ミニレビュー

オンキヨー初のハイレゾプレーヤー「DP-X1」を買ってみた。その満足度は?

 「IFA 2015」で海外発表されて以来注目していた、オンキヨーブランド初のハイレゾプレーヤー「DP-X1」を発売日に購入した。Android OSと4.7型タッチパネルを搭載し、見た目はスマホそのもの。だが中身は384kHz/24bitまでのFLAC/WAVやDSD 11.2MHz再生(ヘッドフォン出力時はPCM変換)に対応する立派なオーディオプレーヤーだ。実際の使い勝手や音の印象を2週間ほど使ってチェックした。

オンキヨー「DP-X1」
家まで帰るまで待ちきれず、近くのファストフード店で開封、初起動

 DP-X1は「IFA 2015」で海外発表され、国内では10月に初披露された。同時にパイオニアブランドからも兄弟機「XDP-100R」が発表。筆者はそれまで使っていたAK100IIを諸事情あって手放し、ちょうど新しいハイレゾプレーヤーの購入を検討していたところで、秋のヘッドフォン祭(10月24~25日)などで試聴を重ねて購入予約した。

 試聴機を触った段階では操作性などで気になるところもあった。だが、よく使うハイレゾ音楽配信サービス「e-onkyo music」から直接楽曲をダウンロード購入してそのまま聴けること、AK100IIで気に入っていたバランス駆動をまた使いたかったこともあり、入荷日に閉店間際のビックカメラに駆け込んで予約した1台を引き取った。販売価格は75,380円(税込)。現在は大型量販店などで品薄状態が続いており、結果として無事に入手できてよかったと思う。

カッコいいデザインだがデカくて重い

 何の説明もなく差し出されたら、ぱっと見では「独特なデザインのAndroidスマホ?」と思ってしまいそう。だが筐体はアルミ削り出しで剛性が高く、その佇まいには高級オーディオ機器らしさを感じる。筆者は、色こそ違うものの、実家に置いてあって今でも現役のオンキヨー製オーディオコンポ「Liverpool 200シリーズ」に通じるデザインセンスをなんとなく感じた。

他のオーディオプレーヤーとのサイズ比較。左から第5世代iPod touch、DP-X1、AK Jr、AK100II
厚みを比較。AK100IIは分厚い
シャツの胸ポケットに入れてみた。重みで肩まわりの布が引っ張られる

 外形寸法/重量は129×75.9×12.7mm(縦×横×厚さ)/203g。発売前に触れてはいたが、いざ使ってみるとやはり「デカい、重い」。シャツの胸ポケットにはギリギリ入るサイズだ。普段使っているiPod touchが軽量なだけに余計にそう感じる。せめて側面にカーブがあればもう少し持ちやすくなったと思う。冬場は筐体がキンキンに冷えてしまってさらに持ちにくくなることもあり、純正ケースの登場が待たれる。

 本体上面にステレオミニのアンバランスと2.5mm 4極バランスのヘッドフォン出力を装備。左側面にはボリュームダイヤルを備える。回り具合はやや硬めで、ポケットの中で不用意に回ってしまうことはないが、スリープ時に間違えて回してしまっても音量が変わらないよう、設定でボリュームロックできる。ダイヤル付近の土踏まずのようなくびれが筐体デザインのアクセントになっているが、ポケットに入れたまま音量調整する際、指先をうまくガイドしてくれる実用性もある。

上面にステレオミニのアンバランスと2.5mm 4極バランスの端子
左側面にボリュームダイヤルを備える。回り具合はやや硬め
側面に各種ボタンとmicroSDカードスロット×2を備える

 右側面には電源オン/オフや再生/曲送り/戻しの各操作が行なえる物理ボタンを備え、ポケットに入れたまま操作できる。押し込みが軽いわけではないが、誤って操作されてしまうことがたまにあるのでホールド機能が欲しいところだ。

 内蔵ストレージは32GBで、microSDスロットも2基備え、最大200GBまでのmicroSDXCカードに対応。合計で最大432GBまで拡張できる。「SAMSUNG EVO 64GB」(Class10/UHS-I対応)を2枚使っているが、カードスロットに蓋がないため、ホコリなどの侵入が気になる。

操作感は良好。ハイレゾ音源も高速ダウンロード

 標準搭載のプレーヤーアプリ「Music」は独特なUIを装備。円形の「サークルプログレスバー」で再生位置を変更でき、フリック操作で曲送り/曲戻しが行なえる。うっかりディスプレイに触れて曲が変わったり一時停止してしまうこともあったが、挙動に慣れれば使い勝手は悪くない。

 e-onkyo musicのダウンローダも搭載。無線LAN環境さえあればいつでもハイレゾ楽曲を購入/ダウンロードし、すぐに聴けるのが魅力だ。

ロック画面。右下のマークを左にスライドして独自の再生アプリ「Music」にすぐアクセス
ホーム画面。専用ウィジェットを並べてバランス接続のタイプなどを簡単に切り替えられる
Musicアプリの再生画面。左上の三本線アイコンから再生中のアルバム曲リストを呼び出す

