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」や「マイケル・ジャクソン/スリラー」、「ノラ・ジョーンズ/Come Away With Me」などを聴いてみた。

再生を開始すると、すぐ、今までのワイヤレスヘッドフォンとの違いがわかる。密閉型だからというのもあるが、音が無い空間がまず非常に静かで、その空間からスッと音が立ち上がる様子が克明に聴き取れる。「スリラー」冒頭のカミナリや、コツコツという足音の響く範囲も広大で、その響きが波紋のように遠くの空間まで広がる様子がしっかりと聴き取れる。

こうしたSN感の良さ、空間表現の広さは、今までのワイヤレスヘッドフォンではなかなか味わえず、「やっぱり有線ヘッドフォンでなければ」と感じていた部分だが、ATH-WB2022ではワイヤレスでもそれがしっかりと味わえる。また、この音場の立体感には、左右間のクロストーク・ノイズ干渉を極限まで抑え込める事も寄与しているのだろう。逆に言えば、最大96kHz/24bitまで対応するLDACの実力の高さを、改めて確認した印象だ。

ユニット部分。イヤーパッドとヘッドバンドには、肌触りが良く、耐久性と通気性に優れるイタリア製アルカンターラの人工皮革を採用している

ハウジングも秀逸だ。高精度な木材加工により、表面に浮かび上がるウォルナットとマホガニーのレイヤーが非常に美しく、高価なギターを目にしているような感覚だ。音も良く、密閉型らしい低域のパワフルさ、押し出しの強さを感じると同時に、まるで開放型のような広大な音の広がりも感じられる。

ドライバーの音も極めてニュートラルで、トランジェントが良く、LDAC+完全バランス音声出力による情報量の多さを、活かせるサウンドに仕上げられている。

間違いなく、ワイヤレスのポータブルオーディオにおける1つの到達点と感るクオリティだ。世界で600台の限定生産モデルであるのが悩ましいところだが、このモデルの技術を活用した、よりリーズナブルなワイヤレスヘッドフォンにも期待せずにはいられない。

11月4日~6日に都内3カ所で「Analog Market」

このATH-WB2022を含め、60周年記念モデルを実際に聴く事ができるイベント「Analog Market」が11月4日~6日に開催されている。入場料は無料。

オーディオテクニカの新企業メッセージ「もっと、アナログになっていく。」のもと、一年を通してアナログの魅力を訴求する取り組みの一環として、都内3カ所のイベント会場に様々な出展を行なうもの。詳細は既報の通り。

オーテク60周年「Analog Market」開催。“贅を極めた”ヘッドフォン試聴も

レコードを中心に、骨董/アンティーク、古着、クラフト、アート、インテリア、フレグランス、観葉植物、オーガニックフードなど、つくり手の魂のこもった衣・食・住、様々な「アナログなもの」を体験できる“蚤の市”的なイベントになる。

この会場の1つである、表参道駅近くに位置するイベントスペース「BA-TSU ART GALLERY」にて、「ハイエンドリスニング体験」が可能だ。

BA-TSU ART GALLERYへのアクセス。表参道にある複合ビル「GYRE」が目印。GYREとDIOR Tokyo Omotesandoの間にある道を進むと、大きなオーディオテクニカのロゴマークが現れる。ここがBA-TSU ART GALLERYだ
BA-TSU ART GALLERY内部

ATH-WB2022に加え、前述のAT-MC2022やATH-W2022、さらにアクリル製のターンテーブル「AT-LP2022」や、レコードを挟んでどこでも聴ける「サウンドバーガー」を40年ぶりにワイヤレスで復刻した「AT-SB2022」も出展。それらの試聴コーナーも用意している。

MCカートリッジ「AT-MC2022」
有線ヘッドフォン「ATH-W2022」
アクリル製のターンテーブル「AT-LP2022」
「サウンドバーガー」を40年ぶりにワイヤレスで復刻した「AT-SB2022」

なお、カートリッジのAT-MC2022を開発者による製品解説&試聴デモで楽しむプログラムも用意されているが、この参加には事前予約が必要、詳細はAnalog Marketのページを参照のこと。

このイベントのために、BA-TSU ART GALLERYの2階にはオーディオ試聴ルームが作られており、理想的な環境でMCカートリッジ「AT-MC2022」が奏でる、アナログレコードのサウンドが楽しめる

BA-TSU ART GALLERYではこれに加え、オーディオテクニカの60年の歴史を過去の製品と広告で振り返るギャラリースペースや、60周年を記念した音楽仕込み焼酎「ANALOG SPIRITS」も展示されている。

60年の歴史を過去の製品と広告で振り返るギャラリースペース

オーディオテクニカ ブランドコミュニケーション課の掛水聖貴氏は、「もっと、アナログになっていく。」という新企業メッセージについて、「ここでのアナログというのは、一般的なデジタルとか、アナログの話ではなく“人間性”の部分を意味しており、ちょっと抽象的ではありますが、そうした内容をまとめて“アナログ”という言葉を使わせていただいています。(Analog Marketは)我々オーディオテクニカが、ブランドとして一番大事にしている感性、知性、創造性を、皆さんに体験していただけるようなイベントになっています」と、今回のイベントの狙いを語った。

オーディオテクニカ ブランドコミュニケーション課の掛水聖貴氏
山崎健太郎