 意外だったのは、DP-X1のWi-Fi機能が5GHz帯の電波を用いるIEEE 802.11ac規格に対応していたこと。実際に自宅のAirMac Extream('13年発売)にWi-Fi接続してみたところ、リンク速度は最高433Mbpsまで上がった。今回、試聴用に使ったアルバムはDP-X1から購入/ダウンロードしたもので、ファイルサイズは計2.88GBだが、4分52秒で内蔵メモリにダウンロード完了した。対応ルータと組み合わせてデータサイズの大きいハイレゾ音源を素早く落とせるように、802.11ac規格もサポートしたのだろう。

 DACチップは「SABRE ES9018K2M」、ヘッドフォンアンプは「SABRE 9601K」をそれぞれ2基搭載。DAC以降はバランス構成で、フルバランス駆動に対応している。DSDは11.2MHz、FLAC/WAVは384kHz/24bitまで対応するが、ヘッドフォン出力時はPCM 192kHz/24bitに変換される。今回は試していないが、OTGケーブルを使って本体のmicroUSB端子と対応するUSB DACなどを繋いで、DSD 11.2/5.6MHzのネイティブ再生も行なえる(DoP/Direct/PCM transfer)。 なお、他のプレーヤーと繋いで外部アンプにしたり、USB DACにすることはできない。

 サウンド関連の設定項目は豊富で、Musicの設定画面や、通知バー、ウィジェットから簡単に変更できる。後述するバランス駆動モードの切り替えや、ジッターノイズを低減できる「ロックレンジアジャスト」の項目もここに表示される。これらの設定はMusic利用時だけ有効になるのではなく、たとえばYouTubeの動画やAWAのストリーミング音楽の再生時にも使える。

 このほか、Bluetoothオーディオにも対応し、aptXコーデックをサポート。手持ちのBluetoothイヤフォンがaptX対応なら、高音質なワイヤレス再生が楽しめそうだ。

AirMac Extreamとのリンク速度は最高で433Mbps
試聴用の音源を内蔵ストレージに落とした
DP-X1のAndroid側のサウンド設定画面

 デフォルトではGmailなどの標準アプリがプリインストールされているが、Google Playによるアプリ追加にも対応。NetflixやDiXiMのDTCP-IPプレーヤー、Apple Music、AWAなどもインストールして問題なく使えた。本体にスピーカーは備えていないが、下部にはマイクを備えており、NTTのIP電話アプリ「050plus」からヘッドフォンをしたまま固定電話などに電話をかけ、通話するといった“スマホライクな使い方”もできた。

 内蔵バッテリの容量は1,630mAh。Wi-Fi/Bluetooth/画面オフで、ヘッドフォンを繋いでHiromi「Alive」(96kHz/24bit)をランダム/リピート再生し続けたところ、アンバランス時は公称値通りの約16時間でバッテリが切れた。また、バランス時(ACG出力時を含む)は約12時間で10%以下になり、残量不足の警告が出た。バッテリ残量5%付近からフル充電すると、満充電まで2時間強かかった。こまめに画面オフにすれば、通勤・通学時メインで数日使う分にはまずまずのスタミナだと言える。

バランス接続で96kHz/24bit再生時は約12時間でバッテリ残量が10%を切った
バランス接続でACGモード利用時も同様に約12時間で残量10%を切った
Android OS搭載なのでバッテリ残量や本体稼働時間を簡単にチェックできた

 記事中のスクリーンショットはいずれも「電源」+「曲戻し」ボタンの同時長押しで撮ったもの。普段はそれほど使わない機能だが、Musicで音楽再生しながらスクリーンショットを撮ると1曲戻されてしまうところが気になった。

独自のバランス駆動「ACG」は研ぎ澄まされた高音域が魅力

 DP-X1の特徴は2種類のバランス駆動方法を備えていること。ヘッドフォンのユニット1つを2つのアンプで駆動する通常のバランス出力に加え、オンキヨー独自の「Active Control GND」(ACG)が利用できる。これは2つの内蔵DACの出力のうち、L-GND/R-GNDをひとつのアンプで0Vに固定し、グランドの安定化を図るもの。バランス駆動で得られるパワーをグランド安定性の強化に充てることで、聴感上のSNが向上して音像が立体的になり、見通しがよくなるメリットがあるという。

e☆イヤホンのヘッドフォン「SW-HP11」で試聴

 今回はDP-X1の最大の特徴であるバランス出力の音に注目。ちょうど年末だからというわけではないが、試聴曲にはアナログマスターからリマスタリングされた朝比奈隆指揮、NHK交響楽団演奏の「ベートーヴェン:交響曲第9番『合唱付き』(1986)」(192kHz/24bit)から第4楽章を選び、AK100IIの音と比較した。

 第九の第4楽章は約30分と長いため、聴き所は3つに絞った。まず、演奏休止状態から弦楽器の各パートが立ち上がってくる3:22~。そしてあの有名な旋律が合唱とともに流れる14:28~、クライマックスの24:14から最後まで。音量設定は、DP-X1が「111」、比較用のAK100IIが「46」。イコライザはオフ、ゲインはNORMALとした。使用したヘッドフォンはe☆イヤホンのMMCXリケーブル対応「SW-HP11」で、ORBの2.5mmバランスケーブルを使っている。

 DP-X1の通常のバランス出力をアンバランス出力と比べると、音場がぐっと広がり、ヴァイオリンなど弦楽器の弦が擦れる音やシンバルの金属質な音など、より綺麗な高音域が魅力的。パーカッションの音にも厚みが出て、ティンパニなどの打音がリアルに伝わってくる。とはいえ、AK100IIのバランス出力と聴き比べてみると音像の立体感に少し違いを感じる程度。率直に言えばどちらも優れた音質で、甲乙つけがたい印象だ。

バランス駆動の出力を「ACG」に切り替える

 DP-X1が真価を発揮するのは、バランス接続でACG出力を使用した時だ。音の分離感、特に高音域で通常バランス時との違いがはっきり感じられ、コントラバスや管楽器など低音域の締まりも向上しているのが分かる。個人的に気に入っている、12:27からの弦楽器パートが中心となる箇所でも奥行き感が向上。ステージ上に各パートが正しく配置されて鳴っているリアルさを味わえた。AK100IIのバランス接続と比べてみても違いは明らかで、クラシックコンサートの再生能力に限って言えばDP-X1の方が際立っていると感じた。

 通常のバランス出力とACGによる出力が奏でる音をそれぞれイメージで例えるなら、先が丸くなった鉛筆で描いた太い輪郭の絵と、よく削った鉛筆で描いたシャープな輪郭の絵ほどの差があると言える。個人的にとても気に入っている機能で、DP-X1を手にして以来、ほぼずっとACG出力を利用して聴いている。

 大編成のクラシックだけでなく、小編成の室内楽やジャズ、女性ボーカルの楽曲などでもACG出力の効果がしっかり感じられる。サラ・オレインのアルバム「SARAH」から「Beyond the Sky」(96kHz/24bit)を再生すると、ボーカルと背後の演奏との分離感が高まり、細かな音も注意して聴けるようになる。サビの付近では清涼感のある広い音場によく通る歌声が響き渡り、特に2分半以降のサビに向けて低音がグワッと盛り上がってくる箇所で、音の波がこちらに迫ってくるような迫力を感じた。これはAK100IIや、いつも使っていたiPod touchなどでは気付かなかったポイントだ。

 このほか、デジタルフィルターや多数のプリセットEQ、アップサンプリング、リアルタイムDSD変換などで好みに合わせた音質調整が可能。こちらはアンバランス利用時の方が、元の音との違いが分かりやすいと感じた。

今後のソフトウェア改善に期待。満足度の高いハイレゾプレーヤー中級機

X-DAP Link

 音には満足しているが、オンキヨーが用意するアプリ/ソフトを使っていて、いくつか気になったこともある。まず、Musicのプレイリスト機能。せっかくプレイリストを作ってもファイルとして保存する機能が見当たらない。さらにmicroSDカードを抜き挿しして音楽ファイルを同期しなおすと、ファイルの参照先を見失って再生できなくなってしまう。

 また、パソコンからDP-X1/XDP-100Rに楽曲転送できる無料ソフト「X-DAP Link」(Windows 7/8/10対応)がダウンロード提供されているが、iTunesなどの音楽管理ソフトと違って転送以外の操作ができず、タイトル・アーティスト名の編集やプレイリスト作成/転送などに対応していないのも残念だ。内蔵メモリと2枚のSDカードを個別に認識し、どこに何の楽曲・アルバムを転送するかを振り分けられるのは、ストレージの使い分けができるという意味では便利。しかしDP-X1を取り外して繋ぎ直すたびに、各ストレージのディレクトリを指定し直さなくてはならないのも手間だ。

 DP-X1本体に関しては既に次のアップデートが予定されており、曲送り・曲戻しの各ハードキーに早送り・巻き戻し機能がそれぞれ割り当てられる予定だ。これまで試聴する機会があるたび、会場にいた人から出ていた要望の一部だったと記憶している。こうした細かい要望をしっかり受け止め、今後のアップデートという形で反映してもらえるのであれば、いちユーザーとしては心強く感じる。

 10万円を超える高級ハイレゾプレーヤーにも見劣りしないスペックを備えつつ、比較的買いやすい実売7万円台に設定されているのは、購入に踏み切るのに心理的なハードルが下がって嬉しいポイント。「既にハイレゾプレーヤーを持ってはいるけれど、単体でバランス駆動できるプレーヤーに興味がある」という人や、「初めてハイレゾプレーヤーを買うが、せっかくなので多機能なものを手に入れたい」という人にとっては、価格に見合った実力を十分に備えている。

 ハードウェアに関しては、個人的には満足度は非常に高い。ソフト面については今後のアップデートを通じて、継続的にブラッシュアップされていくことを望みたい。

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DP-X1

庄司亮一